27話
裸の幼女がおれに抱きついている。
……おまわりさん、やったのはおれです。
――いや、じゃなくて。
「ま、まさかとは思うけど、ひーちゃん、なのか……?」
「がうがうっ♪ うん、そうなの!」
嬉しそうに、自称ひーちゃんはモチモチほっぺをすりすりしてくる。
「ひーちゃん? 本当にそうなの??」
リーファは首をかしげている。クイナは翼や尻尾を触っている。
「作り物というわけではなさそうです。……ですけど……」
おれだってそう簡単には信じられない。
けど、あのときここにいたのはキンゴブとおれたち三人と一頭。
キンゴブが消し飛んだ今は四人になっている。
翼も尻尾も、ドラゴンひーちゃんのものによく似ている。
やっぱそうなのかな?
「がう?」
首をかしげると、赤い髪が肩から少し垂れた。
うん、口癖もまんまだな。
おれにしがみつく幼女ひーちゃんを地面に下ろす。
「と、とりあえず服を――」
リーファは脱いだローブで幼女ひーちゃんを包んだ。
「リーファ、ありがとー」
「うん、どういたしまして」
「けど、どうしてそんな体になったんだ?」
「ボクにもそれはわからないの。あそこにあった液体を飲んだら、この体になっていて」
ひーちゃんが指差した先には、巨木がある。
おれたちがそこへ行くと、木の裏には小さな木箱が置いてあった。
他に、指輪やネックレスなどの高価そうな貴金属がバラバラに置かれている。
ゴミみたいに適当に投げ捨てたら、こんな感じに転がるかもしれない。
さっきの道の奥には武器や道具が置かれてあったけど、ここは装飾品が多い。
奪ったはいいけど、用途や価値がわからないからボスに見せていたんだろうか。
木箱の中を確認すると、割れた試験管がいくつもあった。
割れたりしないようにきちんと固定もしてあったことがわかる。
でも、乱暴に扱ったのか、かなりの数が割れていた。
きちんと残っているのはあと3本だった。
いつの間にかひーちゃんが小さな手でおれの手を握っていた。
火竜だからか、かなり手があったかい。
「ひーちゃんが飲んだのってこれ?」
「いいにおいがするから、食べちゃった」
「何でもかんでも口にしちゃダメだろ?」
「がぅ……ごめんなさい」
元がドラゴンなんだし、気になったら食べちゃうのは仕方ないのか?
「ひーちゃんが良い匂いって思うなら、あいつらは飲んだりしなかったのかな……」
箱の中の匂いをかぐと、ちょっとツンとした匂いがする。
「魔物にとっては良い匂いなのよ、きっと。ゴブリンの嗅覚って魔物の中でも相当鈍いほうだから、わからなかったんじゃないかしら」
振りかえると、髪を押さえながらリーファがかがんで木箱をのぞいていた。
「じゃあ、この謎液体は、ドラゴンを人化させる薬なのか……?」
「ドラゴン限定かどうかはわからないけどね」
「ひーちゃん、体に異常って何もない? 気分が悪くなったりしてない?」
「がう。だいじょうぶ」
……原理はさっぱり不明だけど、この液体を飲むと人化するらしい。
「これも盗品なんだよな。ゴブリン、こんな謎液体作れないだろうし」
それから、ここの広場を探索をしたけど、結局得られた戦利品は、謎液体入りの試験管3本と【王の魂】だけだった。
「そうそう、リーファ、これって何の石かわかる?」
おれがアイボから【王の魂】を取りだして見せると、首をかしげた。
「何の石って……ただの石ころじゃない。そんなの拾ってたの?」
「――え? いやいや、真っ赤な石だよ、これ。ステータスには【王の魂】ってある」
むう、とリーファは眉間に皺を作って手元の石をまじまじと見るけど首を振った。
「……私には、ただの石にしか見えない。今はステータスも見えないし……。けどもしそれが【王の魂】だったら、それ、魔王になる素質のある魔物からドロップすることが多いのよ。凄まじい魔力の結晶体で、脳、右腕、左腕、魂、腹、右足、左足。全部で7つあるの」
「ベヒモスから落ちなかったってことは、強いけど素質はなかったってことか」
「そういうことになるわ」
「てことは、あのキンゴブ、放っておいたら魔王になったかもしれないのか」
「うん、他のシリーズ所持者に負けない限りは」
「シリーズ所持者?」
「【王のナントカ】を持っている魔物のこと。すでに相当強かったり、後々かなり強くなったりする魔物が多いから。そいつが他の所持者を全員倒したら、そいつが魔物で一番強いってことになるでしょ?」
「じゃあ、そいつが魔王ってことか」
「けど、これがそのシリーズには見えないなぁ、やっぱり私にはただの石にしか見えない……」
リーファが石をまじまじと見ていると、クイナもやってきた。
「どうかされましたか?」
「クイナも見てくれよ。何に見える?」
やっぱりクイナも不思議そうに首をかしげる。
「何に……? 石ではないのでしょうか」
「やっぱりそう見えるわよね?」
リーファが言うとクイナもうなずく。
ひーちゃんはどうだろう。ドラゴン目線なら何か……。
「? がう。これは石だから食べられないの、ご主人様」
「そういう視点は要らないの。……けど、おれ以外には石に見えるのか」
今にも燃え上がりそうなこの深紅の石。
何かの意思でも持っているかのような強い存在感がある。
なのに、何でみんなには石に見えるんだ?
結局その謎はわからないままだった。
「何だかんだあったけど、クエスト自体はクリアしているんだから、報告に行こう」
おれたちは来た道を辿って、森をあとにした。
次回は1月15日17時頃更新しますー。




