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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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26

 ゼットが桜子ちゃんを助けた日の夜。
 私は夢を見た。
 夢の中は全てが真っ白な世界で、空も床も、地平線の果てさえもが白で統一されている。
 そんな風景の中、私は独りぼっちで白い床に座り込んでいる。
 辺りを見渡しても誰も居らず、何もない。
 とりあえず叫んで人を呼んでみる事にしよう。
「誰かー! 誰かいませんかー!?」
 う~ん、やっぱり何の反応もない。
 夢というのは、いつも妙に不思議に出来ていて、目が覚めれば『ああ、夢だったか』と自覚出来るのだが、夢を見ている間は、どんなに不思議空間であろうとも、その場所を現実として認知してしまうのだ。
 故に、私は、孤独に駆られ叫び続けた。
「お兄ちゃ~ん! お父さ~ん!」
 家族の名前を呼んでも誰も来ない。
「鈴村さ~ん! メリア~!」
 現実の数少ない知り合いの名前を呼んでも、やはり……
 だったら、私だけの頼りになるヒーローの名前を呼んでしまえ。
 私は大きく息を吸い込むと、
「ゼェェェエェェットッ!!」
 すると、私の10mほど先に、人の姿をしたカッコいい状態でのアイツが現れた。
 ……やっぱり、アンタは頼りになるね。
 私ね、勇気が無いから打ち明けられないけど、ゼットの事好きになって良かったな~って思う。
 あのまま一人でAWしてたら、私はきっと曲がった人間のまんまだったし、ケイジだってゼットに救われた部分もあったし、メリアに至っては、大袈裟かもだけど、命やお母さんまでをも助けられた。
 だから、私は、そんなヒーローみたいなゼットが――――――
 想いが通じたのか、はたまた夢の中だからか、ゼットは、はにかみながら笑うと、こちらへと向けて声を飛ばした。
「早くコッチに来いよ。でないと、置いて行っちまうぞ?」
 アンタの笑顔……私、大好きだな……
「もう、私が歩けないの知ってるでしょう? えへへ……だからその、アンタがこっちにきて、お姫様抱っこなんか――――――」
 私が、頬を赤く染めながら言葉を紡ぎかけた時、後ろからは軽い足音がする。
 その足音は、どう聞いても嬉しさを――うぅん、恋心を抱いた女の子のものだった。
「まったく……一人で先に行き過ぎだよ。迷っちゃったじゃないか……」
「――ッ!?」
 私の隣を見た事もない女の人が通り過ぎていく。
 その人は、ファンタジーの世界の、優雅なお姫様のようであり、勇ましくも可憐な女勇者のようであり、また、純粋無垢な天使のような印象さえ与え、ベビーブルーの長い髪を揺らしながら、ゆっくりとゼットの元へ近寄っていった。
 その人の顔までは、背を見ている状態なので見えないが、こちらを向いているゼットの顔だけは、ひどく鮮明に映ってしまう。
「すまんな。いつも……後先考えないで」
 ゼットの表情は私には見せたことが無いほどに柔らかく、それでいて、その女の人を心から愛しているかのような、そんな優しさに満ちた表情だった。
 気が付けば、私の目からは涙がボロボロと溢れ出す。
 だというのに――――
「気にしなくていいよ。キミのそういう所は、理解しているから……」
「ありがとな。そう言う所も含めて、お前と居るとやっぱり安心できる」
「バカ……都合のいい時だけ誇張して……」
「大切な言葉なんて、数多く言うもんじゃないだろ? そういうもんさ」
 ……いやだ。いやだ、いやだ、いやだッ!
 その人だけに、そんな笑顔を向けないで……
 私の事も見てよ、ゼット!


 午前9時――――
 夏の陽ざしが、病室の窓から差し込む中、私はというとベッドの上で、ゼットと共に、例の乙女向け小説『天使と悪魔』の第二巻を一緒に読んでいてた。
『次のページ』
「……ほい」
 胸元に収まるゼットが指示を出し、私がページをめくるといった役割分担の中、頭の中を駆け巡るのは、今朝の気分の悪い夢の事――――
 ゼットは謎の女の人とイチャイチャするし、私は私で、夢の中とは言え失恋するし、超気に食わない!
 しかも、この本の主人公とヒロインが、ゼットとあの女の人に見えてくるし、最悪。
 10時ごろには桜子ちゃんが遊びに来るのに、気が重いままじゃ笑顔で迎えにくいなぁ……はぁ。
『メイ、次のページだ。早く』
「えっ……あ、え?」
『……もういい。自分でめくる』
 ゼットは惚けていた私を差し置き、風の魔法を仕様すると、器用にもページを1枚だけめくった。
 しかし、数秒後――――
『ぬぅッ!? ……はぁ。この本の作者と出版社はアホなのか?』
 ゼットは、驚きの声を上げた後、いきなり作家と出版社の批判を始める始末。
「え~、なんでなんで?」
『お前……まさか、途中からぼ~っとしているなとは思ったが、読んでいないのか?』
「あはは……ごめん。ちょっと考え事してて…………うん! 今から読むから!」
 私が、慌ててページに目を通すと、神様に恋仲を引き裂かれた悪魔の男の子は、怒って神様にケンカを売るも敗北――そのまま失恋し、悲恋のままラストを迎えると言った何とも言えない結末になっていた。
「うわ……たしかに、これ酷いわ。編集さんとか、ストップかけなかったのかな?」
『知らん。続刊狙いか、はたまた打ち切りか……何にせよ気分が悪い。が――メイ。お前はお前で、なんで頬を緩めて嬉しそうにしてるんだ? 登場人物の気持ちは察っせッ、このスカタン!』
「えッ!? ええッ!?」
 私はあわてて自分の顔へと手を添える。
 すると、ゼットの言った通りに、私の頬は確かに緩んでいた。
 あ~……やっぱり、あの夢とシンクロさせたことが効いちゃってたんだなぁ……
 私が、もしこの作家なら、続編は是非是非、人間の女の子を新ヒロインにして、悪魔の主人公と恋愛関係になるとか、そんな展開なんていいか~って。
 だが、気分の悪さがマシになった私とは違い、不機嫌そうなゼットはと言うと、
『ていッ!!』
 風の魔法で『天使と悪魔』の第二巻をビリビリに破いてしまう。
「あ~ッ!! せっかく買ったのに勿体ない!」
『構わん! この小説は、初めから一巻だけだった。俺の中ではそうしておく!』
 それでも、破く事は無いと思うんだけど。
 もしかしたら、ゼットも無意識のうちに自分と、あの女の人を『天使と悪魔』に重ねて、記憶のないままに、追いかけいたとか。
 あはは……まさかね。あの女の人は私の妄想の産物だ――そうに決まっている。
 ……本格的に不安にならない内に、桜子ちゃんを迎える準備でも始めておこう。
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