表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/114

61話



 おれたちはアステが教えてくれた場所へと一気に飛んでいく。


 他よりも大きな樹があり、その周囲がやや拓けている場所――。

 そこを見つけ急降下する。


 これが、大精樹……?

 毒々しい緑色の葉に、複雑怪奇に絡みあった枝と根とツル。

 健康的な生命力じゃなく、どことなくギラギラしていて、見ていると落ち着かない。


 確かに他とは全然違う。

 もっと、荘厳なものを想像していたけど、悪い意味で違いを感じた。


――――――――――

種族:大精樹

状態:狂暴化(バーサク)

名前:グラン・ドミヌス

Lv:67

HP:33000/33000

MP:33000/33000

力 :1200

知力:2600

耐久:1600

素早さ:40

運 :0


スキル

ドレイン 幹棒 甘樹

大地針(地中から鋭い根を伸ばす攻撃)

敬慕(周囲の存在からHPMPを吸いあげるスキル。ドレイン強化版)

――――――――――


 みんなをアイボから取り出すと、アステがまた狼モードに入った。


「ヴォオオ、ォウウウ! ――ダメにゃ。ボス、全然返事してくれないにゃ……」

「腰を落ち着けて話そうっていう状況でもなさそうだな……」


 またさっきみたいに樹魔がわらわらと湧いてくる。


 リーファがスキルを使う。

「彼者の患いを祓い給え――『リカバリ』」


 大精樹の体を光が包む。


「ジンタ、どう――?」

「一瞬、狂暴化の異常状態は治ったけど、すぐに元に戻った」


「他に何か原因があるということでしょうか――?」


 弓と風魔法を駆使しながら敵を攻撃するクイナ。

 ひーちゃんも同様にブレスを吐いたり、尻尾で樹魔を追い払ったりしている。


「カザミ、どうする。このままでは敵に押し潰されてしまうぞ」


 アステは諦めず、大精樹との意思疎通を図ろうとしている。

 もしかしたら、アステの呼びかけになら応じてくれるかもしれない。


「大精樹の反応を待つ。それまでアステを援護するぞ」


 おれはMPを消費させ、【黒焔】を放つ。

 範囲系の超攻撃魔法は、数十の敵を一掃した。


 けど、またしばらくすると、周囲は樹魔で溢れはじめた。


「ヴォウ。正気に、戻るにゃ――ッッ!」


 ガァァ――ンッッ!


 アステの放った渾身の拳が、大精樹の幹に叩きつけられる。


「……?」


 拳を見ては、不思議そうにアステは首をかしげている。


 ザグンザグンザグン――ッ、と地中から槍のように鋭い根が伸びアステを攻撃する。


「手の内は知っている、にゃッ――」


 ひらりとバックステップを踏んで回避する。

 リーファが深刻な顔をする。


「こうなったら……女神ぱんちをボスに放つしか」

「――やめとけ」


 全力で止めておいた。攻撃スキル(笑)を試すような時間はない。


「カザミ、あれを」


 シルヴィが大精樹を指差すと大精樹の体から魔力が滲んでいた。

 次の瞬間、どろんと体が重くなる。


 アステが攻撃した大精樹の傷が元に戻った。

 回復した――?


 スキルにあったな、そういや。ドレインの強化版ってやつが。


―――――――――――

種族:人間

名前:風見仁太

Lv:55

HP:10000/10500

MP:6100/6800

力 :2850

知力:2100

耐久:600

素早さ:450

運 :999999


スキル

黒焔 灰塵

―――――――――――


 HPとMPを抜きとられている。おれ以外のみんなもそうだ。


 HPギリギリだった樹魔が回復していった。


 大精樹を見ると、ドレインをしたときと同様、魔力が体から滲んでいた。


『植物って根から養分を吸収するじゃない。けど大精樹の場合、逆に放出することもあるの』


 ……やっぱり、大精樹が森林化の原因じゃないのか。

 おれたちから奪ったHPMP――生命力で、瀕死の樹魔を回復させた。


 他の樹魔も、おれたちのHPとMPが還元されたのか、活力を取り戻した。


 ドレインで吸い取ったものを樹魔にむけて放出したんだろう。


「アステ! ボスはどうだ?」


 アステは耳をしゅんと垂らして、ゆるく首を振った。


「全然、ダメにゃ……。もうこうなったら……!」


 ヴォルルル、と唸るアステ。歯を食いしばると、裂けた口から牙がのぞいた。


「ボスは言っていたにゃ。ワシを倒してから行けって。だから――ウチはボスを倒して(ここ)を出て行くにゃ――ッ!」


 それでいいのか、なんてことは訊かない。


 アステの人狼としてのパワーと素早さ、そして手にある肉球。

 あの肉球が、もしかしたら滑り止めになるんじゃないのか。

 ……もしかすると、アレが使えるんじゃないか。


 物は試しだ。


 おれはアイボから魔砕槌(ミョルニル)を取りだす。


「アステ! これ使えるか?」


 相変わらずクソ重い。デュルンッッッ――! あ。また手が滑って落としちまった。


「その武器、遠慮なく使わせてもらうにゃ――ッ」


 おれが落とした魔砕槌を拾うアステ。

 肉球が上手いこと滑り止めになっているのか、ガシッと魔砕槌の柄を掴んでいる。


「この白い物体、なかなか美味にゃ」

「食べてるぅう!?」


「この一撃ならぁああああ――ッ!」


 魔砕槌を構えてアステはボスに接近する。


 その間アステを襲撃する、矢のように乱れ飛ぶ木の葉をおれは叩き落としていく。


 アステが振りかぶった槌を幹に叩きつけた。


 ――――――ドゥンッッッッッッ!


 押し寄せた衝撃波に思わず一歩後ずさった。

 耐えきれなかった魔物は例外なく吹っ飛んでいる。


 幹はというと、爆破された後のようにぽっかり穴があいていた。


「ちょ、何よこれぇ……」


 リーファもクイナもひーちゃんも驚いて動きを止めている。


 さすが、おれの魔焔剣と同じSSS(トリプル)のアイテム。

 凄まじい威力だった。


 大精樹の体から魔力が滲む。


 回復する気か――。


「リーファ! ドレインしている箇所は根でいいんだよな!?」

「うんっ! 生命力――魔力の放出も根からよ!」


 ってことは、根と本体を切り離せばいいんだな。

 そうすりゃ、吸収も放出もされない。


 おれは【灰燼】を発動させ、地面にむけて剣を振るう。


 ザンッッッ!


 相変わらず最高の切れだ。

 大地の裂け目から、巨大な根が断ち切れているのが見えた。


 リーファの神光やクイナの風魔法が敵を一掃していく――。


 ひーちゃんに騎乗し地面を高速移動する。

 みんなの援護を受けながら大精樹周囲の地面を切り裂いていった。


 切った地面だけを見ると、大精樹を中心に円になる。

 これでもう吸収も放出も出来ないはずだ。


「ジンタ! 今はいいけど、すぐまた根を伸ばしちゃうから……なるべく早いほうが」

「ああ、わかった」


 おれが一度アステに目配せして合図を出す。

 アステもうなずいて、また魔砕槌を振りかぶって――。


 そのまま止まった。


 育ててもらって、一緒に今まで暮らしてきたんだもんな。ためらうのも当然だ。


 ひーちゃんに乗ったまま大精樹に近づくと、アステが泣いているのがわかった。


 森林化調査自体は完了しているけど、また根を伸ばして魔力を放出すれば、いずれまた違う村が森に呑まれる。


 ここで、放置して帰ることは出来ない。


 魔焔剣を抜き放ち、おれは固まったまま涙を流しているアステの肩を叩いた。


「ごめんな、アステ。……たぶん、おれはお前に恨まれると思う」

「……っ……っ」


 頬を涙で濡らすアステ。

 魔砕槌を落とすと体が徐々に縮んで、少女の体に戻った。


「ごめんにゃ…………ウチには、出来なかったにゃ……ジンタくん、ボスをおねがいします……。倒すつもりだったのに、いざとなると……ダメだったにゃ……」


 がるがる、とひーちゃんが慰めるようにアステの頬を舐めている。


 おれとひーちゃんが抜けたせいか、シルヴィ、クイナ、リーファの三人が徐々に樹魔の大群に押され、包囲されつつあった。


 迷っている時間はない――。


 大精樹には、もう意識があるのかどうかもわからない。

 でも、もし意識があったとしても、痛まないように――。


 構えた剣を全力で振り抜き――ズバン、と大精樹を両断した。


 手応えはない。

 ああ、最初、アステが殴ったときに首をかしげたのにも納得がいった。


 太い幹を切ったんなら、もっとずしんとした手応えがあるはずなのに――。


 断面を見てみると、中はほとんど空洞のようになっていた。

 そういう魔物なのか……?


「リーファ! 中がスカスカなんだけど――これって」

「スカスカ? それはわかんない。でも、普通きちんとあるはずよ?」


 おれは全然気づいてなかった。


 あんなに多くの森の魔物やその他動植物に影響を与えた大精樹の魔力の正体――。


 キィィイイイイン――。


 大精樹の体から真っ青な光が漏れはじめた。


 また体が凄まじい勢いで修復されていく。


 切ったはずの根も繋がり元に戻った。


「この光――」


 最近どこかで同じような光を見た。

 どこだったっけ……ああ、そうだ、ゴーレムの!


「ジンタ! たぶんどこかに――」

「魔石だな!」


 魔物や植物に影響を与えた魔力――それは、魔石の魔力でもあったんだ。


 どこかに大精樹が魔石を取りこんじまったようだ。

 ゴーレムのとき同様、魔力供給をする魔石を除去しないと。


「ジンタくん、ボスはどうしてしまったのにゃ……?」

「魔石っていう、凄まじい魔力の結晶を取りこんだらしい。大精樹のその魔力が魔物の狂暴化や森林化の原因みたいだ」


 ひーちゃんがブレスを吐いて大精樹を攻撃する。


 焼け焦げた体が青く発光し、すぐに修復されていった。

 これもゴーレムのときと同じか。


 大精樹の根や枝を使った攻撃がはじまる。


 素早く伸びる枝を叩き斬り、幹を切りつける。

 断面から中がのぞけるけど、どこに魔石があるのかはわからない。


「……体の中はあんなにボロボロでスカスカだったのに、ボスは、きっと今もまだ森を守ろうとしているのにゃ……」


 意を決した顔で、アステは再び狼化して魔砕槌を手にとる。


「ボス、もう大丈夫にゃ……! 休んでいいのにゃ……!」


 アステ、クイナ、シルヴィが大精樹の攻撃をかいくぐり、それぞれ一撃を与える。

 けど、すぐに回復してしまう。


 リーファの神光であいた穴から、大きめの永晶石が出てくる。

 けど色は真っ黒に染まっていて砕けていた。


 他の魔物の永晶石は黒ずんでいなかったけど、砕けたのは魔石のせいか。


 ゴーレムと同じで、魔石を取り除いたらそのときが本当の最後なんだ。


 おれも大精樹にむけて力を抑えた【黒焔】をいくつか撃つ。


 爆破という表現がふさわしいくらい、木端微塵になる大精樹。


 また自己修復をはじめるとき、ひと際強い光を放つ場所を見つけた。

 大精樹の体内は空洞。おれが迷わず飛びこむとアステもついてきた。


 体内は本当にボロボロだった。

 魔石は、取り込む以前の体は修復しないらしく、回復してもほんの少しだった。


 徐々に体が小さくなってアステが少女化する。


「魔石を取りこんだのは、きっと昨日今日の話じゃなくて、もっとずっと前のことに違いないにゃ……ずっとずっと森を守るために一人で踏ん張っていたのにゃ……。ジンタくん、今度こそはウチがやるにゃ。ボスと、お別れを……」


 ツルが絡みつく魔石を見つけ、アステが手を伸ばす。


「ボス――貴方に拾われて、名前をつけられ、育てられて、強くなったよ。もう、ウチは大丈夫にゃ。……ありがとう。おやすみなさい――」


 ツルをほどいていき、魔石と大精樹の体を完全に離す。


 すると。

 バラバラ――と体が崩れはじめた。


 ここは危ない。

 おれはアステの手を引き、【灰燼】で穴をあけて大精樹の体内を脱出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ