51話
アジトに戻ると、地下ではクイナとメルデスが戦っていた。
メルデスは魔物使いらしく、鞭を振りながら十数体いる魔物を指揮している。
それらは檻の中にいた魔物らしく、ほとんどの檻が空になっていた。
対するクイナは風魔法で応戦。
ひーちゃんはというと、ドラゴンのまま部下たちを威嚇していた。
下っ端たちは震えあがっている。
リーファはアジトの残骸の中から杖と他の何かを探していた。
「おーい、お前らのリーダー失神してっから、こいつ連れて帰ってくれ」
「「「「リーダー!?」」」」
全員の視線がこっちに集まった。一人が剣を手に駆けよってくる。
「ンの野郎――、リーダーに何て真似してくれやがる!」
「やめろ! これ以上俺様に恥かかすんじゃねえ――。テメエらが束になっても敵いやしねえ。テメエら、帰るぞ」
いつの間にか起きていたらしい。
「アジト、ここなんじゃないのか?」
「ハッ、ユニオンランク13位ともなりゃいくつもあるんだよ」
不敵に笑うが、痛みに時どき顔を歪ませた。
おれは駆け寄ってきた部下にラウルを渡す。
「カザミィイイイ! 今度俺様に会うときまで、誰にも負けるんじゃねえぞ?」
「うるせーよ。安心しろ、もう二度と会わねえから」
「それはどうかなッ!! カハハ――いでぇえ……脇腹超いてえ……」
脇腹を思いっきり押さえて、部下たちに肩を借りながらラウルは去っていった。
うるさ迷惑なやつだったな……。もう二度と会いませんように……。
ぱたぱた、とクイナが駆け寄ってくる。
「ジンタ様、ご無事でしたか」
「ああ、見ての通り。クイナも問題なさそうだな」
「はいっ。あの魔物使いに少々手こずりましたけれど……」
確かに、あのメルデスってやつも結構凄腕なのかもしれない。
それぞれの特性を活かして組織的に魔物を指揮していた。
べろん、とドラゴンひーちゃんに頬を舐められた。
「だから舐めるなってば」
「がるぅー」
頭を寄せてくるので、撫でてあげた。
戻ってきたリーファが、少し離れたところで輪に入りにくそうにしている。
「リーファ?」
「……あの、今回は……ごめんなさい」
ぺこん、と頭をさげた。
「何でリーファが謝るんだよ? 悪いのは、誘拐するやつだろ」
「そうですよ、リーファさん」
「がうがう」
リーファは顔を伏せた。
「……もしかすると、私、見捨てられちゃうんじゃないかって……」
「何でそうなるんだよ。見捨てるワケねーだろ。…………仲間なんだから」
口にするのはちょっと照れくさい。
「ジンタ様なら、わたくしたちがどこでどんなピンチだったとしても、きっとやってきてくれます。わたくし、そう信じています」
「はは。そうなるように頑張るよ」
苦笑いをして、おれは肩をすくめた。
「がる、がうううがあ!」
ひーちゃん、何言ってるのかわからんぞ?
「……それで、リーファさん、ちゃんと準備出来たのですか?」
「え? あ。……う、うん……」
「そうですか。……ひーちゃんさん、あちらの通りにパインゴのジュースが飲めるお店があるそうですよ? 果肉入りだそうです」
ぴかり、と体が光ってひーちゃんが人化する。
「あっち!? あっちなのっ!? それはほんとうなのっ!? あの実のジュースに果肉を入れてしてしまうなんて、革命的な発想なの……!」
「それではわたくしたちは、ジュースを飲んできますね?」
ひーちゃんと手を繋いだクイナは、半壊したアジトから出ていった。
「これは貸しね……いつか返さなきゃ……」
「何か言ったか?」
「う、ううん! な、何でもない……」
リーファがこっちをチラチラ見てくる。
「おれたちも行こうか、ジュース飲みに」
「あ。ままま、ま、ま、待って、ください……」
「何で敬語?」
わたわた慌てたかと思うと、しぅぅぅぅ、と湯気を出してうつむくリーファ。
少しの間無言が続く。なんか気まずい。……どうしたんだ?
もぞもぞ、とリーファはポケットをまさぐって、小箱を取りだした。
「こっ、こ、こっ、これっ、これぇ……」
「落ち着けって。声、裏返ってんぞ」
「あ、ああ、あげるぅ――っ!」
ずい、と突きだされた小箱を受け取って中を見ると、銀色の指輪があった。
【SR レジストリング 異常状態防止効果】
「おお、なんか良さそうなアイテム。これを、おれに……?」
「そ、そうっ! えと、私、男の人からプレゼント、もらったことなくって……この前もらった首飾りが、はじめてで……。そのぅ、だから……」
「それでおれにも、プレゼントを、ってこと?」
「あ、あ、あくまで、おおお、お返し、お返しだからっ、へへへ、変な意味、ないからっ! にあにあに、似合いそうって思っただけだからっ」
「お、おう……」
「い、いいい、要らないなら、捨てていいからっ!」
「いや捨てねえよ」
「別に、ジンタにあげるプレゼントのために色んなお店見て回ったワケじゃないんだからっ! そのせいで警備クエストに遅刻なんてしてないんだからっ」
……したのか。
リーファがクエストを一人ではじめたのって、金を貯めてこっそりプレゼント買うためなんじゃ?
人差し指を入れてみるとぴったりはまった。
うん、リーファ良いセンスしてる。指輪をはめた手を見ながらそう思った。
「ほら。結構良い感じ。……ありがとう」
手を見せながらお礼を言うと、リーファの表情がほころんだ。
「えへへ……よかった」
少し頬を染めながら、とびっきりの笑顔を見せてくれた。