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57話



 ようやく落ち着きを取り戻したシルヴィは、訥々と自分のことを教えてくれた。


「バルムント家は代々騎士の家系で、私も幼少の頃から父上様や教師にあれこれと教わっていた。あまり出来の良いほうではなかったが、どうにか騎士として認められ、栄誉ある陛下の近衛騎士として平和な王都で毎日を過ごしていた」


 だから、訓練はしたことはあるが、実戦経験はないのだとか。

 王都には魔物なんて出ないし、近衛騎士が戦いに赴くような戦争なんてものもない。


「道理で色々と知らなかったのか」

「うむ……。今回、検分官としてここに来たのも、私のことを落ちこぼれ扱いする父上様を見返すために志願したのだが……皆の迷惑になってしまったようで、申し訳ない……」


 しょんぼり肩を落とすシルヴィにおれは笑みをむけた。


「そんなにヘコむなよ。誰だって初めてはあるんだから。迷惑になんて思ってねえよ」


 おれがみんなを見ると、全員揃ってうなずいた。


「魔物をいっぱい倒して森林化の調査して、お父さん見返してやろうぜ?」

「あ、ああっ! ……ありがとう」


 とは言ったものの、調査に関しては何の手掛かりもないのが現状だ。

 魔物の凶暴化が、森林化と関係ありそうなんだけどなあ……。


 ひーちゃんがあの火竜であることも説明しておいた。

 とんでもなく驚いていたけど、何度か人化を繰り返しようやく信じてくれた。


「竜種を従えているなんて、カザミ……君はやはり、相当名のある冒険者だな? 本名を隠しているのだろう。うむ、言わずともよい。詮索するような野暮はしない」


 と、シルヴィは言う。

 どうしてもおれを高名な冒険者にしたいらしい。


 ぼこぼこ、と地中から半透明の20センチあるかどうかの小人が現れた。


――――――――――

種族:邪地精

状態:狂暴化(バーサク)

名前:チグー

Lv:39

HP:100/100

MP:6/6

力 :20

知力:5

耐久:2

素早さ:555

運 :80

――――――――――


 さらに、数は増え、あっというまに30を超した。

 手にはミニサイズの木剣を持っている。


「「「「ぐるぅーー」」」」


「あっ、わわわ、か、カザミ、でで、出たぞっ」

「落ち着けって。大丈夫だから」


 一斉にバラバラに動き出したチグー。攻撃は大したことないだろうけどすばしっこい。


 クイナとひーちゃんの中遠距離攻撃でも一掃できず、こっちにむかって疾走するチグーたち。

 ちょこまかと動くからなかなか鬱陶しい。

 地面すれすれをめがけて剣を薙ぐと数体まとめて倒せた。


「がるがる!? がうっ!?」


 声に振りかえると、8体ほどがひーちゃんに取りついて木剣でチクチク攻撃している。

 くるくると回ったり尻尾で払ったりするけど、なかなか振り落とせないでいた。


 ひーちゃんがジタバタするから、万一当たったことを考えると攻撃出来ねえ……。


「ひーちゃん、ストップ、ストップ! 動かないで!」


 リーファも言うけど全然聞こえてない様子だ。


 杖くらいならひーちゃんに当たったところでダメージはないだろう。

 けど、万一を考えるとちょっとためらってしまう。


「はぁッ」


 短い気合いの声とともに、シルヴィが槍を一閃。

 穂先にチグーを突き刺した。

 それを何度か繰り返し、出現したチグーの全滅を確認した。


「なんだ、落ち着いて戦えば結構な腕じゃないか」

「……夢中だった」


 肩で息をしながら、シルヴィは晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた。


「シルヴィ、ありがとなのー」


 人化したひーちゃんがちっちゃな手でシルヴィの手を握った。


「はうあ……かわいい……」

「?」


 シルヴィが抱き締めようとする。

 ひーちゃんはするりと逃げておれの後ろに隠れた。


「むっ」

「……がう。抱っこしていいのはご主人様だけなの」


 忘れかけるけど、一応プライドが高いことで有名なドラゴン様だ。

 そう簡単に抱っこは許さないらしい。


 慣れたらクイナみたいに背中に乗せてくれるんだよなあ。

 ちょっとした人見知りみたいなもんなのかな。


 クイナが落ちていた永晶石を回収して、いくつかをシルヴィに渡した。


「シルヴィさんが倒した魔物の永晶石です」

「あ、ありがとう。……これが、私の手で倒した……」


 じいん、と手にある永晶石を見つめるシルヴィ。

 わかる。わかる。はじめて倒した魔物って、なんか感慨深いよなあ……。


 おれがはじめて倒したとき……。ベヒモスを【黒焔】でドカーンだったな……。

 ごめん、ウソついた。感慨もクソもなかった。


 チグーが落とした永晶石もヒビが入っている。

 異常状態のせいか、それともここの魔物はみんなそうなのか?


 シルヴィは回を増すごとにテンパらなくなっていった。

 そのお陰でおれたちのパーティは安定度が増した。


【防御陣形】のスキルで耐久があがるし、長年訓練しただけあって槍さばきも上々。

 リーファとクイナを心配する回数もぐっと減った。


 再び現れたチグーの群れと戦っているとき。


「ひぁあんっ!? ちち、チグーが、ふ、服の中にっ!? か、カザミぃ~っ」

「チグーの奴め……けしからんな」

「ご主人様がうれしそうな顔でシルヴィ見てるの」

「そんな顔してません」


「シルヴィはわたしが対処するから。ジンタは他!」

「へいへい」

「ご主人様、ちょっとざんねんそうなの」

「解説せんでよろしい」


「はぁぁんっ、ジンタ様ぁ~わたくしの胸の間にチグーがぁ」

「けしからんな……まったく」

「ご主人様、だまされちゃダメなの。あそこにチグーはいないの」

「もお、真面目に戦いなさいよっ! ウチのメンバーは何でこんなにユルいのよっ!」


 そんな一幕もありながら、おれたちは魔物を討伐しながら森を行く。

 討伐は順調だけど、森林化問題はまださっぱりだ。


 ひーちゃんに乗せてもらい空から森の様子を窺うけど、特別何かがおかしいって箇所も見当たらない。


「もう夕方か……。今日はこの辺にして帰ろうか」

「がるう」


 ひーちゃんがゆっくり降下しはじめる。

 拠点の位置は空からだとよくわかる。そこだけ木がないから。


 そこで何かが二つ動いた。片方はゴーレムで……あれ、もう片方は何だ?

 ゴーレムと何かは、ぶつかったり離れたりを繰り返している。


 ――あれ、戦ってるんじゃないのか。しかも、ゴーレムと張り合っている。

 てことは……結構強い。

 

「ひーちゃん、拠点まで頼む! ゴーレムが何かと戦っているっぽい!」

「がる!? がう!」


 キャンプ地に近づくにつれ、戦っている相手が何なのか見えてきた。

 二足歩行の獣だった。犬や狐に似ている。体格はゴーレムよりも少し大きいくらいだ。


 ゴーレムが押されはじめ、体がバラバラに壊れていく。

 前回みたいに修復していくけど、追いついていない。

 やばい。確かに元に戻るけど、コアを攻撃されたら――。


「ヴォォオオオオオオゥウウウン――ッ!」


 雄叫びがここまで聞こえてくる。


「ひーちゃんは戻ってこのことをみんなに伝えて欲しい。帰り道、魔物に注意するんだぞ?」


 そう言って、おれは拠点上空から飛び降りた。


 今では一方的にゴーレムが攻撃されている。

 手足はもげて、胴と頭がごろんと転がっている状態。


「ヴォオォオオウウン!」


 敵は、犬顔にピンと尖った耳。赤い舌と長い牙が口から出ている。

 毛むくじゃらのケダモノだ。


「ウチのゴーレムに何しとんじゃワレぇえええええええええ――ッ!」


 落ちてきた勢いをそのままに剣で敵の頭をぶっ叩いた。


 ゴン――ッ!


「ニャゥン!?」


 足をフラつかせて敵は大の字に倒れた。


 しかし、何なんだこいつ。このキャンプを襲いに来たのか?

 まあ魔物に訊いても仕方ないか。


 ゴーレムは現在自動修復中。

 そこいらに腕の破片や足の一部が飛んでいて、戦闘の凄まじさを物語っていた。


 倒したのは倒したんだし、永晶石回収しておくか。


「さーて、色は何色か、な……ん?」


「きゅぅぅ……」


 倒れている女の子がいた。

 小麦色の艶のある短めの茶髪に、尖った耳が頭頂部から生えている。


 髪の毛と同じ色のワサッとした尻尾もあった。


「やだ、誰これ……」


 困ったときのステータス。


――――――――――

種族:人狼

名前:アステイル・ザガ

Lv:36

HP:2100/10500

MP:200/200

力 :650

知力:5

耐久:230

素早さ:500

運 :70


スキル

雄叫び(自身の戦意を高揚させる。力・耐久・素早さ微上昇)

獣連撃(両手足を使った高速の連続打撃技)

――――――――――


 おれがここに到着したときに女の子なんていなかった。

 人狼ってことは、ゴーレムと戦っていたデカい二足歩行の獣は、この子なんだ。


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