13話
「冒険者ギルドってどこらへん? 遠い?」
「もうちょっとのはずよ」
冒険者ギルドに行く目的は、冒険者登録することと、道具屋のおばちゃんが言っていたクエスト報酬とかそういうのの確認だ。
「ベヒモスのことで思い出したけど、クレセン何とかっていう名前やユニバース何とかっていう名前を聞いたけど、ユニオンっていうのは――」
「うん、複数人以上からなるチームや組織、団体のことね」
「ふうん、割とそのままなんだ」
「町には各冒険者ギルドがあってクエスト依頼者との仲介をしてるの。ユニオンや冒険者の管理も同じくそこがやってるわ」
リーファの案内で道を進むと、古ぼけた煉瓦造りの建物が見えた。
あそこがそうらしく、冒険者風の男が何人も出入りしている。
大きな掲示板の前では、張り紙を見てみんな難しそうな顔をしている。
近くに行って見てみると、どれもクエストの依頼だった。
「依頼者から指名される場合もあるし、冒険者ギルドから斡旋される場合もあるし、こうやって広く募集することもあるのよ?」
掲示板を見ていると、例のクエストを見つけた。
『SSランク ベヒモス討伐』
場所:レフォン平原
条件:Bランク冒険者40人以上。詳細の質問は担当者まで。
依頼主:ウェイグ・リヴォフ
報酬:詳細は担当者まで
担当者:カーラ・ミラン
協会の玄関口付近にある案内板を見ると、色んな業種のギルドがこの建物の中に入っている。
二階は主に生活系ギルド主体の場所。服飾ギルドとかもここだ。
一階がお目当ての冒険者ギルドとなっている。
空いている受付カウンターを見つけて、その受付の女の人に声をかけた。
「こんにちは」
「こんにちは。今日はいかがなさいましたか?」
温和な微笑をたたえるお姉さん。
名札に『ミラン』って書いてある。
あ。この人がベヒモスクエストの担当者だ。
イスを勧められたのでおれとリーファは腰掛けた。
「今日は、冒険者登録とクエスト報告に来ました」
「? あぁ、はい。わかりました。ではまず、冒険者登録からしましょう」
登録用紙とペンを渡される。
名前、年齢、性別、得意武器、スキルなどなど。
知らない言語のはずなのに、景品表と同じで自然と読むことができた。
「リーファ、おれって文字書けるの?」
「たぶん、大丈夫だと思う」
名前を日本語のつもりで書いたのに、この世界の文字として筆記された。
「貴女は、どうなさいますか?」
「私? 私はしないわよ? だって女神だもの」
「……、あはは。かしこまりました」
笑って流した!
女神の部分に突っ込むと面倒になるからって、笑って流したよ!
当のリーファはドヤ顔をしているけど。
リーファは冒険者にならないのか。情報くれるだけで十分だし、それでいいか。
そんなことを考えながら、さらさらと書き終える。
スキル欄は、別に書いても書かなくてもいいらしいから、空欄にしておいた。
用紙を回収したミランさんが抜けがないかをチェックする。
「……はい。では、登録証をお渡しします。これがあればクエストを受けることができます」
そう言って取り出したのは、真新しい運転免許証くらいのカードだった。
これでおれも、一端の冒険者だ。
冒険証って名前らしく、左上に『G』って書かれているのが冒険者ランクらしい。
もちろん『G』が最低ランクだ。
次がF、その上がEってな具合に上がっていくみたい。で、Aの上がS。
「一番上がSSSなのよ?」と、リーファが教えてくれた。
「では次に、ユニオンの説明をさせていただきますね」
ミランさんが教えてくれたのは、リーファが言っていたこととだいたい同じだった。
一通りの冒険者になるための説明が終わったので、本題に入ることにした。
「ベヒモス討伐のクエストの報酬って、何が貰えるんですか?」
「何が、というよりは、依頼主の方にご相談いただくことになります」
「え? 依頼主の人に? お金の金額とか、そういうこと?」
ええ、とミランさん。
ここで貰えるわけじゃないのか。
「今回は特殊だったってだけで、冒険者ギルド担当に報酬を渡されることもあるわよ?」
うんうん、とにこやかにミランさんはうなずいている。
「それで、ベヒモスを討伐したんですけど、その依頼主のところへ行けばいいんですか?」
「はい。討伐したらその証拠として鱗や牙などが残ると思いますので、その鑑定書を持って――。へ? トウバツ、した、というのは……?」
「あ、はい。倒したんです、あのデカいやつ」
「あの、でも、最低40人で……、参加メンバーのランクも最低がBって決まってて……」
よいっせ、っと。
アイボからベヒモスセットを取りだして見せる。
相変わらず焦げ臭いなーこれ。
「道具屋のおっちゃんおばちゃんに見せたら、協会に持って行って相談しろって言われて」
「マダム・リーンが……?」
リーンって名前なの? あの人。
てか『おっちゃんおばちゃん』で通じるんだ。
以前書いてもらった鑑定書をミランさんに渡した。
「マダムの鑑定書ですね、確かに。……先日【クレセントライツ】がクエストを受けて以来、誰もこのクエストを受けようとしなくなっていまして。理由はやはり大手ユニオンの敗退と人数が集まらないことで……一体、何十人集めたんです? 今日はその方達の代理で来られてるんですよね?」
「何十人って……。おれ一人ですけど」
「ひ、一人ぃいいいいいいいいいっ!? ひ、一人であのベヒモスを倒したっていうんですか!?」
立ち上がって叫ぶミランさん。
お淑やかそうに見えるこのミランさんの声は、かなりでかかった。
そりゃもう、このフロア全域に響き渡るくらいに。
みんなこっちを見てる。ざわざわしてる。
「だってベヒモスの鱗って硬いですよ? ち、力も強いし、おっきいですし」
「……力、強かったんですか?」
「ぇええええええええええええええええええええ!? つ、強いに決まってますっ!」
「そうだったんです?」
「そうだったんです、って……。鱗、鱗は……、これ、とっても硬いですよ? 剣や槍や斧なんて弾き返しますし、魔法耐性も高い世界有数の鱗なんですから」
コンコンとカウンターの上の鱗をノックするミランさん。
「あの、ベヒモス、即塵になったんで……すみません、わかりません」
ふらぁ、と目まいを起こしたようにミランさんは、椅子にすとんと座り込み茫然としてしまった。
「そ。即……チリ……」
もうここでの用は済んだし、報酬をもらいに行こう。
どうやら、鑑定書やベヒモスセットは依頼主に見せる必要があるようだ。
書類上の手続きをミランさんに教わりながら終える。
冒険証を渡して、その書類と一緒に後ろにある部屋にミランさんは入った。
「何してんだろう?」
「完了報告よ。冒険者ギルド本部にそれを報告したら、それがジンタの功績に反映されるの」
「本部につながるネットか何かがあるってこと?」
「ネットじゃなくて、転移魔法の魔法陣があって、それぞれの支部が本部とゲートが通じているのよ」
その転移魔法とやらは、この世界の魔法技術では数十グラムの転移が限界なんだとか。
人間が転移するのは、無理なのか……出来たら相当便利なのに。
おまけに悪用を避けるために、魔法陣の描き方やそれぞれを繋ぐパスは、官僚である公文書官にしかわからないらしい。
ミランさんが戻ってきて、冒険証を返してもらう。
おれがアイボにそれをしまっていると中年冒険者が話しかけてきた。
「すいません! うちのユニオン入りませんか!?」
「はい??」
おれが目を丸くしていると、やんちゃしてそうなお兄さんが割って入った。
「待て待て、オッサン。こいつは、俺達のユニオンに入るんだ。な?」
な? とか言われても入んねーよ?
「高名な冒険者様、サインしてください!」
今冒険者になったばかりなんですけど!?
色んな冒険者がおれのところへ詰めかけてきた。
「兄ちゃん、うちに――」
「いや、ウチの所に――」
「いや、私の所だ」
「いやいや――」
俺が俺が俺が、って感じで、誰もどうぞどうぞ、とは譲らない。
「あ、あの人、ちょっとカッコいい……」
「服もオシャレだし……イイかも」
ざわざわ、と黄色い声も上がっている。
「ジンタ、行きましょう?」
「待って。依頼主のこと聞いてない」
「私、知ってるから」
「え? そうなの?」
「リヴォフって言えば有名な一族よ。森の奥に住む……かなりの田舎者だけどね」
「森? 田舎者?」
「そうよ。だってリヴォフって、エルフの一族だから」
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