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暗闇の中で、たった一本のろうそくの炎が不安げに揺らめいている。
弱々しいその光源がそこにいる人物を、時おり、わずかばかりに照らし出す。
決断の時はいよいよ近づいていた。もはや、残された時間は少ない。悩み、迷ったままついにここまで来てしまった。
――自分が止めなければならない、この間違った流れを。
その思いは、以前からずっとあった。これからのことを思えばこそ、自分の手を汚してでもやらなければならぬことがある。
だが、決めきれないまま時間だけが過ぎ、逡巡したあげくに結局は何もできなかった。
そうこうしている間に戦いへの流れはいやがおうにも強まり、もはや自分ひとりではどうにもできない領域に差しかかってしまった。
それもこれも、自分の意志のなさが招いたことだ。
何を為すべきかはわかっていた。
その方法もあった。
しかし、どうしても決心だけがつかない。
優柔不断との誹りを免れえない。それほどに、この決断の遅れは多くの意味で致命的でさえあった。
――自分が責任を取る。何が起き、どんな結果になろうとも。
それが、せめてもの罪滅ぼしに思えた。
もはや手遅れだ、どうにもならないかもしれない。
それどころか、今から自分が動くことで、かえって最悪の事態を招いてしまうかもしれない。
しかし、もうこれ以上立ち止まっているわけにはいかなかった。
内面の葛藤が抑えきれなくなりつつあった。
たとえどんな結果に至ろうと、やらずにはいられない。
――それは、自分の傲慢なのか。
こころの奥底では、相手のことや世界のことなんてどうでもいいと思っている。すべては自分のわがままなのか。
そうは思いたくない。思いたくはないのだが、その可能性は常にあった。
どんなに高尚に思える考えでさえ、人が生み出したものである以上、かならず幾ばくかの恣意や欲が入り込んでいるはずだ。
だが、わがままでも傲慢でもいい、とにかく今は、実際の行動に移すしかなかった。
――自分にしかできないことをやろう。
あの人を止められるのは、今のところ自分しかいない。自分がやるしかない。
それがどんなにつらいことであろうと、もうこれ以上後悔しないために、そしてこれ以上巻き込まれる無辜の人々を増やさないために。
目の前にある剣を手に取る。その刀身は、ろうそくの弱々しい炎を受けて鈍く輝いていた。
これを振るわなければならないときが、確実に、近づいていた。