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16話

「ジンタ殿そう固く考える必要はない。嫁とはいえ尽くすという点では、奴隷と変わらないだろう。ハハハハ」


 全然違いますけど!?

 ハハハ、じゃねえよ。アンタんとこの娘の話だぞ。

 てか、すげー亭主関白な考え方してんな。


 よろしく頼むよ、とウェイグさんは部屋を後にした。

 ベヒモスセットと鑑定書は、倒せたかどうか確認のために必要なのであって、それ自体は別に要らないみたいだった。


 また焦げ臭いベヒモスセットと鑑定書をアイボへ放り込んでおく。


「あのー、クイナさん?」

「ジンタ様。わたくしはあなたのお嫁さんなのです。『さん』は不要です」


「勝手に娘を押しつけてきて……何が嫁よ」


 リーファがつまらなさそうに唇を尖らせる。


「では、貴女はジンタ様の何なのですか?」


 にこやかに尋ねているけど、口調がちょっときついクイナ。


「な、何って……」


 リーファが困ったようにおれをチラ見する。

 確かに、リーファは何なんだろう。

 手伝うっていってついて来てくれているけど。


「たとえ恋人だったとしても、わたくしを最後に選んでいただけるのなら構いません。どうせ負けませんし」


「女神の私に勝とうだなんていい度胸じゃない」

「自称女神だなんてイタイ人」


 バチッ、と一瞬二人の間に火花が見えた気がした。


 これからのことをクイナに訊くと、ベヒモス討伐のお祝いパーティの準備をするところらしかった。

 大したことは本当に何もしてないし、気持ちだけもらうことをおれは別室にいるウェイグさんに伝えた。


 一族の大恩ある人にお礼をしないなどとは――とか。クイナとの婚約パーティで――とか色々言われたけど、今度お願いしますって言って、おれたちはウェイグさんちを後にした。


 待っていたひーちゃんを連れて森を出る。


「ひーちゃん、三人乗せるのはキツいよな?」

「がうがう……」


 おれたちの次の行き先は、ここから少し南東にあるログロという町だ。

 実は、ここに来る前に近くを通っていたらしい。

 そこにも冒険者ギルドはあるので、新たなクエストを受ける予定だ。


「そんなに遠くないんだから、クイナは歩けば?」

「それなら、慈悲深い女神様がわたくしたちのことを思って歩くべきではないですか?」


 ま、またはじまった! ちょっと口を開けばすぐこれだ!


「別に急ぐ用があるわけでもないし、歩くか」


 街道を南へ進み、着いたのは夕方。

 ログロの町は結構大きくて、きちんとした城門があって城壁も高い。警備兵も強そうだ。


 ひーちゃんは騒ぎになるといけないから町の外で待ってもらうことにした。

 警備兵に冒険証を見せ、リーファとクイナは仲間ということで町に入れた。


 身分証がないと入れないかなと思ったけど、リーファとクイナをチラ見してた警備兵はあっさりと通してくれた。

 美少女特典で甘く見てもらったのかもしれない。


 賑やかな通りには露天や各商店が並び、珍しい食べ物や装飾品を見かけた。


「そういや……今日はまだ何も食べてなかったな」

「それでしたら、あちらにわたくしオススメの魚料理のお店があるのですが」


 クイナが左を指差すと、リーファが右を差す。


「ジンタ、あっちに美味しいお肉料理屋さんがあるの。あっちにしない?」

「リーファさん一人で行ってくればいいのではないですか?」

「そっちこそ、あんた一人で行きなさいよ」


 何で毎回張り合おうとするんだよ。


「ケンカすんなって。気分的には肉だから、リーファ案内してくれるか?」

「うん、任せて」


「さあさあ、そういうことであればジンタ様、参りましょう?」


 クイナがおれの右腕に腕を絡めて歩き出した。


「……むぅ」


 リーファがそれを見て、ためらいがちに手を伸ばしおれの左手を握った。


「な、なによ……? じ、ジンタ顔赤い」

「おまえもだろ」


 注目度がさらに増したのは言うまでもない。

 両手に花状態。花っていうよりも、華があるからな二人とも。


 リーファが言う料理屋を見つけ中へ入った。

 かなり繁盛しているみたいで、空席を見つけるのにちょっと時間がかった。


 注文した料理はレフォンボアのステーキとパンとスープのセット×3

 それを店員さんがテーブルに並べた。

 肉汁すごいし、油のにおいがまた良いな。白米欲しくなる……。


 おれが一口食べようとすると、


「ジンタ様。はい、あーん」


「はい?」


 おれが頭に「?」出しているにも構わず、クイナは一口サイズに切った肉を口元へ持ってくる。

 せっかくなので、いただいておくけど……うん……恥ずかしくて味がしねえ。


「美味しいですか?」


 そんな風に訊かれて首は振れない。


「ああ、うん」

「じゃあ次は~」

「ま、待て待て! じ、自分で食べられるから」


 これ以上やられると体温で溶けそうだ。


「なによ、デレデレしちゃって」


 不機嫌そうにぶつぶつ言って料理を口に運ぶリーファ。

 こそこそとおれはクイナに訊いた。


「なあ、どうしてリーファは機嫌悪いんだ?」

「自分の物だと思っていたそれが、他人に取られそうになったら、困りますよね?」

「そうだけど……なにそれ。ナゾナゾ?」


 おれがよっぽど小難しい顔をしてたんだろう。クイナがくすっと笑う。


「わからないのなら、それでいいのです」

「つってもなあ……、どうしたらリーファの機嫌良くなるんだ……?」

「それでしたら――」


 ごにょごにょ、と耳打ちされる。

 ……それだけで? でもおれにも勇気が求められるんだけど……。


 ま、いいか。フォークに一切れの肉を刺して――


「り、リーファ、これ。あ、あーん」

「っ!?!? なななな、なななな、ななな……」


 ぽん、と擬音がしてリーファの顔が真っ赤に染まった。


「お、おれだって恥ずかしいんだ。は、早く食えよ」

「~~っ」


 きゅっと目をつむって、ぱくっと食べた。


「ど、どう?」

「あ、味なんてわかんないわよっ。恥ずかしくって」


 やっぱそうだよな。やるもんでもないし、やらすもんでもないな。


「い、いきなり何よ……」

「うふふ、良かったですね、リーファさん。ジンタ様にあーんしていただけて」


「う、うううう、うるさいっ! あ、味わかんないし、じ、自分で食べたほうがマシよ」

「とか言われたんだけど、クイナ」


「そんなことありませんよ、ジンタ様。リーファさん照れているのです。証拠に、ほら、まだお顔が真っ赤」

「冷静に人のこと分析するのやめてっ」


 なんというか、精神的にクイナのほうが上なんだな。

 大人っぽいというよりは、リーファが子供っぽいような気がしないでもないけど。


 でもクイナはエルフだ。

 エルリちゃんがおれと同い年ってのを考えると、クイナは……。


「相当歳食ってるんじゃ……?」

「今何かおっしゃいましたか?」


 くるっとこっちをむいたクイナ。


 め、目が笑ってない!! 歳のことは禁句にしよう……。


 食事を終え料理屋を出ると、なんとなくだけど、リーファの機嫌も良くなっていたし、クイナともちょっとだけ仲良くなっていた。


 そのあと、お手頃な宿をとり一晩宿泊することにした。


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