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レグルノーラの悪魔〜滅びゆく世界と不遇の救世主〜 作者:天崎 剣

【18】歯止め

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74.急接近

 陣の言葉には一理ある。
 レグルノーラで単独行動するようになってから、やたらといろんなことが起こる。
 美桜と行動していたときは、恐らく彼女がある程度周囲を見渡してくれていたのだ。だから、戦いに巻き込まれたとしても、妙ないざこざに巻き込まれることは殆どなかった。
 一人の“干渉者”として認められ、俺は図に乗っていたのかもしれない。力が使えることで頼りにされたことを疎ましく感じていた反面、“こっち”では考えられないくらいの好待遇を受けることもあった。周囲に馴染めず、ただひたすらに3年間という高校生活をどうにか切り抜けりゃいいと思っていた俺にとって、“レグルノーラ”という世界はあまりに刺激的だった。
 だから判断力が鈍っていただなんて言い訳はしたくない。
 危険な竜“ドレグ・ルゴラ”に目を付けられ、妙な魔法を教えられた、しかもそれを実践したという話をしたら、陣は怒りまくるどころじゃ済まなくなるだろう。あのピンチを切り抜ける方法がそれしか思い浮かばなかった、と言っても当然、納得などしないだろうし。
「実際、僕がまだ駆け出しの頃には暴走した能力者集団が居て、とんでもない騒ぎが起きた。干渉者、能力者と言っても、一概に皆同じ方向を見て“悪魔”に立ち向かっているわけじゃない。中には悪しき存在を崇拝する輩もいるし、塔の方針に刃向かって民間人に危害を加えようとする輩もいる。だからこそ、単独で行動するなら余計なことに巻き込まれぬよう、細心の注意を払うべきだ」
 陣は眉間にしわ寄せ、俺をキツく叱りつける。
 ぐうの音も出ない。全くもってその通りだ。俺は部屋の真ん中に突っ立ったまま、深くため息を吐いた。
「忠告、ありがとう。反省した」
 陣から目を逸らし、後頭部を掻きむしる。
「反省だけならね、誰だってできるから。君はもうちょっと慎重な人間だと思っていたけど、僕の思い過ごしだったかな」
 陣は不機嫌そうに口をひん曲げた。
「……けど、あの魔法のお陰で確かに美桜の力は増した。あれがなかったら、空間はキッチリと閉まらなかったかもしれない。今回は偶々上手くいったけど、次はどうなるかわからない。戦いの中でも冷静さを忘れないように。そうじゃないと、判断を誤ってとんでもない事態に発展することだってあるんだから」
 俺は黙って深くうなずき返した。
「それより、この部屋暑いね」と胸元をパタパタと摘まんだり離したりして微風を起こしている陣に言われて、ようやくエアコンのスイッチを入れ忘れていることに気付く。悪い悪いと慌てて電源を入れ、俺もベッドにやっと腰を下ろした。じんわりと冷たい風が降りてきて、少しずつ疲れを癒やしてくれる。
「美桜は何でも背負い込みすぎる。こ~んな小さいときから一緒なのに、彼女ってば僕には全然相談してくれないんだよね。“こっち”での話なんか全然聞いたことがない。僕がどれだけ心配しても、彼女は平気なフリをする。ゲートが実体化して魔物が這い出てきても助けを呼ばないなんて、強がりもいいところだ。せめて凌にだけでも相談してくれていたら、あんな大事にはならなかったろうに」
 美桜の話になると、急に陣の表情が緩んだ。
 母親の美幸が亡くなったとき、美桜はまだ四つだった。身長だって一メートルをようやく超えたくらいで、おしゃまで、天使のようだった。
 彼女の成長過程は知らない。が、一緒に過ごしてきたジークにとっては、特別な想いもあるのだろう。年の差はあれど、一人の女の子として魅力を感じたこともあったようだし、今回のことはショックだったに違いない。
 美桜にしたら、飯田さんに自分の境遇を話せなかったのと同じように、ジークにも言いづらかったのではあるまいか、などと推測する。彼女がそのことについて語ることはないだろうから、あくまで推測だけど。

 30分ほど駄弁り、陣はキチンと玄関から帰っていった。また来てねとにこやかに話す俺の母親に深々と礼をして、爽やかにハイまた来ますと答えていた。
 雨は止んでいた。
 陣はまたなと俺に向かって軽く手を上げ、そのまま玄関扉の向こう側へと消えていった。


     □━□━□━□━□━□━□━□


 長かった夏期補習が終わり、俺にもようやく本格的な夏休みがやってきた。気が付けばもう8月。補習は終わったが、山のような宿題を定期的にこなしていくという新たな課題に直面する。
 こういうこともあろうかと頼んでいた芝山哲弥先生にお越しいただくべく、俺は部屋を片付けていた。元々部屋を散らかしたりはしない方だが、一応わざわざお越しいただくことに敬意を払うつもりで念入りに掃除機をかけた。折りたたみ式のテーブルを広げて座布団を敷いて。喉が渇くと言われるだろうことを想定し、お茶とジュース、それから菓子も用意したし、後はヤツが来るのを待つのみだ。
 日中は両親とも仕事で居ないから、気兼ねすることないのがいい。芝山が期待しているレグルの話だって、ゆっくりできそうだ。
 芝山は隣の学区出身で、ウチのそばまでバスで来るらしかった。バス停からウチまではそんなにわかりにくい道でもないし、道案内は不要ということだったので、暑いところ歩いてきてくれるところ申し訳ないが、俺はエアコンの効いた涼しい部屋で待つことにする。
 久しくまともな人付き合いをしていなかったこともあって、ここ最近友人と思しき人物名がしばしば俺の口から出てくるのを、母は驚いているようにも喜んでいるようにも思えた。高校二年生にもなって、その程度で喜ばれるのは恥ずかしいのだが、それほど長い間ぼっちを貫いてきたということだ。
 勉強するなら午前中だろと芝山が言うので、夏休みにしては早起きした。約束の時間まであと少し、それまではスマホでも弄って待ってようかと、ベッドの上でゴロゴロしているところに、チャイムが鳴った。予定よりも15分ほど早い。
 急いで階段を駆け下り、玄関を開けて驚愕する。
 立っていたのは、美桜だった。
「おはよう。朝早くからごめんなさい。ちょっと……いい?」
 広めのツバが付いた帽子に、Tシャツ、スカートというラフな格好に、ドキッとする。
 はにかんで首を少し傾けた彼女にいいかと言われ、俺はどもった声でいいよと返事し、彼女を家に招き入れた。
 約束なんてしてないのにどうしたんだろうと、階段を上りながら俺は何度か首を傾げた。そもそも、俺の家なんて教えたっけ? 俺が入院している間に親にでも聞いていたのだろうか。にしても、来るなら来るで連絡くらい寄越せばいいのに。
 芝山に出すはずだったジュースと菓子を折りたたみテーブルの上に出して、美桜と向かい合って座った。彼女は差し出したジュースをありがとうと礼を言ってから半分ほど喉に流し込んだ。
「夏期補習が終わった頃だし、凌のことだからあちこち出かけたりはしてないだろうなって、勝手に来ちゃった。飲み物もお菓子も用意してたってことは、もしかして……予定、あった?」
 心なしか、いつもよりトーンが低い。
「ああ、気にしないで。一応、これから芝山が来て宿題教わるとこ。補習は終わったけど、宿題はまんま残ってるし。早いとこ片付けられるように、手伝ってもらう約束してたんだ。美桜は宿題進んでる?」
「うん……、まぁまぁ、かな」
 言って美桜はグルッと部屋の中を見渡している。壁には完成したジグソーパズルが数枚掛けてあるだけで、恥ずかしいポスターもないし、本棚には漫画とゲーセンでゲットしたフィギュアが数体あるくらいだが、何が珍しいのか、隅々まで舐めるように見渡している。
「男の子の部屋って、初めてなんだ。思ったより物が少ないんだね」
「あー……そうかな。俺はあんまり物に執着しない方だからこんなもんだけど」
「パズルとかするんだ」
「暇つぶしだよ。ピースが極小のヤツとか前面殆ど同一色とか、イライラするけど完成すると結構快感でさ。ここしばらくはやってないけど」
「ふぅん」
 一面夜景のパズルをじっと見て、彼女は小さく何度もうなずいた。
 美桜とレグルノーラに行くようになって数ヶ月、そういえばこういう当たり障りない話って殆どしたことがなかった。今までのことを振り返ると、やれ飛ぶタイミングが合わないだの、やる気があるのかだの、敵はどいつだだの、物騒な会話ばかり。あくまで表面上では彼氏的な存在だと言っておきながら、彼女は俺とは必要な話しかしてくれていなかったのだ。
「で、何の用事?」
 いつまでも本題に入ろうとしない美桜にしびれを切らして、こっちから聞いた。
 美桜はハッとして、それから肩を落とし、ゆっくりと息を吐いた。そして深々と頭を下げ、
「この間は……ごめんなさい。どうにかして謝らなきゃって思ってたんだけど、どうやって謝ったらいいかわからないし、メールでも打とうかなって電話しようかなってスマホ持っても踏ん切りが付かなくて、なら来て直接謝った方がスッキリするかなって、……飛び出して来ちゃった。本当はもっと早く来てたんだけど、家の前に着いたら着いたで、どういう顔をしたらいいのかわからなくて不審者みたいに何度か行ったり来たりして、二階の部屋から凌の顔が見え隠れして、ああここで間違いないんだって表札も何度も確認して、近所のおばさんからも変な目で見られるし、それで思い切ってチャイムを押したの。もう……何日も経ってるし、謝るなら本当は翌日とか、翌々日とか、とにかく早いに越したことはないって分かってたんだけど、私自身心の整理が付かなくてこんなに遅くなって……。ごめんなさい。言葉が、まとまらない」
 美桜は伏し目がちに一気に話した。
 口をへの字にひん曲げて、目を潤ませて。
 まるで俺が悪いことしたみたいな。
「別に謝んなくてもいいって。それより、飯田さんにはちゃんと話した? 一番、話さなきゃいけない相手だろ」
「うん……、少しは」
「少しってどれくらい? レグルノーラのこととか、自分の母親のこととかも、ちゃんと話したんだろうな」
「は、話したわよ。でも突拍子もなくて、飯田さんのお歳だとやっぱり理解が難しいって言うか、ずっと首を傾げていて、わかってくれたのかどうか私には分からなかった」
「そりゃ最初から全部理解してもらうのは難しいよ。俺だって最初の頃は何が何だか全然わからなくて苦労したし。一気に話そうとしないで、毎日少しずつ話すとかさ。少しでも理解してもらって、飯田さんに余計な心配掛けないようにしないと。喋るのと喋らないのとでは、やっぱり違うと思うからさ」
「うん……」
 美桜は肩をすぼめて静かに息を吐き、ジュースを一口含んだ。
「ありがとう」
「へ?」
「凌に話したら気が楽になった。最初から相談すれば良かったなって、今更のように思い知らされた。誰かに頼るとか、助けてもらうとか、そういうのはあまり良くないことだって思ってたから。一人ではどうにもできなくなる前に誰かを頼ればいいのよね。話すべきことはきちんと話して、周囲に理解してもらうことも大切なのかもって、今回のことで深く反省した。ありがとう、気付かせてくれて」
 また、深々と礼をする。
「いや、俺は特に何にもしてないから」
「ううん」美桜は首を横に振る。「状況を把握して直ぐに戦ってくれたじゃない。それに、あの魔法も。なんだっけ、魔法陣読んだんだけど、忘れちゃった。竜がどうの……、内容はわからなかったけど、力が湧いて、身体が軽くなって、凄く助かった。どこで覚えたの? 凌がいつも刻む言葉とは違う方向性のものだったし、誰かから教わったの?」
「え、あー……、そう。教わった。とある人物から」
「その人には感謝しなくちゃね。疲れも早く取れて、あの日はぐっすり眠れたの。いつもなら身体中痛くなって、なかなか寝付けなくて大変なんだけど。また、何かあったときは頼むね」
 出所は不穏だが、あの補助魔法は美桜にとっていいものだったということで間違いなさそうだ。ジークはいい顔をしなかったが、美桜がそう言うなら、また試してもいいような気がしてくる。滅多に感謝なんかされないからそう思ってしまうのかもしれないが。
 俺はわかったと返事して、自分のグラスを傾けた。美桜が自分の部屋にいるという変な緊張と会話の内容で、すっかり喉が渇いていた。
「夏休み中はずっと家に?」
 器に入れたポテチに手を伸ばしつつ、美桜に聞いてみる。
「そうね。ずっと家に居たかな。宿題さっさと終わらせてしまえば、後半自由に使えるじゃない。一緒に買い物行ったり、映画行ったり。そういうの、時間作らなきゃなかなかできないんじゃないかと思って」
「一緒に? 誰と? 友達なんか居ないだろ」

「凌と」

「へ?」

「凌と一緒に出かけたいなって」

 聞き間違いか?
 なんか俺の名前が出てきたような。
「付き合ってるなんて言っておきながら、全然それっぽいことしてこなかったじゃない。いつもは出かけるの一人で、買い物だって映画だって、誰かと行ったことなんてなかったんだけど、私だって偶にはそういうことしてみたいなって。……迷惑?」
「え、いや、めいわ、迷惑じゃないけどさ」
 何で上目遣い? 何で顔が赤いの?
「ちょ、ちょ、ちょぉ~っと、確認したいんだけど、俺たちって、付き合ってる“フリ”してたんだよね? 一緒にいるところを怪しまれないように、そういう嘘吐いてた訳じゃん。芝山にもそう言ったし、ジークだってそう思ってると思うし。須川には適当なこと言ってた様な気がするけど、あくまで“フリ”だよね? ね?」
 どうしよう。半笑いしかできない。
 変な汗がじわじわとにじみ出て、手のひらが気持ち悪い。
 いつもより薄着の美桜が妙に色っぽく見えるし、Tシャツからうっすらと透けたブラのラインや胸の膨らみがが変に気になる。テーブルの下からチラ見えする太ももがつるつるもちもちしてて目のやり場に困る。
 髪の毛をそっと掻き上げ、右の耳に掛ける仕草に、心臓が高鳴った。
 久しく考える余裕すらなかったけど、美桜は綺麗だ。本当に、綺麗だ。

「好き、なの。凌のこと」

 ちょっと待って。暑いからって頭がおかしくなったのか。いや、エアコン効いてるし、暑いってことはないと思うんだけど。

「この間の一件があって、私、ものすごく凌のこと見直した。須川さんに襲われた辺りから、凌のことまともに見れなくなってて。だって、見ると何だかドキドキしてしまう。私、この気持ちがなんなのか、ずっと考えてた。夏休みに入って、凌と会えない日が続いて、それでも毎日凌のことばかり頭に浮かんで。だから、あの日凌が来てくれて本当に嬉しかった。あんな状況じゃなかったら、もっと良かったのにって思ってしまった。この感情の正体に気が付くまで時間がかかって……それもあって直ぐに謝りに来れなくて。どうしよう。どう表現したらいいんだろう。私、こんな気持ちになったの初めて。ものすごく、どうしようもないくらい、凌のことが……好き」

 頭が、真っ白になった。
 ポカンと開けた口が、なかなか塞がらなかった。
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