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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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「……貴様ァッ!」
 ゼットは、私が倒された怒りにより、我を忘れたのか、右手に後先構わずの赤い魔法陣を展開した。
 だけど――――
『ゼット! それはダメッ! それをやっちゃったら、ゴブラーの時みたいにバグを起こして、『バエルの剣』が手に入らなくかもしれない!』
「ちっ……めんどくせェッ!」
 ゼットは、私の言葉を聞き届けると、魔法陣をかき消し、再び大剣でバエルへと立ち向かう。
 だが、ゼットがいかに魔人と言えど、状況は不利。
 ゼットは、ステータスシステムという足枷に押され、私を復活させる間もないまま、徐々にHPを削られ追い詰められていく。
『キシャアッ! どうした、どうしたッ! もう後がないぞォ~!』
「グッ……調子くれてんじゃねェ! この鈍い体じゃ無けりゃ、テメェなんざ、蟻の一匹と大して変わらねェっつうのにッ!!」
 ゼットは必死だった。
 システム上、勝てないとされる相手に対しても、一歩も引かず、諦めるなんて単語どこにもなかった。
 外側から見えるHPのバーが危険信号を示す赤色へと変わっても、それでもバエルとの激しい戦に、たかだかLv4700の身体で、どこまでも耐え抜き、隙あらば攻め続ける。
 そして、遂にゼットは、ぶつかり合う剣劇の最中、叫んでしまう。
 苦しさを吹き飛ばし、勝利を得るために、記憶の中沈殿していた『彼』としての本当の想いを……
「俺は、絶対に帰るんだッ! アイツの……アイツらの待っている世界へとッ!!」
 私はその言葉を、真っ白な球状の魂のまま耳にした。
 2年半ぶりの『魂状態』で受けるAWの風は、塔の頂上だというのもあってか、酷く冷たく、それでいて乾いている。
 現実の私は、事実を胸に、VR機器の下で一筋の涙をこぼしていた。
 ……私が、一番望んでいたゼットとの、二人で生きていける未来なんて無かったんだ。
 だけど……もしそうだったなら、ゼットをちゃんと元の世界に返してあげるって決めたでしょう?
 でも、どうしたらいいのかな?
 今、ゼットには私を復活させる間なんて無いし、復活しても、私のアバターはレベルダウンを大きく受けて、この戦いにはついていけない。
 そう考えた時―――
『だったら祈りなさい。メイが初めて好きになった大切な人のために……』
 お母さんの声――――?
『あなたが彼を大切だから、未来を作ってあげたいって願う事は、奇跡だって起こす力があるわ』
 嘘、奇跡なんてないよ。じゃなきゃ、お母さんはあの日――――
『嘘なんかじゃない。現にあなたはもケイジも事故の日、ケガはしたけど無事だったでしょう? それこそが、私の願いで彩られた最初で最後の奇跡の魔法……だから、メイにもそれが出来るはず。あなたは私が、あなたを愛したのと同じぐらい、彼が好きなんでしょう?』
 ……そうだね。私、やってみるよ。お母さん。
 私は、心を落ち着かせると、祈りをささげた。
 悪魔に祈りが通じるのかは分からないけど、私の回りには、ゼットに会ってから不思議な事がたくさん起こって来たんだ。
 だったらあと一回ぐらい、強い想いが生む力……なんてのがあってもいいと信じたかったから。
 あなたが一番幸せだと思う世界に帰れますように――――
 傍にいて一番幸せだと思う人の胸の中に帰れますように――――
 だから、負けないで……ゼット。
 そう、強く、強く。私は今までに無いほどに強く願った。
 すると、不思議な事にバエルの塔を覆っていた青い光が、一斉に天へと昇り、私たちが屋上にたどり着いた時のように、青い光の柱を成す。
 続くようにして、天からはAWの星空を切り裂くようにして、温かい光が降り注いだ。
 この光は――私が夢で見た、夢で見たあの女の人の祈りだ。
 ベビーブルーの髪の女の人は、何処かの中世の世界の素朴な宿の一室で、眠り続けるゼットに、雨の日も風の日も寄り添い、話しかけていた。
『……もう、寝坊助め。早く起きないと、旅の続きに置いて行っちゃうぞ?』
『…………今日は芋と豆のスープを作ったんだ。いつ、目を覚ましても良いように机に置いとく。起きたら、いつもみたく呼びつけてよ……そしたら、特別に食べさせてあげるから……』
『雨……か。身体……痛まない? ……そっか、まだ寝ていたいんだもんね。ごめん……どうしてもキミの声が聞きたくて……ボクは……ワガママだな…………』
『みんなさ……しばらくの間、グリモアの街に帰るって。みんな、此処で、キミが起きるのを待ちたいけど、宿代がかさむから、ボクに任せるって…………だから、早く起きて……』
 ゼットの身体が『あちら側』にあるという事は、此処に居るゼットは『魂』か何かの様な存在で、だからこそ完全な実像を持たないままAWの世界に迷い込んでしまったのだろう。
 女の人は泣きながらでも、ゼットの寝顔に向けて微笑んでいた。
 『彼』のために強くある事――
 それが彼女の、ゼットに対する愛情であり、慈しみであったから。
『待ってる……ずっと……キミの事だけを――――』 
 空から降り注ぐ光は、ゆっくりと、今もなお戦い続けるゼットを包み込んでいく。
 しかし、次の瞬間、バエルの攻撃がゼットを捉え、ゼットのアバターのHPを0にしてしまった。
 だけど、ゼットは『魂状態』へと変わらなかった。
 私とあの人の願いがゼットを守ってくれたのだろうか、ゼットは死なず、周囲のデータが、黒く変色し、恐ろしい速度で書き換わっていく。
 ゼットは襲い来るバエルを見据えると、
『キシャシャシャアアアアッ!!』
「見せてやるよ……本物の悪魔の剣技をッ!」
 私には目視でない速度で動き、文字通り、個体が塵になってしまうほどの数の斬撃を浴びせ、バエルを破壊した。
『…………キシャ……ヨクゾ……ワタ……シ……ヲ……』
 バエルと、ゼットの使っていた大剣は、ゼットの力に耐えきれず壊れ、灰へと変わり、風に流され消えていく。
 ゼットは、アイテムパックから取り出した『フェニックスの涙』が入った小瓶で、私を復活させた。
 AWの世界の夜風が吹く中、ゼットの手にはドロップアイテムである、塔と同じ魔法文字の刻まれた大剣『バエルの剣』が握られていた。
 私は、こちらへと背を向け、縛られた髪を風にたなびかせているゼットに向けて、
「……終わったの?」
「ああ……お前たちの祈りのお陰だ」
 ゼットは振り向かずに答える。
 『たち』という事は、その中に、及ばずながら私も含まれているという事だろう。
 その事実は嬉しくもあるが、寂しくもある。
 それならば、私は必然あの人のオマケだ。
 私は更に言葉を続けようとした。
 そうしなければ、胸の奥から湧き出る、別れの悲しさに押し潰されてしまうだろう。
「…………やっぱり、私のお願いダメだったね。えへへ……でも、良かったじゃない。ゼットには、凄い可愛い彼女が居て……うん! ファンタジーの世界の人には、黒髪同士より、色とりどりのカップリングの方がきっと似合うし、それに……おっぱいだってあの人大きし……あははっ、ゼットは幸せ者だね」
 ゼットは言葉を返さない。
 私は、やはり耐え切れず、泣き崩れてしまいそうになりながら、ゼットの大きな背にすがろうとした。
 だけど……
 ガラン―――――ッ!
 『バエルの剣』が地に落ちた音が、私の耳に届く頃には、ゼットは振り向き私を抱きしめていた。
 けしてスマートにではなく、壊れてしまいそうな泣き顔を浮かべながら。
「ごめん……俺…………やっぱり、帰らなきゃ………」
 あぁ……そうか。『彼』も私を想っていてくれたんだ。
 記憶がないままの『彼』――ゼットは、ちゃんと私の事を本気で好きでいてくれたんだ。
 そのことが分かっただけで、私は嬉しかった。 
 私は泣き虫な『彼』の顔を胸で包む込む様にして抱き込み、頭を撫でていく。
「……いいって。だったら、笑いなさいよ。―――私はあなたが好き。そして、あなたも私を好きでいてくれたけど、以上に大大大好きな人が居た。私はそれで満足だよ」
「…………ごめん。俺は……それなのに……」
「それも、いいって。初恋って、ほとんどの人が結ばれないじゃない。でもね、私は相手がゼットで良かった。だから胸張りなさいよ。いつものあなたが、そう言ってくれたように……」
 『彼』はゆっくりと顔を上げ、私の胸から離れると、
「……そうだな」
 涙を拭わないままの笑顔で、そう言った。
 私は、負けじと笑みを見せると、
「最後に聞かせてよ。ゼットは何でこの世界に来ちゃったの?」
「何で……っていうか、本物の悪魔王の一人との命がけのバトルで力を使い果たして、撃退したはいいが、死の淵さまよって、気が付けば記憶を無くしてAWに居た―――こんな所だな」
「なるほどね~……あッ……」
 私は驚きの声を上げた。というのも、気が付けばAWのプログラムが徐々に『彼』の黒い波動に浸食されてか、ひび割れ壊れ始めていた。
 星空を黒が侵食し、雲を黒が侵食し、はるか遠くの地平線をも黒が侵食し、AWの全ては壊れながら光の粒へと変わっていく。
 明らかな異常事態だというのに、私の身体が強制的にログアウトされないのは、きっと私のデータが運営側のサーバーで管理されていないからだろう。
「……AWっていう仮想空間じゃ、悪魔王に匹敵する、俺の存在を支えきれないんだ」
「…………じゃあ、AWはこのまま壊れちゃうって事?」
「そうだな。そこもすまん」
「そっか……でも、いいよ。AWの終わりが、私とゼットの冒険の終わりって、何だか雰囲気のいいラストじゃない」
 私は、徐々に壊れていく世界を目に、ゼットの手を握った。
 ゼットの身体はいつの間にか、アバターではなく、人型形態の時の様な特殊なデータへと書き換わり、それ故に、温かさも感触も私には伝わってこない。
 そんな中、ゼットは開いた右手を空に突き出すと、空に巨大な紫色の魔法陣を発生させた。
 恐らく、ゼットはあの魔法陣を介して元の世界へと帰るのだろう。
 私が惜しみながらも手を放すと、ゼットはゆっくりと風船のように魔法陣に向かい浮かんでいく。
 私は笑顔で見送ると言ったハズなのに、やっぱり口からは嗚咽しか出てこなかった。
「ひっく……ぐしゅ……うぅ……うわああああんッ!」
 だけど『彼』は私の手には戻らない。
 私も『行かないで』とは言わない。
 戻れば、『彼』が帰れなくなる事は私たちには分かっていたから――――
 だから、その代わりに『彼』は、
「……メイ……お前がもし、俺を一生忘れられないのなら、その時は迎えに来てやるよ」
「ふぇ……?」
「約束だ。お前が前を向いて生き、誰かに恋をし、子を産み、育んで、人としての生を幸せに終え、それでも俺への恋心を胸の奥底で燃やし続けるというのなら、その時は、悪魔らしくお前の魂を貰いに来てやる」
 『彼』は、泣き止み上を向いた私と目を合わせると、これ以上ないぐらいの頬を緩める。
 『彼』は悪魔だから、私たちの感覚で言う一夫一妻なんて、結局当てはまらないのだろう。
 ……あの人が居るというのに、本当に悪いヤツだ。
 私は『彼』の言葉に対する回答はしなかった。
 『彼』は、きっと私の答えを知っているだろうから……
 私は涙を拭うと、笑顔を浮かべた。
「……じゃあ、またね。ゼット」
「…………アホ。他の男を好きになった方が、幸せだぞ?」
「や~だよ。一生忘れてやるもんか♪ それでね、いつか私、あなたが大好きな人ともいっぱい、い~っぱい、お話してやるんだからッ!!」
「そうかよ。……なら、その決意を契約とし、割印がてら俺の本当の名前を教えてやる」
「え、本当ッ? やった!」
 ゼットは温かな目で私を見つめると、
「俺の本当の名は――――――」
 『彼』の放った言葉は、魔法陣が駆動する音のせいで、かすれてしまった。
 唇の動きからして、英雄のようであり、偉人のようでもある名前だったのだろう。
 だが、私の耳には、『彼』の名前がしっかりと届いた。
「じゃ、忘れるなよ。俺の名前も、俺の事も。年をとっても、寂しくて他の誰かと付き合っても、婆さんになってもだ!」
「うん! 約束!」
「ああ。じゃあ……またな!」
 『彼』は、そう告げると魔法陣に吸い込まれ、元の世界へと帰っていく。
 『彼』は、『さよなら』とは言わなかった。
 だから私も、これで終わりにするような言葉は吐きたくなかった。
「……絶対に……またね」
 私は、言葉の後ログアウトし、抜け殻となってしまったWEBカメラを抱きしめ、泣きながら眠りについた。
 『彼』の名前を忘れてしまわないように、心の中で、何度も何度も呼び続けながら……
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