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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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「ちッ!」
 ゼットは舌を撃つと共に、十二人のプレイヤーたちに囲まれながら大剣を構えた。
 何も事情を知らない酒場の客たちが、驚き被害を受けまいと、壁際へと後ずさる中、グループの一人のである眼帯の男は、ゼットを観察し、頬を緩める。
「へっへっへっ……今日はLvも異常数じゃねェみたいだし、数で勝る分、楽に捕らえれそうだな」
 そうだ。ゼットは、魔力を温存しなければいけない分、本来の強さが発揮できない。
 なら、私が、今やるべき事は、ゼットのサポートだ!
「ゼット! 身を低くしてッ!」
 私はクインスコーピオを呼び出すと、その場にいたプレイヤー全員に向けて、炸裂型のパラライズ弾を乱射した。
 不意打ちの弾丸は爆散しながらも、酒場にいたプレイヤーたちほぼ全員に直撃し、十二人のプレイヤーたちはもちろん、NPCから関係のないプレイヤーたちまでをも、一時的にマヒさせる。
「なっ!?」
「ぐあっ……う、うごけんッ!」
「今よッ、ゼット! 逃げようッ!」
「ああッ!」
 私はゼットと共に酒場を出ると、荒れ果てた待の中を駆けて抜けていく。
 でも、逃げるってどこへ――――?
 追っ手を撒いたところで、この街にゼットが出現したって噂は、ネット上に一瞬で広がってしまう。そうなれば、この街は、企業関係者に警戒対象にされ、私たちが『バエルの塔』で魔法陣の核を探すのは、ほぼ不可能になってしまう。
 それに、お父さんたちによる解析のタイムリミットもが―――――――
 ああ、そうか。もう、泣いても笑っても行く先は一つしかないんだ。
 私は走りながら、ゼットに向けて、決意と共に口を開く。
「……今から、バエルの塔に行こう! 私がメリアにも連絡しておくから、逃げながら、ゼットの言う魔法陣の核を探そうッ!」


 同時刻――――――
 眠らない街、東京の中央区に存在するガラス張りのビルの一室のオフィス内。
 深夜だというのに、煌々と明かりの灯るその場所には、無数のパソコンと共に、連日徹夜続きの男性社員たちが目の下にクマを作りながらも、仕事に明け暮れていた。
 そして、そこにはケイジの姿も……
 そう。ここは総合ソフトウェア開発会社、MNSのオフィスの一角。
 ケイジは父・維人による命令により、自らの逮捕を見逃してもらう事と引き換えに、自分自身が組んだメイの元・アバター『アルセーヌ・ルパン』の解析を急がされていた。
 だが、それはあくまで表面上の事。
 実際の所、ケイジは維人に協力するフリをして、徹底的に監視され続ける状況の中、これでもかと言わんばかりに、ダメスタッフを演じ、周囲の足をわざと引っ張り続けていた。
「あ~、疲れたなぁ~! おっと、危ないっ!」
「うわあああッ! 坊ちゃんが、私のノートにコーヒをッ!」
「あはは。ごめんね、田村さん。オレあんまり寝てないから、足元フラフラしちゃって……うわっ、何かに躓いちゃった!」
「おおおおおおッ!? 坊ちゃんの手がキーボードに当たって、データが消えたッ!!」
 と、かなりコテコテな物理工作までに手を出している模様。
 本来のスペックを隠しているのバレないように、時には適度に命令通りに動いていているのだが、外界からの情報がシャットアウトされた状態でカンズメにされた上で、解析が進むにつれ、ケイジの妨害工作は、手段を選ばす、どんどんと露骨になっていく。
 今のケイジは、MNSからすれば、まさに『獅子身中の虫』。
 そんなケイジを見かね、同室でドリンク片手にキーボードを叩いていた維人は勢いよく立ち上がると、
「ケイジッ! ちょっと来いッ!」
 ケイジの手を引き、人気が無い喫煙室へと連れて行く。
 狭い喫煙室の中、維人は出入り口の白いドアのロックをかけ終えると、
「お前は、そんなに父さんのしている事が気に食わないのかッ!? ゼットを確保してほしいとの、命令は、お国からの極秘裏の通達なんだぞッ!?」
 と、怒りの色を露わにする。
 これに対し、ケイジは、実に涼しげな顔で、
「で、やろうとしている事は軍事利用でしょう?」
「……恐らくはそうだな。だが、成功した暁には莫大な報酬と共に、睦月家は国家との太いパイプを得ることになる。これからお前やメイが大人になって、一人前の大人として社会にはばたくとき、そのパイプはお前たちを確実に上への立場と押し上げ、ゆくゆくは子、孫が出来たとしても、私たちの生活は何世代をも跨ぎ、より豊かに、より裕福に暮らしていけるというのに、何でこれが分からん?」
 維人は心から苦悩しているかのような表情を浮かべる。
 維人の考えは、人間の社会的なステータスや金銭都合を考えれば、確かに間違った事は言っていない。
 この考えの中で、犠牲になるのはゼットただ一人だし、そもそもが維人にとってゼットは人ではなく、ただのプログラムに過ぎないのだ。
 ケイジはネクタイを緩め、やれやれと息を吐く。
「じゃあ、もしさ。父さんはオレや、田中さんたちスタッフがゼットになったら、やっぱり捕まえて、国に売り渡すのかい?」
「……? どういう意味だ?」
「だからさ、仮に、もしもだよ。オレの身体が何らかの都合で電子化されてしまって、AWの迷い込んで利用できそうな力を備えてたら、父さんはオレの人権なんて無視して、捕まえて国に売るのかいって聞いているんだよ」
 維人は、ケイジの言葉について考え、具体的なイメージを持った後に、
「……いや、流石にそんなメルヘンな事があったら、父さんはお前を助けるを探すよ」
「なら、ソレがスタッフの田中さんや近藤さん。購買の小野寺さんでもいいし、近所の小川さんでもいい。とにかく相手が身内じゃないにしろ『人』だったらどうするのさ?」
 維人は顎に手を当て、再び考える。
「それならば……う~ん……やはり、人間として助けねばならないだろう? 確かに我々にとって、今回のビジネスは最重要なものだが、人身御供をしてまで儲けるのは、父さんは正しいとは思ってないぞ」
「なら、ゼットから、今すぐ手を引きなよ。アレは勝手に生まれた自走性のプラグラムなんかじゃい。石を持って、どこかの世界から迷い込んだ人間だ」
「……いきなり何を。ちゃんとしたデータでもあるのか?」
 維人は、胸ポケットから煙草を取り出すと、口にくわえ火をつける。
 その表情はいかにもケイジの言う事が、胡散臭いと言った顔をしている。
「データというか、オレはゼットと付き合っていたけど、アイツは間違いなくプログラムなんかじゃない。道徳観があったり、笑ったり、怒ったり、人を好きになったりもする。近年のAIは進化しているから、それと似たような事は確かに出来るかもしれないよ? でもさ、アイツそうじゃない、もっと強い生の感情を持って生きている! ゼットはさ、他人を想い図って行動できる人間なんだ!」
「……下らん理屈だな」
 勢いを増していく言葉を耳にしながらも、維人は煙草を深く吸い込み、煙を吐き出す。
 煙草の煙は、デスクと一体化した換気装置に吸い込まれ、天に上る事はなく落ちていった。
「なぁ、ケイジ。お前も、もう少し大人に――――」
 維人が、言葉を吐こうとした刹那、ケイジは維人に接近すると手を開き、大きく振りかぶった。
「ッ!!」
 子が親を叩く。ちぐはぐな現実に維人が混乱する中、ケイジは維人の胸倉を掴む。
「聞け、父さんッ! ゼットはさ、メイを立ち直らせてくれたんだぞッ!」
「グッ! お前、まさかメイまで巻き込んで……」
「メイは、母さんが死んでから、自分の足で立つことを止めていた! でもそれは、オレたちのせいでもあったんだよ! オレは情けないヤツだから、努力してがむしゃらに頑張って前に進むしか、母さんの死を忘れる方法はなかったし、父さんは父さんで、母さんが亡くなったって相変わらず仕事ばっかりしていた! この三年間、オレも父さんも家族だってのに、誰もメイを見てやらなかったじゃないか!」
「ぐぐっ……私は、見ていたぞ! 母さんが死んでから、メイに不自由な思いだけはさせまいと、与えるものは全て与え、私の死後も財をより多く残してやろうと、身を粉にして働いて来たッ! いつまでも、幼い考えのお前とは違うッ!」
「じゃあ、オレたちが子供の頃、父さんが家に帰ってこないのが、どんなに辛かったか知っているのかッ?」
「それは……」
「言わせてもらうが、父さんは愛情を履き違えている! お金や地位で、人の心までは抱きしめられないだろッ! だけどッ、ゼットは馬鹿をしてきたオレたちに代わって、メイをちゃんと見ていてくれたんだよッ!」
 未だ荒ぶる息の中、ケイジは言いたいことを言い終えると、維人から手を放した。
 維人は、ケイジとは目を合わせられず、壁へともたれ掛かる。
「私は、私が正しいと思う事をしてきたつもりだったぞ……」
「知ってるよ……お金の面で父さんを悪く思った事なんて一度もない……だけどオレたちは、母さんや家政婦に何もかも任せきりにしたりせず、お金や地位なんかより、父さんに傍に居てほしかっただけだ……」
 ケイジは、表面上には出さないが、いつもすれ違い続ける維人に対して、何も思っていなかったわけではない。
 どれだけ才能あふれる人間であろうとも、心の中にあるのは、やはり愛情への渇望。
 だからこそ、ケイジは前に一度ゼットに言われた通り、他人に踏み込まない自分を変えてでも、維人へと強く自らの想いを伝える事にしたのだ。
 維人は、眼鏡を正すと、息を飲み込んだ後に、
「……私は、つい少し前に、自宅に戻って来たメイに会ったよ。その時は、杖を使ってでも歩けるようになったのかと、随分と都合よく喜んだものだ。だが、私は、考えてみれば、お金を与えたり、看護師に任せきりで、メイに何もしてやらなかったのに、喜び舞い上がっていたのだな」
「オレだってそうだよ。引くとこ引いちゃうタイプだから、ゼットみたいに、後先考えず他人にズケズケ踏み込んだり出来なかった」
「そうか……ところで、本当なんだろうな? ゼットが人間で、メイを立ち直らせてくれたというのは」
 維人はやっとケイジの話を聞く気になったのか、壁から背を放すとケイジの目を見据えた。
「本当だよ。頭に『別世界の』ってのが付く上に、記憶は無くしているけど……でも、もし、父さんがゼットを追わなくなら、違う意味で父さんは苦労する事になるかもね」
「……どういう事だ?」
 意味がさっぱり分からないという維人に対し、ケイジは半笑いで、
「だって、ゼットが記憶を取り戻したら、メイの初彼氏は人間になったゼットになる可能性さえあるんだよ? そしたら……ははっ。父さんは絶対に妬くでしょ?」
「なァにぃッ~ッ! よりによってゼットがかァッ!?」
「あはは! オレはゼットだったら歓迎するけどね」
 父としての嫉妬の雄たけびを上げる維人と、知的好奇心からケラケラと笑うケイジ。
 二人は再び目を合わせると、身体から力を抜き、
「はぁ……ならば、娘の恩人に、縄は打てんな」
「……ありがとう、父さん。」
 一応の休戦協定を結んだ。
 しかし、その刹那。喫煙室のドアが外側から強くノックされる。
 維人がドアを開けると、そこには顔を真っ青にした男性スタッフが、待ち構えていた。
「……何事だ?」
「大変ですッ! ゼットが……ゼットが『東の果ての街・ソドム』で見つかって、他企業の雇われプレイヤーたち、延べ200人以上に追われていますッ!」
 この発言に、ケイジと維人は顔を見合わせると、
「……父さん」
「仕方あるまい。娘の恩人の顔……見に行かねばならんしな!」
 スタッフと共に、AWへとログインする事が出来るテストプレイ室へと駆け出していく。
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