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空は、憎らしいほどに快晴だ。
湿気はそれほどないから蒸し暑さは感じないが、とにかく日射しが強い。夏でもないのに太陽の明るさが恨めしくなる。
ヴァイクたち一行はあれから少し休みをとり、しかしすぐにまた歩を進めていた。空は飛んでいない。
ベアトリーチェだけでなくジャンもいるからというのもあるが、ヴァイクの翼の傷はそれが許されるほど浅いものではなかった。
その影響もあるのだろうか、ヴァイクの表情は冴えない。なまじ、空がこれ以上ないというほど晴れ渡っているだけに、彼の暗さが際立ってしまっていた。
それは、他の二人にしてみても同じであった。ベアトリーチェはまた物思いに沈み、ジャンはそんな二人に挟まれてどうしたものかとずっと思案顔だ。
リゼロッテを失った影響は、それぞれが思っていた以上に大きかった。
いなくなって初めてわかる。あの少女の存在そのものが、周りを本当に救っていた。
――力が入らない。
それが、ヴァイクの正直な気持ちだった。
リゼロッテがいなくなったことの喪失感はそれ自体が問題というよりも、そのことによって気持ちが折れてしまったことのほうが厄介だった。
リゼロッテは自分の道を選んだ。
だから、自分たちはあの子と同じように選択し、その結果が出るまで邁進しなければならない。そうでなくては、それこそあの子の死が意味のないものになってしまう。
――それはわかってるんだがな……
しかし、理屈でわかっていても力が入らないということがある。今がまさにそれであった。
実を言えば、未だに思い悩んでいる面もある。リゼロッテの決意が、あまりにも高貴なものに思えてならないからだ。
――自分のために他者を犠牲にしない。
――他者を傷つけるくらいなら自分を犠牲にする。
口で言うのは簡単だ。
しかし、このことを実行できる人がいったいどれだけいるというのだろう。大人でもほとんどいないはずなのに、それをまだ幼い少女が決断した――自分の命を捧げてまで。
自分はあの子とは違った選択をしたのだと思っていた、思い込もうとしていた。
だが実際には、恐れているだけではないのか。
自分が犠牲になるかもしれないことを怖がっているだけではないのか。
――だとしたら、自分はただの卑怯者だ。
何それと理由をつけて、己の〝逃げ〟を正当化しようとしている卑劣漢だ。
リゼロッテとは反対に、自分は他者のジェイドを――すなわち命を奪いつづけることを決意した。翼人の世界ではそれが当たり前だった。
しかし、当たり前のことがかならずしも正しいこととは限らない。当然視されていたことが実は間違っていたということも大いに有り得る。戦いが当たり前の世界でも、戦いそのものが正当化されるわけではないように。
翼人は、ジェイドがなければ生きていけないというのはまさに事実ではあるが、それでも他者を犠牲にしつつ生き、そしてそのことに後ろめたさを感じていることに何も変わりはない。
これが根源的に間違った行為であり、後世の人々に許されざることであると弾劾される可能性は十分にあった。
――自分だって、この狂った軛から抜け出せるものならそうしたい。
だが、具体的にどうしたらいいのかがまるでわからず、おおよその目安さえ見えてこない。答えがあるのなら、誰か教えてほしかった。
――リゼロッテはその答えを導き出したんだ、自分の力で。
あの子にとっての答えが、みずからの命を賭してまで他者のそれを救うことであった。
それなのに、あのとき自分は何をしようとしていたのか。リゼロッテの思いを無視して、他の翼人を殺し、そのジェイドによって無理やりにでもあの子を生かそうとした。
リゼロッテのためを思ってやったこととはいえ、そこに利己心がなかったといえるだろうか。わがままな思いがなかったといえるだろうか。
「ヴァイク」
「……ん? あ、ああ。なんだ?」
突然かけられた声に、初めは自分を呼んだのだと気がつかずに少し驚いた様子で振り返ると、そこには心配げな顔をしたベアトリーチェが立っていた。
「全然、元気がないなって思って」
「自分のばかさ加減に呆れているだけだ」
「……まだリゼロッテのことを気にしてるの?」
「気にしないわけがないだろう」
「リゼロッテがああなったのは、自分のせいだと思ってる?」
「――――」
「ねえ、リゼロッテは誰も恨んでないと思うよ。ううん、きっと感謝してると思う」
あの〝ありがとう〟という言葉は、けっして立て前でもなければ嘘でもなかったはずだ。それは、あのときのあの子の顔を思い出せばよくわかる。
あれは、すべてを納得した者の表情だった。
そこには一切の余計な感情はなく、ただ穏やかなこころと、感謝の念とがあるだけであった。
「そのことで思い悩むなんて、かえってあの子に悪いと思うけど」
「……そうかな」
「そうよ」
「そうか」
そのとおりなのかもしれない。リゼロッテが今ここにいたとしたら、自分をたしなめたはずだ。
しかし現実問題として、一度悩みはじめたことはなかなかこころの中から消えてはくれなかった。
自分で自分を奮い立たせようとしても、どうにも気持ちが乗ってこない。正直、歩くことさえおっくうだ。
それを見透かしたようにベアトリーチェが言った。
「悩んでしまうなら、いっそのこと思いっきり悩んでしまったらどう? そうすれば、すっきりすると思うよ」
「簡単に言ってくれるな」
「だって、私も悩んでるから」
ベアトリーチェは苦笑してごまかすと、少し遠くを見つめる目で軽く息をついた。
「ヴァイクもリゼロッテもあのアセルスタンという人も、自分で自分の道を選んで進んでる。ジャンさんも、一緒に帝都まで行くことを自分で決断した」
「…………」
「けど、私は何も選んでない」
結局は、これまで流されるままに来ただけだった。神殿で何不自由なく暮らし、自身の人生を振り返ることはまるでなかった。今帝都へ向かっているのもオイゲーンらに頼まれたからにすぎない。
自分は、人につくってもらった道の上を淡々と進んでいるだけのような気がしてならない。みずから選択してきたうえで悩めるヴァイクたちが、少しうらやましかった。
――私はどうしたらいいのだろう。
帝都へ行くまではいい。その後、大神殿側と話をしてから自分はどうするのか。
これまでの人生で、自分で絶対に判断しなければならない局面に遭遇したことはほとんどなかった。帝都が近づいてくるにつれ、未来そのものというよりも未来における自身の判断に対して不安がつのってきた。
「みんな考えすぎだと思うなぁ」
それまで黙って二人のあとについてきていたジャンが、頭をかきながら首をかしげている。
「何が正しいとか、どうするのがいいとかなんてその時々によって違うから、今考えたってしょうがないよ。そんなことより、きちんと周りにいる人のことを考えて、その人の思いを受け止めてあげることのほうが大切だと思うな」
人間も翼人も儚い存在なのだろう。だから思い悩む。
しかし改めて考えてみれば、答えの出ないことや、もうどうにもならない過去のことに思いわずらうのは愚かしいことだ。
なぜなら、それは〝今〟を無駄にしてしまっているから。
「確かに、過去は取り返せない。だけど〝今このとき〟も、あとではけっして取り返せないかけがえのないものなんだよ。だったら、どうしようもない過去のことや、どうなるかわからない未来のことを考えるのに現在を費やしてしまうのはばかばかしいことじゃないか。それって当たり前じゃない?」
そのように語るジャンを、ヴァイクは目をむいてまじまじと見つめていた。
「お前……」
「な、何?」
「いつも美味しいとこだけ持ってくんじゃない。ジャンごときに説教されてるみたいで腹が立ってきた」
「ひどいなぁ」
本気で傷ついた表情をしているジャンを見て、ヴァイクたちは笑った。
「そうね、私たちだけ悩んでいたらジャンさんに悪いし」
「ちょっと! そういう意味で言ったわけじゃないよ!」
もう一度笑いが弾けた。そこにはもう、淀んだ空気はなかった。
「俺も、ジャンの能天気さを見習うべきかもな」
「また、どういう意味だよ?」
口を尖らせるジャンの肩を叩きながら、ヴァイクは再び歩きはじめた。
北の空に少し雲が出てきた。帝都はまだ遠いが、デューペの町の近くはすでに通り過ぎ、途中寄る予定のシュテファーニ神殿の近くにまで、すでに到達していた。
「なあ、ベアトリーチェ」
「うん」
「どうして、その神殿に寄る必要があるんだ? 俺は、できるだけ早く北へ向かいたいんだが」
ヴァイクの問いに、ベアトリーチェがきょとんとしている。
「――ああ、そうか。ヴァイクにはまだ話していなかったっけ」
何から伝えるべきかと悩んだあげく、先に要点だけかいつまんで説明しようと決めた。
「その神殿に、アリーセ様のお姉さんがいるの」
「ああ、あの……」
忘れるはずもない、アルスフェルトの神殿とともに炎の中に消えていった女。あのとき初めて会い、ほんの少しの会話を交わしただけだというのに強烈な印象が残っていた。
それに、彼女は翼人について何かを知っているようでもあった。普通の人間が翼を見ただけでクウィン族だと見破れるはずがない。
自分にも、そのシュテファーニ神殿とやらに行くべき理由ができたようだった。
「その方に以前、私もお世話になったことがあって。どうせなら挨拶に行きたいし、それに……」
ベアトリーチェは少しだけ顔を伏せた。代わりに、ヴァイクが言葉を継いだ。
「そうだな、あの人が亡くなったことを告げないと」
「ええ……」
今でも、母ともいえたアリーセがもうこの世にいないということが信じられない。
優しくて、強くて、あたたかかった母。
その彼女が最後の最後に見せた弱さを、親族に告げるべきかどうか、まだ迷いがあった。
「ずっと聞きそびれていたが、アリーセという人は翼人とかかわりがあったのか?」
「いいえ、そんな話は聞いたこともない。でも――」
思えば、アルスフェルトの上空に現れた翼人を見たとき、明らかに彼女は動揺していた。それも、ほとんどそれまでなかったほどに激しく。
なぜ翼人のことにくわしかったのか。
アルスフェルトの件は自分が招いたことだと言ったのはなぜなのか。
そして、彼女に生きることをあきらめさせるほどの〝あやまち〟とは何なのか。
あまりにも謎が多く、どうしてもアリーセの姉に直接尋ねてみたかった。
「ご、ごめん。話が見えないんだけど……」
「あ、こちらこそごめんなさい。ジャンさんに伝えていなくて」
忘れていたことを素直に謝りつつ、要点をかいつまんで伝えた。アリーセのことは、さすがにくわしくは教えられなかったが。
「なるほど。じゃあ、あの建物がそうなのかな?」
「ええ、あれはシュテファーニ神殿の屋根の部分ですね」
森の木々の隙間から、ちらほらと建物の屋根の尖った部分が見える。まだ少し距離はあるものの、目的地まであと少しであった。
ただ、そこから道は険しくなる。ヴァイクが一緒にいるため、人間がよく通る街道筋を進むわけにはいかない。必然、獣道のような悪路を行くしかなかった。
「俺はここまでだな」
ある程度神殿まで近づいたところで、ヴァイクが足を止めた。
「ヴァイク……」
「翼人の俺が堂々と神殿まで行くわけにはいかないだろ? それに、こんなご時世だ。ジャンの村みたいに、変な騒ぎになるかもしれないしな」
アリーセの姉とやらにいろいろと聞いてみたいことはあったが、少なくともいきなりこちらの顔を見せるのは問題があるような気がした。
まずは、ベアトリーチェが挨拶に行くというのが筋だ。
「ヴァイク、ごめんなさい。あとでかならず戻ってくるから、しばらくはここで待って――」
「その必要はないわ」
横合いからの声に、全員が跳び上がりそうなほどに驚いた。ヴァイクでさえも、その気配をまったく察知できなかった。
「――って、ノーラ様!」
「久しぶりね、ベアトリーチェ。ふふ、だいぶ大人の女って感じになったわね」
木々の陰から、ひとりの女性が現れた。長い波打つ黒髪が胸まで伸び、鳶色の瞳はどこかいたずらっぽく輝いている。服の袖が邪魔なのか、二の腕のあたりまでぞんざいにまくり上げていた。
「本当にお久しぶりです。ご無沙汰してしまってすみませんでした」
「いいのよ、そちらもいろいろと大変だったんでしょう?」
ベアトリーチェは、はっとした。
「……アルスフェルトの件、ご存じなんですか?」
「ええ、そのことを聞いていたから、たぶん向こうの神殿の誰かがこっちへ来るなって思ってたのよ。まさかそれがベアトリーチェで、しかもこんなにばったり会うことになるとは思わなかったけれど」
そう言って、いたずらっぽく笑う。どうやらあまり細かいことにはこだわらない、ざっくばらんな印象の女性のようだった。
だからなのか、ヴァイクの姿を見てもノーラに感情の変化はまったくなかった。
「驚かないんだな」
「なんで驚く必要があるの」
「なんでって……人間だったら普通はそうなるだろう?」
「でも、この世界に翼人がいるのは当たり前なんだから、どこかで会ったとしても不思議はないでしょう?」
「それはそうだが……」
と言って、ヴァイクは言葉に詰まってしまった。
ここまであっけらかんとされると、かえって拍子抜けしてしまう。どうにも、調子が狂わされる相手だ。
互いに簡単な自己紹介を済ませると、今度はジャンのほうに向き直ってその手を固く握りしめた。
「はじめまして。あなたは、ベアトリーチェの彼氏か何か?」
「ノーラ様!」
「い、いえいえ! 私は彼女たちと一緒に帝都を目指していまして、途中でたまたま知り合っただけなんです」
「なるほど、旅の中で生まれた恋ってわけね。私は、こちらの男性のほうが好みなんだけど」
好き勝手なことを言いながら、妙な視線をヴァイクのほうに向ける。それを受けた側は、ぞくりと何か危ない気配を感じさせられた。
「ノーラ様、いい加減にしてください!」
「ふふ、冗談よ。どちらを選ぶかはあなた次第だものね」
言いたい放題に言ってから、それでもまたジャンのほうへ目を向けた。
「でも、あなた。前にどこかで会ったような……」
「え? 初対面のはずですが」
「そう。まあ、いいわ。それより、こちらにいろいろと伝えたいことがあるみたいね」
「はい」
ベアトリーチェは深くうなずいた。いろいろありすぎて、どれから伝えたらいいものか迷ってしまう。
「本当は、全員うちの神殿に来てもらっておもてなししたいのだけれど、そちらの方が大変になってしまうでしょうね」
「俺たち翼人は、基本的に外のほうがいいんだ。気にする必要はない」
「そう。じゃあ、私たちもここで話しましょう」
あっさりとそう決めると、近くにあった木の根を椅子がわりにしてどっかと腰かけた。男の前だというのに思いっきり足を広げて座っていることが、この人の性格を物語っている。
「こっちのほうでは、アルスフェルトの妙な噂ばっかり流れていてね。実際のところはどうなっているの?」
翼人の集団が町を壊滅させただの、人間の心臓を喰らっただの、しかもカセル侯軍が助けにこないだの、普通では考えられないことが風評として伝わってきた。
そのせいで、ただでさえ人間の翼人に対する警戒心が強くなっているから、なおさら翼人の彼を神殿に入れさせるわけにはいかなくなっていた。
「残念ですが、そのほとんどが本当のことなんです。アルスフェルトでは……あってはならないことがたくさん起きてしまいました」
改めて思い返せば、自分でも信じられないようなことばかりだ。大好きな故郷の町をむちゃくちゃにされ、多くの人々が倒れ、友人たちも犠牲になった。
しかもそれを行ったのが、よりにもよって翼人だった。もしヴァイクという人と出会わなければ、今でも彼らのことをこころの底から憎んでいたに違いない。
「じゃあ、アルスフェルトの神殿が焼失したっていうのも本当なのね?」
「――はい」
ベアトリーチェはうつむいた。ノーラの目を見ていられなかった。
しかし、彼女には伝えなければならない、アリーセの娘である自分こそが。
「その混乱の中、アリーセ様は……」
「言わなくていいわ。もうわかったから」
顔を上げると、ノーラは優しく微笑んでいた。そのあたたかさとアリーセの面影に耐えきれなくなって、目に涙がたまっていく。
我知らず、ノーラの胸に飛び込んでいた。
今までひとりで背負い込んできた思いが弾ける。
アリーセは、自分で最期の場所を選んだ。それはわかっている。
しかし、自分のせいでああなったのではないか、自分が無理に町へ行かなければ神殿の襲撃は防げたのではないか。
今さら考えてもどうにもならないことはわかっているものの、それでも考えざるをえない、そして実際に考えてしまっている自分がいた。
それもノーラに打ち明けたことで、幾ばくか救われたような思いになれた。やっと背にあった積み荷の一部を下ろせたような気がした。
「アリーセは、あの子は自分で選んだんでしょう?」
「どうして……」
――それを?
ノーラは、疲れたようなため息をついて口を開いた。この女神殿長がそういった姿を見せることは、かなり珍しいことであった。
「前からそんな予感はあったの。アリーセにも昔、いろいろあったから」
「俺もそれについて聞きたい。あの人は、翼人のことをなぜか知っていた。それに、アルスフェルトが翼人にやられたのは自分の罪のせいだとも言っていた。どういうことなんだ?」
「そう、そんなこと言っていたの……」
少し考えてから、ノーラはベアトリーチェをゆっくりと起こした。
「ヴァイクくんも、アリーセのことを知っているのね。じゃあ、本当のことを伝えたほうがいいのかもしれない」
「そ、それなら俺は席を外します……」
「ああ、いいのよ。ジャンも一緒に聞いて。あなたはこの二人にとって大きな鍵になる気がするから」
「はい?」
「いいから、そこにいろってこと」
「は、はい」
命ぜられるがまま、その場に直立不動の姿勢になる。
そこまでしろとは言ってないのだが、とノーラは笑ったが、すぐに表情を真剣なものに戻してベアトリーチェらに向き直った。
「あの子は昔、大きなあやまちを犯してしまった。それは聞いた?」
「ええ、そのせいで二人のひとの人生をめちゃくちゃにしてしまったと……」
「そうね、結果的にそうなってしまった。本当は、すべてがアリーセの責任というわけではなかったんだけど」
ひとつ間を置いてから、核心に迫ることを告げた。
「あの子はね、かつて翼人の男と恋に落ちたの」
「えっ!?」
「森で賊に襲われそうになっているところをその翼人に助けられたらしいのよ。人間の争いに翼人が手を出すなんて、実際には珍しいんでしょ?」
「そうだな、普通は相手にしない。よほどの物好きでないかぎり」
その物好きのひとりが自分だという自覚のないまま、ヴァイクが言った。
「大半の翼人は、人間とは住む世界がまるで異なると思っている。人間同士が争っていても、野生の生き物が喧嘩しているのを見るのと感覚的には大差ない」
だから、いちいちそれに介入しようとはしなかった、通常は。
「だけど、その人は助けてくれた。あの子も初めは怖かったらしいんだけど、話をしているうちに何か惹かれるものがあったらしくて」
周囲には内緒でこっそりと密会を重ねるうち、二人の仲はどんどん親密なものになっていく。
やがてそれは一線を越え、互いの将来を誓い合うほどまでになっていった。
(つづく)