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閑話・前「大人のガチャ」

ジンタたちは、騎士シルヴィの案内で女勇者クリスティとその仲間のジェラールを加えて、王都を観光することに。

だが、途中に、アイテム賭場の看板を発見してしまい……。


 王都が地元の女騎士シルヴィの案内で、おれたちは名所と呼ばれる観光地をいくつか歩いて回った。


 どこもかしこも人が多くて、さすがは王都と言ったところだった。

 昼食を済まし、次なる名所へとむかう途中にそれはあった。


 町の景観なんて関係ないと言わんばかりの派手な三階建ての建物。


【アイテム賭場】


 看板にはそうあった。


 ログロの町の店舗とは建物自体の大きさが全然違うな。


 ぴたり、とみんなが足を止める。


 誰もついて来ないのに気づいたシルヴィが振り返った。


「ああ。ここが、王都の【アイテム賭場】だ」


 ゴクリ、とリーファとクイナが喉を鳴らす。

 やばい、興味津々だ。


「あ。ええっと【アイテム賭場】というのは――」

「そのくらい知ってるから」


 リーファが遮ると、クイナと一緒に景品表を食い入るように見つめた。


「まったく、シルヴィさんときたら、わたくしたちを田舎者扱いして」

「そうよねー。田舎者はクイナだけなんだから、一緒にするのはわたしたちに失礼よねー」

「誰が田舎者ですか」


 リーファとクイナがいつものように仲良く小競り合いをはじめる。

 こそこそ、とクリスティが訊いてきた。


「あの、カザミさん……アイテム賭場というのは何なんでしょう……?」


 みんなが知っているから訊きにくかったんだろう。

 おっほん、とシルヴィが機会を得たと言わんばかりにクリスティに説明をはじめた。


 ふんふん、なるほどー、とクリスティは主旨を理解したようだ。


 けど、さすが王都。


 ガチャ屋にレートがいくつかある。


 通常より料金が安い設定のローレート。これは景品表を見る限り、ローリスクローリターンのガチャ設定みたいだ。

 それと、ノーマルレート。これはいつものやつだ。

 そして、ハイレート。


 高額ガチャで超レアな景品が当たるかも、というハイリスクハイリターンガチャ。


 それと。


 おれの目を引いたのが、最後の景品表。


『大人のガチャ』


 ……なんだ、これ。

 レート的にはノーマルレート以上、ハイレート以下のミドル設定。


「ジンタ君……大人のガチャに興味があるみたいだね?」


 耳元でジェラールがささやくもんだから、ゾゾゾゾ、と鳥肌が立った。

 いきなり近寄ってくんじゃねえよ。びっくりした。


「いや、景品表に普通アイテムが書いてあるのに、これだけないだろ? どうしてなんだろうと思って」


 イケメン眼鏡は、

「そんなの決まってるじゃないか」

 と、至極当然のように言う。


「プライバシーを守るためだよ」


「プライバシー? ガチャに? そんなの守る必要あんの?」


 何が当たるのかさっぱり見当がつかない。

 要らないものを当てても仕方ないんだから、わざわざ金を使う必要もないだろう。


 そういえば、シャハルがいなくなってる。

 さっきまでひーちゃんといたのに。

 ちょんちょん、と服の裾を引っ張られた。


「ご主人様、ボク、おこづかい欲しいの」


 ひーちゃんもやる気だ……。

 けど、みんなで観光している最中にしなくっても……。


「カ、カザミさん! 私、ガチャというのをやってみたいんですけど……」

「じ、実は私も、こういったものをしたことはないのだが……一度、体験したい」


 クリスティがおずおずと挙手すると、シルヴィがもにょもにょと言った。

 ウチのメンバーもやる気満々みたいだし、せっかく遊んでるんだしケチケチしても仕方ない、か。


「よし! じゃ、いっちょやろうか」


 おれたちは店舗の中へ入る。

 一階がローレート、ノーマルレートの二種類。二階ががハイレート。三階が例の大人のガチャコーナーのようだ。


 カランカラン、と店員が持っている鐘を鳴らした。


「今から大人のガチャコーナーにおきまして、割引キャンペーンと同時に大当たり二倍キャンペーンを開始します――」


 へえ。安くなる上に当たりやすくもなるのか。


「みんな、上に行きましょう」


 キリッとした顔でリーファが親指をぐいぐいとやる。

 キャンペーンに乗っかるつもりだな、この女神様。


 ていうか、景品がどうこうじゃなくて、ただ当てたいだだろう。

 みんな納得して階段で三階までのぼる。すると、声が聞こえてきた。


「だぁーかぁーらぁー、ゆうてるやん。当たらへんって」

「うるさい! バアルがそのようなネガティブ発言をするから運が逃げているのだ。自重するがよい」


「あー! まぁたお金無駄にする。アカンって! 何がそない欲しいねん」

「本音を教えてくれるアイテム」


「どーせ、ジン君のやろ? そんなん面と向かって訊ぃたらええやん。あ、シャハルちゃんヘタレやからアカンか」


「――あっ……、バアルが横でうるさいからまたハズレたではないか」


「なんでやねん。ウチ関係ないやん。ちょ、あ、もおっ! ジタバタせんといて! 自分何歳やねん」


 フロアにやってくると、大人のガチャコーナーの前で魔女のシャハルと召喚された悪魔のバアルちゃんがケンカをしていた。キシャーと目じりを吊り上げて臨戦態勢だった。

 幸い、他にお客さんはおらず、フロアにはおれたちだけだ。


「おーい、やるなら外でやれよー?」


 魔女と悪魔が本格的に戦いだしたら店が潰れちまう。


「あ。ジン君、聞いてぇやぁー。シャハルちゃんが――」


 ふわふわ~、とバアルちゃんがおれのほうへ飛んでこようとすると、シャハルが後ろから口を塞いだ。


「ば、バアルはもう帰るがよいっ! 余計なこと言うのをやめよっ」


 それでもなかなか帰ろうとしないから、口を塞いだままシャハルはフロアを出ていった。


「「本音を教えてくれるアイテム……」」


 ぼそっとリーファとクイナがつぶやく。


「まず、わたしが先陣を切るわ!」

「何を言っているのですか、リーファさん。その役目はわたくしが――」


「どうせ本音を教えてくれるアイテムが欲しいだけでしょー?」

「そうですけれど何か問題でも? 先を譲ってくださらないなんて、リーファさん、胸だけではなく心も小さいのですね?」


 リーファとクイナがバチバチと火花を散らしていると、するすると間を縫ってひーちゃんがカウンターに一万リン札をのせた。


 カウンターは仕切りがあり、いつもは店員がいるのに見えないようになっている。お金を受け取れるようにだけなっていて、小さな穴が開いていた。


 なんか怪しい……。


「何回ガチャされますか?」


 見えないけどむこうに店員がいるらしい。


「できるだけ、ガチャガチャしたいの」

「では一五回ですね」


 隣の垂れている幕の内側から、見慣れたガチャボが現れる。

 シルヴィもクリスティも自分がしているかのように緊張してひーちゃんを見守っている。

 カプセルを開けてはポイ。開けてはポイしていると、ピョンとひーちゃんがその場で跳ねた。


「当たったのー!」


 何色の石だったんだろう。ひーちゃんはお金を入れた場所に石を置くと案内に従って奥へ行ってしまった。

 どっちが先をやるかで揉めるリーファとクイナをスルーして、クリスティとシルヴィがガチャをする。


 初ガチャはういういしくていいですな。

 おれが二人の雄姿を見守っていると、ひーちゃんがアイテムを持って出てきた。


「ご主人様~! 武器が当たったの~! 火を使えるボクにぴったりなの」


 てててて、と嬉しそうに駆けてくるひーちゃん。

 その手には、ロウソクがあった。


「ひーちゃん、それ、武器じゃなくて明かりを灯すアイテムだから――」

「となれば、僕のターンだろう!! ひー君、カモン」


 バサッとジェラールが隣で上半身裸になると、両手でちょいちょいと招く。

 ふっ、とひーちゃんが息を吹きつけると、ロウソクに火がついた。さすが火竜。


「えとえと、こうするって、教わったの」


 四つん這いでスタンバってるジェラールの背中の上でロウソクをかたむける。ロウがピチャンと落ちた。



「あっっっっづっっっ――!?」



「ご主人様! 効いてるの!」


「誰だ! ひーちゃんに邪な使用法を教えたやつ!!」

「変態特効のアイテムって教えてもらったの」


「ま、間違いじゃない!?」


 嬉しそうにジェラールは悶絶していた。


「カザミさーん! 私も武器が当たりましたよ―!」


 ガチャが終わって景品を受け取ったクリスティがほくほく顔でやってきた。


「少々扱いが難しいそうですけど、マスターすれば攻守を一手にこなせる武器です! 実戦でもかなり役立つそうですよ?」


 持っていたのは鞭だった。


 持ち手の部分に『変態特効・女王様専用』ってある。


「そうそう、これで対象を思いっきり叩くと楽しくなって怖い実戦も大丈夫! ――って違うわ! そういう実戦じゃねえよッ!!」


 おれは四つん這いになっている『試し切り』用のジェラールを指差す。クリスティにはジェラールでその威力を知ってもらうことにした。


「ジェラール、いきますよ?」

「イエス、カモンッ」


 ピシャンッ


「あうちっ」


 効いてる効いてる。嬉しそう……。


「私、これを特訓します!」


 元勇者は、次は女王様を目指すらしい。

 シルヴィも当たったらしい。クリスティの後ろで瓶を手にしている。


「えっと、シルヴィは何が当たったんだ?」

「ああ。これなんだが、私は武器ではなくて入浴グッズが当たったのだ」

「入浴グッズ??」


 見れば、瓶の中には透明な液体が入っている。


「うむ。なんでも、これを体に塗ってこすると気持ちいいそうなのだ」


 瓶の蓋をキュポンと開けて、少量手のひらに出す。

 ねろん、としていて、とろみがあって、ねちゃねちゃしていた。

 うんうん、とシルヴィはうなずいている。


「使えば、肌ツヤもよくなりそうだな」

「風呂は風呂でも、それ違うお風呂グッズだから!!」


「?」


 シルヴィにきょとんと目を丸くされた。


 説明された『気持ちいい』は、たぶんシルヴィが思っている気持ちいいじゃない。

 このクソ真面目騎士様にはお風呂の違いなんてわかるはずもないのか。


『大人のガチャ』ってそういう意味かよ……。


 クリスティはというと鞭を構えていて、


「こう来たら――こうです!」


 ピシュン、と鞭を振るっている。



 この人もだよ。性の知識に踈すぎるんだよ。用途は武器じゃないんだよ……。



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