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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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6/39

 日本時間 22時50分――――
 メイがルパンとしてゼットに接触しようとする少し前。
 ケイジは睦月家の自室で、彼、オリジナルのブレンドコーヒーを片手に、ノート型PCのキーボードをリズミカルに叩き、プログラムを作成していた。
 メイとケイジの実家でもある睦月家は、都内に建てられた坪80の大きな一軒家であり、三階建てで、ガレージには父・睦月維人のXJ仕様ディープパープルカラーのジャガーと共に、ケイジの国内の足とも言える四気筒・1200CCのブラックメタリックの大型バイクまでもが存在する。
 そんな豪邸でもある睦月家の2階にある自室で、ケイジは自宅に帰らぬ父をよそに作っているプログラムとは、メイのキャラクター、アルセーヌ・ルパンに対しての対ゼット用の極秘調整だった。
(……巻き込みたくなかったけど、オレにとってAWの中で信じられる人間は、メイしかいない。やはり、父さんも外資系の出資者・業達と同じで、AWに君臨した文字通りの『魔人』を、現実世界リアルに持ち込んで利用する事しか考えていなかった。あんなもの下手に刺激すれば、ビジネスどころか戦争のパワーバランスさえもが変わってしまうんだぞ……)
 ケイジは焦燥を覚えながらも、スピーディーに、かつ繊細にキーボードを叩いていく。
 ケイジが今、入力・完成させようとしているのは、くだんの『魔人』――謎の自走性プログラム『ゼット』をルパンに認識させるための、特別な専用マスクプログラムだ。
 このデータをルパンに埋め込めば、ルパンはゼットに対し、一般プレイヤーが見るゼットのステータス、
――――――――――――――――
Name:  
Lv:9999
――――――――――――――――
 とは異なる表記、
――――――――――――――――
 Code:ゼット
 Lv:99999999999
 All Status:Unknown
――――――――――――――――
 という、明らかな警告のシグナルを、目視出来るようになる。
 攻撃を受け付けなくなる……と言った、チートは流石に作れないが、これはケイジなりのせめてもの兄としての配慮だろう。
 ケイジは色々と完璧な人間ではあるが、やはりメイに対しては兄バカであり、何処かシスコンが抜けきれない悲しいイケメン兄貴でもあるのだ。
(ルパンは今のメイの『足』の代わり。もっと確実に守ってやりたいけど、運営サイドにバレない形でプログラムを作るのは、純粋なチートを作るよりも疲れるなぁ。ヒモつくプログラムの隠し場所まで、現存のプログラム量から増えないように調整しなきゃいけないし――――でも、これで取りあえずはOKだ)
「それ、完成っと!」
 ケイジが、声と共にエンターキーを押し込むと、見事にAW全体のプログラム要領を変化させる事なく、リアルタイムに『ルパン専用ゼット認識プログラム』が実装されていく。
 ルパンが今も、そして、これからも使わないであろうシステムを理解し、あてはまるプログラムを消しての全体要領の再編成。
 それらのすべて実行できるのは、海外にいる間も管理者としてルパンをたまに観察している天才兄バカこと、ケイジだからこそ出来る手法であろう。
「ふぅ…………まったく、気を揉むよ。無茶とバカが大好きな、わがままな妹を持つとさ」
 ケイジは独白をこぼしながらも、椅子へと深くもたれ掛かる。
 様子からして、今日のケイジは本当にお疲れの様子だ。
 昼間、ケイジはメイの見舞いを終えた後、中央区の父の会社である株式会社睦月ネクサスソーシャリティ――通称・『MNS』にて、父・維人もが、ネット内でゼットを捕縛した後、日本国家へと売り渡し、利益と癒着を得ようとしている事を知った。
 ゼットは、MNSを含む各企業の間では『AW内に偶発的に生まれてしまった、現実にまで及ぶ力を持つ、感情ある特殊型自走性プログラム』だと認識され、産まれもって所持する禁忌の力――現実にも及ぶ『魔法』に対し、各社が希望を抱いている。
 だが、その希望とは、『金』、『名誉』。そして『軍事力』といった人の負であり、ゼットの存在を極秘裏に知り得てしまったケイジには、納得のいかない未来地図だった。
 故にケイジは、ゼットが追われ続けている現状を何とか打開すべく、MNSならば力を貸してくれると、父の要望に乗っかる形で、日本へと帰って来た。
 だが、結局の所、父・維人もまた企業人――他者と大して変わらぬ方針に、ケイジは建前では同意をしたものの、実際、心の中では頭を痛めていた。
「はぁ……」
 ため息交じりに、どうにかならないものかと考えながら、うんと甘くしたコーヒーを一口。
(現実主義者の大人たちは分かり切っちゃいないが、ゼットはきっとプログラムなんかじゃない。もっとオカルト科学めいた存在……あれは、まるで――――)
 ケイジは頭を回しながらも、またも自らが作り上げた監視プログラムで、AW上空100mからの映像でルパンのリアルタイムを観察する。
「――――んッ!?」
 しかし、口から漏れたのは驚きの声。
 ケイジは思わずモニターを覗き込む。
 すると、そこに映っていたのは、木陰に隠れるメイことルパンと、国籍が定かではない6人の雇われプレイヤー……そして人の形をしたゼットの姿だった。
『ヴァアアアアアアッ!!』
 黒い長髪、赤い瞳、体躯のいい東洋人のような姿をした裸のゼットは、嘆きながらもLv4000台の雇われプレイヤー達を、手から放つ暗黒の爆炎魔法で薙ぎ払う。
 ゼットの炎は、ネットを介し現実にまで至り、彼らのアバターごと、身に着けていたVR機器、さらにはそれらに接続されたPCまでをも破壊した。
『うッ……うわああああッ!!』
 叫び逃げ惑う、雇われプレイヤーの生き残りの一人。
 彼はゼットの圧倒的な力を前に我を忘れ、ログアウトという言葉さえ見失ったかのように、隠れているルパンの方へと向かっていく。
 これらの光景をモニター越しに見たケイジは――――
「……くそッ! 最悪の展開だ!」
 乱暴にノートパソコンを畳むと、教務用の鞄とバイクのキーを持ち持ち、急いで家を飛び出した。
 睦月家からメイの入院する夏葉丘総合病院まで、バイクを飛ばした上、権限を使い無理矢理、時間外面会を取り付ける事まで考えれば、トータルタイムは約15分。
 だが、その15分という時間は、ゼットという異常存在が、ルパンどころか、プレイヤーであるメイの身に危険を及ぼすには十分な時間でもあった。
(間に合え! 間に合えッ!!)
 ケイジのバイクは夜の国道を駆けていく。
 フルフェイス型のヘルメットの下では、普段見る事はないほどの焦りの表情を浮かべながら。  
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