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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 件の森の中――――
 木の影に潜む僕の付近で、ゼットは5人の狩りれプレイヤーを正体不明の魔法でキルしたと思うと、今度は雄たけびを上げながら、最後の一人となった狩りプレイヤーを狙っていた。
「アッ……アアアアアアアッ!!」
「こッ、来ないでくれ~ッ!!」
 嘘でしょッ!?
 あのプレイヤーゼットにタゲられているのに、こっちに向かって来る!?
 あんな、異常なバグとかち合ったらキルされて、デスペナを受けるどころか、データの破損さえ招きかねないのに……こんな時、ルパンならどうするだろう? 教えて、私のルパン!
 僕はデジタルで構成された自分の身体を、強く抱きしめる。
 そうして得られた解は『ルパンは無駄な戦いをしない』。
 ならばと、僕はアイテムパックより転送石を呼び出そうとするが――――
「ヴ……ヴヴヴアアァァァア!!」
 僅か数フレーム程度の行動以上にゼットの動きは素早く、雄たけびと共にプレイヤーの正面であるこちら側へと回り込み、引き裂きトドメを刺した。
 運の悪い事に、ゼットが回り込みの攻撃を仕掛けたことにより、木の後ろに隠れていた僕と向き合う位置へと来てしまう。
 ゼットの瞳は赤く、ソレが意味するものは深淵か、はたまた血か――――
「うわああああッ!?」
 僕は居ても立ってもいられず、無我夢中で駆け出した。
 怖い、怖い怖い……怖い怖い怖いッ!!
 頭の中で駆け巡るのは、私のものであるとも、ルパンのものであるとも言える恐怖の叫び。
 だが、恐怖におののきながら走れば、足がもつれてしまうのは自然な事だった
 僕は、出っ張っていた木の根に気付かず、足を引っかけ数メートルも走らない内に転倒してしまった。
「うッ!」
 キルされる……三年がかりで育てたルパンが、ここで潰れてしまう!
 神様……たかがVRとお笑いになるかもしれませんが、どうか……どうか私のルパンを助けてッ!! 
 祈りの最中、ゼットは僕の予想に相反し、何もしてくる事がない。
 僕をキルするなら絶好のタイミングなはずなのに……もしかして神の加護?
 僕は恐る恐る振り向いた。
 するとゼットは、たしかにこちらに近寄って来てはいたが足取りは弱く、今にもひざまづき倒れてしまいそうな雰囲気だった。
「ヴァ……ゥ…………」
 力無き叫びと、長い黒髪の隙間から垣間見える悲しそうな瞳は、失った何かを探す旅人のよう。
 僕にはゼットが、バグでもプレイヤーでもNPCでもなく、悲しみを背負った人間そのもののように思えた。
「ヴァ……うぁあぁ…………」
 お前、もしかして僕に何か尋ねたいのか?
 僕を敵として認識していないから、求めて止まない『何か』について――――
「君は……」
 ファンタジックな妄想癖からか、僕が言葉を返そうとすると、ゼットはこちらによりかかるようにして倒れて来てしまう。
 てかてか、このシュチュエ―ション!
 ハダカの男に覆いかぶされるなんて、いやぁぁぁッ!!
 ……って、僕のアバターも男の子だけど。
 しかし、身体に感じるのは、重みは人間のソレではなく、カラスほどの大きさの鳥のもの。
 ゼットは僕の胸の中で倒れると、人型ではなく中ぐらいほどの黒い鳥へと変化し、気を失った。
「…………すぅ……すぅ」
 安らかな寝息……一体、お前は何なんだ。
 強大な力を持っていたり、寂しそうな眼をしてみたり、挙句、僕が心許せそうな鳥の姿へと変わったり。
 ルパンならば、きっとゼットを放置し、もう関わらないと決めて帰るハズ。
 だけど、私は――――
「不思議だね。何故だかアナタが気になるョ……」
 悲しい目をしたゼットに同類性を感じたのだろうか。
 私は、男の子の声で吐き出された女言葉と共に、ルパンである事を今ひと時忘れてしまう。
 鳥の姿をしている今ならば害はないハズ。
 ならば、隠れ家に連れて帰ろう。
 そして、少しだけ話しをしてみよう。
 私は気絶しているゼットの頭をひと撫ですると、二人分の転送石を取り出し、他フィールドの隠れ家へと移動した。


 パラメティア大陸の中心地、『王都メルデット』のスラム街。
 さびれたスラムにはプレイヤーなどあまり居らず、NPCや迷い込んだ初心者程度が訪れる、雰囲気作り為だけのこのフィールドの片隅にもルパンの隠れ家はあった。
 誰もが興味など持ちはしない、ウエスタン造りのボロボロの家で、私は鳥の姿のゼットを机の上に置くと、ロッキングチェアに腰かけ、ゆらゆら揺れながらゼットを見据えた。
 結局、彼は何者なのだろう?
 頭の中で、その単語を起点に色々と考えてみるが、あてはまる解は私には得られない。
「分かんないなァ……」
 うぅ……少し冷静になると、ルパンの声での私の喋りってなんか気持ち悪い。
 でも、今はルパンになり切れる気分じゃないしなぁ。
 それにしても、倒れ込んできた時のゼットの顔。
 ちょっとしか見えなかったけど、結構格好良かったかも……
 ――――って、相手はゲームの住人! 何考えてんのよ、私!
「ああああああッ!!」
 女の子っぽく仕草での、悩みの悶え!
 ルパンに超似合わないのにィッ!!
 ――その時だった。
 現実の私のVR機器に、誰かが触れ、ソレを頭からひっぺがえした。
 これにより、僕の視界はルパンの隠れ家から、夜の夏葉丘総合病院の私の個室へと一気にスライドし、頭がパルス酔いで『ぐわんぐわん』になってしまう。
 次の瞬間視界に飛び込んで来たのは、病室を照らす小さな灯りと、心底焦るケイジの顔だった。
「メイッ! 大丈夫かッ、メイッ!?」
「おぉお、お兄ぢゃん……ゅ、揺らさないで……パルス酔いで……ぎぼぢわるい……」
「そんな事は後だ! いいか? 今から何が起こっても驚くなよッ!? 大声も絶対に出すな!」
 五感シンクロ型VRを無理やり引き抜いたケイジのせいで、こっちは吐きそうだってのに、酷い扱いだ。
 私が頬を膨らしたまま押し黙っていると、ケイジは鞄からノートパソコンと、ソレにケーブルで繋がれた球状、手のひらサイズの黒いWEBカメラを取り出した。
 続けて、ケイジは私のベッドへと腰かけると、凄まじい速度でキーボードを叩き始める。
「……てか、お兄ちゃん。深夜に病院に乱入してきて何のつもり? 本来の面会時間、とうに終わってるよ?」
「うるさい! 気が散るから黙ってろッ!!」
 うわっ……珍しくマジになってる。
 ケイジが感情的になるなんて、もう何年も見た事ないのに……
 にしても、この兄バカは何をこんなに必死になっているんだろう?
 凡俗な私には、まったくと言っていいほどピースが繋がらない。
 ケイジは作業を終えるとパソコンとWEBカメラを少し離れた位置へと置いた。
「……よし、これでいい。今からオレが話すから、メイは迂闊な事を言わないでくれよ。相手は危ないヤツなんだ」
「WEB通話とかなら、家でしてよ……非常識な……」
「シッ!」
 ケイジが私を制止した、まさにその時。
 ノートパソコンに突き刺さっていたWEBカメラのケーブルが、ひとりでに抜け、WEBカメラが宙に浮かび上がった。
「え!?」
 謎の怪奇現象に驚く私。
 宙に浮いたWEBカメラは黒いオーラをまとうと、ソレを翼の形へと変化させ、レンズの眼でこちらを見据える。
『…………』
 その姿はまるで、小型の黒い一つ目モンスターのよう。
 付属のケーブルさえもが、悪魔の尻尾に見えてしまう。
 ケイジは息を飲んだ後立ち上がると、先ほどまで、ただのWEBカメラだったモンスターを見据え、言葉を発する。
「やぁ……初めまして、ゼット」
 ゼット――? え……ゼットってAWの中だけのものなんじゃ……
 私が困惑していると、ゼットと呼ばれたカメラは、スピーカーなどついていないにも関わらず、初めから音声装置が付いているのように、言葉を飛ばした。
『……お前、誰だ? てか、ここは何処よ?』
 あら、よく通るイケメンボイス……じゃなくてッ、一体何が起こってるのよーッ!!
 でも、私は黙ったまんま。
 どう見ても口を挟める空気じゃない。
 しばらくは大人しくして、ゼットとケイジの対話を見守る事にしよう……
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