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レグルノーラの悪魔〜滅びゆく世界と不遇の救世主〜 作者:天崎 剣

【26】融合

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119.標的

「それにしても、『かの竜を怒らせた』とは、一体どういう意味だ。救世主殿は殆ど現れたことのないかの竜と、何度も接触しているとでも?」
 部室内のざわめきを断ち切るように、レオが低い声で言った。
 表情を緩めていた芝山たちも、口元をきゅっと締めて椅子に座る。
 疎らに置かれた椅子は、いつの間にか俺をグルッと囲むように円を描いて配置されていた。否応なしに視線が集まり、俺はブルッと背筋を震わしてしまった。
「何度、という程でも」
 レオが何を考えてこの質問をぶつけてきたのか。俺は焦りで手のひらに妙な汗を掻いているのに気付く。
 答えに失敗すれば、美桜のことが皆に知れ渡ってしまう。それだけは避けなければ。
 ジークも同じことを考えているのか、難しそうな顔をしてこっちを睨んでいるように見える。
「『怒らせた』というからには、それ相応のことをしたのだろう。そのとき、かの竜は人型であったのか竜の姿であったのか。人型であったのであれば、どのような人物であったのか。竜であれば一体いつ接触する機会があったというのか。これは大事なことなので、じっくりとお話を伺いたい」
 刺さるようなレオの視線に、俺は顔を背けたくて仕方がなかった。
 さて……。どうするか。
『私の出番のようだな』
 テラの声。
『君ではボロが出る。美桜のことは口にせず、筋が通るように話せば良いのだろう』
 ま、そうだけど。
『では、いつものように』
 フッと意識が遠のいたかと思うと、俺は自分の身体を操ることができなくなっていた。テラが身体を乗っ取り、俺の意識は脳内を漂う。
 視線をレオに定めて、テラは俺の顔でニッと笑った。
「かの竜は、己の意思に反して動く者全てを疎ましく思うのだ」
 急に俺の口調が変わったことに気が付いたのか、裏の干渉者たちは一斉に目を見開いた。
「自分の思い通りにならないと思えば、それを全て排除しようとする。力でねじ伏せ従えてきたかの竜は、正論を嫌う。だから標的にされた」
「誰だ!」
 赤毛のジョーがマントの下から短剣を抜く。その刃先がキラッと光り俺に向けられるが、俺の身体は抵抗するどころか、腕をこまねいて足組をし、余裕の態度を見せた。
「テラに変わった」とノエル。
「テラ?」ジョーがノエルに反応する。
「凌の中に入り込んでる金色竜だよ。偶にこうやって凌の身体を乗っ取って表に出てくる。本人曰く300年前にかの竜を封印した伝説の竜らしいけど、とにかく態度がデカくて」
「金色竜? まさか」
「信じられぬようであれば竜化してみせるが?」
 売り言葉に買い言葉で、テラは余計なことを言う。裏の干渉者たちを見下すような視線を送ると、彼らは彼らで何か感じ取ったらしい。レオとルークがジョーを制し、ジョーは渋々と剣を戻して椅子に座り直った。
「かの竜と凌が接触したのはキャンプが最初だと聞いている」
 テラは早速嘘を吐いた。
「私が駆けつけたときにはもう、かの竜は手の付けられない状態になっていた。かの竜が人間の姿でキャンプに潜り込んでいたことを凌が突き止めたからだ。何の目的があってそんなことをしていたのか、結局はわからなかったが、計画を頓挫させられ、かの竜は酷く怒り狂った。だからキャンプを焼いた。かの竜の怒りを買ったとはつまり、そういうことだ」
「――それってつまり、もしかしてボクの一言が原因……?」
 芝山が弱々しい声で口を挟む。
「キャンプに寄ったときに、世話になっていた干渉者が来澄らしき人物を探していたんで、ボクはそのことを来澄に伝えたんだ。後になってから、それがかの竜だったと来澄に知らされた。けど……おかしいな。確か彼は、10年ほど前に出会った干渉者なんだけどって」
「凌は自分の名前を出されたことを不審に思ったのだろう。そして、かの竜の化身に辿り着いた。かの竜に何を言われたのか、記憶を閉ざしてしまって全く教えてはくれないが、責任感の強い凌にとって、このことを話すのは辛かったのだろう。だから私が敢えて前に出た。凌は仲間のせいにはしたくないという気持ちが強すぎて、真実を話せばシバが傷つくと思っていたようだからな」
 ギロリと向けられた俺の目に萎縮して、芝山は手で口を覆い視線を逸らしている。
 そういえばそんなこと。芝山は小さく言って、そのまま何も言わなくなった。
「キャンプにかの竜の化身が潜んでいたというのは、本当なのか」
 レオの表情がさっきより硬くなっている。
 俺は強くうなずいて、
「誰にも気付かれず紛れ込む。かの竜は自分の気配さえ自由に操れるのだ。人間に興味を持ち、なりきることを楽しんでいた。いつまでバレないで居られるか、面白がっていたのだ。見破られたことが癪に障ったのだろう。わからないでもない」
 迷うことなく言い切るテラの話し方には説得力がある。
 本当の、時空嵐の先での出来事をどうにか回避した。あれだけは絶対に、最後の最後が来ても口には出せない。
「そして何より、かの竜は私が嫌いだ。何度も何度も(あるじ)を変えては立ち向かい、終いには砂漠の果て、黒い湖に封印したのだから良く思うはずはない。金色竜を従えた凌は、恰好の標的となったわけだ」
 そこまで言うと、どうにかこうにか辻褄も合う。
 ようやく途切れていた部分が繋がったとばかりに、それぞれが納得の表情で頷いているように見える。
 しかし、気になるのは美桜だ。一人だけ何かを抱えるように、相変わらず暗い顔をしている。
 昨晩の『死なないで』もそうだが、彼女なりに俺の内に秘めた気持ちを知ってしまっているのだろうか。それとも、別の何かに感づいてしまっているのか。
「『誰にも気付かれないのを』とは言うけれど、キャンプで彼は結構目立っていたような」
 芝山は独りごちた。
「目立つ? どんな風に?」レオが聞く。
「上から下まで真っ黒な出で立ちで、ああいう格好をしている人間は他にいなかった。ボクは以前帆船を譲って貰った経緯があるから普通に話せたけど、溶け込むというよりは悪目立ちしているような感じだったな。けど、キャンプの連中とは普通にコミュニケーションを取っていたし、皆彼を普通に扱っていた。だから、ボクの思い過ごしだと」
「真っ黒?」ケイトが聞き返す。
「そう、真っ黒。全身真っ黒で、人の良さそうな糸目の。キースって名前で」

 突然、心音が激しく響いた。

 驚いてるのは俺じゃない。テラ。
 キースの名前が出たところで、急に動揺し始めた。
 喉が渇き、汗が滲み、全身から血の気が引く。

「ちょ……、ちょっと待て、シバ。今、“キース”と言ったか?」

 立ち上がって芝山の真ん前に立ち、目を見開いて見下ろしている。
 芝山はというと、俺に凄まれて目を潤ませ、怯えたような顔で見上げている。
「い、言った。確かに、“キース”って」
 明らかにその名前に反応している。
 どうした。何があった? 今まで俺の中に入り込んでいて、初めて聞いたような。
『初めてだ』
 そう……だったかな。俺はてっきり、何度もそう呼んでいたのかと。
『もっと早く知っていれば、或いは』
 テラの様子がおかしい。
「テラ様、どうなさいました?」
 訝しげに俺の顔を覗くモニカ。

(あるじ)の名だ』

 テラは俺にだけ聞こえるようにそう呟いた。

『一緒にかの竜を封じ込めたリアレイトの青年の名。辛抱強く戦ってくれた黒髪の青年の名』

 直ぐには……飲み込めない。つまり、どういう。

『彼は死んだ。だから私も卵に戻った。だが実際は、死んだのは彼の意識だけで、彼の肉体ではなかった。竜石の力でかの竜を砂漠の果て、黒い湖に落とした後に彼は消滅したのではなかったのか。黒髪で糸目……? 君の記憶画像はピンボケで全く気が付かなかった。ちっくしょう、どうして今まで気が付かなかった。最悪の事態だ。最悪も最悪。まさかこっちが目的だったなんて……。完全に、してやられた』

 テラは俺の身体でフラフラと歩き出し、そのまま壁にぶつかってドンと思いっ切り壁を殴った。振動が拳から腕、肩までじわじわと伝わっていく。
 どうしたんだよ、テラ。
 何が『してやられた』んだ?

『誰にも言うな。私と君だけの秘密だ』

 突然妙な動きをした俺に、皆が声をかけてくる。
「どうした」「どうしました」
 立ち上がり、ぞろぞろと寄ってくるが、俺の身体は振り向こうとはしなかった。

『ドレグ・ルゴラの真の目的はお前だ、凌』

 ……何を、言い出す。

『ヤツは私と同じようなことをしようと思ったのだろう。人間と竜が同化すれば、面白いことが起きると学習した。だが、その人間の選別には手間取っていた。様々な方法を採ろうとした。もしかしたら、美幸に近づいて子どもを産ませたのも、一つの試みだったのかもしれない。が、上手くはいかなかった。君が阻止したからだ。ヤツは君に興味を持った。金色竜を(あるじ)に持つ君は、竜との同化に耐性がある。それどころか、魔力も十分だし、体力もそこそこにある。かの竜が何に執着しているのか、私も色々考えた。君が魔法を阻止したこと、私がかの竜と同じ場所で育ったこと、何度も何度も邪魔をしたこと。しかし、どれも説得力に欠けていた。一人の干渉者に固執するには理由が弱すぎる。もっと強く、執着する理由があるはずだと探り続けていた。やっとわかった。ヤツはキースの身体を奪って、彼の姿に化けることを覚えた。次は君だ。かの竜は君の無尽蔵な魔力と体力を欲した。そして君を新たな器にしようと――』

「嘘、だろ」
 意識を戻す。
 感覚がハッキリと戻って、自分の意思で拳を握りしめていることに気が付く。
 肩で息をして、自分の目で物を捉えている。
 自分の身体が自分の物ではないという感覚そのものに慣れたわけじゃない。手段の一つとして、そうせざるを得なかったからそうしていたまでで。
 テラだから身体を貸した。
 誰でも良いってわけじゃない。
 同化は信頼と尊敬の間で成り立つ。
 奪えば良いってもんじゃない。
 もし今の話が本当だったとして。かの竜の目的がそんなんだったとしたら俺は。俺は一体どうすれば。
「大……丈夫か、凌」
 陣が肩を叩いた。
 俺は咄嗟にその手を後ろ手に振り払っていた。手がバシッと陣の胸に当たり、よろよろと陣がふらついて誰かにぶつかるのが見えた。
 しまった。変な力が入ってしまった。謝らなくちゃ。
「わ……、悪い。ちょっと力加減が」
 振り返った顔に、皆がざわつく。
 追い詰められたような、絶望の先に居るような、きっとそんな顔をしていたに違いない。
『誰にも言うな』
 テラが口止めする。
 当たり前だ。こんなこと、言えるか。
『そして、悟られるな。君の精神が崩壊することをかの竜は望んでいる。空っぽになれば入り込みやすくなるからだ。勿論、私は断固抵抗するが、力量が違いすぎる。君を守り切れるかどうか。まずは君が気をしっかり持って、隙を作らないようにしなければならない』
 わかってるよ。
 改めて言われなくても、そんなことくらい。
 わかってるのに、どうして。どうして奥歯が噛み合わない。
「凌に戻ってる?」
 ノエルが言う。俺はうなずく。
「様子、おかしいけど大丈夫かよ」
「何でもない。ちょっと目眩が」
 目眩どころじゃない。
 本当は絶望で逃げ出したくて。
 けど、逃げたら死ぬ。
 ディアナのかけた呪いで、俺は即座に死んでしまう。
 逃げずに立ち向かえば? 
 俺は竜石と共に命を賭してかの竜を封じる覚悟だった。けど、このままでは。
 勝ったところで、俺は、俺の身体はいずれ世界を滅亡させるために利用されてしまう。
 封印なんて甘っちょろい真似は選択肢から消えた。
 かの竜を完全に消滅させるしか、二つの世界を救う方法がなくなってしまったってことだ。
 死ぬより、存在が消えるより、俺はそっちの方がずっと。
「……取り乱してしまって申し訳ない」
 俺は無理やり笑顔を作って見せた。
「話を戻そう。ところで校内のゲートは、どんな感じなんだ? 穴が広がりやすくなってるって聞いたけど」
 どうにかこうにか口角を上げて喋ってみたが、目が笑っていなかったのか、皆何か言いたげにこちらを見ている。
 気にするな。
 俺は自分に言い聞かせながら、元の席に戻っていく。
「完全に塞ぐには力が要ると聞いた。穴が開きやすいゲートがあるなら、協力する。どこが一番危なっかしいんだ? やっぱり2-Cの教室か?」
 ドカッと腰をかけて余裕を演出してみせるが、皆の表情は硬い。
 動揺を隠し切れていない。
「補習で使用しているようなら、それが終わってからでも行ってみようか。裏の干渉者からみて、一番厄介なゲートを教えてくれ」
 レオたちに顔を向ける。
 さっきまでと俺を見つめる表情が確実に違う。

「もしかして……、興奮すると、竜化してしまう、とか」

 ルークに言われハッとした。
 竜化。
 どこが。
 慌てて顔をさする、その腕の一部に鱗が浮き上がっている。
 牙、角、耳。
 中途半端に竜化して。
 ダメだ。落ち着け。落ち着け、俺。
「来澄、テラに何か言われたのか?」
 芝山が聞いてくる。
「別に、何も」
「嘘だ。“キース”の名前を聞いた途端、お前の身体の様子がおかしくなった。テラが頭の中で何か言ったんだろ。だから急に興奮して」
「だ、大丈夫だ。上手く力をコントロールしきれなくて。発作みたいなもんだ」
 悟られてはいけない。
 俺が、俺の身体がかの竜の標的だなんて。
「何を隠してる。来澄、君はいつもそうやって」
 半端に竜化した俺を恐れることなく、芝山は俺の前に立った。芝山だけだ。どんな姿になろうと、対等に話そうとするのは。
「モニカ、ノエル。君たちは知ってるんじゃないのか。“向こう”ではこういうこと、なかったのか。同化してから先、君たちの方が来澄と長く居るんだから、何か知ってるんだろう」
「いいえ。救世主様が竜化するのは戦闘の時だけで」
「ああ。しかも、竜化には逆に手間取っていることが多かったような」
 モニカとノエルが視界の外で必死に弁明している。
 そう、彼らは何も知らないんだ。俺が追い詰められて悲惨なことになってることなんて、何にも。なんとなく察してはいるみたいだけど、それ以上のことは。
「しかし、頼りの救世主殿がこれほど不安定な状態だとすると、我々も他の手を考えなければならないかもしれないな」
 レオがため息交じりに言うと、ルーク、ジョー、ケイトは口々に「全くですね」「聞いていた話とは違う」「どうしましょうか」と言葉を零している。
『落ち着け、凌』
 わかってる。落ち着こうとしてる。
 テラに言われなくても、ちゃんと落ち着こうと。
『呼吸を整えろ。人間の姿をしっかりと思い出せ』
 そうだ。身体の中にテラが入り込んでいるとはいえ、常時人間の姿を保てていた。竜石にしっかりと力を閉じ込めておけばこんなことには。
 今、敵が目の前に居るわけじゃない。
 戦うことを考えてはダメだ。
 徐々に、徐々に、自分の身体が元に戻っていくのを感じる。腕が肌色を取り戻し、牙や角が引っ込んでいく。頭のあちこちを手で触りながら確認し、ようやく元に戻ったと確信できたところで顔を上げると、まだ周囲は複雑な顔をして俺を見ていた。
「同化してるってことはもしかして、またあの竜みたいな姿になる可能性があるってこと?」
 部室の隅っこで黙っていた須川が、恐る恐る尋ねてきた。
「当然」とノエルが答える。
「竜化すれば相当強い。けど、竜化したからといって、かの竜に勝てるほど強いかというと、そんなことはない。グロリア・グレイには勝てなかったしね。戦い方次第だろうけど」
「そうじゃなくて。竜みたいな姿になって、“こっち”で戦う可能性があるのかなって」
「あるだろうな」
「そ……、そうだよね。何も起きなければ良いけど、古賀先生も変なこと言ってたし。絶対に何か起きるんだよね」
 須川は、竜化した俺の姿を見て怯えていた。須川だけじゃない。美桜も、俺の姿を見て絶望していた。
 今更嫌われたって。
 とは思うが、彼女たちがどんな目で俺を見て、何を感じていたのか、想像も付かない。
「その、『何か起きる』ということについて、我々にももう少し情報をいただけませんか」
 ルークは立ち上がって、部室内を見渡しながら尋ねた。
「ディアナ様からの要請で、とにかくゲート付近に空いた穴を塞ぐことばかりに集中してきましたが、埒があきません。『何か』とは何か。我々にも知る権利があるはずです。その『コガ先生』というのは一体?」
 芝山が、俺の前に立ったままスッと手を上げた。
「古賀先生は、リザードマンだ」
「リザードマン? 半竜人ってこと?」ケイトが聞き返す。
「かの竜の手下。よく分からないけど、一般人だった古賀先生の身体に、レグルノーラからやって来たリザードマンが入り込んでしまったらしい。先生が言うには、『夏休みが終わる前に面白いことが起きる』『それまで精々穴を塞いでおくんだな』と。どういう意味だったのか何度も考えた。けど、結局はわからず終いで」
 ――黒い湖の底で俺たちが言われたのと同じ。
 こんな曖昧な情報だけじゃ、意味がない。
「その言い方だと……、穴を塞ぐのは無駄だという風にも捉えられる」
 アゴをさすりながら、ルークが呟く。
「確かに。単に体力を消耗させ、面白がっているような言い方だ」
 ジョーもケイトも、レオの分析に頷いている。
「穴が広がるよりももっと、かの竜にとって面白いこと。どういう意味だ」
 部室内がしんと静まりかえった。
 皆無言で考える。
 何が起きようとしていて、どう対処すれば良いのか。

 ――バタンと、折り畳み椅子ごと、人の倒れる音が響いた。

「芳野さん!」
 須川が一番に叫んだ。
「美桜様! 如何なさいました」
「美桜!」
 次々に美桜の側に駆け寄っていく。
 椅子を退けて、俺も慌てて駆けつける。
「大丈夫か、美桜!」
 須川と芝山の間から無理やり前に進み出ると、床に伏し、苦しそうに肩で息をする美桜の姿。さっきから何も喋らないで、妙な気はしていた。けど、自分のことで精一杯で、全然気が付かなかった。コイツ、何で。
 美桜の側で膝を付き、手を握る。熱がある。
 昨晩あんなことをしてしまったから、身体を冷やしたのだろうか。俺は咄嗟にそんな風に考えてしまった。自分の感情を抑えきれず、彼女のことなんか考えもせずに本能の赴くままに彼女を抱いてしまったから。
 それまでの興奮が一気に冷めて、俺は全身の血の巡りが鈍く鳴っていく気がしていた。
 美桜の口が僅かに動く。
「何か、喋ってる」
 須川に言われて、美桜の口の側に耳を近づける。
「……けて。たす……て」
 助けて。
 そう聞こえた。
 まさかと思い、もう一度耳を澄ます。
「白い……りゅ……」
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