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第三章 the actual situation
全てが上手くいく、たった一つの方法
 悪魔から借り受けた力と、龍の力を併せ持ったその力は他に比類なく、悪魔とも対等に戦える程の力を持った「龍王の血」。
 葉月の心臓を流れる血を得たならば、その「龍王の血」の力を手に入れる事が出来る。
 ――吸血鬼であれば、誰でも。……葉月から、それを奪うことが出来るならば。

 だが。

 「……私の力も、命も、全て私の物であり、あの男の物ではない。――あの男の良いようにはさせたくない……あの男にだけは、何一つくれてやりたくはありません。……ですが、朔海様――貴方にならこの力を喜んで譲りましょう……」

 と、葉月は言った。

 「私の血を得たならば、龍王の血の力を得られる……。皆様――とくに私の父であるあの男はそう考えているようですが。……残念ながら、私の心臓を食らい尽くした所で、それだけではこの力を我が物とすることは叶いません。……数千年、謎とされた龍王の血を我が物とする条件ですが。……それはある意味、とても簡単で、しかし同時に恐ろしく難しい」

 魔獣の最上位とされる龍族。“獣”と称されてはいるが、とても誇り高い種族である。
 血を介して力を奪われたという事実から、かの龍は自らを打ち倒した龍王の力を認め、その力を行使する事を許したが。
 「かの龍が認めたのは、あくまで龍王自身の力です。……血を介し、かの龍が持っていた力は、その血を継ぐ子孫全てに確かに受け継がれています。ですが、かつてその力の主であった龍の魂も、力と共に継がれ、かの龍がその者の力を認めない限り、力を使う事は叶いません」
 ――つまり。
 「……貴方の中にも、龍王の血は継がれています。しかし、かの龍は貴方自身を認めてはいない、と言う事です。――まあ、当然でしょう。かの龍王が打ち倒した龍とは、龍族の中でもヴイーヴルと称される種類のもの。知能は低く大変好戦的で、敵味方の区別無く襲いかかる凶暴な魔獣です。……ただし、龍王がしたようにそれを打ち倒して屈服させ、己の主と認めさせたならば、これ以上ない程理想的なパートナーとなる訳ですが。……貴方のお優しい気性では、当然かの龍は納得しないでしょう」
 だから、朔海の中の龍王の血の力は眠ったまま、目覚めずにいる。
 「ですが、私の持つ『龍の力』は、他とは少々性質の異なるもの」
 葉月の言葉に、朔海は頷いた。
 「私の血には、かつて龍王が倒した龍とは性質の違う、もう一つの龍の力が宿っています。――白龍という、神龍とも称されるかの龍は、ヴィーヴルとは異なり、争いを好みません。……その血を得た上で、貴方がかの龍の主となれたならば……」
 “力が全て”が掟の魔界に於いて、それだけの力を得たなら、王も、紅狼も、他の誰であろうと朔海に干渉してくる事はもう無くなるだろう。
 「しかし、既に下されてしまった貴方の結婚に関する命令に関しては……」
 「ああ。一年後、僕が伴侶を選んでいなくとも、僕自身への干渉は無いだろうけど……」
 彼の母や実弟らは無事には済むまい。
 「紅龍様にも、王としての体面というものがありますからね。下した命が遂行されなかった分の代償は必要でしょう」
 彼らの犠牲を朔海が望まないのならば。
 「一年以内に伴侶を得なければならない訳ですが」
 「……………………」
 俯き、押し黙る朔海に、葉月は言った。
 「――純血と言っても、ただそれだけでは特に価値のあるものではありません。単に、人の血の混じった半吸血鬼ではないというだけの話で、真に重要なのは受け継いだ血の質――すなわち、これまで取り込んできた力」
 例え、目覚めぬまま眠った『龍王の血』も、武器として振りかざすことは叶わずとも、いざ命の危機に陥った時には生来の生命力を補う等してその真価を発揮する。
 「始祖直系の血、龍王直系の血、そして白龍の血の力を持つ貴方の血に勝る血は存在しません。その血を以ってして儀式を執り行なうならば――血の力を眠らせたままでも相当の力を得ることになるでしょう」


 ――紅姫は、言った。
 「吸血鬼は、人間を吸血鬼どうぞくへと変えられる」
 朔海が、咲月を同族へと招き入れる事が可能なのだと。
 「朔海様に下された命は、一年以内に結婚を済ませる事。だけど、そのお相手に関しては、特にこれと言った注文は無かったそうだから。……吸血鬼どうぞくの女性なら誰でも構わない、という訳で」
 そう、例えば、元は人間でも。

 「貴方が私の血を吸って得た力を彼女に与える。咲月君を同族に迎えて貴方の伴侶とし、貴方の力で彼女を守り、共に生きる――。それが。……それこそが。全てが上手くいく、たった一つの方法」


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