19話
結局、クイナが提案した通り、ガチャで【SR クレリックの杖】を狙うことになった。
ひーちゃんには、平原で待ってもらい町へとおれたちは歩きだした。
「でもねクイナ、ガチャってなかなか出ないのよ? 本っっ当に、ゴミアイテムばっかり当たるんだからね?」
「うふふ。それはリーファさんの運がゴミだっていうことなのでしょう」
「ご――、誰がゴミよっ! クイナより、私のほうが運がいいんだから」
「では、勝負いたしましょう。わたくしとリーファさん、どちらが良いアイテムを当てられるか」
「いいわよ、やったげる」
「おい、主旨変わってんぞ」
「ゴミって言ったこの世間知らずのお嬢様をギャフンと言わせるの。――ジンタ」
す、とリーファが手を出してくる。
「仕方ねーな……」
まあ、リーファは正確無比な情報屋でもある。
町やその店や、過去の事実や世界的な常識がわかるっていうのは、結構便利なもんだ。
魔物についても色々と教えてくれるし、その情報料とでも思っておこう。
「あのジンタ様……わたくしも……」
「わかった、わかった。ほら、持ってけ」
おれは二人に1万リン札を渡した。
クイナが両手に拳をつくる。
「わたくし、1万リンと同等の、もしくはそれ以上のアイテムを引き当てるので、ジンタ様のご負担にはなりません。ご安心ください!」
「私だって毎回そうなんだから」
「嘘をつけ嘘を」
ゴミ回収のエキスパートがよく言うよ。
リーファとクイナは互いに火花を散らし合いながら、入店していった。
おれは店外から見守ることにした。
クイナの表情がちょっと固い。初ガチャだから、緊張してるっぽい。
「大丈夫かな……あいつら」
そして、クイナの順番が回ってきた。
勝手がわからないのか、お金をカウンターの人に渡したあと、あたふたしている。
「そんなこともわからないのー?」
ここまでリーファの声が聞こえてきた。
先輩風吹かしまくりだ!
まともな物を当てたの1回だけのくせに。
「ありがとうございます、リーファさん」
ぺこっとお辞儀して、ガチャボの前でハンドルを握るクイナ。
グリグリ回して、出てきたカプセルを開け……開け……開けられないのかよ。
ここも大先輩リーファさん登場だった。
開けやすいようにして、カプセルをクイナに渡した。
ぺこりと丁寧に頭をさげるクイナ。カプセルをあけて中を確認している。
くるっとこっちを振りむいた。
「ジンタ様ぁ~! 当たりましたぁ!」
「え、マジで!」
ぱたぱた窓際まで駆けよってきて、見せてくれたのは――
『N 誰かのハンカチ』の引き換え券だった。
誰のだよ……。絶対に落とし物だろ、これ。
「あのな、クイナ。杖じゃないぞこれ。ほら。ここ」
「あっ、わ、わたくしったら……と、とんだ早とちりを……」
かぁぁぁ、と顔を赤くして照れ笑いを浮かべたクイナ。
「わたくし、頑張ってきます!」
「うん、頑張って」
小さく手を振って、クイナはガチャボックスの前へ戻っていった。
そして、ガチャを回し終えて、しょんぼり顔で店から出てきた。
「ジンタ様……」
「ダメだった?」
何を引いたのか見せてもらった。
『N 誰かのハンカチ』
『N 使いかけの香水』
『N 1/10ガチャ券』
『N 1/10ガチャ券』
『N 1/10ガチャ券』
『N 1/10ガチャ券』
『R 魔法繊維のローブと法衣』
『N 1/10ガチャ券』
『N 残飯』
『N ネコの首輪』
『N 羽根ペン』
「お。レアアイテム引いてる! すごい!」
それ以外はショボいけど、使い道のありそうなのがいくつかある。
着られそうなら、リーファにあげても良さそうだ。
「ローブは、わたくしが着てもいいのですけれど、胸のあたりが少しキツそうなので、リーファさんならぴったりかと」
たゆんっ。
「ジンタ様……その、見過ぎです……」
「あ、ごめん」
「でも、わたくしは、お嫁さんで奴隷でもあります。好きなだけ見てもいいのですよ?」
「え」
「ジンタ様、目が怖いです」
店内から女神の悲鳴が聞こえる。
「ジンタぁああ……」
店内をのぞくと半泣きになっていた。またゴミ当てたな、リーファのやつ。
「どうしたらまともなアイテム当たるの……?」
「気合いだよ、気合。どりゃあって大声で言ったらいいよ」
「どぉりゃあああああああああ――っ!!」
本気で言っちゃったよ。ガチだよあの人。なりふり構わねえのかよ。
「でぇえええいっ」
と、紳士淑女のひんしゅくを買いそうな叫び声をあげるリーファ。
ガチャを回して、回して、回して、たくさん出てきたカプセルを開けていく。
くるっとこっちを見て、涙目を見せる。
肩を落としたリーファが店から出てきた。
「ダメだったのか。何当てたんだ?」
「……クスン……」
どれどれ、と確認する。
『N 千切られたお札』
『N 千切られたお札』
『N 壊れた鍵』
『N カラスの眼球』
『N カラスのクチバシ』
『N カラスのハラワタ』
『N カラスの羽』
『N カラスの足』
『N 呪いの人形』
何のガチャしてきたんだよ!?
「ふぇ……なんか怖いよ……『1週間以内に誰かにあげないと一生呪われます』とか書かれてるんだけど……」
リーファは当ててきた西洋人形風の人形を抱えてあたふたしている。
残りは即ゴミ箱にシュートしてきたらしい。
うん……どんまい、リーファ。
これはどう見ても、Rをひとつ当てたクイナの勝ちだ。
「それで、二人とも当たらなかったけど、どうするんだ?」
「ま、まだです。もう一度やれば必ず当たるはずなのです」
すっかりドツボのはまってるな、クイナ。
「……じゃ、今度はおれがやってくるよ」
次回も明日17時更新します!