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29話


 そういえば、今日は朝食以外に食べた物って、パインゴ以外何も食べてなかった。

 もう夕暮れを迎えて、食堂や飲み屋からはいい匂いが漂っている。


 ぎにゅぅ……。


 変な音がした。なんだ、ぎにゅぅって!?


「お腹すいたの、ご主人様……」


 さっきのは、ひーちゃんのお腹の音だったらしい。


「じ、実は私も……」


 リーファが控えめに挙手。クイナも恥ずかしそうに手をあげた。あ、うん。おれもだ。


 要するに、みんな腹ペコだったみたい。

 ゴブリンを狩った稼ぎもある。ここはケチケチせずにぱーっと使おう。


「お金も出来たし、夕飯は豪勢な物を食べよう。食べたい物があるんなら何でも食べよう」


「ご主人様、ボク、ゴブリン食べたいのっ! ゴブリン、ゴブリンっ!」


 すげーテンション上がってる! え、てかゴブリン食いたいの!?


「それはやめとこうか。……ごめんな、『何でも』って言ったクセに」


 がうー、と残念そうなひーちゃん。

 さすがにゴブリンは守備範囲外だ。

 ドラゴンからすると、ゴブリンって美味いの?


「わたしはお肉が食べたい!」

「お魚です! 太りますよ、リーファさん」

「うぐぅ……そ、それは困るかも……」


「両方食えるところに行けばいいじゃんか」


 前回もこうすれば良かったな。

 と、反省しつつ、リーファの話を聞きながら店を絞っていく。


「あそこの店は、お魚料理が少なくて――ひとつ隣の通りに貴族御用達のお高いお店があるんだけど――」

「さすが天界にいらっしゃった女神様。よく知ってるな」


 まあね、と得意そうなリーファ。


「知識的には、歴史の教科書や地図や資料集を丸暗記したのに近いのか?」

「そんな感じね。上にいたときは、変動すればそれが反映されていたの」


「死生課の女神なのに、そんなことまで覚えてるんだな」

「魂の送り先がどんな世界なのかさっぱりわからないって、さすがに無責任でしょ?」


 ひーちゃんとクイナがぽかんとしているけど、これはさすがに説明できないので、お茶を濁して食べ物の好き嫌いに話をすり替えた。


 結局店は、お高い店じゃなくて、一般的な値段の大衆向け食堂に入った。

 質より量ってことで。

 高価じゃないけど、魚料理も肉料理も美味しく食べられる店だ。


 ひーちゃんの胃袋はドラゴン仕様じゃなく、体型に比例した胃袋だった。

 すぐにお腹いっぱいになって、おれの膝の上に座って足をぶらぶらさせている。


「がうがう~っ」

「ひーちゃん、なんか楽しそうだな?」


「いつもボクだけ外でまっていたから、ご主人様といっしょにいられるのがたのしいの」


 そういやそうだった。

 みんなが怖がったり騒ぎになったりするから、町や村の外で待機がほとんどだったもんな。


 フォークで刺した白身魚をクイナは上品に口に運ぶ。


「ひーちゃんさん、寂しかったでしょうに」

「ゴブリンとあそんでいたから、だいじょうぶだったの」


 おれたちは、全員眉をひそめた。


「「「遊んでいた……?」」」


 平原にゴブリンの死体いっぱい転がっていたんですけど!


『みんな、ボクとあそぼー』

『ギャ!? ギャ! ギャギャ(うわぁ!? ド、ドラゴンだ! に、逃げろ)』

『まてまてー』

『ギャァァァァ――!?』


 こんな感じだったのか……?

 もしそうだったなら、空気を読んでさしあげて欲しいところだ。

 無邪気って怖い。


 パスタをフォークに巻いたまま固まるリーファが、ぼそっと言った。


「ど、ドラゴンの感覚って、やっぱり違うのね……」


「そのときは食べてなかったよな、ゴブリン」

「お腹すいてなかったの」


「そ、そういうもんなんだ……」

「ハイランクの魔物だから……ドラゴンは……。そ、そういうものなのかも」

「そうですね……」


 仔ドラゴンから受けたカルチャーショックは転生後最大のものだった。

 それから雑談しながらの食事は、それなりに楽しかった。


 お腹いっぱいになり、おれたちは店を出た。

 湖畔の家に帰れなくもないけど、夕飯後のこの時間に移動するのはちょっと億劫だ。

 というわけで、宿探し。

 これもリーファナビに従い、いつもは安宿だけど少しだけ上等な宿に泊まることにした。



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