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いよいよ、ここまで来てしまった。もう引き返せないところまで。
これまで止める機会がなかったのだから仕方がない。いや、あったのだろう。しかし、決断することができなかった。
やれば、すべてが変わってしまっていた。周りも、自分も、そしてあの人も。
それが怖かった。変化が怖かった。
自分の考えが正しいという自信もなかった。相手が間違っていると言い切れるだけの根拠もなかった。
迷い、悩み、苦しみつづけた結果、いつの間にか時間だけが過ぎてしまった。決断力のなさが、すべての好機を逸することになった最大の原因であった。
だが、やはり、やらなければならないことだ。そのことを、今では確信できている。そして、それをやれるのは自分しかいないということも。
誰も助けてくれない。誰にも押しつけられない。
逃げる道もなければ、逃げ込む場所もなかった。
――これが自分の運命なのか。自分がやるしかないのか。
誰にともなく呪いの言葉を吐きたくなる。
なぜ自分が罪を背負わなければならない。
理不尽だ。
それでも、己の考えは理にかなっている。
だから、もう逃げられない。
手元にある剣の切っ先が、睨みを利かせるようにこちらを向いていた。
――まさしく自分に突きつけられた刃でもあるのか。
犠牲になるのは自分だけでいい。他の誰も犠牲にしたくはない。
しかし、あの人だけは……消えてもらわなければならない。
この世界のために。
きしむ椅子から立ち上がった。暗い影をまといながら、なおいっそう暗い闇の中へと消えていく。
すべてが動き出そうとしていた。歯車はもう巻き戻らない。