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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 現実世界では夕刻過ぎ――――
 メイやゼットがログインしていなくとも、AWの世界は数多のプレイヤーたちの冒険により彩られ、その数だけ新たなドラマも生まれている。
 そんなAW世界の大規模騎士団ギルド『ブルー・ソード』の本拠地――西洋中世を再現した古城・レムハウル城の内部では、銀の鎧を着た騎士たちを相手に、金髪ツインテールのロリータメイドが感情を荒げながら叫びを上げていた。
「どォいうことよッ! ルパンにかけた賞金を解除するなんて、ありえないッ!」
「メリアさん、落ち着いてくださいよ! 団長が全て決めた事なんです!」
 金髪のロリータメイドこと、かつてのルパンのストーカー兼ライバルだった少女――メリアは、騎士の内の一人にたしなめられるが、それでも叫ぶことをやめようとしない。
 石造りの古城の一室には、またもメリアの甲高い声が響く。
「でもッ! そんなの納得いかないじゃないッ! アナタたち『ブルー・ソード』は三度もルパンに痛い目に遭わされて、クランバトルで勝ちとったアイテムを無理やり奪われ破棄されたのよッ!? だってのに、ルパンが何かの気まぐれか知らないけど、返却活動を始めたからって、手の平返して最多賞金からの、報酬撤廃への切り替えなんてありえなくない!?」
「でも、ですねぇ……」
「たしかに、クランバトルのアイテムの件は腹立たしいが、団長の一声があったしなぁ……」
 煮え切らない態度の鎧騎士たちに、メリアは怒りながら、遂に地団太を踏み始める。
「あ~もうッ! だったら、団長を呼びなさいよッ! 今すぐ、ここにッ!」
「いえ……団長はまだログインして居なくて……」
「あにを~ッ!?」
「「「ひっ!?」」」
 鎧騎士たちが、メリアの気迫にすっかり縮こまった、まさにその時、僅かに暗い部屋の中央に、ログインを示す緑の光に包まれ、2mを越える強面の蒼い鎧の重騎士が現れる。
 彼こそが、団員総数約240名のギルド『ブルー・ソード』を束ねる団長――ロイドだ。
 ロイドはログイン早々、やれやれといった雰囲気を放ち、メリアと視線を合わせた。
「……ログイン早々、メンバーでもないお前が、団員相手に甲高い声を張り上げているのはどういう事だ。今、依頼している仕事の依頼はないハズだが?」
「『ないハズだが?』じゃなくてッ! アンタがルパンの賞金打ち切ったから、無くなったんでしょうが!」
「ふむ……そういえば、理由を連絡していなかったな」
「まったくよ! 一体全体、どういう事か顛末を説明してくれないと、納得いかないの!」
 メリアの言葉に、ロイドは皮肉そうな笑みを浮かべ、通路へと続く扉を開けた。
「付いて来い、メリア。目で見せた方が早い」
「…………分かったけど、他の人は払ってよね。無所属の私が、他人様のクランで一番恐れてるって事って、数にものを言わせた騙し討ちなんだから」
「ふ、当然だ。こちらとて、お前に暴れられた際の被害は増やしたくないのでな」
「……フンッ!」
 二人は歪ではあったが了承を出ると、元居た部屋から退出し、レムハウル城の中を歩き始める。
 重い雰囲気の古城の中、すれ違う団員たちの軽い挨拶を受けながら歩んでいくうちに、メリアとロイドは、『会議室』とAW世界言語で書かれた部屋の前へとたどり着いた。
「……ここだ」
 両開きの木製のドアに手を添えるロイドに対し、メリアは唇を尖らせながら、
「え~……ここってたしか、椅子と机以外な~んもない部屋じゃない。ルパンが居るなんて、オチはなさそうだし、入って早々デュエル仕掛けるなんて企んでないでしょうね?」
「残念ながらどちらでもないな……」
 ロイドは、メリアの顔を見ることなくドアを開け放つ。
 机や椅子がほとんどの面積を取る会議室の一番奥には、メリアが見た事もないオブジェクトアイテムとしての青い大剣が、鎖に囲われた状態で、ギルド『ブルー・ソード』の御旗ともに堂々と鎮座していた。
「これは……」
 メリアは青い大剣へと近づくと、アイテムとしてのステータス確認を行う。
 アイテムのステータスには、説明欄、効果、追加付与効果の3点が存在するが、このアイテムは武具ではないため追加付与効果は存在せず、説明欄と効果の二つのみ。
 さらに、メリアに関しては、何処か効率的な部分が混じっているため、運営が過剰演出をしがちな説明欄には興味がなく、見るは効果に関するモノだけだった。
(このアイテムが設置された対象のギルドの攻撃力に0.8%の付与を与える……なんだ、派手な見た目の割にとんだ旧式じゃない。今では最大5%……店売りでも、高額だけどステ3%付与の時代だってのに……)
 メリアは振り返りロイドを見据え、口を開く。
「ねぇ……もしかして、この旧式もいいトコなアイテムが、ルパンに賞金をかけるのを止めたきっかけとか言わないでしょうね?」
「察しが良いな……その通りだ」
「……阿保くさ。さっさと撤去して、もっと付与率の高いアイテム置きなさいよ。じゃないと、効率的に狩りなんて出来ないわよ?」
「ふっ……ふはははははッ!」
 ロイドは、突然、腹を抑え大笑いし始めた。
 メリアの忠告はAWをゲームとして捉えるものならば、当たり前の思想ではあったが、今のロイドの考えとしては、メリアの提案は『あまりにも人間味が無い』。そう思えてしまったからこそ、可笑しくて仕方ないのだ。
 挙句、この笑い方ならば、ロイドだけではなく、ロイドを操っているプレイヤーまでもが、五感シンクロし、現実世界の向こう側でメリアを笑っているのだろう。
 これにはメリアも腹を立て、ぶつけるような声を張り上げた。
「な、何がおかしいのよッ!」
「はははっ……すまんな。最もだと思ったから笑ったのさ。しかし、その『最も』を崩してでも、心に留めておきたい大切なモノもある」
「……どういう事?」
 首をひねるメリア。
 ロイドは頬を緩めると、会議室の椅子を引き、メリアの緑色の瞳を見据えながら語りを始めた。
「お前……AWを始めたのはいつからだ?」
「なによ、その質問……」
「いいから話してみろ」
「……二年と五月前。AWのサービスが開始されてから、しばらくして始めたぐらいの時期かな」
「ならば『マッシヴ・ゴリラ』というギルドを知っているか?」
「…………それ、たしかAW実装半年後に行われた二十人VS二十人の、公式PVP大会の優勝クランの名前でしょ。今はもう、メンバーは殆ど引退してて、クラン自体も消滅してるって聞いてるけど……」
「……そうだな。『ゴリラ』はもうどこにもない。先輩方もやれ就活だ、結婚だ……って、みんな忙しくなって居なくなった。約三年の月日を経て、残されたのは俺を含む数名のメンバーと、AW至上初の公式大会で得られたその記念品『ブルー・メタル』だけだ」
 ロイドは、過ぎ去った過去を懐かしむが如く、メリアの向こう側にある青い大剣――『ブルー・メタル』を見据え、話を続けていく。
「『ゴリラ』は、凄腕揃いだが閉鎖的なギルドだったからなぁ……一年前、ギルドを畳むその瞬間まで、誰もが新規参入者を取り入れようとしなかった。ま、それが滅びの直接的な理由だが、ゲームを続ける事を選んだ俺たちは数名はと言うと、過ちを認めつつも、『ゴリラ』の思い出である『ブルー・メタル』をシンボルとしたチームを新たに設立――それが今の『ブルー・ソード』だ。だが、発足当時、メンバーは若干六名しかおらず、他ギルドによる、アプデの度に拡大していったギルド上限人数任せの襲撃に勝てず『ブルー・メタル』を奪われ、幾度も幾度も横流しされ、持ち主を変え、最後にはどこの誰が持っているかさえ分からなくなった。しかし、ルパンはな、メンバーが定期的に書く奪還依頼の掲示板への書き込みを見て、どうやってかは知らねぇが『ブルー・メタル』を取り戻してきてくれた。――しかも無償でだ」
 メリアはロイドの語りに言葉を無くしてしまう。
 メリアにとって『ブルー・メタル』は確かに時代遅れのオブジェクトアイテムだが、少なからずロイドたちにとっては、運営が施した説明文以上に『ブルー・メタル』に対しての思い入れある。
 アバターの中に人間がいるが故――また、その人間の中に心があるが故の愛着を前に、メリアは自身のモットーである効率論を振り回す事が出来なくなってしまったのだ。
 故に、ロイドの視線を前に、メリアはうつむき、拳を握り締めながら唇を噛んだ。
 しかし、メリアはルパンを追う者。
 ロイドの言葉がいかに道理的であれ、感情に身を任せソレを否定する口をも持っている。
「でもッ! アンタらは3度も、ルパンの快楽目的の襲撃とレアアイテムの奪還を喰らったんでしょッ!? その恨みは忘れて言いワケッ!?」
「ふっ……忘れてやるさ。俺たちがルパンに奪われた物は、所詮他人のアイテムだ。それに、アイツは自分の方針からか、俺や団員たちを一度もPKをしなかった。なら、いつまでも逆恨みを続ける方がおかしいだろ?」
「だからってッ!」
それでも、メリアは正当な理由の元ルパンを追いかけたい。
 否――彼女だけにしか分からない、『何か』が、メリアとルパンの間にはあるのだろう。
 だがロイドは、ルパンとメリアの因果性など知るよしもなく、また、『ブルー・メタル』の一件を通して、ロイドなりにルパンの事を考えてしまっていたようだ。
「何があったかは知らんが、少なくとも、ルパンは変わりつつある。話してみて、俺にはそのことが分かった。アイツは、ひねくれた部分があるかもしれんが、他人を想い図る優しさを持つプレイヤーだ」
「…………」
 メリアが又も言葉を返せなくなる中、ロイドは立ち上がり、彼女に背を向けると、
「なぁメリア。お前もルパン、ルパンと対抗心ばかりを持ってないで、一度自分の心とも向き合ってみたらどうだ?」
 そう、言い残し会議室を後にした。
 『ブルー・メタル』が、青い光を優しく放つ最中、メリアはうつむきながら、薄く清楚に調整された唇を小さく動かした。
「……アンタに私の何が分かんのよ……バカ」
 メリアが小さく放った言葉は、AWのログに残されはしたが、誰の耳にも届くことなく、電子の海へと飲まれていった。
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