50話
◆Side ジンタ◆
昨日、さんざんおれたちがリーファを探しまわったあと、家に手紙が届いていた。
簡単に言えば誘拐文書だった。アジトに来い、さもなくば~ってやつ。
アジトはロマの港町にあった。おれたちは手紙を受け取ったあとすぐひーちゃんに飛んでもらい、ここまでやってきた。
アジトの地下には今、壁に埋まった手甲をつけている赤髪の男と、以前見かけたローブの人がいた。あとは部下らしき男。
リーファの目元が少しだけ腫れているのがわかる。
それ以外は何かされたってワケじゃなさそうだ。
剣で檻を斬り飛ばすとリーファが出てきた。ひしっとおれに抱きついてくる。
肩を抱くと体が震えているのがわかった。
無理もない。ちょっとヤバかったからな、赤髪の攻撃。
一瞬でも遅れていたら取り返しのつかないことになったかもしれない。
落ち着かせるため背をさすって頭をなでた。
「無事で良かった。遅くなってごめんな。帰ろう?」
「――うん……ありがとう、ジンタ……」
パラパラ、と壁の欠片の落ちる音がしてそっちを見る。
頭を振った赤髪の男が、満足気に笑っていた。
「カハハハ、やべえな、アンタ。ホンモンだ! 俺様を吹き飛ばすたあ、やってくれるじゃねえか!」
「しぶといな、お前」
改めてステータスを確認する。
――――――――――
種族:人間
名前:ラウル・ハードハート
Lv:77
HP:6000/32000
MP:780/800
力 :1300
知力:230
耐久:600
素早さ:1200
運 :80
スキル
穿孔
(拳に魔力を付加した強力な物理攻撃。防御貫通・対象の耐久2割減の効果を持つ)
闘魂
(HPダメージを受ける回数に応じて力上昇)
――――――――――
こいつ……今まで見た人間の中で一番強い。スキルも超強力。
単純な素早さは……ひーちゃんママ級かよ。
やっぱグーパン一発じゃ、こんなもんか。
「神官さんは、アンタと戦うためにちょいと出汁に使わせてもらった。来なかったらそんときは奴隷か……本当に嫁としてもらうつもりだったけどな、カハッ」
「……たったそれだけかよ」
「あん?」
「たったそれだけのことにリーファ巻き込んでんじゃねぇ――ッッ!!」
おれ以外の全員が緊張に身を固くした。
クイナもリーファもひーちゃんも、ビクリと肩をすくめておれを見る。
ブルった部下の男は後ずさり腰を抜かした。
ラウルは、強張った表情に笑みを貼り付けた。
こいつは、どうやらおれ目当てらしい。
「ここじゃ狭い。他の人を巻き込んじまう。町の外に出よう」
「ヤル気満々ってぇツラになったじゃねえか! オーケーいいぜ、やろうぜェ!」
ラウルの瞳には狂気の光が見えた。
わらわら、と部下の冒険者風の男たちが地下におりてきた。
全員殺気立っていて戦う気満々だ。
「クイナ、ひーちゃん、リーファ。ここを頼めるか?」
「もちろんです」
「がるっ!」
「任せて!」
「さあ、行こうぜ――。アンタの熱い魂見せてくれよ」
港町を出ておれたちは平原にやってきた。
「しつこくされると困るから――」
おれはラウルにむかって人差し指を立てる。
「もう一撃。それでお前を黙らせる」
「カハハハハハハ――笑わせてくれんよォ! 低ランク冒険者がぁあ――ッ!!」
ラウルが低い姿勢のまま駆けてくる。
――相当速い。
ステータスの素早さは伊達じゃないってことか。
「アンタの一撃はもう当たらねえ! なぜなら! 今まで敵を沈めてきた最速必勝の【穿孔】が先に当たるからだ!」
「よくしゃべるやつだな」
ズガガガガガ――、そんな擬音が相応しい速度で肉薄してくる。
両腕を体の後ろにやると、魔力の薄い膜がラウルを覆う。
――来る。
「かわしてみやがれぇぇええええええ――ッ!!」
腕を覆った淡い魔力光が赤く色づいていた。
ラウルの残MP3!? どんだけMP使ってんだ。ガチの全力じゃねえか。
右、左、どっちの拳だ――?
「両方だボケぇええええええええ――ッ!!」
攻撃前に言っていいのかよ。って思ったけど、
速い――。
確かに教えようがこの拳速なら関係ないな。
「俺様の熱い拳を受け取りやがれぇえええええええ――【穿孔】ぉおおおおおおおおおおおおおおおぅッ!」
「うるさい」
ラウルの脇腹にむけておれは鞘に入れたままの剣をフルスイング。
「おぶふっ――!?」
ラウルが吹っ飛んでいく。……50mくらいは飛んだか?
ラウルがむくりと起きて立ちあがった。
「カハハハハハハハハ――ッ! 待っていた、俺様は待っていたんだぁああ!」
「まだ立つのかよ。……何を待ってたんだよ……暑苦しいやつ」
「俺様をぶっ飛ばす存在が現れるのを! カザミィイイ! 今日この瞬間から、俺様はお前を倒すためだけに拳を鍛えに鍛え抜く――!」
「うわ……めんどくさ……」
「アンタは俺様が越えるべき壁だ――! カハハハハハ――ははは……はは……は………………」
こっちを指差して笑ったかと思うと、グルンと白目をむいてぶっ倒れた。
「迷惑なやつ……」
このまま魔物のエサになればいい、とも思ったけど、本当にそうなるとさすがに寝覚めが悪い。
人を見殺しにするっていうのはさすがに気が咎める。
こんなことしてやる義理もないけど、仕方なく気絶しているラウルを担いで、おれは町に戻った。
――ランクF【ガチャ荒らし】、ランクS【朱甲】を二度の戦闘において完全撃破――
その一報は港町ロマを中心に一斉に広まっていった。




