42話
特別な力が何も要らないんなら、今までだって使えたはずだ。
それを訊くと、
「ちゃんとスキルを覚えないと込められないの……魂が」
「あー、そーですか」
気持ちの問題かよ。
これ以上そのスキルについてツッコミは入れないことにして、先を進む。
場所でいうと今は地下8階。探索をしつつ落ちているアイテムをごっそりいただく。
「次を左に曲がって、突き当りを右。そしたら、下に降りられるわ」
相変わらず便利だよなあ、リーファナビ。
ダンジョン内を迷わないってだけで、安心感が全然違う。
「ジンタ様が読まれた精霊文字の中に『護り手』、という一節がありましたけどあれは何のことなのでしょう」
「私にもそれはわからないけど、護り手って言うくらいだから大事な物が近くにあるってことじゃないかしら」
「このダンジョンのボス的な?」
「かもね」
リーファのレベリングを兼ねてアイテムを収集していく。
地下9階を過ぎて、さらに10階へ進む。
「ここが最下層か」
地下10階は、7階と同じような造りの大きなフロアとなっていた。
違うのは、天井まで伸びる石柱が等間隔に立てられていることだ。
薄暗い中目を凝らすと、奥のほうに人型の何かがいるのがわかる。
「なんだ、あれ?」
近づいていくけど、誰もおれについてこない。
「あ、あれって、たぶん、アレよね……」
「わ、わたくしも、物語の中だけでアレのことを聞いたことがあります……」
アレってどれだよ。おれが余所見していると、
ゴゴゴ、ゴゴッ
物音と共にソレが立ちあがった。
見あげるほど大きな体は、3メートルくらいありそう。
体はすべて岩。
胴の真ん中が淡く光っている。そこから導線のような青い光線が腕や脚や頭のほうに走っていた。
――――――――――
種族:傀儡
名前:ゴーレム
Lv:61
HP:10800/10800
MP:0/0
力 :4800
知力:0
耐久:4600
素早さ:120
運 :30
スキル
服従者(傀儡固有スキル 主の命令を遂行する)
――――――――――
「……侵入者、ヲ、排除、スル」
片言っぽく言うと、胴体より太い腕を振りあげた。
「なあ、このゴーレムが護り手なのかー?」
「うん、そうかも! って、ジンタ、前、前!」
ブォオン、と振りおろされる岩の拳をひょい、とよける。
拳は地面にヒビを入れた。衝撃のせいかパラパラと天井の破片が降ってくる。
護り手ってことは、このゴーレムが何か護ってったってことだよな?
「おれがこいつの気を引いておくから、その隙に」
「わかりました。精一杯エールをお送りさせていただきます!」
「そうじゃねえよ」
「ご主人様ぁーがんばるのー!」「ジンタがんばってー!」「ジンタ様ぁ愛してますぅー」
「話を聞けぇえええっ! 誰だ、今どさくさに紛れて告ったやつ!」
いや、声援自体は素直に嬉しいんだけど。
「……排除、スル」
組んだ両手をおれの頭上に落としてくるゴーレム。
まあいい。こいつを倒したあとゆっくり探そう。
剣を抜くと同時に【灰燼】を発動させる。
黒い焔が一閃。おれの剣はゴーレムの両手を切り飛ばした。
ズシン、と両手が落ちる。すぐにゴーレムの傷口から淡い光が、切り飛ばした両手に伸びた。
「?」
ずずずず、と光に引きずられ、手が腕にくっつく。傷口に付近の石やら何やらが吸着しすべて元通り。
「なんじゃそれ!? 自己再生? リーファ、これは……」
おれが振り返ると、不敵な表情をしていた。
「任せて……! 私が今、【女神ぱんち】をお見舞いしてあげる」
「やめとけ」
「……排除、排除、排除」
拳をぶんぶん振ってくるゴーレム。
くっついた箇所が脆いなんてこともなく、元気いっぱいだ。
腕を切ろうが脚を切ろうが関係なく再生していく。
あの薄青の光が自己再生させてるみたいだ。
それはヘソのあたりを中心にして全身に行き渡っている。
「……これで、どうだッ!」
【灰燼】を発動させたまま、おれはヘソに突きを入れる。
剣が岩の体を突き立つ。
ガシン、と岩の奥に硬い手応えがあった。
この硬い何かがコアってことなのか?
「……排除――」
うおっと。
おれがかわしたふたつの拳は、メギッと石柱に食い込んだ。
ん、動きが止まった? そうか、手が石柱に食い込んで抜けないのか。
「クク、クフフ、フハハハハ――! 自己再生がなんぼのもんじゃい――!」
おれは剣を振り回し、胴の岩を切り飛ばしていく。
例のごとく自己再生していくけど、おれの攻撃のほうがダメージは上だ。
すぐに、コアらしきものが見えてきた。
真っ青な丸い鉱石が台座の上に載っている。
これがゴーレムのコアだな?
コアを抜くと、「排除、排除」ってずっと言っていたゴーレムが静かになった。
淡い光もなくなり、今は岩の置物みたいになっている。
【SSR魔石:高純度の魔力結晶体 純度が高過ぎるため人間が魔力を直接取り込むのは危険】
魔石か……魔物の体内から出てくる永晶石とはまたちょっと違うみたいだ。
魔石が置かれていた台座には、文字が書かれていた。
『此処 侵入し者排除 精霊槌 護』
このゴーレムの主が命じた指令っぽいな。
日本語……じゃなくて、古代精霊文字でそう書かれている。
「あ。もしかしてこの命令……書き換えられたりして?」