挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

9/39

9

 ケイジの改まっての提案のせいで、夜闇に侵された病院の個室には、より一層重い空気が流れていく。
 私たちそれぞれに、窓から漏れる淡い月明かりが注がれる最中、ケイジは息を吸い込むと、私とゼットを見ながら語りを始める。
「オレはAWの開発に携わる者として、ずっとゼットを追っていた。そして、一つの結論に達したんだ。……ゼット、君はオレたちの知らない他世界の存在――詳しい正体までもは分からないが、漫画やアニメに出てくるような、とにかくファンタジックな存在で、なんらかの事情によりAWの世界に降り立ってしまい、記憶のないまま、父や世界中のAW関連の企業から極秘裏に追われる身となった。個人的にオレはそうだと確信している」
『……で? 仮に俺がそういう存在だとして、テメェは俺を散々兵器として利用しようとした連中とは、違うとでもいうのか?』
「ああ。オレはむしろ、仮説を前提として君を保護し、元居た世界に帰してやりたい。ゼットの力はこの世界には危険すぎるし、ゼットだって欠落した記憶を取り戻したり、本来いるべき場所に帰りたいだろう?」
 ……ケイジは相変わらず凄いなぁ。
 私だったら中二だ、妄想だとか言って否定しちゃう考えを、平然と現実のものとして捉え、それをちゃんと整理しれた上で、自分のするべきことを考えて話せている。
 少しの間をおいた後、ゼットはケイジへと視線を向けると、
『『何者であるかを思い出せ』――俺は今、その欲求のみで動いている。故に、そこだけを見れば、お前が何らかの協力を申し出るならばメリットはあるかもしれん……元居た世界が、どうとか言う話は置いてな』
「構わない。あくまで仮説だ。じゃあ、ゼット。オレとメイは、君の記憶を取り戻し、帰還するための協力をするから、ゼットもオレたちを信用してくれないか? もちろんオレが、企業の連中に襲われないようにサポートするし、ゼットだって相手が襲って来なきゃ、自主的に先生攻撃はしないだろう?」
「ちょっと、お兄ちゃん! 勝手に――――」
 しかし、私の声は虚しくも無視され、ゼットとケイジの話は続いていく。
『……なぜ、お前は俺への協力を申し出る? その理由をまず聞かせろ』
「先ほども軽く話したが、オレは君に、この世界から穏便に出て行ってほしい。ゼットの力は、最悪この世界を破滅に導きかねないし、君を追っていた連中はバカすぎてソレを想定すらしていない。だからオレは、利害の一致があると考え、君に接触したんだ」
「お兄ちゃん……」
 しばしの沈黙。
 誰が言葉を発する訳でもなく、誰もが私たちの運命の舵を取ろうともしないまま、時間だけがゆっくりと流れていく。
 ゼットもケイジも、どちらもがお互いの意図を探り合いっているのか、膠着状態のまま。
 もちろん、私だって何も思っていない訳じゃない。
 ゼットは怖いヤツかもだけど、心底の悪いヤツじゃなさそうだし、何者かあるかを思い出したいのなら協力してあげたいとも思う。
 ゼットが見せた悲しそうな表情は、『今』という名の現実を辛いものだと捉えている私と、何処か似ている気さえ気がするから――――
 そう考えてしまうと、私の口からは、細々ではあるが、自然と声が漏れ出した。
「……あの、私ね。ゼットが忘れたモノを……記憶を探したいなら協力してもいいよ」
『…………』
「だしね、ゼット。ケイジはどうしようもない兄バカだけど、イイ奴で、他人を裏切るような不誠実はしない人だよ。だから、ゼットがほかの世界から来た人……なんて信じられなくても、記憶を取り戻してから、居場所を探せばいじゃない。私、現実じゃ歩く事すら出来ないけど、AWの中じゃ、とびっきりに冒険できるからさ」
 下手な言葉。自分でもギクシャクしているのが分かる。
 これに対し、ゼットはまさにやれやれと言った感じで、
『だったらどうした。ほんの数分前に出会った連中に命を預けろだなんて、随分とご都合じゃないか』
「…………ごめん」
『……謝るな。だがまぁ、話の通じる相手もおらす、一人で困っていたところだ。お前たちが俺を丁重に扱うというのなら、その話――俺の記憶を取り戻し、元居た世界に帰すという試み、乗ってやってもいいぞ』
「え……」
 あまりにもあっけない了承に、私が驚いていると、ケイジは安堵の息を漏らした後に立ち上がり、宣言とも捉えられる言葉を述べる。
「じゃあ、これでオレたち3人は運命共同体チームだ! だが、詳しい方針はまた後日。今日は流石に帰らないと色々とマズいから……それと、ゼット――――」
『あん?』
「すまないが、明日の夕方。またオレが来るまで、そのWEBカメラにでも潜んで、メイの面倒でも見ててやってくれ。メイは悪いけど、オレが来るまではAWは無しだ」
「えーッ!! マジで言ってるッ!?」
 私の心の底からの叫びを、ケイジはおかしそうに笑い飛ばすと、病室のドアを開け、闇に包まれた廊下への道を開いた。
「では、また明日。お兄ちゃん頑張るからな、期待してろよ。メイ! ゼット!」
 ケイジのあの顔は、また私のデータに細工を施そうとしている顔だ。
 兄妹だもの。そんな事、告げなくても分かる。
「うん、お兄ちゃん。ゼットもいい子にしてるから、無理しないでね」
『おい、メイ! 俺を子犬か何かのように扱うな! あとケイジ。牛馬の如く、俺の手助けをするために勤しめ。フハハハッ!!』
「分かった、分かった。じゃあ、おやすみな。二人とも」
「うん。おやすみ」
『……フン。明日、必ず来いよ』
 そうして閉じられる病室のドア。
 なんだか変な事件に巻き込まれちゃった……
 しかもAW出来ないし、今日はもう寝るしかないな。
「なんだか、疲れたし今日はもう寝ちゃおうか?」
『……そうしてくれ。俺も休みたい』
 私は、ゼットでもあるWEBカメラを胸の谷間から取り出すと、枕の近くへと置いた。
 流れのままに、枕に頭をおいた後、私はゼットを見つめながら言葉をこぼした。
「ねぇ……ゼット……」
『うん?』
「眠っちゃうまで、何でもない話……していい?」
『……好きにしろ』
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ