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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 それからしばらくして、病院へと帰って来たゼットは、WEBカメラに黒い羽根を生やした姿で、枕元にちょこんと居座ると、こちらへと声を飛ばす。
『すまん。泣かせたようだな』
 私は、少し赤みが帯びた目をゼットへと向けることなく、
「泣いてなんかいないさ! 僕は強い、あんな暴力男の手からメリア一人救うぐらいきっと容易い!」
 まるでルパンを演じている時のように、そう言葉を吐いた。
 背伸びをした上での強がり。
 未だ、少しだけぐずる私の声を聴いたゼットは、
『アホ。――――が、今のお前は勇気ある心正しきアホだ。悪いがその調子で、俺のワガママであの少女を救う事を手伝ってくれるとありがたい』
「……いいわよ。相手は曲がりなりにもAW内の知り合いだし、ゼットがやろうとしている事は、人間として間違っていない事だと信じてるから――――って! でも、具体的にどうするの? 仮にあの男の人が、メリアのお母さんの再婚相手だったり、彼氏だったりしたとして、その手の身内の暴力って、現行犯以外は警察も動きにくいって聞いた事あるよ?」
『ふっ……任せておけ、俺に名案がある』
 ゼットは勿体ぶったような言い方をすると、少しの間を置き、
『ズバリ! それはケイジを呼ぶッ!』
「散々行動起こしておいて、最後はそれかいッ!」
 うぅ……思わずツッコンでしまった。
 でも、たしかにそうよね。私とゼットじゃ行動の範囲は限られてるし、あの天才兄貴ことケイジはこんな時、誰よりも役に立ってくれるかもしれない。
 私はスマホを、近くの机から手繰り寄せると、手に取りケイジへと電話を掛けた。
『トゥルルルルル……トゥルルルルル……』
 ぬぅ……いつもは4コール以内に出やがる気遣いの人の癖に、今日は中々出ないぞ、ケイジめ。
『トゥルルル……――もしもし、メイか? 丁度いい、ちょっと色々説明させてくれ!』
 8コール目には出たが、ゲイジはどうやら電話の向こうで切羽詰まっている様子らしい。
 相手が強く出て来たならば、引っ込んじゃうのも私の性格の悪い所で……
「な……どうしたのよ? 私も重要な用事があったのに……」
『あぁ……すまん! とにかく、オレはその用事は多分引き受けられない。実はな、今日からオレ、MNSに二、三日カンヅメ状態で動けないんだ!』
「えッ、マジッ!?」
『マジだよ……あとメイ、昨日ゼット人の姿に戻ったろ? 今はもう改ざんしたからいいけど、ソレがログに残って、ゼットが急に反応を無くした理由が、どこかのプレイヤーに憑りついているんじゃないか……って社のチームが考え始めたんだ。で、その憑りつき先の容疑のあるプレイヤーの中にルパンも入っちまってる。オレはそれを誤魔化すために、オレ自身のアリバイ作りと、ルパンのデータへの細工を、調査の間中、リアルタイムで行い続ける必要がある。だから、何の頼みかは知らないが、すまん! ――ッ、父さんが来たから切るぞ。またな!』
 そうして電話はすっぱりと切られてしまう。
 ゼットは、私とケイジの会話が聞こえていたのか、視線をこちらへと向けると、
『やれやれ……こんな時こそ最強の召喚獣だと思っていたのだが、仕方ない。メイ、お前、明日外出の許可を取れ』
「え~ッ!?」
 ゼットの命令に、私は驚きの声を上げた。
 理由はと言うと、私は、ここ三年ほど一人で外に出たことが無い。
 外出の許可は、病院側に申請すれば即日で取れるし、私の車椅子はコンピューター制御型なので外に出ようと思えば、今まででも出来たのだが、私はソレをしなかった人間なのだ。
 足が動かない事を理由に、病院の個室でふさぎ込んだり、VRに明け暮れたり、とにかくある種のひきこもりと何ら変わらない生活をずっと続けていた。
 でも、桜子ちゃんの身が危ないも、また事実――――
 頑張れ……私。
 ここで首を縦に振らなきゃ絶対に後悔する。
 私はケイジにもルパンにも、ゼットにもなれないけど、私は桜子ちゃんを、悪い大人から助けるって決めたんだ。
 私はゼットを強く見つめると、なけなしの勇気を振り絞って、首を盾へと振った。
「うん! 分かった! その代わり、ゼットも色々作戦考えてよ?」
『良かろう、任されてやる』
 本来ならば、これで一旦の話は終わりになるハズだったのだが、ゼットは次なる言葉を述べた。
『……しかし、助かるぞ。俺はこれからしばらくの間、なるべく力を抑え、魔力を蓄え続けたいのでな』
「それって、もしかして、アンタが見てた『バエルの塔』と何か関係があるの?」
『ああ……おぼろげで確証までには至らんが……な。兎角、その話は桜子の一件が終わってからにしよう』
「分かった、信じてるわよ。アンタの事!」
『ふ、お前こそ。俺の足の代わり、期待しているぞ』


 翌日の午後一時。
 外出の申請を終えた私は、ゼットであるWEBカメラを首からぶら下げ、車椅子に座りながらではあったが、自分自身の意思で三年ぶりに外へと出た。
 夏場丘総合病院の出入り口の自動ドアを抜けると、エアコンの風が常に吹いていの個室では、味わえないようなカラッとした暑さが、私の身体へと襲い掛かる。
「あっつ……めっちゃ久しぶりに外出ると、今が夏だって思い出しちゃうわ……」
『でも、それも良かろう。狭い部屋に引き籠ってVR漬けでは、体が腐るぞ』
「へへっ、そうだね。じゃあ、あんたの案内に従って行くから、桜子ちゃんの家まで案内してよ」
『うむ。では、まず、病院を出て右折――――』
 私はゼットの案内に従いながら、街中をゆっくりと車椅子で進んでいく。
 久しぶりに見る街には、新しいケーキ屋が出来たり、三年前あったはずのコンビニがつぶれて駐車場になっていたりと、それぞれに変化を遂げ、私という存在が社会に居なくても、時間が動いている事を教えてくれた。
 挙句――――
「げっ!?」
 しばらく進んだ後、私はスーパーの駐輪場にいた同年代の男女のカップルをみて、思わず道を引き返してしまう。
 ……あれ、昔の友達の綾香だ。
 まさか、彼氏が出来ていようとは……先こされた感が凄くて、何だかヘコむぅ……
「はぁ……」
『どうした? この施設を越えて、しばらく真っすぐだぞ?』
 ゼットには、私がなぜ苦悩しているのか分からないといった様子。
 ここはゼットに説明するついでに、愚痴でも吐いて楽になろう。
「いやね……昔の友達がそこに居て、彼氏を作っていたの。なんか先越されたような気分だし、私、三年もの間病院に居たきりで、リハビリも中途半端で何してたんだろうな~……って。あはは……」
 口から漏れてしまった笑いは、実に乾いていた。
 AWの中ではルパンは超人でも、やはり、それらは現実での成功体験ではないし、綾香に劣等感を感じてしまうのも、自分のせいとは言え、仕方がない事に思えたから。
 だというのに、ゼットは、
『なんだ。お前は自分が過ごした時間を無駄だと思っているのか?』
「ん~……ちょっとだけ。だって……VR漬けだったし……」
『ふむ……では、俺と出会った時間も無駄だったか?』
「いや、そんなことはないッ! ゼットと会えで、色々教えてもらって私、今、これでも幸せだよ?」
『だったら無駄じゃないだろ。お前は、お前だけしか体験できない時間を過ごしてきたから、今、俺とこうして共に居る。……胸を張ったらどうだ? お前と同じ十五歳の少女が頑張ったとしても、誰もがルパンになれるわけじゃない』
 ――そうだ。きっとゼットの言う通りだ。
 ならば、私は何を悩んでいたのだろう。
 綾香には彼氏がいるけど、私の最高のパートナーであるゼットは居ない。
 それに、きっと、私でないとゼットは助けられないし、今みたいに、色々教えてくれるゼットが私は好きだ。
「……ありがと。アンタ、やっぱり最高だわ」
 私はゼットをぎゅっと抱きしめた後、車椅子の操作パネルへと指を添え前へと進んでいく。
 綾香たちが隣を通り過ぎていく私に、気が付いたかどうかは分からない。
 でも、声をかけられなかったって事は、私と綾香の道はそれぞれ別の場所へと向かっているだけであり、いちいち気にする事ではないのだ。
 私は、私にしか歩けない道を今、ゼットと共に歩いている。
 ――――それでいいんだ。
『よし、その角を右へ』
「は~い!」
 車椅子は私たちを乗せて、ゆっくりとではあるが前へ前へと進んでいく。
 AW内のケンカ友達、メリア――綾瀬桜子ちゃんが住む、隣町へと向って……
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