14話
一族の名前だけで、どこを拠点にしているのかリーファにはわかるらしい。
依頼達成の報告をするため、おれたちは町を出た。
「エルム湖よりもさらに北に森があって、そこに今は住んでいるみたい」
「今はって、前は違ったの?」
「前はもっと町からも離れた森だったんだけど、移住してきたみたい。ちょっと遠いけど、ひーちゃんに乗れば一日くらいで着くかも」
そっか、案外速いからな、ひーちゃんは。
遠くにいるひーちゃんを呼ぶと、バタバタとこっちに駆けてきた。
やっぱ速い。
「があ!」
かぱっと口をあけると永晶石が舌の上にのっていた。
ひとつ、ふたつ、みっつ……、16個あるっ! どうしたんだ、これ。
不思議に思ってひーちゃんが来たほうを眺めると、魔物の死骸がいくつも転がっていた。
は、ハンターや。平原に突如現れたカテゴリーエラーや。
永晶石の色は、灰色や青、赤銅がほとんどだった。
「灰色が10リン、青が100、赤胴が1000よ」
「けど、売ればお小遣い程度にはなるな」
おれはひーちゃんの頭をなでた。
「リーファは無駄遣いしかしないのにひーちゃん偉い。リーファより使えるなぁ……」
「がうがう♪」
「ちょっと! 心の声聞こえてるわよっ」
やべ。口で言ってた。
ご機嫌ななめなリーファをなだめて、おれたちはまたひーちゃんに乗って北上する。
途中、見覚えのある小さな背中を見つけた。
ひーちゃんの足音に気づいてこちらを振り返った。
「わっ!? ど、ドラゴンっ!?」
ペタン、と驚いて尻もちをついたのはエルリちゃんだった。
「おーい!」
「あ。おにいちゃん!」
ひーちゃんに止まってもらい飛び降りる。
「どうしたの、こんなところで?」
「いまからね、おうちに帰るところ。あっちのほうにあるの」
エルリちゃんはおれたちと同じ進行方向、北を指差す。
エルフ……家、方角が一緒……。
「エルリちゃん、リヴォフの一族って知ってる?」
「しってるー! あたしの一族だよ!」
「おれたち、エルリちゃんのところの一族の人に会いに行くんだ」
「そうなのー? じゃ、案内したげる」
また他人を乗せるってなるとひーちゃんがご機嫌ナナメになるので、アイボから取り出したパインゴを与えておく。
そのお陰で、エルリちゃんが乗っても全然暴れなかった。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょぶ、だいじょぶ……あ、ゆ、ゆすらないで……」
ナビ役の女神様が、今はドラゴン酔いをしてるので、エルリちゃんに近道を教わりながら進んだ。
エルリちゃんの案内とひーちゃんの足のお陰で、ずいぶんと早く森の入口に到着した。
森の道案内もばっちりで、迷うことはなかった。
「魔物も獣もほとんど見かけないな。道も歩きやすいし」
「リヴォフの一族が管理しているからよ、きっと」
ドラゴン酔いが治ったリーファが言うと、少し誇らしげにエルリちゃんも言う。
「そうだよー。あぶない魔物はやっつけちゃうんだから」
「エルフって、あの長命長寿で弓持ってて耳が尖ってる、あの種族でいいんだよな?」
「ま、そんなところね。人間よりも魔力保有量が段違いだったり、あとはみんな例外なく美形ってところかしら」
「エルリちゃんもそうだもんな」
「むふん、ありがとう、おにいちゃん」
「でも成長が遅いってだけだから、エルリちゃん、ジンタと同い年くらいかも」
「まじか……同い年……?」
目が合うと、エルリちゃんはさっと目をそらした。
さらに奥へ行くと、小さな集落が見えてきた。
入口に見張りらしき男のエルフがいる。
うん、やっぱり美形のイケメンだ。
「エルリではないか、お帰り。お父上の弓はどうであった」
「ただいま。ほら、このとおり!」
「それはよかった。……この方たちは? おっと、ドラゴンまで――!?」
とりあえず、驚くエルフさんに「ちゃんと躾けてるんで大丈夫ですよ」と言っておく。
やっぱり怖いからってことで、ひーちゃんは村には入らず、入口で待機することになった。
寂しそうな顔をするひーちゃん。後でパインゴをあげよう。
「このおにいちゃんたちがね、おとうさんの弓、取り返してくれたの!」
「それはそれは、エルリが世話をかけた。お礼申し上げよう」
「そんなぁ。私たち大したことは何もしてないので」
ホントにおまえは何もしてないけどな?
「おれたち、ウェイグ・リヴォフさんに会いに来たんです。クエストの報告で」
「クエストというと……まさか、ベヒモス討伐?」
「はい。討伐報告です」
「おぉ、おお……おぉお……我が一族の宿願が叶った……! ありがとう」
エルフさんはがっしりとおれと握手した。
「え? ああ、はい……」
「族長のところへは私が案内しよう。付いて来ていただけるか?」
うなずくと、エルリちゃんがちょんちょん、とおれの手を引っ張った。
ひそひそ話をするように、口元に手を当てている。
「おにいちゃん、ちょっと」
なんだろう? おれが腰を曲げると、エルリちゃんが耳元に口を近づける。
「おとうさんの弓、ありがとう」
ちゅ――、とほっぺに柔らかい感触。
「――?」
「じゃあね! あたし帰るから」
ててててて、と弓を背負ったエルリちゃんは別の方向へ走り去っていった。
……今、ほっぺにキスされた??
「ロリコン死すべし!」
リーファが言うと、うんうん、とエルフのお兄さんも同意している。
「ロリコンはいかんよ、ロリコンは」
あんたは関係ねえだろ。
お兄さんの案内で集落を奥へ進む。どの家もどこか新しさを残す木造のものだった。
一番奥にある立派な家が、族長のウェイグさんの家らしい。
「ここが、族長の家だ。私はこれで失礼する。……ベヒモスの件、本当にありがとう」
エルフのお兄さんはまたおれと握手すると、軽くお辞儀をして去っていった。
何でそんなにありがたがるんだろう?
理由やら何やらは、ウェイグさんに訊けばいっか。
「こんにちは、クエストの件でやってきた者ですが――」
おれはコンコンと扉をノックする――30分後に嫁が出来るとも知らずに。
次回は13時頃に更新しますー!