第八章 終わりの始まり
人によっては、これを『錚々たる顔ぶれ』とでも呼ぶのだろうか。
宮殿の〝白頭鷲の間〟には、七選帝侯のうち五人までがすでに集結していた。それぞれが、円卓のいつもの席に着いている。
フェリクスの左隣には、ブロークヴェーク侯ゼップルが座っていた。またしても、何かをくちゃくちゃと食べている。
その対面にいる神経質なところのあるアイトルフ侯ヨハンが、物言いたげにそんな彼を睨んでいた。
彼の左にいるダルム侯シュタッフスは、相変わらず無表情で掴みどころがない。そこに言い知れぬ不気味さを感じることもあるのだが、取り立てて何か悪いことをしているわけでもなく、それなりに領地をうまく運営しているいい領主だといえた。
この中でもっとも気になるのは、やはりハーレン侯ギュンターだろうか。
てっきりこの帝都で再び侯かマクシミーリアーンが接触してくるものと思っていたのだが、今のところこれといって動きはない。先ほど、うちの若い騎士にちょっかいを出したようではあるが。
今は、椅子に深く腰かけ、両の眼を閉じてうつむいている。その表情からは、何を考えているのかをうかがい知ることはできない。
こちらから仕掛けてやろうか、とも思う。しかし、相手はいくつもの危機を策謀によって切り抜けてきた知将だ。へたに手を出せば、ひどいしっぺ返しをくらうのがおちだった。
――はぁ。
この部屋の空気はけっして居心地のいいものではない、というよりも明確に不快だ。こんな息の詰まるようなところに長居したくはなかった。
フェリクスは意を決して、いったん席を立った。アイトルフ侯の非難がましい視線にはあえて気づかない振りをして、部屋の外へと出てゆく。
――まだあきらめてないみたいだな。
ヨハンは、〝自慢の息子〟ヴェルンハルトとアーデを結婚させたいとかねてから考えていた。こちらの顔を見るたびにその話を持ちかけてくるのもそのためだ。
ついさっきも、そのことでかなりの時間を奪われた。
――ゴトフリート殿と会いたかったのに……
まったく、悪態をつきたくなる。
最も肝心なことを邪魔されてしまった。しかも、こちらが相手の名誉を重んじて遠回しに断りを入れているというのに、それにまったく気づく気配すらない。
〝半痴侯〟という言葉を思い出す。どうでもいいことにはすぐに感づいて気にしすぎるにもかかわらず、重要なことにはまるで鈍感。そのことを嘲笑って民衆がつけた蔑称だった。
――あれでは、ヴェルンハルトも苦労しているだろうな。
なまじ肉親、しかも侯子であるだけに逃げ出すこともできない。真面目な彼の苦悩が思いやられた。
それだけに、愛する妹をそんなところへ嫁がせるわけにもいかない。かといって、互いに選帝侯という立場上、特段の理由もなくきっぱりと断るわけにもいかない。
なまじ、ヴェルンハルトが婿として悪くない相手だけに判断を難しくしていた。結婚話にまったく乗り気でないというわけでもなく、こちらとしても微妙でつらいところだった。
廊下に出て、ふう、と嘆息していると横合いから笑い声が上がった。
「ははは、お前でもため息をつくことがあるんだな」
そこにいたのは、原色を基調にした派手すぎる服を着た男だった。顔には、皮肉げな笑みが浮かんでいる。
ローエ侯のライマルだ。
口の悪い連中からは〝放蕩侯〟などと呼ばれているが、フェリクスにとってはかけがえのない友人のひとりであった。
「ライマルか。笑うなんてひどいな」
「いや、周りから絶賛されるお前の情けない姿を見たら、妙におかしかったんだよ」
と言って、さらに笑う。いくら親友とはいえ、これにはフェリクスも眉をひそめた。
「お前こそ珍しいじゃないか。公式行事のときは、毎回かならずといっていいほど遅刻してきたのに」
「最近、厳しくなったんだよ。〝奴ら〟が、これ以上無茶をするなら俺の楽器を捨てるなんて言いだしやがった。まったく、領主の俺をなんだと思ってるんだ、あいつら」
ライマルの話によると、〝六宮宰〟という家臣の長たちが常時彼を監視しているのだという。だから公務以外のときでさえ、ひとりでいることもままならないらしい。
しかし――
「公務をまるでやろうとしない奴が、都合のいいときだけ領主面をするな」
「わはは、違いない」
フェリクスのきつい言葉もまったく意に介した様子もなく、ライマルは無邪気に笑っている。
ほとんど監禁されたような状態にあるにもかかわらず、彼のこころが折れないのはひとえにこの明るさのおかげだと言っていい。
だが、そのライマルが急に表情を改めて話題を変えた。
「俺のことよりお前のことだ、フェリクス。最近おかしなことがなかったか?」
「なぜ、そんなことを聞く?」
「うちのばかどもがなんか言ってたんだよ、ノイシュタット侯が狙われているとかなんとか」
フェリクスは顔をしかめた。
ローエ侯領は、帝都を挟んでノイシュタットの反対側に位置する土地だ。もうそんなところまで襲撃のことが噂になっているというのか。
「なんで知っているんだ?」
「本当だったのか? でも、くわしいことは俺もわからん。とにかく、うちの連中がそう言ってたんだよ」
「まさかとは思うが、カセル侯のことも触れてなかっただろうな」
ライマルが下唇を噛んで渋面をつくった。かなり気にくわないことがあったときの表情だ。
「それは、言おうかどうしようか迷ってたんだがな。お前も、すでに知ってるみたいだな」
「カセル侯が何かを企んでいる、ということか?」
「ああ、そのことに関しては口うるさく言われたよ。『ゴトフリートの提言はすべて潰せ、奴に主導権を握らせるな』ってな。そのためのぶ厚い書類まで渡しやがった。誰が読むか、阿呆どもめ」
最後はいつもの悪態だったが、その内容はとても看過しえないものであった。
――ローエまで、ゴトフリート殿を警戒している。
しかも、かなり具体的だ。これで明確にカセル侯を敵視しているのは、ギュンターに次いで二人目になった。
ライマル自身は余計なことは考えていないようだが、とにかくローエの側がそう判断したという事実こそが重要であった。
「顔が暗いな、フェリクス。まあ、真面目なお前らしいが、そんな顔してると幸福が逃げていくぜ?」
「悪かったな。しかし……」
「ゴトフリートか。まあ、お前にとっては親ともいえる人だからな、気持ちはわからなくはないが」
「が?」
「実はな、カセル侯の黒い噂は昔からけっこう聞いてたんだよ」
「なんだって?」
「もちろん、あの人のいい評判もよく聞くさ。だがな、けっこう闇の部分もあるみたいだぜ?」
「…………」
「おいおい、睨むなって。でも、聞きたくないけど聞きたいって顔だな」
「ああ、構わないから話してくれ」
うなずいてから、ライマルが口を開いた。
「俺が冒険者として旅してたことがあったろ」
「ああ、あの無茶をやっていたときか」
冒険者志望のライマルは、かつて一度だけ本当に城を飛び出して旅をしていたことがあった。
その後〝捕獲〟されて連れ戻されることになるのだが、確か三年ほどは各地を歩き回っていたはずだ。
「無茶こそ人生と知れ――ともかく、そのときにいろいろ耳にしたわけだよ、本当にいろんなことをな」
その中には、各選帝侯のやばい話も多分にふくまれていた。それぞれ、正道だけでは領地の運営はできないというわけだ。
「お前の親父の噂だってあったぜ。たとえば……」
「父の話はいい。それより、カセル侯のことを」
ライマルは、大仰に肩をすくめてみせた。
「それが無関係ではないんだな、これが」
「どうして?」
「お前の親父さんとカセル侯は親友だったって話だが、あるときを境に距離を置いたはずだ」
ライマルは淡々と話している。しかし、フェリクスは動揺を隠せなかった。
「なぜそれを知っている?」
「そんな台詞ばっかりだな。語彙が貧困だ。それじゃあ、いい吟遊詩人にはなれねえな」
「冗談はいい! どういうことなんだ!?」
フェリクスの怒気もどこ吹く風で、ライマルはくっくっと笑声を上げている。
「お前がそこまで冷静さを失うなんて珍しい。あとで歌にしよう。そうだ、題名は〝麗しの侯子の痴情〟――」
「ライマル……」
「じょ、冗談だ! だから、拳はよせ!」
「じゃあ、早く話してくれ。こっちは真剣なんだ」
「ああ、すまなかったな。それで――結論から言うか。要するに、ゴトフリートの闇に最初に気がついたのは、お前の親父さんだってことだよ」
「やっぱり、ゴトフリート殿が原因だったのか……?」
自分が子供の頃、確かに父はあるときからすっぱりとゴトフリートの話をしなくなった。
そういえば――
「もしかして、アイトルフで起きた反乱のあとか」
「当たりだ、フェリクス。だんだんと冴えてきたな、少年」
今から十八年前、アイトルフで大変な暴動が勃発した。それは前代未聞のことで、ヨハンだけではまるで対処のしようがないことであった。
なぜなら、かねてより帝国と対立していたロシー族が翼人と結託したからだ。
ロシーはロシーで騎馬の扱いと森などの悪条件での戦いが得意で、翼人の強さに関しては改めて言うまでもない。
「その両方が手を合わせたんだから、ヨハンのおっさんでなくても一領主でどうこうできることじゃあなくなった」
「だから帝国は、連合軍を編成することにしたんだろう? 最強のカセル騎士団を中心にして」
「だが、簡単ではなかったようだぜ? とにかく、相手を捕まえられなかった」
「ああ、ロシーと翼人のほうが数では圧倒的に少なかったんだ。まともに相対するはずがなかった。けど、当時の帝国にはそれがわからなかった」
森に潜むロシー族と空中から巧みに攻撃をしかけてくる翼人に、連合軍は手こずった。単発の小規模な攻撃でありながら、その連続で確実に兵力が削られていく。
その後の展開は、フェリクスには容易に想像がついた。
「やがて疲れと、どこから敵が現れるかわからない恐怖で士気が下がりつづける」
「そうだ。しかも悪いことに、戦が長引いたことで兵糧が足りなくなってきた」
結果として、他の地域にも反乱の炎が飛び火することを恐れた帝国は、いちかばちかの総攻撃を仕掛けるしかなくなっていった。
「問題はそのときなんだよ、フェリクス」
「確か、ゴトフリート殿が先陣を切ったんだよな?」
「それだけじゃない。あのときの作戦立案は、実質的にゴトフリートがやったんだ」
「私の父ではなかったのか!?」
父である前ノイシュタット侯ジークヴァルトは、〝戦神〟と呼ばれるほど戦術の考案とその駆使に長けていた。
たとえ他の者が総指揮を執るときでも、具体的な作戦はジークヴァルトが立てることが大半であった。
「まあ、それが気にくわなかったんだろうな、親父さん」
「私の父はそれくらいで怒る男ではない」
「まあ、聞け。問題は、ゴトフリートのやり方だったんだ」
カセル侯は、とにかく暴動の鎮圧を最優先した。そして、そのための手段を選ばなかった。
「相当に悪辣なことまでやったらしいぜ。ロシー族をいぶり出すために森ごと燃やしたり、見せしめのために集落に火を放ったりな」
「…………」
フェリクスは、驚きのあまり声を失った。
いくらなんでも過激すぎる。それでは、たとえ暴動を押さえ込むことができたとしても、後にかならず遺恨を残すことになる。
現実にアイトルフでは、今もロシー族による反乱の火がくすぶりつづけていた。
「ロシー族だけじゃねえ、翼人の集落に対しても似たようなことをしたらしい」
「…………」
「翼人の戦士は、大半が男だ。女子供の残る集落を突くことで相手を誘い出し、混乱させようと考えたんだろうな、あのおっさん」
それによる翼人の怒りは凄まじいものがあったらしい。彼らは戦士としての誇りを重んじるといわれているから、人間による正義にもとる行為を許せなかった。
男たちだけでなく女までもが、人間に対する呪いの言葉を吐きながら死んでいったという。
「……本当なのか?」
「本当かどうかは俺も知らん。だって、人づてに聞いただけなんだから。でも、それまでずっと手こずらされていた翼人とロシー族を、なぜか短期間で黙らせた。それは事実だ」
当時のことは、あまりくわしくはわかっていない。
なぜなら、ほとんど記録に残っていないからだ。
連合軍が編成されたほどの大規模な戦だったにもかかわらず、すべてがあいまいなままなのはそのせいだった。
「あいまいなままにしておきたいと考える連中がいるってことだろうな」
「ということは、やはり知られたくないことが多くあったということか」
「そう考えるのが自然だ。ま、正攻法だけでは政治はできないってわけだ」
だから、俺は政が嫌いなんだよ、と悪態をつく。
しかし、フェリクスの気持ちはそれどころではなかった。
――もしライマルの言ったことが本当なら、あの暴動以降、父がゴトフリートと距離を置いたこともうなずける。
「でも、それだけじゃないんだな、フェリクス」
「まだあるのか?」
「聞きたくないなら話さないが」
「いや、聞かせてくれ」
正直、もう勘弁してほしいという思いもあったが、今耳を塞いでもなんの意味もない。できるかぎりのことを知っておくべきだと、理性が訴えていた。
「ゴトフリートは、味方を犠牲にすることまでしたらしい」
「――おとりに使って見捨てたとか?」
「鋭いな。いや、鋭すぎるぜ、フェリクス」
ライマルが芝居がかった様子で、大仰に驚いてみせた。
「実は、そのとおりなんだよ。森で焼き討ちにするためには、まず相手をおびき出さなきゃいけない。それで、おとりを使ったんだ」
「まさかとは思うが、敵ごと味方を焼き討ちにしたとか言わないだろうな」
「それ以外に何を言う必要がある?」
フェリクスは、額に手を当てて天を仰いだ。
最悪なことばかりだ。間違いであってほしいと思うことに限って当たってしまう。
「それで、おとりの隊はどうなんったんだ?」
「もちろん全滅さ」
「!」
「ま、見るからにあのおっさんは手段を選ばない感じだからな。〝正義のため!〟とか言っちゃって、とんでもないことをしでかすんだろうよ。フェリクスには悪いが、俺は昔からカセル侯にやばい匂いを感じてた」
「そうか……」
ゴトフリートに、妥協を一切許さないところがあるのは確かだ。自分にも厳しいが、他人にも厳しいたちの人であった。
ゆえにこそ、時に過激なことをやってしまうのかもしれない。
いい悪いの線引きを極めてはっきりとさせる侯は、信頼の置ける味方が多い一方で、完全な敵をも相当数生み出してしまっていた。
もっとも、今ライマルに話を聞くまで、そこまでのことをしているとは想像だにしなかったが。
「とにかくさ、ゴトフリートに恨みを持っている連中はけっこういるみたいだぜ? ロシー族にも翼人にも、それから味方にもな」
それが、ライマルが自由を謳歌していた頃にあちらこちらの酒場で聞いたすべてだった。
「それでなのかな、うちにマクシミーリアーンとかいうすかした野郎が来てたよ」
「マックスが?」
「ああ、うちのろくでなしどもとなんか話し合ってた。ゴトフリートを皇帝にさせないようにとかな」
ライマルにろくでなしと言われたらおしまいだと思いつつも、フェリクスはまだ白頭鷲の間にいるはずのギュンターの行動を今一度、振り返った。
――やはり、あちらこちらに〝仕掛け〟を施しているのか。
それは、ギュンターが本気であることの証でもあった。
彼も妥協を知らない男だ。自分がやるべきだと感じたことに対しては、たとえそれが卑怯なことであっても徹底的にやろうとする。
――侯のゴトフリートに対する疑念が、すでに確信へと変わっている。
しかし、まだこちらは疑念のまま。ということは、ギュンターが知っていてこちらが知らない何かがあると考えたほうがよさそうだった。
「そんなに難しい顔すんなって。まあ、どっちにしろ俺はお前に投票するけどな」
「投票って、選挙じゃないんだから」
選帝会議における決定事項は、すべて全会一致によるというのが二百年の昔からの伝統だ。次期皇帝が多数決によって決まるわけではなかった。
「俺は本気だぞ。候補がお前じゃなかったら絶対に賛成しない」
「よしてくれ。私は皇帝なんかになる気はないよ」
「お前の意見なんてどうでもいい。俺がそう思うからそうするんだ」
「あいかわらず無茶苦茶な奴だな……」
しかし、これがライマルという男だった。結局、周りのことなど微塵も考えてはいなかった。
「俺はな、フェリクス。お前だったら、この狂った世の中を変えてくれるんじゃないかと思ってるんだ、本気でな」
そう言うライマルの表情は、いつになく真剣みを帯びていた。だから、フェリクスもすぐには返事をできなかった。
しかし、あえてその言葉をはぐらかすことを選択した。まだ、ライマルの思いを受け止められるほどには、自分という人間の基礎はできていなかった。
「私ではなくてライマル、お前がなればいいじゃないか」
その答えは予想していなかったらしく、ライマルは目を見開いて驚いたが、すぐにいつものにやけた顔に戻った。
「それもいいな。俺が皇帝になって、いっそこの国を潰してしまうか」
「……本気で言ってるな?」
「当然だ。国なんてものがなくなってしまえば、俺は解放されるんだからな」
どこか恨みがましい調子で、本気とも冗談ともつかないようなことを言う。
――ライマルのことだから、何をしでかすかわかったものではない。
もし何かの間違いで皇帝にでもなろうものなら、よくも悪くもこの帝国を揺るがすようなことをしでかすであろうことは、容易に想像できた。
しかし、だからこそフェリクスはライマルを買っていた。
たぶん、すべてが行き詰まった時代に必要とされるのは、自分のような正道をゆく者ではなく、あえて奇道を進める者なのではないのか。
正攻法でやってきたからこそ、うまくいかなくなってしまった。それなのに、同じやり方で改善ができるはずもない。理屈で考えても、これまでとは違った方策を採るしかないはずだ。
自分には不可能だろうが、ライマルにはそれができる。彼が真剣に政に取り組めば、すごいことになると思うのだが。
「あー、せめてローエだけでもなくなってくれればいいんだけどな。フェリクス、ノイシュタットに併合してくれないか」
などと、当のライマルはそんなことを言っている。期待は薄かった。
「ま、どっちにしろ簡単には皇帝は決まらないだろうな。そんな感じがする」
「ああ」
フェリクスも同感だった。
ゴトフリートが有力だと言われてはいるが、皇帝の選出はこれまで以上に紛糾するだろう。最悪、今回の話し合いだけでは決まらず、またしばらく帝位が空いたままということも有り得る。
「どうなるんだろうな」
「わからねえな。でもさ、ひとつだけはっきりしてるのはゴトフリート次第ってことだ」
フェリクスは回廊の奥を見た。
当のカセル侯は、そちらから現れるはずだ。どんな考え、どんな意志をもってやって来るのだろう。
今の侯の行動は、はっきり言ってすべての予測がつかない。何をするつもりなのか、まったくわからなかった。
――願わくば、我々の同志とならんことを。
祈るように窓の外を見上げてから、フェリクスたちは白頭鷲の間に再び入っていった。