54話
検分官の騎士様ってのが最寄りのザガの町にいるそうで、その人に簡単に面通ししてからクエストをはじめられるそうだ。
ログロの町で食糧を買えるだけ買って、アイボに詰め込む。
食糧だけで相当な量になるけど、アイボはその点かなり便利だ。
どれだけ入れても重くならない。
ひーちゃんに乗ってザガの町まで飛ぶ。
ザガの町は、最初に辿り着いた町、ホヒンのような典型的な田舎町だった。
おれみたいに集められた余所者らしき冒険者たちをよく見かける。
店の数も宿も少ない。
もう到着していたユニオンが買い漁ったのか、食糧は品薄状態だった。
ログロの町で買っておいて正解だったな。
「検分官の騎士様とやらに会いに冒険者ギルドに行かないといけないらしいけど、騎士ってのはどういう人なんだ?」
「うんと、ジンタの世界でどういう人かはわからないけど、この世界では、簡単に言うと近衛兵のことよ。王都勤めのエリート様ってところかしら」
称号としての騎士もあるそうだ。
由緒正しい家柄の子弟がその身分を得て、栄えある陛下警護の近衛騎士となることが多いため、最近は近衛兵のことを騎士と呼ぶこともあるんだとか。
数で比べるなら、地方よりもやはり王都が圧倒的らしい。
「貴族の出が多いですから、横柄な態度を取る方もいるそうですよ、ジンタ様」
「貴族ってだいたいそんなイメージあるよな」
「ご主人様にしつれいをしたら、ボク、火吐くの」
「やめなさい」
冒険者ギルドに着くと、いつものように空いたカウンターの席に座る。
受付に現れたお姉さんに名前と用件を伝えると、すぐに高価そうな上着を着た女の人がやってきた。
「君がカザミ・ジンタか」
白い肌に透き通りそうなほど青い瞳でおれを見る。
綺麗な金髪は結いあげて後ろでまとめてあった。
腰には、これまた高そうな長剣を差している。
顔立ちも整っていて、お嬢様、というほどではないけど、良家の出なんだろうなと思わせる気品があった。
「はい。おれがカザミです」
「シルヴィ・バルト・バルムントと言う。……後ろの者は?」
「あぁ、仲間です。気にしないでください」
怪訝そうにしつつ、シルヴィさんはテキパキと説明をはじめた。
「今回、ザガの森での魔物討伐は、倒した魔物の永晶石の数で評価する。森林化調査に関しては私も同行する」
「え。ついてくるの……?」
「イヤな予感なの……この人にご主人様を取られてしまいそうで、ボク、とても心配なの……。リーファもそう思っているの」
「わわわわ、わわ、私は違うからっ、なんかやりにくそうだなって思っただけだから!」
「カザミ、君一人だっただろう、クエストの依頼があったのは。こんな小さな子供まで森に連れて行くつもりなのか?」
「ええ、まあ、はい。戦力になるので」
「戦力? こんな子供が?」
シルヴィ騎士は眉をひそめる。その発言に気分を害したらしいひーちゃんは、ぷくと頬を膨らませている。
騎士さんからはひーちゃんの背中にある翼が見えないみたいだ。
「相わかった」
うむ、と深刻にうなずく騎士さん。
「子供を頼らざるを得ないほど切迫している状況だ、と。だがそれでも王国のために死力を尽くそうと言うのだな?」
「……なんもわかってねえぞ、この人」
「子供が最前線で戦い、騎士たる私が後方で報告を待っていてはバルムロス家末代までの恥となるだろう。調査と言わず、魔物討伐でも私が力を貸そう!」
「「「いえ、結構です」」」「なの」
「そう遠慮をしなくてもいい。待っていてくれ、すぐに準備をしてくる」
ひらりと上着の裾をはためかせ、奥へ消えていった。
「人の話を聞かないタイプの人だったな……」
「どうするのよ、ジンタ。ついて来ちゃうわよ?」
「まあ、いいんじゃねえの? 他はユニオン単位でクエスト参加してるけど、おれはほら、みんなしかいないし、多いほうが危険も減るだろ」
「それもそうね……」
ステータス、ちゃんと見てなかったけどエリート様なら問題ないだろう。
しばらくすると、ガシャコンガシャコン、と音が聞こえてきた。
音のほうを見ると、全身プレートアーマーの変質者がいた。
ヘルムもきちんとフルフェイス。
重装歩兵の手本かというくらい、でっかい槍にでっかい盾を持っている。
「「「…………」」」
「そうまじまじと見てくれるな。照れる」
「やっぱあんたか! え、どこ行く気!? 戦場? これから森に行くんですけど……」
フルフェイスだからか、声がこもって聞こえる。
「当たり前だろう。魔物魔獣の跋扈する危険な森だからこそ、この装備なのだ」
「わたし、激しく不安なんだけど……」
「ええ、リーファさんに同意です……」
――――――――――
種族:人間
名前:シルヴィ・バルト・バルムント
Lv:35
HP:6400/6400
MP:4000/4000
力 :370
知力:310
耐久:330
素早さ:140
運 :30
スキル
一閃(槍を装備した際、与ダメージ増加)
防御陣形(パーティ全体の耐久上昇 MP消費50)
――――――――――
別段、何かが特別劣っているってわけでもない攻守万能型だ。
「せめて脱ぎましょう、それ? 動きにくいでしょ?」
ガシャリ、と両手が胸元に動く。フルフェイスだから表情がわからない。
「ぬっ、ぬ、脱ぐだと!? は、ハレンチなっ! 白昼堂々そのようなことを騎士の私にむかって、その反応を楽しんでいるのだろう、この変質者め……!」
「全身プレートアーマーの奴に言われたかねえよ。……知らねえぞ? 森の中でひいこら言っても」
おれもこの前クイナが当ててくれたベヒーアームスの胴当てと籠手をつけている。
他の鎧に比べてずいぶんと軽いから、さほど邪魔でもない。
けど、プレートアーマーは見たところ結構重そうだし、森の中だと歩きにくいことが予想される。シルヴィ、即体力なくなりそうだ。
鎧ずくめの怪人物がひーちゃんに手を伸ばす。
「さあ、はぐれないように私と手を繋ごう。なに、心配は要らない。王都一、二を争う槍使いの私が森でもキミを守ろう。さあ。さあ手を――」
「イヤっ」
ててててて、とひーちゃんはおれの後ろに隠れてシルヴィを警戒の眼差しで見つめる。
顔も見えないし声もこもって聞こえる。それがひーちゃんには不気味に見えるらしい。
しゅん、と肩を落とすシルヴィ。そおっと近づくと、ひーちゃんもそおっと距離をとる。
「……」
「……」
シルヴィがもう一度手を伸ばすと、
「がるッ、はぁああ、ふうっ」
ボホォウウ、と小さな炎を吐いた。
「ふわぁっ!? え、火?? えっ??」
「こら、怪人物に火ぃ吐いちゃダメだろ?」
「がう……」
「子供が火を吐くわけがない。私の見間違いだろう」
シルヴィはうんうん、と一人で納得している。
おれたちは自己紹介もそこそこに、早速町を出てザガの森へむかう。
そんなこんなで、女騎士のシルヴィが同行することになった。