「ねえ、多御くん」
「何でしょう、四辻さん」
「多御くんは、もしも目の前で何らかの理由―――そう、例えば、病気とか空腹とか出血多量とか内蔵を抉り取られたとかで……」
「いや、待ってなにその例え」
「……意見は最後まで聞いてから」
「はい」
「まあ……そんな感じの理由で死にそうな人が居たとします」
「はい」
「でも、その人は放って置かれれば確実に死ぬというのに、すごくすごく幸せそうに笑っていたとします」
「……………………」
「あなたは、その人に対して何をしますか?また何を感じますか」
「……何もしない。何も感じない」
「……何で?」
「たいした理由じゃないけどね……。まあ、何も感じないっていうのは、少し云いすぎかもしれない。実際は動揺したりすると思う。……だけど、四辻さんが聞いてるのはそういうことじゃないだろうから」
「……………………」
「ぼくはね、充分過ぎるだけ幸せな人に何かできると思うほどには、自分に自信がないよ。ぼくよりもずっと幸せそうな人に何か思えるほど、嫉妬深くも、いい人になった覚えも、ないよ」
「…………そ、っか」
「理由はそんなところかな」
「……うん」
「…………でさ。何なの?この質問」
「え、別に」
「はい?」
「……何となく、訊いただけ」
「…………すごい何となくだね」
「それとも理由がなきゃ話しかけちゃいけなかった?」
「…………いや。会話なんてそんなもんだし。……でも、」
「でも?」
「次からは読書してるときはやめて欲しいね」
「了解しました」
「どうでもいいけど」
「どうでもいいの?」
「………………よくないけどさ」
「変なの」
―――(了)―――
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