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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 プログラムに支配されるオートマチック型の車椅子に乗り、道中、電車にも揺られながら、私とリュックの中のゼットは無事、3階建ての一応豪邸な我が家――睦月家へとたどり着いた。
 さて、無駄に広い庭に、車椅子を停めっと!
 私は、鞄の中から、折り畳み式の松葉杖を取り出すと、チャコールグレーの金属部分をにゅッと伸ばし、ソレを支えに立ち上がる。
 その姿は、多少フラフラではあったが、それでも、少し前まで歩けなかった私にとっては、誇らしさの塊だ。
「んッ――えへへ。見てよゼット、あなたのお陰で、何とかここまで立てるようになったよ」
『話しかけるなというに。それに、俺はリュックの中だし見えんぞ』
 それはごもっともでした。てへッ――――
 心の中でそう言いながらも、私は指紋・網膜認証の扉を開け、3年ぶりの我が家へと帰還した。
「……ただいま」
 誰に届くわけでもなく、無人の家に挨拶をしてみる。
 ――――こうしている間にもルパンの解析は進んでいる。お父さんと会社の人たちが、ケイジの予測期間を上回り、ルパンの解析終えてしまうケースだって十分にあり得るのだ。
「よし!」
 私は気合いを入れると、ゴムのグリップを握り込みながら、松葉杖をつき廊下を歩き始めた。
 ルパンの時だったら、気にも留めない範囲での移動だったが、今の私にとっては、久々の自宅は、まさにダンジョン級の冒険だとも言える。
 廊下を越えて、次は階段。いっち、に、いっち、に――――――……
 ふぅ。中腹の7段目で休憩!
 やば! テンション上がってきて、ルパンで冒険してるよりもハードモードで、なんだか現実楽しいかもしれない!
 私は汗を垂れ流しながらも、頬を緩めた。
 続き、階段を上り切ると、二階の私の部屋へと向かった。
 久しぶりに見る私の部屋のドアには、いつの秘かお母さんが作ってくれた『メイの部屋』と書かれた木製のプレートが張りつけられていた。
「…………」
 私は笑顔で、プレートに感謝の一礼をすると、ドアを開き中へと入る。
 扉を開くと、中一の頃と変わらない、ぬいぐるみだらけの部屋が目に映った。
「う~ん……」
 しかし、ケイジめ。私の部屋の机の中に、パソコンを置いたって事は、私の部屋を物色した可能性があるという事で―――――
 掃除をしてくれたのはありがたいけど、そこだけは、なんか気に食わない。
 まぁ……お父さんは何があっても、私の部屋には一人じゃ入らなさそうだし、大事なものの隠し場所にしたら妥当なところなのかな。
 私は、勉強机の中からケイジのノートパソコンを取り出すと、リュックの中へと入れた。
 少しだけ歩けるようになったとはいえ、病院生活はもうしばらく続きそうだし、漫画でも数冊持って帰ろうかな~。
 電子書籍もいいけど、紙媒体の本って何か好きだし。
 私が、漫画の単行本をリュックへと詰めていると、階段から凄い勢いで駆け上って来る足音が聞こえてきた。
 泥棒……それとも強盗!?
 ……いや、違う。
 この家はまず泥棒が入れるレベルのセキュリティになっていない。
 だとすれば想像できる相手は――――
『何だ……敵襲か――――ムブッ!』
 私は、リュックの中から出てこようとしたゼットを、漫画の重みで押し込んだ。
 だって足音の招待は間違いなく、お父さんだから……
 数秒後、予測通りと言うべきか、私の部屋のドアが強く開かれた。
「メイッ! 歩けるようになったのかッ!?」
 お父さんの驚く様はすさまじく、まるで、探し求めていた伝説の剣が、目の前に生えてきたかのよう。
 だけど、私の心は驚いてはいるものの、相変わらずの塩対応。
 ――――悪いけど言い訳して、さっさと帰ろう。
 今はゼットも居るし、パソコンの事も気づかれる訳にはいかない。
「あ……うん! だから、訓練がてら家に戻ってみて、ついでに漫画を取りに来たの! リ、リハビリももっとしっかりしたいし、もうちょっとだけ病院には居たいんだけど……」
「ああ、社会復帰のためなら構わんッ! それより、お父さんは嬉しいぞぉッ! 足が全快したら、是非時間を取って、お祝いにお寿司を一緒に食べようか!」
「そうだね。でも、お父さんはどうしてここに?」
 私がそう言うと、お父さんは苦虫を噛み潰した様な表情へと変わる。
「ケイジだよ……はぁ……アイツめ。徹底した監視体制の元仕事をさせているんだが、枕がいつものじゃないと仮眠がままならず仕事が出来ないだの、キーボードが気に入らないからタイピングが上手くいかないだのと言って、ルパンの解析をのらりくらりと引き延ばしおって……だから、ケイジに言い訳ために、私が身の回りの物を取りに来たという訳さ」
 なるほど……ケイジはケイジで頑張ってくれてるのか。
 にしても、ダメな人のふりをするケイジを、ちょっとだけ見てみたいと思うのも、妹の出来心というヤツなのかも。
「ふふ、そっか。お兄ちゃんもダメな奴だね」
 私は、お父さんに笑みを浮かべると、松葉杖をつき、すれ違うように部屋の外に出て行こうとする。
 ここで、普通のお父さんなら『病院まで送ってやろうか?』とか『折角だしもっと話さないか?』なんて言ってくれるのかもしれない。
 だけど、私のお父さんは、
「ははっ、もう行くのか? じゃあ、メイ。無事社会に戻れるよう、リハビリを頑張るんだぞ」
 と、気にかけてほしい部分ではないセリフを吐いてしまうのだ。
 今になって思うのだが、お父さんは仕事人間としては、休みなく働く凄い社長さんだけど、もしかしたら、人間のとしての事だけは、少し苦手な人だったのかもしれない。
 私は、お母さんが昔、私に見せてくれたような慈しみの笑みを、お父さんへと向けた。
「ありがとう。でもね。お父さんもケイジの事、あまり叱りすぎないであげてね」
 私はそう言い残すと、階段へと移動し、お尻を床に下ろしながら、一段一段慎重に下っていく。
 お父さんが、やはり私を追ってくることはなく、ケイジの部屋から物を漁る音が聞えてくるのみだった。


 その日の夜、病院の個室にて――――――
『分かった! じゃあ私は、アンタが新しいデータでどこからスタートしても落ち合えるように、『中央都市フェルメキア』の広場で待機しておくよ』
「ありがとう、桜子ちゃん」
 電話を使い、桜子ちゃんとのやり取りを終えた私は、有線ネットに繋がれたケイジのノートパソコンに、VR機器のコネクタを差し込んだ。
 ヘッドセットを被る前に、私は、首に釣るしておいたゼットへと声をかける。
「AW、久しぶりだね。お兄ちゃんの用意したデータってどんなのかな?」
『さぁな。にしても、俺にまでプレイヤーとしての身体を用意するなんて、ケイジは気を利かせすぎなんじゃないのか?』
「それがケイジのいい所なんだよ――――さ、準備も出来たし行こうか!」
『ああ』
 私は操作端末を弄り、メニュー画面よりAWを起動した。
 ヘッドセットにより発生したパルスにより、私の五感はゆっくりとAWとシンクロしていく。
 ロード画面が終わり、私の視界がAWの世界を捉えると、そこは初めて会ったゼットを連れて帰ったルパンの隠れ家――『王都メルデット』のスラム街のボロ民家の一つだった。
「あれ……?」
 なんだか、身体に妙な違和感がある。
 手足が短かったり、胸に重さがあったり、これじゃまるで――――
 西部劇風味の部屋に備え付けられている立て鏡を見ると、そこには、現実の睦月メイを銀髪にしただけの、私によく似たアバターの姿が映った。
「ふふっ……まったく、ケイジめ……」
 ゼットが散々言ってた私似の女キャラ、結局作っちゃたんだ。
 名前もメイになっているし、これじゃあ、もうルパンは演じられないな。
 一人でニヤニヤしていると、私の後ろから声がかかる。
 声をかけたのは当然、ゼット―――――
「まァったく……緊急時の奥の手だってのに、俺やメイによく似せたアバターじゃ、いつ親父さんにバレるか分かんねェだろうに」
 ゼットの姿も人型形態と同じだが、ステータスが通常値で確認出来る事から、ケイジは、ゲーム内アバターにただ無理矢理乗っかれるだけのシステムを用意したらしい。
 唯一の差異と言えば、ぼろきれのような黒マントと、同色の大剣を背負っている事ぐらい。
 でも、どちらにせよ、ゼットは私の好きな姿をしている。
「いいじゃん。ゼットはもしかしたら元の世界に帰っちゃうかもだし、これが、もしかしたら、プレイヤー同士としては、最初で最後の冒険かもしれない。だから、出来るだけ、本当に近い姿で思い出を作りたいもん」
「メイ……お前……」
「えへへ……もし、そうじゃなかったら私には万々歳ってだけだしね♪」
 私はゼットに向けて、思いっきり笑みを浮かべた。
 今この瞬間の私の笑みが、ゼットの心に出来るだけ残りますように――そう願いを込めて。
 ゼットは息を吐くと、頬を緩め、私を抱きしめてくれた。
 そして、今まで聞いたことにない、優しい言葉で――――
「……ありがとうな。俺が出会った相手が、お前で、本当に良かったよ」
「私こそ……ゼットと会えて、本当に……本当に良かった……」
 私はリアルの身体で、切なさの塊でもある、嬉し涙をこぼしてしまう。
 誰も居ない世界の中、AW内の私たちは、自然と唇を重ねていた。 
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