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つばさ  作者: takasho
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 雨が羽を重く濡らし、翼の動きを阻害する。体は命のない石のように冷え、指先の感覚が失われていく。

 ヴァイクは、必死になってある人物を捜していた。

 いうまでもない、かつての義兄弟であり最も尊敬する戦士でもあったマクシムである。

 自分でも、なぜ彼を求めようとするのかよくわからないところもある。

 だが、知りたい。

 過去に何があったのか、マクシムが何を考えているのか、そして、これからどうしようとしているのか――こちらからすれば、どれもこれもわからないことばかりだった。

 帝都の西にある森へ急いだ。上空には得体の知れない飛行艇が一隻、不気味に漂っている。この状況であえて出てきたのだ。おそらく、何かをしでかすつもりに違いない。

 ヴァレリアは大丈夫だろうか、とふと思う。勢いに任せて置いてきてしまったが、これだけの混乱だ、何が起きても不思議はない。

 ――まあ、大丈夫だろう。

 と、安易に考えるのも訳があった。

 あの女はかなりの手練れだ。実際に剣を合わせたことはないが、その身のこなしからはっきりとわかる。他の誰かを守らなければならないのならともかく、自分が逃げるだけならなんとかできる力量はきっとあるはずだ。

 とそのとき、背後で無数の悲鳴が上がった。

 何事かと振り返ると、例の飛行艇から激しい雨のように〝何か〟が放たれている。それは凄まじい勢いで翼人の群を貫き、まるで夏の虫を払うかのようにことごとく落としていった。

「なんだ、あれは……」

 あまりのことに呆然としてしまう。

 船の横側についている物は大型の弓なのか? そこから次々と放たれる巨大な矢は、問答無用に翼人を刺し貫いていく。

 あれだけの規模、あれだけの威力のものだ。翼人の側がどうこうできる代物ではなかった。

「なんという卑怯な……」

 怒りに打ち震えた。

極光(アウローラ)〟のことは気にくわないが、ああいうつまらない道具によって人の命を奪う輩はもっと許せなかった。

 よく見れば、被害は翼人だけにとどまらない。

 その圧倒的な威力ゆえに、地上でもこれまで以上の大混乱に陥ってしまった。矢というより槍に近いものが、空から凄まじい勢いで振ってくる。

 (かや)でふいただけの屋根はひとたまりもなく、石製であっても造りの弱いものはその衝撃に耐えきれずに崩れていく。直接それに串刺しにされる人々も多く、狂乱はなおいっそうひどくなっていった。

 ヴァイクは、歯噛みする思いでそれを見つめるしかなかった。

 自分ひとりが行ったところで〝あれ〟をどうすることもできない。それどころか、巻き込まれて自分もその歯牙にかかるのがおちだ。

 まだ帝都内にいるであろうジャンのことは心配で仕方がなかったが、あえてこころを鬼にしてヴァイクは背を向けた。

 あの飛行艇が出てきた意味を思う。

 もし、あれさえもマクシムの目論見の内なのだとしたら――自分はもう、彼を許せない。

 帝都の城壁を越え、外へ出る。ヴァレリアの指摘が正しいならば、この先にある森のどこかにマクシムがいるはずだった。

〝マクシムのところへ行くまでに考えておいて。彼がなぜ動いたのか、自分はそれを知ったときどうすべきなのか。それからけっして目を背けないで〟

 先ほどのヴァレリアの言葉が、頭の中で反響する。

 なぜ動いたのか。

 ――仲間のため? いや、そうじゃないかもしれない。わからない。

 自分はどうすべきなのか。

 ――見当もつかないが、答えはおそらく二つのみだ。

 敵対か、協力か。

 なんとなくではあるが、何もしないという選択肢はたぶんないだろう。

 まだ答えは出せない。出せるわけがない。マクシムや〝極光〟のことに関してくわしいことは何も知らないままなのだ。

 ヴァレリアもそのことは承知していたはずだ。おそらく、あの言葉は最悪の事態も想定して覚悟はしておけという意味だったのだと思う。

 考えるのは苦手だ。自分は、実際の行動で決着をつけるつもりだった。

 ――どこだ、マクシム……

 森の上空に入る。

 雨が降ったせいでその全体が霧にけぶり、残念ながら遠くまでは見渡せない。日の光を遮る雲のせいで辺りは暗いだけに、人ひとりを見つけるのは困難を極めそうだった。

 気がつくと、翼の付け根が痛みはじめていた。長時間、しかも無理な動きで飛行をつづけたせいで、体は悲鳴を上げていた。

 だが、そんなことには構っていられなかった。

 ヴァレリアにも言ったが、これが最後の機会のような気がする。今を逃して、あとあと悔いを残すような真似だけはしたくなかった。

 そんな(はや)る気持ちとは裏腹に、目的の人物どころか人っ子ひとり見当たらない。ヴァレリアの情報が間違っていたのか、それとも見つからないようにどこかに潜んでいるのか。

 このままでは(らち)が明かない、下へ降りて森の中を捜したほうがいいと思いはじめたそのとき、左斜め前方から悲鳴のようなざわめきが上がった。

 ――あそこか!

 姿は見えないが、声は確実に聞こえた。マクシムではないのかもしれないが、あの辺りに誰かが潜んでいるのは間違いない。

 すぐさまそこへ直行しようとする。

 しかし、今度は帝都の方角から聞こえてきた狂騒の声に、思わず振り返ってしまっていた。

「なんだ……?」

 いつの間にか、帝都上空に何隻もの飛行艇が集結していた。

 そして、よく見れば――

「またあの弓を使っているのか!」

 今度こそ、文字どおり雨のごとく巨大な矢を降らせている。

 これでは空を飛ぶ翼人はおろか、地上の被害も尋常なものではない。いよいよ、正気の沙汰とは思えなかった。

 ヴァイクはその瞳に強烈なまでの怒りを宿したまま、森のほうへ向き直った。許し難いことではあるが、今の自分にはどうすることもできない。

 迷わず、先ほど声がしたほうへ突っ込んでいった。

 マクシムがそこにいるかどうかはわからない。しかし、上空から捜していても見つけられなかった以上、とにかくしらみ潰しにでもいろいろなところを探るしかなかった。

 森の中から声が聞こえた。それはすぐに驚愕の叫びへと変わったが、もう遅い。

 木々の枝葉がつくった屋根を一気に突っ切り、その下へと到達する。

 そこには予想通り、色とりどりの翼をした翼人の集団がたむろしていた。

 突然のことに剣を構えることすらできないでいる彼らの上で、ヴァイクは急に止まった。

「マクシムはどこだ!?」

 呼びかけても反応はない。だが、意外なところに見知った顔があった。

「ヴァイク!?」

 そう驚きの声を上げたのは、かつての同族、そして幼なじみのナーゲルであった。

 その隣には、昨日会ったときと同じくフーゴという例の大男がいた。

 ヴァイクは、そのナーゲルの真正面に降り立った。

「ナーゲル、マクシムはどこにいる?」

「それは……」

 さすがに言い淀む。ナーゲルたちからしてみれば、敵か味方かもわからないような男に自分たちの主の居場所を教えられるはずもなかった。

「会ってどうするつもりなんだ。俺たちの仲間になるつもりのないお前が」

「そんなことはわからない。わからないから会いに行くんじゃないか」

 現状のままでは答えを見出せないのならば、行動を起こして答えを探しに行くまでだ。明確な回答を持っているのなら、元よりこんな無茶なことはしなかった。

 ヴァイクは余計な言葉は使わず、ただ相手の目を見すえた。

 ナーゲルも真剣な眼差しでそれを受け止めた。

 いっとき、不思議な沈黙が二人の間に下りた。

 あわてて剣を構えようとした他の者たちも、今では動きを止めて両者の様子をうかがっている。

「――ヴァイク、俺たちと敵対するつもりはないんだな?」

「〝極光(アウローラ)〟に対して言いたいことは山ほどある。だが、それはマクシム自身にぶつけるつもりだ。今は、お前たちの邪魔をするつもりも協力するつもりもない」

 ナーゲルは、しばらく黙ったままかつての親友を見た。

 ヴァイクほどの戦士が、体のあちこちに傷を負っている。ここに来るまでにいくつもの危地をくぐり抜けてきたに違いない。

 その男が言う言葉だけに、けっして上っ面だけではない重みがそこにはあった。

 迷いはある。しかし、幼なじみのことを今は信じてみる気になった。

「マクシムなら、ここから少しだけ南に行ったところにある泉か、その周りにいるはずだ」

「ナーゲル……」

「行けよ。お前もお前なりにけじめを付けようとしてるんだろ? 昔から喧嘩ばっかりしてたお前たちだからな。正直不安はあるが、仕方がない」

「すまん」

 ヴァイクはすぐさま飛び上がった。そしてナーゲルに目礼すると、一目散に南の方角へ向かって飛んでいった。

 誰もそれを追いかけるようなことはしない。皆は、ナーゲルの判断に従った。

「……いいのか?」

 隣にいたフーゴが、ヴァイクの飛んでいった方向を向いたまま問いかけた。

「わかならないよ。俺だって何がいいのかなんてわかりようがない。だけど、あいつはマクシムに会うべきだ。ただの勘だけど、そんな気がするんだ」

 ――おそらく、マクシムもヴァイクに会いたがっている。

 この作戦を実行する前、彼はヴァイクを捕らえろという命令を下した。

『殺せ』ではなく『捕らえろ』だ。つまり、生きたまま連れてこいということ。

 マクシムは、ヴァイクに何かを伝えようとしているのだろうか、それとも――

 想像することもできないが、何かがあるような気がするのは本当だった。

「純粋な直感は大切だ」

「そうだな」

 今は自分の直感を信じてみよう、そう思った。

 二人が見つめる先で、ヴァイクはすでに南の泉へ到達していた。

 だが、その周辺に人の姿は見えない。いったん下に降りなければならないのかと思いはじめた頃、森の端に白い翼の先端が見えた。

「――――」

 ほとんど無意識のうちに急降下を始める。

 さまざまな思いが交錯し、それがたった一言のつまらない言葉となってほとばしり出た。

「マクシムッ!」

 やっと再び相見えることができた。

 やっとすべてを教えてもらうことができる。

 やっと――過去に決着できる。

「……来たか」

 振り返ったその男は、まぎれもなく翼人の世界で最強の名をほしいままにしていた怪物、マクシムであった。

 ヴァイクが来たことに一切驚くこともなく、その口の端には笑みさえ浮かべながら相手を待ち受けている。

 ヴァイクはその真正面、距離にして五歩のところに降り立った。

 一瞬にして一太刀を浴びせられるぎりぎりの間合い。それは、相手にしてみても同様であったが。

 二人はしばらく黙ったまま、互いの視線をぶつけ合った。

 変化が訪れたのは、近くにあった大樹が風に吹かれ、大量の滴を落とした直後のことだった。

「本当にここまで来るとはな。呆れた奴だ」

「――別に、あんたに会いたくて来たわけじゃない。どうしても聞きたいこと、知りたいことがあるから来たんだ」

「同じことだ」

 マクシムは再び笑ったが、ヴァイクは相手にしなかった。

「前にあんたは、次に会うときすべてを教えると言った。こうして、ここまでわざわざやってきたんだ。すべてを……あんたが知っていて俺が知らないことのすべてを伝えてもらおうか」

「教えてもらう立場だというのに偉そうな奴だ」

 なかば呆れ果てた様子のマクシムも、ようやく表情を真剣なものに改めた。

「だが、何を知りたい。何を聞き出したいんだ。お前は何を欲している」

「それは……」

「わからないのか? まさか何がわからないかわからないなどと言うつもりじゃないだろうな」

 ヴァイクはどきりとした。

 言われてみれば、何がどうわからないのか、自分でもまだはっきりとは自覚していないような気もする。

 だが、そうであるがゆえにもどかしい。

 わからない部分が明確なら、やきもきすることなくそれを知るために行動すればいいだけだ。しかし、すべてが曖昧なままで判然とせず、何をしたらいいのかさえも見えない。

 それで、マクシムに直接聞く他なかった。マクシムが、知りたいすべての物事の中心にいる。それだけははっきりとしているから。

「確かに、俺は何もわかっていない。でも、だからこそ聞きたいんだ。それを知ってからどうするかなんて、俺にだって想像できない。とにかく、聞いてから考える」

「相変わらずだな、その無計画さは」

 呆れたようにため息をついた。

 しかし、すぐににやりと口元を歪ませた。

「だが、それもお前らしいといえばお前らしい。かといって、簡単に教えてやるつもりはないがな」

「…………」

「俺を倒してみせろ、ヴァイク。それができれば、お前の知りたいことをなんでも教えてやる」

 マクシムの要求に、ヴァイクは唖然とした。

「なんでそうなる!?」

「久しぶりにお前の力を試したい、では駄目か?」

「しかし……」

「俺はお前に与えるものを持っているが、お前は俺へのそれがない。だったら、こちらの言うことを聞け」

「…………」

「だいたいだな、お前はすべてを知ったところで、それを本当に受け止められる自信はあるのか? 現実は常に厳しいんだよ。子供の夢とは違うんだ」

「…………」

「世の中には、知らなくていい、知らないほうがいいこともたくさんある。知ってしまったらあとに引き返せなくなる、耐えがたい苦しみを負うことになるかもしれない。それでもあえて聞く覚悟がお前にはあるか」

 ヴァイクは沈黙するしかなかった。マクシムの意見はまったくの正論だ。

 だが、こちらとしてはこれ以上立ち止まるわけにはいかなかった。

「悔しいが、あんたの言うとおりなのかもしれない。俺には覚悟が足りないのかもしれないし、聞いた後になって激しく後悔するかもしれない」

「そうだろう、だから――」

「だけど、前へ進むには俺は知らなくちゃいけない。そうしなければ、前へ進めないんだ。たとえ、そのための入り口が(いばら)の門だとしても」

 人は誰しも、楽しいこと、面白いことだけを考えて生きていけるわけではない。ときにはみずからが傷つくことがわかっていても、あえて挑まなければならないこともある。

 自分にとっては、今がまさにそうだった。真実を知ることはつらいことのほうが多い。それは〝外〟のことだけではなく、〝内〟に対してもそうだ。

 自分のいい面はともかく悪い面をも真摯に見つめ、それを受け止められる人がいったいどれだけいるというのか。

 大半が負の側面に目をつむり、正の面だけ見て驕りたかぶる。反省するということをしないから、結果として堕ちていくことはあっても高みに登りつめることはけっしてない。

 反対に、負の面ばかりに(とら)われてしまうようになるのも人の(さが)だ。せっかく可能性を持っていても、そちらに目を向けようとしない。悪い部分ばかり意識して、やがて自滅していく。

 磁石のように、正にも正の引きつける何かがあるが、負にも負の引きつける何かがあった。

 人はそのどちらかに引き寄せられ、そして駄目になっていく。

 だからこそ怖い。しかし、それは真実を知ることと知らないことの両方にいえることだった。

「だったら、俺はあえて前へ進む道を選ぶ。何かが起こるのを恐れて立ち止まるようなことだけはしたくない」

「ご大層な考えだな、そのとおりではあるが。ただな、お前には自分への裏付けが何もないじゃないか」

「…………」

「だから、俺を倒してそれを証明してみせろと言っているんだ。前にも話しただろう。剣は腕力で振るうものではない、こころで振るうものなんだ。たとえ技は拙くとも、剣を合わせればその心意気はわかる。逆にどんなに力があろうと、性根が腐っていてはかならずぼろが出る」

 その手を、背に負った大剣の柄にかけた。

「お前の覚悟を剣にのせてみせろ。本当にそれがあるのなら、かならず俺が受け止めてやる」

 ヴァイクも、すっと柄のほうに手を寄せていく。二人の間の緊張が一気に高まった。

「それにな――」

 マクシムの顔から一切の優しさが消え、すべてが厳しさに彩られていく。

 本気で戦う。その意志の表れであった。

「そもそも、弱い奴に真実を知る資格などないんだよ!」

 翼をざっと羽ばたかせ、ひとっ飛びで完全に距離を詰めた。

 準備していたものの不意を突かれた形になったヴァイクは、あわてて剣を抜いて防御態勢をとろうとする。

 だが、そのときにはすでに、マクシムがその大剣――元は兄ファルクの――〝イリア〟を振り下ろしはじめていた。

 剣での防御は間に合わない。

 瞬間的にそう悟ったヴァイクは、とっさに体を横へ投げ出した。

 さっと、剣先が髪の毛をかすめていく。

 ――このッ……!

 マクシムは本気だった。もし今のをよけていなかったら、その時点で確実に絶命していた。

 これは遊びじゃない。そうしたマクシムの意志が、嫌でもはっきりと伝わってくる。

 だが、恐怖を感じている余裕すらなかった。体勢の崩れているこちらに、すぐさま二撃目を放ってきた。

「!」

 ただ、それは予想よりもわずかに遅かった。これが大剣の欠点だ。その威力は凄まじいが、大振りゆえにいかんせん小回りが利かず、剣速もわずかに遅くなる。

 そのおかげで、今度は剣でのカバーが間に合った。

 相手の剣の軌道と自分の体の間にそれを滑り込ませ、受け流すようにしてその方向を変えさせる。

 想像よりも遥かににその衝撃は重かったが、どうにか最悪の事態だけは免れた。

 とはいえ、体勢を立て直すために距離をとらなければならない。後ろへステップしてそのまま飛び上がろうとするが、マクシムはそれを許してはくれなかった。

 気がついたときにはもう、すでに間合いに入られていた。

 前へ踏み込んだその勢いのまま、今度は剣を水平に突き出してくる。

「くっ」

 足の力だけではかわしきれないことを悟ったヴァイクは、左の翼だけを羽ばたかせ、右足を軸に反転した。

 マクシムの巨体が凄まじい勢いで、その真ん前を行き過ぎていく。今度もなんとか間一髪でかわすことができたが、前と決定的に違うところがあった。

 なまじ勢いに乗っていただけに、マクシムはすぐには止まれない。

 こちらに対してほとんど背を向ける格好になった相手に、次はこちらから襲いかかっていった。

 ――今が好機。

 マクシム相手にそうそう攻撃の機会が得られるはずもない。こうした瞬間をむざむざ逃していたら、最終的にやられるのは疑いようもなく自分のほうだ。

 迷わず相手の背中に狙いを定めて、一気に斬りつけようとする。

 向こうも、これ以上はないというくらいに本気で来ている。ひとりの戦士として、それに真正面から答えないわけにはいかない。

 ――とらえた。

 と思った次の瞬間、まったく予想していないタイミングで大剣が襲いかかってきた。

 ――見えてないはずなのに!

 こころの中で思わず悲鳴を上げて、とっさに剣で受け止めた。今度は受け流すことができずに、もろに衝撃が伝わってくる。

 弾き飛ばされるようにして、近くにあった木に背中からぶつかった。一瞬息が詰まり、体が硬直した。

 この隙をマクシムが見逃してくれるはずもない。反射的にそう悟ると、ほとんど無意識のうちに腰を落としていた。

 つい先ほどまで自分の頭があった位置を、イリアが通り過ぎていく。

 意外なことが起きたのは、その直後のことだった。大剣の先が木の幹にくい込み、わずかな間だが動かせなくなった。

 ヴァイクはとっさにマクシムの足元から抜け出し、今度こそ十分な距離をとった。

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