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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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「はい、睦月さん! こちらまで来てください!」
 時刻は午後二時と少し過ぎ――――
 様々なリハビリ器具が設置された第一リハビリ室に、40代後半の太ったオバハン看護師の声が響き渡る。
 リハビリ入院の患者が、それぞれにあてがわれた器具で、社会復帰のための運動を続けている最中、私は歩行訓練用に並列に配置された、2つの手すり――平行棒と呼ばれる器具に掴まりながら歩いてはコケ、コケては起き上がり、またコケてを繰り返していた。
「う~…………」
 自分自身で聞いても実に嫌そうな声だ。
 夏場丘総合病院の平行棒は、特別長く作られており長さが25mもある。
 だけど、私は三年前からリハビリを受けているというのに、歩き始めると5mもしない地点でギブアップし、弱音をすぐに吐いてしまう。
 しかも、その5mすら、腕の力でごまかしているというというのが現状。
 だって、足が動かないから、こうでもしないと前に進めないんだもの。
 だというのに、あのオバハン看護師と来たら、
「ほら! 頑張らないといつまでも一人で歩けませんよ!」
 などと、節分に出てくる赤鬼のように声を飛ばすのだ。
 ねぇ、看護師さん知ってる? 鳥は鳥だから飛べて、犬は犬だから吠えられる。
 そして、ケイジはケイジだから頭がよく、ルパンはルパンだから早く走れるの。
 でも、何をしても必然上手くいかないのが、睦月メイ。
 だからさ、上手くいかない私にそんな言葉を吐かないでほしい。
 むしろ諦めて『AWこそがアナタのリハビリなのよ、メイちゃん!』とか言ってくれないかなぁ。
 ――――が、現実はあぁ無情。
 オバハン看護師の濃い目のグロスが塗られた分厚い唇からは、またも私を叱咤する言葉が飛び出した。
「いいですか? アナタはレントゲンでも、診察でも、どこにも異常のない健康体なんですからね!」
 それだ。その言葉が一番嫌い。
 理由も変わらず動けないから苦しんでいるというのに、アンタも、アンタの声釣られて私を見ている患者たちも、まるで私に気持ちが分かっていない。
 私は、疲れと失意の中、開始地点から3m地点の床にへたり込むと、本音をポソリと漏らした。
「……歩けなくてもいいもん」
 歩けなくても、私には不自由が無いから。
 お父さんや友達が、お見舞いに来てくれなくてもVRがあるし、ケイジがアメリカに戻っても、少なからず、あと数年はAWは続いていくだろう。
 読みたい漫画はタブレットの電子書籍で、見たい映画はVRで、食べたいお菓子は購買で、四季なんてのも窓から見える観葉樹だけで十分楽しめる。
 しかも、私は引き籠りじゃなく、病人という扱いだから、誰も私を蔑むような目で見たりはしない。
 ――――だから歩けなくていいんだ。
 歩けるようになっても、現実じゃルパンみたいに何もかもが上手く行くわけじゃない。
 失敗だらけの現実なんていらないから……


 日本時間22:00 VR・AW内 森の都市エルフェルム――――――
 僕はAWにログインすると、あらかじめ盗難アイテム用の掲示板で確認した情報の通り、個人運営の美術館から、『白銀の花』呼ばれる見た目もそのままなアイテムを盗み出し、街を駆けていた。
 エルフェルムはAWにおけるエルフたち首都とされる都市で、NPC含み人口は約8万。
 緑と白が入り混じった貝殻のような建物を持つ魔法都市として進歩し続けているのが、このエルフェルムの特徴だ。
 しかし、今日は特に楽勝だったな……
 オーナーの飼っていた番犬たちも、見た目だけできちんと育成されてなかったし、美術館のセキュリティもルパンのスキルの前には、役に立たない。
 さて、後は街の圏内を出て転移石を使うだけ――――
 だが、怪盗のセオリーにおいて、最も怖いのは帰り道なのだ。
 後ろから甲高い声と共に、僕に向かい対戦車ライフルの弾が飛んでくる。
「ルパァンッ!」
「ッ!?」
 攻撃は距離もあったせいか無事ハズレ。
 僕は一旦足を止めると、僕を狙撃した金色の髪のツインテールをした小さなゴズロリを見た。
「なるほど……セキュリティが薄いと思ったら、キミが雇われていたわけかい――メリア」
「そうよ。アンタがそろそろ現れるんじゃないかってオーナーが警戒してって事。おまけにアンタには賞金首だから、仕留めれば二重に儲かるって寸法よ! さぁ、今日こそ覚悟なさい、ルパン!」
 メリアは言葉を吐くと、またも長筒のような対戦車ライフルを構える。
 しかし、僕はと言うと、メリアのやる気に反比例し、背中を見せて逃げ出した。
「やなこった♪ 僕を仕留めたけりゃ、いつものように追っておいで!」
「こんのぉぉぉ! 可愛くないヤツね、アンタはッ!」
 メリアは地団太を踏んだ後、装備を速度に対して加護が付いたものに切り替えると、武装を消して走り出す。
 そうして始まる僕とメリアの追いかけっこ。
 様々な相手から逃げて来たが、僕は、僕だけを特に集中的に追い続けるメリアだけは嫌いじゃなかった。
 そう。たとえ、このように距離を詰められ、対戦車ライフルを撃たれたとしても――――
「甘いよ、メリア!」
 僕は即座に『幻影(ミラ-ジュ)』スキルで、陽炎分身を複数体作り上げると共に、空中で前方宙返をし、メリアの弾丸の起動を影分身に反らせた。
 更には、僕は身体を空中制御すると共に、クインスコーピオを構え、メリアの前方むけて火焔の魔法弾を放つ。
 マズルフラッシュと共に放たれた弾丸は、クインスコーピオ専用の補正を得て、微量のホーミングを纏い地面に着弾。炎の壁を作り上げた。
「クッ!? こんな小細工ッ!」
 だが、メリアはそれでも気にせず、炎の海を突っ切り僕を追って来る。
「はは、凄い信念だね、メリア。君の事だけは尊敬するよ!」
「ふざけないで! アンタとの鬼ごっこは今日で23回目! 正義の賞金稼ぎの私が、こうも好きに逃げられてるなんて気に食わないのよッ!」
「だったら、他の相手を追いかければどうだい? 賞金稼ぎとしては、その方が間違いなく効率的に稼げると思うよ?」
「うっさい、うっさい、うっさい! 私はアンタを倒すって決めてんのよぉッ!」
 そうだ。君ならそう言ってくれると思った。
 僕たちの間に無粋な勝ち負けなんていらない。
 君は僕を求め追い続け、僕はそれから逃げ続ける。
 永遠に続く、いたちごっここそが、僕たち二人のAW生活を満たしていくんだ。
「ほらほら、もうすぐ街の外! 逃げちゃうよ、メリア!」
 僕が余裕を見せながらも逃げる中、メリアは屈み、反動付きの重装兵器をブレなく打ち込むための指輪と靴に装備を切り替えると、4連装ロケットランチャーを担ぎ構えた。
「ルパァァァアンッ!!」
 おそらくこれは、起死回生の攻撃。
 放れた距離からして、メリアの足では僕にもう追いつけない。
 だからこそ、武装の中で一番誘導値と破壊力が高いものをチョイスしたのだろう。
 メリアは、僕をターゲットサイトに収めると、叫びと共に引き金を引く。
「行け、ファイアーッ!」
 放たれたロケット弾は白い煙を上げながら、四発すべてが僕へと一直線に飛んでくる。
 当たれば、僕の低いHPならば間違いなく致命傷になるだろう。
 だが、僕から漏れだすのは快感の笑み。
「ふふ……」
 残念。また追いかけてきてくれよ、メリア。
「はっ!」
 僕はマタドールのように、足の動きのみで四発のロケット弾を全てかわすと、街の外へと加速し、アイテムパックから転送石を呼び出した。
「じゃ、またね!」
 声と共に、僕は転送石を起動し、エルフェリオ周辺から姿を消す。
 行先は別大陸『ヤマト』の三日月岬だ。だというのに――――
「覚えてなさい、ルパン! 次こそは絶対仕留めてやるんだからぁぁぁぁッ!!」
 メリアの叫び声は、僕のロード画面にすら干渉してしまうほどに大きかった。 
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