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ちぇんじVRガール! ~私と僕と不思議なアイツ~ 作者:鳥飼誠二
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 ゼットと私がコンビを組んでから、一週間の時が過ぎた。
 この一週間は、何の問題もなく過ぎ去り、私がひたすらに、ゼットという存在の学習能力・戦闘能力の高さに、ついて思い知らされる連続の日々だった。
 ゼットはAWの事もある程度理解し、私が奪還怪盗のさいにヘマをしたり、危なくなりそうなら事前にその要素を潰したり、作戦を代わりに考えてくれたりする。
 だが、逆に言えば、私たちの間にあったイベントはそれだけであり、ゼットにの記憶は未だ戻らず、私もリアルでは歩けないままだった。
 ただ、それでも少しづつは打ち解けていったし、ゼットだって、私やルパンの事を少しは認めてくれるようになったかと思う。
 さて、大雑把な報告は終わりにして、現実の時刻は21:00――――
 日本でも、僕が今いるAWの中でも、どちらもが夜の時間である。
 今夜の獲物は、モンスター討伐ギルド『聖典騎士団』が居城である砦に保管してある『黄金の猫像』。セッティングしてあるギルド全体に4%の回避率を与えると言った、中々に性能の良いレアアイテムで、当然ながらギルドの守りも厚い。
 僕とゼットは、デジタル世界の夜闇に紛れながら、砦の上方から舞い降りると、屋上の見張りである待機兵たちを、音もなくスリープ弾で眠らせ、砦の中に侵入していく。
 砦の中は、まさに闇。
 何の備えも無ければ、場にある全てのオブジェクトが、どうなっているかさえ見分けがつかない状況だ。
 だけど、ルパンの暗視スキルを使用すれば、昼間の景色とは何ら変わりないのも、また事実。
 僕の目には、件のアイテムが中にありそうな扉を守る4人の鎧騎士たちが、はっきりと目に映る。
 僕は柱の陰に隠れながら、鎧騎士らへと近寄っていくと、僕の頭の近辺を浮遊するゼットを見据えて首を縦に振る。
 すると、ゼットは少し不満そうな顔つきで、
『メイ。まさか、俺のサポート前提で、また強引にやろうとしてないだろうな?』
「メイ? ちがうな。今の僕はアルセーヌ・ルパンだ」
『まったく……どんなアバターで飾ろうが、俺には、中に居る背伸びした睦月メイの姿にしか見えないんだがな』
「ふっ、気にしてはいけない。とにかく強引にやろう。僕たちには力がある。派手な方がゼットも好きだろう?」
『どうでもいいが、世話になってる分は働いてやる。それだけだ』
「OK。では、クールかつ大胆に、イッツ・ショータイムッ!」
「「「「ッ!?」」」」
 僕は、声と共に柱から現れると、スキル『速射』を利用し、クインスコーピオの性能任せに、四人の鎧騎士を一斉にパラライズさせる。
「ガッ!? し……しびれる!?」
「鎧を抜いてのパラライズ……まっ、まさか!?」
「謎の銃装備と銀髪……それに、黒い使い魔……」
「る……ルパンが出たぞ……ルパン……がッ!」
 鎧騎士たちは、小さな声しか上げる事が出来ず、その場に倒れ込んだ。
 まさに瞬殺――信念に乗っ取り、キルはしてないので、実際は『殺』ではないけれど。
 まぁ、いいや……彼らが動けない内がチャンスだ。
 僕は鎧騎士たちが守っていた両開きの扉を、怪盗に似合わないほどに、堂々と開いた。
 だが――――
「「死ねぇッ!!」」
「――ッ!?」
 始めから狙っていたように、古典的な待ち伏せをした二人の騎士が、剣を構え飛び出して来た。
 ……マズいッ! 油断し過ぎた――――……なんちゃって♪
「ゼェェットッ!」
『ハイハイ……消し飛べよ。炎波動ブレイズ・フィア!』
 僕の叫びに答え、ゼットは眼前に紅の魔法陣を展開する。
 魔法陣からは煌々とした炎が現れ、不意打ちをしようとした二人の騎士を、一瞬にして装備ごと焼き尽くし、キルしてしまった。
 ってキル!? あ~あ……やっちゃった。
 二人とも真っ白な球状の『ソウル状態』になって、フワフワと浮いちゃってるよぉ~……
「ゼットのバカッ! ルパンには、相手のレベルダウンをさせないために、キルしないってルールがあるの! アンタがそれを破ってどーすんのよッ!」
『だから、その状態で素を出すなといってるんだよ。可愛くない……それより、さっさとアイテムを奪え。長居は危険だ』
「あ……ふっ、そうだねゼット。イイ指摘だ。――――ほい、これで良し。あとは転移石を使って逃げるだけだが」
『砦内では使えないから、あえて目立つように屋根から大ジャンプして逃げる……か?』
「イエス、それがルパンの流儀さ。分かってくれて嬉しいよ、ゼット!」
『……知るか』
 あらら、どことなく不協和音。
 でもでも、これでも一応上手く言っているのだから、僕とゼットはやはりベストコンビである。
 僕は『黄金の猫像』をアイテムパックに収めると、ゼットと共に来た道を引き返し、再び砦の屋根へと上った。
 平面な屋根の淵から下を見渡せば、下に広がる草原では、20人以上もの騎士らが僕たちを待ち伏せ、古式の弓を構えている。
 そんな中、彼らの内より、ギルドリーダーと思わしき、髭面のアバターの男が僕へと声を飛ばした。
「ルパン、何故奪うッ!? 君が抜き取った猫像は、我々がクラン闘争の暁に獲得した栄誉あるアイテム! 強者の証とも言えるソレを、いきなり出てきてどうして奪うのだッ!?」
「盗人猛々しい。僕が言う言葉じゃないが、この猫像は君たちが他のギルドかから奪ったものだろう? ルパンには、それだけで十分に盗んでいい理由になるんだよ」
「クッ! 話にならん! 撃てッ、撃てェッ!!」
 ギルドリーダーの声に合わせ、下方からは矢が一斉に放たれた。
 僕は、矢の動きを読むと、ゼットを連れ、月夜に飛び込むかのように大きくジャンプをする。
 僕のジャンプは見事な曲線を描くと、放たれた矢の高さを越え、騎士たちが張っていた包囲網さえ飛び越え、彼らの後方へと着地した。
「「「なッ!?」」」
「……では、君たちがまた何かを奪う日まで。シーユー!」
「くそ~! 待てッ、ルパンッ! みんな追うぞ!」
「「「「「おーッ!!」」」」
 そうして、始まるいつもの集団追いかけっこ。
 僕はこの時間が一番大好きだ。
 だって、僕の足の素晴らしさを、心行くままに思い知れるから。
「はぁ……はぁ……待て……待てよ、ちくしょう!」
「アイツ……なんであんなに速いんだ……」
 ほらね、みんなノロマだ。
 誰も彼もが僕に追いつけない。
 これが私の足、アルセーヌ・ルパンだ。
「あはっ♪」
 さぁ、走れ、走れ。
 AWの素晴らしさを、私に骨の髄まで味わわせて。


 翌朝、午前七時――――――
 快晴だという事もあり、窓からは朝日が差し込み、スズメのさえずりもが聞こえてくる。
 朝の風景の中、私は、病院の個室の白いベッドで、快適な目覚めを迎えた。
「ん~♪」
 奪還怪盗を終えた後の様な、心地よい伸び。
 私は、枕元に置かれた黒い球状のWEBカメラこと、ゼットへと声を掛けた。
「昨夜のルパンも最高! ね、ゼットもそう思うでしょう?」
『……知らん』
 なんだか、素っ気ない返事だなぁ。まぁいいか。
 私は、ゼットに付けてある白い紐を手に取ると、ネックレスのように首へと掛けた。
 これはというと、普段ゼットがどうしても私のおっぱい付近に居たがるので、仕方なしの処置というところだ。
 慣れれば不快感はないし、ゼットは私のAWの冒険における大事なパートナー。
 多少、甘い目を見てもらっても、良いぐらいだ。
「で……結局さ、ゼットは、あれから何か思い出した?」
『いや。随分と色々酷使はされてるが、全て無駄足だな』
「ぶぅ! 酷使ってなによ? ゼットだって、ルパンと行動して無双カタルシスを得るのって、気持ちいでしょう? アンタ短気だし、ストレスどっかで発散しなきゃやってけないだろし」
『気遣いは感謝する……が、メイ。そのことで話がある』
「……?」
 ゼットは、改まり、レンズという名の目で私を見据えると、
『お前は何故、AW内で奪還行為をし、そのアイテムを捨て去る? 売るならば分かる。それは金のためだ。元の持ち主に帰すのも分かる。それは善意だ。が、お前の行為はどちらでもないが故、心理を知りたいのさ』
 いつか聞かれるなと思っていた指摘。
 これに対して、私は不満顔で、
「……自己満足よ。私は、私がルパンである事を自覚したいのよ。盗んでもOKなモノを奪ってカタルシスを得たい。……それに、昨日の『黄金の猫像』みたいに、存在してるだけで争いの種になるアイテムもあるでしょう? 私の大好きなAWに、争いをまき散らすアイテムがあるのなら、それを捨てちゃえとも思うだけよ」
『だが、そうでないアイテムもあったはずだ。一昨日の『天使のしおり』など、まさにそうだと見受けられた。だが、お前はソレまでをも捨てた』
 うるさいなぁ……ゼット。何でこんなに食って掛かるんだろう?
 AWは仮想現実だから、好きにしたっていいじゃん。
 アルセーヌ・ルパンは、元々怪盗の名前から取ってるんだから、ソレがロールプレイってモノなんじゃないの?
 あーもう、そう言い返さない私も私だし、何だかスッキリしない!
 えぇい、ここは思うがままにだ!
 私は大きく息を吸い込むと、思うがままに言葉をぶつけた。
「とにかく! 私は誰かが奪ったモノを取り返してるだけなの! そりゃあ、元・持ち主の中には、困ってる人も居るかもしれないよ!? でもさ、そんなの奪われたり、取り返せないで掲示板に書き込むだけの本人が悪いんじゃない! 本当に大切なものなら自分で守りぬけって話よ!」
 そうだ、私は何も悪くない!
 だが、ゼットは落胆の息を吐いた後、
『……お前はアホだ。コンプレクスから、折角の純粋な心を曇らせている』
 そう告げ、黒いオーラの翼を生やし、窓をひとりでに開かせ、病院の外へと飛んでいく。
「あ、こら! ゼット!」
 私は静止の声を上げるが、これも無駄。
 ゼットは、見る見るうちに遠くへと飛んで行ってしまう。
「なによ……バカ……」
 私は、視線を落とすと、未だ布団に包まる不自由な足を見つめた。
 アンタに逃げられたら、私は追えないのに――――
 でも、ゼットの言おうとした事が、分からない訳でもない。
 私は自己嫌悪をしながらも、心の中では『ゼットを探さなきゃ』、そればかりを考えていた。
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