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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 私がゼットの事を意識し始めてから、早二週間――――
 あれからも、ルパンとしてのAW内での奪還活動は順調に続いていた。
 ケース・バイ・ケースではあるが、元の持ち主にアイテムを返却すると言った行為が幸いしてか、ゼットいわく、ルパンの評判も徐々にではあるが、快楽犯の悪戯者という評価から、改心しつつある正義の義賊(?)へと変わりつつあるそうだ。
 それに、人助けというのは、理由をこじつけての奪還泥棒をしているよりも、遥かに気分が良く、私と相手、双方にも実のある行動に思えて来た。
 ――だというのに現実の私は相変わらず。
 いつものリハビリを終えた後、個室のベッドで休みながら、またもゼットの事を考えてしまっていた。
「はぁ……」
 ため息と共に、病室の窓からは風が入り、薄黄色のカーテンがゆらりと揺れる。
 カーテンの共に、私の頭の中で広がっていくのは、人型ゼットに守られた時の記憶。
 あー、もう! 助けられたのはルパンの時のはずなのに、なんで現実の私が多少美化されて『大丈夫か、メイ……』なんて言われて守られた事になってんのよッ!?
 この二週間、毎日のように考えちゃってるしぃ、ちくしょう~!
 しかし――――
「ふぅ……」
 脳内でいくら騒ごうが、多少カロリーが消費されるぐらいで現実は変わらない。
 私が気にしてしまっている当の御本人様はというと、現実世界ではおなじみのWEBカメラ姿で、黒い翼を操りながら、私のタブレットを弄って気ままにネットライフをしている。
『フフン~フン、フン♪』
 鼻歌まで歌っちゃって……私の気持ちになってみろってんだ、このトウヘンボク!
 アンタは私のおっぱいの事ぐらいしか気にしてないだろうけど、私はアンタが気になって仕方ないんだっつの!
 しかもアンタは現実の存在じゃなくて、ネットの私とじゃ男×男=ホモォな訳で!
 私にはそういう趣味は無いから『おほ~、いただきましゅ~!』とか言わね~し、今だって意識してしょうがないのよッ、このスットコドッコイッ!!
「はぁぁぁぁぁ…………」
 極大の溜め息をついたのとタイミングを合わせたかのように、病室のドアがコンコン。二回ノックされた。
 ノックの重さからして、ドアの向こうに居るのは間違いなくケイジだ。
 なんにせよ、今、ゼットと二人きりでいるのは気まず過ぎるし、さっさと入室してもらおう。
「入っていいよ、お兄ちゃん」
「はい。では失礼して……」
 入室してきたケイジはというと、いつも以上にニコニコと嬉しそう。
 ケイジがこういう顔している時に限って、碌なことがないのが。私の中のテンプレでもある。
 私が不安に駆られる最中、ゼットはケイジが入室してきたことに気が付くと、そちらへと振り向き、宙へと浮いた。
『よう。本は届いたか?』
「ああ、きょうの午前中に――はははっ。教えられても居ないのに、メイの名義でア〇ゾンで注文するなんて、やっぱりゼットは大したもんだよ」
 ケイジはごそごそと鞄をあさると、1冊の小さな文庫本を取り出した。
 それは、以前ゼットが呼んでいた乙女向けラブストーリー小説『天使と悪魔』の第二巻。
 私は、ゼットにア〇ゾンIDを勝手に使われた事よりも、小説の続きが出ていた事に関心を寄せてしまった。
「へ~……これ二巻出たんだ。ねぇ、ゼット。これ、後で私も一緒に読んで……いぃかな?」
 ヤバッ……声が少し裏返った。
 しかも、うっかりしてたけど、ゼットって他人との境界線引く所あるから、こんな事言ったら『断る』の一言で一蹴されるじゃん!?
 だが、ゼットはと言うと、
『メイが無駄に騒がんなら、ページをめくる役目を与えてやってもいい』
「う、うん、騒がない! 私、絶対良い子にしてるから!」
 ゼットの意外な回答に、私が喜んでいると、ケイジは笑みをさらに深くする。
「オレにも、それぐらい素直なら楽なんだけどな~……」
「その笑みは何かなぁ……お兄ちゃん?」
「さぁ、何でも♪ ……そうそう、そういえばカッコよかったろ? AW用のゼットの服」
「む……もしかして……AW内の私のこと見てたの?」
 私による、不機嫌そうな顔での質問に、ケイジは悪びれた様子もない。
 むしろ、私がその事に気付いたのを称賛するかのような笑みまで浮かべている。
「あぁ、見てたよ。ぶっちゃけると、オレは結構な頻度でメイを心配してるからね」
「もう! シスコンも過ぎれば最低なんだからね!」
 私は、頬を膨らしそっぽを向いた。
 だというのに、私の横目には、まだゼットが映ってしまう。
 だめだ。私、ゼットの事が気になって、どうしようもなさ過ぎる。
「……そういえばさ、ゼット」
『どうした?』
「あの、人型の状態って、いつでもなれるの?」
『ふむ……人型には、いつでも戻れるぞ』
「へ~……」
 気が付けば私の頬は緩みっぱなし。
 だが、ゼットは続けざまに私の気持ちを制止するかのような言葉を投げかけてくる。
『が、蓄積させておいた魔力は、それなりに消耗してしまう。だから何があるか分からん今、緊急時以外は、あまり人型には戻ろうとは思わんな』
 と、言う事は、あの人型ゼットには、たまにしか会えないって事か……ちょっと残念。
「はぁ……なるほどなぁ」
 ため息をつき、顔を上げると、こちらを見ていたケイジと目が合ってしまう。
 ケイジは自分のために取っておいた、リンゴ1/8切れを手に持ったまま、少しだけ悩んでいるかのような表情をしている。
 これは妹として察し、訪ねてあげない訳にはいかない。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ん……? いや、父さんの事をちょっと……ね」
 『父さんの事』という単語がケイジの口から出た瞬間、私は表情を曇らせ、言葉を無くしてしまう。
 ケイジは、私がこんな顔をするのを察していたかのように、言葉を続けていく。
「ふ……そんな顔すると思った。――この病院や、メイの周囲がゼットにとっての安全地帯になっているのは、父さんが子供としてのオレたちに、あまりにも無関心だからだ。そんな事を自覚すると、なんだかな……って、思えてさ」
『なんだ。お前たちは、親と上手くいってないのか?』
 ゼットは、黒い翼で、小説を包むビニールを破りながら声を飛ばした。
 私はと言うと、複雑な気持ちで表情を曇らせっぱなしだが、一応大人なケイジは、苦笑いをしながらもゼットに回答をする。
「そうだね……父さんは昔っから仕事人間だから」
『……そういうものか』
「ああ……そうさ」
 ケイジは言葉の後、力無くため息を吐いた。
 私たち、睦月家の人間にとって、お父さんの話はどこかしらのタブーとなっている。
 忙しさと、仕事への熱中度合いのあまり、家へと戻らない印象の悪い家族は、もはや、亡霊と言っても過言ではない。
 そこにお金という付加価値を加えても、私もケイジも、子供の頃からの本音を話せば、『そんなもの』よりも、普通のお父さんが欲しかった。
 だから、この話題は、そもそも人前でする事が無いし、私たちの雰囲気の重さから、誰もが言葉を続けようとしない。
 しかし、握りこぶしほどのWEBカメラの身体を借るゼットはというと、誰もが触れようとしなかった問題へと堂々踏み込だ。
『だが、親の方が案外子供だった――なんて事は、意外と珍しい事じゃない。親が子に目を向けない程、幼い何かがあるのなら、機会を見て、お前たちの方から、強くアプローチしてみてはどうか?』
 ゼットの正論により、私のケイジの間に、しばしの沈黙が訪れる。
 だが、ケイジは数秒もしない内に噴き出しながら、
「あはははっ。父さんがオレたちより幼い……か。面白い考え方だね、ゼット…………あ~あ、お前みたいに言ってくれるヤツと、もっと早く会いたかったな」
『……気休めの言葉だ』
「いや……それでも嬉しいよ。オレは無意識に父さんに委縮してるところがあるから、そこんとこ見る余裕が無かった……そうだな、うん! ありがとうな!」
 ケイジは、言葉を放ちながら、子供の頃のような純粋な笑みをゼットへと見せる。
 これに気持ちを軽くした私は、ゼットへと質問を飛ばした。
「ならさ、ゼット。アンタはお父さんとか家族とか……それについては何か思い出せそうだったりする?」
『いきなりどうした?』
「いやね、ゼットって、何らかんら言って大人で心根が立派じゃない? だから、アンタの家族とか……そうねぇ、家族じゃなくても仲間とか、アンタの心を育んだ人たちって、きっといい人ばっかりなんだろなって思っちゃって……だから、アンタが、ソレについて何か思い出せたらいいなァって――――」
『家族や仲間……か……』
 私の言葉の後、ゼットは暫し考え込むそぶりを見せた。
 恐らくだけど、ゼットが記憶を思い出そうとするに当たり、今まで考えた事のないワードだったのだろう。
 長めの沈黙が終わると、ゼットは、
『……相変わらず思い出せん。が、とりあえずは、お前たちが今の俺の仲間でいいんじゃないのか? 世話になっているし、メイのアホは俺を振り回そうとするが、そんな毎日も嫌いじゃない』
 ゼットのその言葉は、私の胸をドキリとさせる。
 ――あぁ、ゼットは私やケイジの事を、ちゃんと認めてくれていたんだな。
 そう思うだけで、私の頬は赤くなり、またもゼットへの感情があふれていく。
 私はゼットを手に取ると、ケイジが見守る中、ギュッと抱きしめ、胸の中へと収めた。
「ありがとね……ゼット。私たち、これからも頑張るから」
『か、感覚がない……ケイジ! 今すぐ感覚ツールをこのWEBカメラに実装しろォ!』
 馬鹿なことを言うゼット。
 でも、それでいて導かれているようで、逆に私たちを導いてくれるゼット。
 私の感情は憧れであり、きっと恋だ。
 私は、ゼットが購入した小説の表紙を見て、ふと願ってしまう。
 神サマ……願わくば、ゼットが記憶を取り戻したら、その時は、普通の男の子に生まれ変わる魔法をも、思い出してくれますように――――
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