30話
今回から中編に入りますー
次の日、宿を出たおれたちは、クエスト報告をするため冒険者ギルドへむかった。
担当してくれたアナヤさんを見つけ、カウンターの席につく。
「今日はどのようなご用件でしょう」
「先日受けたクエストの報告をしに来ました」
おれはしまっていたゴブリンの永晶石20個と鑑定書を取りだした。
「あら。さすがベヒモスを倒したカザミ様。お早いですね」
にっこり笑ってそう言った。
「いえ、たまたまですって。仲間も頑張ってくれましたし」
鑑定書の検分をしはじめて、うんうん、とアナヤさんはうなずいている。
「これなら問題ないでしょう」
「あ。あと、ゴブリンの巣らしきものを森で見つけて、そこにいた巨大ゴブリンもついでに倒しておきました」
「はぁ……?」
まばたきをしまくっているアナヤさん。
おれが何を言っているかまだわかってないみたいだ。
「商品を運搬中によく襲われるっていう話だったじゃないですか。それで、どこかに巣があるんじゃないかと思ったんです」
「えぇ……はぁ……」
「それで、ゴブリンの巣窟を見つけたんです」
アナヤさんが地図を取りだすと「この森よ」と後ろからリーファが場所を指差した。
「ここに、ゴブリンの巣が?」
「はい。盗品とかもいっぱい見つけたんで調査とかそういうの、お願いします。わかる範囲でいいんで、持ち主に返してあげてください」
「私の仕事がすごく楽になるぅぅぅありがとうございますぅさすがカザミ様ぁ」
すごい猫なで声だ! キャラの崩れ方が半端ねえ!
「ええっと……楽になるんですか?」
「ええ、ええ、それはもう。商人たちから護衛クエストの依頼がたくさんありましたし、ログロ商会からもどうにかしてくれ、とせっつかれていた案件でしたので」
アナヤさんは羽根ペンを取りだしておれに渡した。
書類上の手続きを教えてもらいながら済まし、報酬を受け取った。
アナヤさんがファイルを取りだしてパラパラとめくりはじめる。
「次のクエストはすでにお決めでしょうか?」
「いえ。今のところは何も」
「それでは、これなんてどうでしょう。半年近く前の捜索クエストなのですが」
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『Eランク 行方不明人の捜索』
場所:―
成功条件:ライン・フリードマンの居場所を突き止めること。もしくは有力な情報。
条件:なし
依頼主:アルダディース商会
報酬:100万リン(居場所を突き止めた場合。情報のみなら内容に応じた額)
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「人捜しか……って報酬100万!? 結構貰えるんですね……」
「ええ。最初はこれほど高くなかったのですが、日が経つにつれて、足取りも掴みにくくなりますので、それで報酬を上げているようです」
やってもいいけど……情報が名前だけじゃ、捜しようがないな……。
後ろにいるクイナが訊いた。
「どうして依頼者はこの方をお捜しなのでしょう?」
「ライン氏は、先方が資金的に援助していた研究者だそうです。それが突然、研究資料と共に姿を消してしまったそうなのです」
お金を出していた商会からすれば、研究成果を持ち逃げされたようなものだ。
ふうん、とリーファが鼻を鳴らす。
「このクエスト、依頼側は取り消さないのね。ずいぶんと時間が経っているようだけど」
「ええ。先方もずいぶんとお捜しの方のようです」
もう少し話を聞いてみて、出来そうにないなら別のクエストを紹介してもらおう。
半年前に行方不明になった人を捜すって、そう簡単なことじゃないだろうし。
「リーファ、アルダディース商会って?」
「ここから北西にあるロマっていう港町を拠点にしている商会で……」
そこでリーファは言葉を切って声を潜めた。
「武器や奴隷、使役用の魔物の売買を中心に活動している大商会よ。だから、荒事にも慣れているし、傭兵団や国軍、国外にも顔が利くって話。ゴロツキみたいな私兵もたくさんいるの」
商会が支援して研究をさせていたけど、そのラインさんは研究資料とともに突如失踪。
組織が捜して見つからないのに、おれたち数人が捜して見つかるのか?
「これが、ライン・フリードマンという人物の人相書きでございます」
アナヤさんがファイルから一枚を抜きとり見せてくれた。
髪の毛はちょっと長めで、小太りで四角い顔に眼鏡をかけている男だった。
なんとなくだけど、生物の先生にこういう人がいそう。
ひょこ、とひーちゃんがカウンターの上に顔を出した。
「がう。このひと、家のひとなの」
「ひーちゃん知ってるの?」
「ごはんを食べさせてくれた家のひとだから、ボクしってるの」
「家の人?」
「ご主人様たちの家に、まえ住んでいたひとなの」