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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 時は流れ午後一時。
 唐突だけど、私のステータスオープン!
――――――――――
【名前】 睦月むつき メイ
【職業】 学生(通信)
【性別】 黒髪セミロングの自称・可愛い女の子!
【HP】 少女の為極めて低し!
【MP】 現実にそんなものはない!
【以下各種ステ値】 すべて微妙! 胸は多少あるけど、彼氏とか居ないし意味がない!
【付属バステ】 足に異常はないらしいが、歩けません!
――――――――――
「はぁ……考えただけで、自分が嫌になって来るぅ……」
 東京の夏葉丘なつばおか総合病院に設けられた個室。
 そのベッドの上で、パジャマ姿の私は大きなため息をついた。
 家がお金持ちなせいか、相部屋じゃないのは気楽でいいが、足が動かなくなってからというもの友達もおらず、家族もほとんど面会に来ない。
 そのせいもあってか、この部屋は寂しくて仕方がない。
 しかし、今日からしばらくの間だけは別。
 なぜなら、海外留学していたケイジが、父さんに呼び出され仕事の手伝いを兼ね、長期間帰国する事になったからだ。
 ちなみに件のケイジはと言うと、さわやかなイケメンスマイルを浮かべながら、ベッドのすぐ近くの椅子に腰かけ、梨を剥いている。
 しばらくして、ケイジの手により綺麗に向かれた梨が、紙皿と共に私の手元へと届く。
「……で、メイ。ルパンとしての生活はどうなのかな?」
「まぁまぁ」
「じゃあ、クインスコーピオの調子は?」
「もぐもぐ……それも、まぁまぁ」
 私の返事は、極めてそっけないもの。
 ――というのも、以前よりさらに完璧人間になってしまったケイジと、今の何も出来ない私を、つい比較してしうから。
 現在、ケイジは年齢二十歳にして、アメリカのよく分からない凄い大学で飛び級をしており、さらには、本人曰くバイトでAWの調整スタッフを兼ねていたりもする。
 それでいて、見た目は派手じゃない程度にピアスをあけたり、髪の色を少し抜いたりと、おしゃれにも気を使い、挙句、私たちを散々気に留めずにいたお父さんにも、必要とされているのだから、私にしてみれば、ケイジはまさに雲の上の存在である。
 まぁ……久しぶりに会う妹に対して、足を心配するより先にAWの事を聞く……なんてズレた発想を持っている人物でもあるけど。
「メイ……なんで、オレの事、ジト目で見てるの?」
「ん~……気にしないでお兄ちゃん」
「まぁ、いいけど……」
 ケイジはそう言うと、あらかじめ買ってきていたポカリの缶を開け、口へと添えた。
 同時に、窓のカーテンが、夏の風を受けふわりと揺れる。
 爽やかな情景の中だというのに、私は『気にしないで』と言ったにもかかわらず、ケイジとの久しぶりの再開に、甘えからかつい小言を吐いてしまう。
「……でも、久しぶりに会う妹に、いきなりVRの事を聞くなんてのもどうかと思うよ」
「うん?」
「もっと他に聞く事あるんじゃないの? 足の調子とか、病院での生活はどうか、とか」
 言葉の後、私は頬を膨らせた。
 子供っぽい仕草になってしまったのは、けして意図したからではなく、私の中に、まだまだ幼さが残っているからだろう。
 ケイジは、私の幼ささえ受け止めるように、にこりと笑い、
「メイの足は、オレが気にしなくても必ず治るから、過剰に気を使っても仕方ないだろう? 足や腰に、何か異常がある訳じゃないんだから……」
 と、私が歩けない本当の理由を、自分だけは知っているかのように言葉を飛ばす。
 ……3年前、事故に巻き込まれたのはケイジもなのに……ずるい。
 お母さんが死んだ事を含めて、まるで何もなかったみたいに平然として振舞って、その上、天才だか何だか知らないけど、普通の人じゃ居れないような立ち位置に辿り着いて、完璧な風貌で私の前へと帰って来た。
 なのに私は、未だ歩けず、エスカレーター入学が決まっていたはずの高校をふいにし、病室で通信のカリキュラムをこなしつつも、リハビリして、後の生活はVR三昧。
 兄妹なのに、私とケイジのこの差は何なのだろう?
 私が、すっかり考え込んでいると、ケイジは微笑んだまま、
「……人には速度がある。早い者も居れば、遅い者も居ていいじゃないか? それにオレは、メイを歩みの遅い人間だと思った事は、片時もないよ」
 澄んだ目をして吐かれたケイジの言葉の意味は、コンプレクスまみれの私には分からない。
 私は人間社会で言えば、出遅れた亀。
 ただでさえ足が遅いというのに、今はこうして動けないでいる。
 だというのに、努力を忘れないウサギとも評せるケイジが、劣等存在な私を、本音でが認めている筈がない。
 私は、そう思ったからこそ黙す事にした。
 今の私は『ルパン』でないのだから、受動的かつ否定的で当然なのだろう。
 だが、ケイジは何を思ったのか、突然に、
「だから、もしかしたら、近日、メイに頼み事をするかもしれない」
「……私に、じゃなくて『ルパンに』じゃないの? また特殊な武器の実装テストとか」
「ははは、5割程度だが、あたりだよ。麗しき妹君」
「……キモッ」
 やっぱり図星だった模様。
 半分は嫌味だったのだが、ケイジは『合理的で話が早い』と言わんばかりに嬉しそう。
 ケイジはまたポカリを飲を口に含むと、
「まぁ、まだ詳しくは話せないけど、オレは今日から当分日本の実家と父さんの会社の往復で、AWでの大きな仕事を受け持つ事になったんだ」
「へぇ……出世?」
「いや、家族の情。でも、その事でメイに相談するかも~……って段階かな?」
「……まさかと思うけど、ルパンのアバターに『クイン・スコーピオ』を仕込んだ時から、そんなこと考えてたって言わないでしょうね? アレ、あくまでゲームバランスを崩さないレベルのモノだけど、強すぎてチート呼ばわりされる時まであるんだから……」
 そう――あの、まるでルパン向けに調整されたかのような拳銃『クインスコーピオ』は、ぶっちゃけてしまうと、ケイジによる職権乱用の果てに実装された、超々レアアイテムだったりするのだ。
 ケイジが実装当初、ルパンのIDに完成品を無理矢理ヒモつけたのとは違い、実際にAW内で入手を狙ったとすると、まず天文的な確率でドロップする素材を4つ集め所から始まる。
 そして、素材合成をし50%の確率で現物完成。
 挙句、強化値MAXの最終パラメーターには20%の強化を×10回が必要で、それらをすべてクリアし、ようやく私が使用しているモノと同じ性能になるといった言語道断設定なのだ。
 ちなみに失敗すれば武器は崩壊し、また1からやり直しという鬼畜極まりない設定である。
「はははっ、大丈夫だって。1週間前、アメリカのネバダ州の廃人プレイヤーが、実装2年目にして素材をついに2個目までゲットしたから! いずれクインが公になる頃には、ある程度数のプレイヤーには行き渡るようになるさ」
「それって何十年後の話よ……変なところで妹想いなんだから……まったく」
 私は、ケイジの微妙な思い遣りに、少しだけニコリと微笑むと、病室に立て掛けられた時計を確認する。
 すると、時刻は13時半――――
 早く着替えてリハビリ室に行かないと、14時時丁度からのリハビリに間に合わなくなってしまう。
「あ、お兄ちゃん。そろそろ、私、着替えてリハビリ室に行かないと……」
「ん? ああ、分かった。じゃあ、オレも父さんの会社に挨拶に行ってくるかな」
「あれ? 勤務、今日からじゃないの?」
「だったら平日の昼間っから、ここに来て居ないって」
 それもそうか。
 私が納得する最中、ケイジは立ち上がると、ビジネス用の手さげ鞄を持ち、出入り口であるドアへと向かっていく。
 そのまま出ていくのかと思いきや、ケイジはこちらへと振り向くと、
「メイ。AWで『ゼット』っていう存在だけには、くれぐれも気を付けるようにな」
「『ゼット』……?」
「うん。ともかくそのワードだけは覚えていて。危険なモノ……そう、一見ゲームキャラのようなバグなんだ」
「ふみゅ……」
 ケイジの様子はというと非常に心配そう。
 恐らく、ルパンがキルされ、AWのデスペナルティを受けて、レベルが大きくダウンしてしまう事を気にしてくれているのだろう。
 ルパンは今Lv4500だし、AWのデスペナは大きいから、キルされたらLv100程の降下を受けてしまう。
 ならば、何にせよ『ゼット』には近づかない事だ。
「じゃあ、万一その『ゼット』ってのを見付けたら、運営サイトか、お兄ちゃんに直接報告すればいいの?」
「いや……もし遭遇したら一目散に逃げて、運営サイトじゃなく、オレに直接教えてよ。まぁ……デリートする前に、個人的に色々と調べたいからさ? ――――じゃ、とにかく、またな!」
「うん。今度はケーキ持って来てね」
「分かった。うんと甘い苺ショートを買って来るよ」
 ケイジは、最後に兄貴らしい笑みを浮かべると、病室を出て行った。
 AWは、バグチェックもかなり厳しいのに、そんな危険なバグが見つかるなんて珍しいなぁ。
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