11話
翌朝。
冒険者になるために、ホヒンの町の冒険者ギルドへ行くことになった。
剣や家が当たって、それどころじゃなかったけど、ようやく落ち着きそうな気配だ。
歩くと時間かかるし、ひーちゃんに乗って行くことになったのはいいんだけど――
「や、ちょっと、ひーちゃん、暴れないでー!」
リーファが乗ろうとすると、ひーちゃんが激しく暴れる。
うーん、おれに懐いたのであって、リーファに懐いたワケじゃないから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
「ふぎゃん――っ!? いったぁーいっ!」
振り落とされたリーファが半泣きで頭を抱えている。
さっきからこれでもう四回目だ。
「ドラゴンのクセに女神を落とすとは何事よー」
「ひーちゃん、リーファのやつ乗せてくれないかな?」
「ガル」
ずっとこんな感じで機嫌悪そうなんだ。
プライド高いって言ってたしなぁ……。
アイボから出したパインゴをひとつあげてみた。
「がるぅ~」
すぐに機嫌が良くなった。
おれ、リーファの順で乗ってみると全然暴れない。……パインゴ好きなのね。
ひーちゃんに指示を出して、森を抜け出て街道を突っ走る。
走ると結構速くて、切っていく風の心地よさがある。
リーファを見ると、また青い顔をして唇を噛んでいた。
ドラゴン酔いだ!
ホヒンの町を囲っている鉄柵が見えた。
「見ろ! 町が見えたぞ。もうちょっとだ。頑張れ」
「うん……」
外壁はもうちょいだったのが、すぐそこに――。
ってスピード速過ぎっ!!
「ひーちゃんストップ、このままじゃ突っ込んじまう!」
ひーちゃんはおれの指示に従って、急ブレーキをかけた。
そのはずみで、おれもリーファも振り落とされた。
べちゃ。
「いで」
「あう……」
警備兵や周囲の町人が驚いている。
「ど、ドラゴンが出たぞぉおおお――っ!!」
「討伐ユニオンに要請を出せ! ドラゴンとは言えまだ子供。ここはオレたちで時間を稼いで――」
「町の人に非難させるんだ――! 急げッ!!」
あ、あれー……。
ひーちゃん、そんなことしないぞ?
「がる?」と、ひーちゃんも不思議そう。
蜂の巣をつついたような大騒ぎになって、警備兵もわらわらと集まりはじめた。
町を揺るがす大事件になってね?
「お、おい! そこの冒険者! は、早くそこから離れるんだ!」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「女の子が倒れてるぞ!」
「あ。これはただのドラゴン酔いです。そっとしてあげてください」
槍やら盾やらをずらーっと並べはじめたみなさん。
ウェイウェイウェイ、待てってば。
「ひーちゃん、おいで」
がるぅ、とひーちゃん。
おれの隣まで来ると、伏せをしてみせる。
「お手」「がう」
「羽ぱたぱた」「があ」
ぉお……、とお集まりのみなさんがどよめいた。
「ド、ドラゴンを使役している、だと――!?」
「知能が高いため人間のことを見下すといわれる、あのドラゴンが……?」
「しかも芸までしている……!?」
そ、そんな驚くなよ。
「ドラゴンは……魔物のヒエラルキー上位に位置する、特別な、魔物なの……だから、人間からすると、かなりの強敵……」
ぐったりしているリーファが追加解説をしてくれた。
「――おいっ! あんちゃんじゃねーか!」
誰かと思ったら、この前の旦那さんだ。
今日は日勤ですか? お疲れ様です。
「どうも!」
「そ、そいつぁ、だ、だいじょうぶ、なのか……? 仲良さげだが」
「はい! この子に乗って、エルム湖からここまで来たんです。おれの言うことはだいたい聞いてくれる良い子ですよ?」
ぱっとひーちゃんがこっちを見て、すりすりと顔を寄せてきた。
誉めたのが聞こえてたみたいだ。
よしよし、と撫でてやる。
「人間食ったり、町をメチャメチャにしたりしないのか……?」
「ガア!」
ボウッ、と小さく炎を吐いたひーちゃん。
旦那さんの発言が気に食わなかったらしい。
「「「「ぅわぁあああああ――!?」」」」
ザザザザザーとみんな一斉に20mくらい後ろに下がった。
あれ。この人たち、町を守りに来たんだよな……?
「コラ! 人にむかって火ぃ吐いちゃダメだろ」
「がぅ……」
しゅん、とうつむくひーちゃん。
ぉお……とまたどよめく。
「意思疎通までしてるのか!?」
しゃべれば案外大丈夫だと思うんだけど……。
みんなビビるからダメなんじゃないかな。
「あ、あんちゃん、タダモノじゃねーとは思っていたが、一体何者なんだ……?」
「え? 一般人ですけど……」
「「「「ウソつけぇえええええええええええええええ!!」」」」
この場にいる全員に否定された。
ひどい……。
おれ、普通の人なのに。
警備隊長っぽい人が一歩前に出た。
「キミは、この町に何をしに来たんだい?」
「冒険者ギルドに用があったんです」
「そうか……、では、そのドラゴンは町に入れることは出来ないが」
あ、そっか……。
入口だけでこんなに騒ぎなんだから、町に入ればそりゃ大騒ぎになるよな。
「わかりました。町から離れた場所で待つように指示しておきます」
おれは町から少し離れた平原でひーちゃんと別れ、また戻る。
まあ、ドラゴンなら、ここらへんの魔物には負けないだろう。
ステータスを確認しても、ひーちゃんが苦戦しそうな敵もいなかったし。
「むこうのほうで大人しくさせておきましたので。もちろん、人間は襲いません」
「そ、それならいいんだ、それなら……」
警備隊長さんはそう言って、集まった兵士たちを元の仕事に戻した。
「ジンタ、行こう?」
いつの間にか顔色も良くなったリーファが言った。
おれたちは冒険者ギルドへむかって歩きだす。
「みんな、ドラゴンのことを知らなさ過ぎじゃないか?」
「そんなものよ。そもそもドラゴンって、あまり目にしないし」
異世界だからって、そうホイホイ出てくるわけじゃないらしい。
成長したら、もっと強くなるんだろうなあ……。
バサバサ羽ばたいて、炎吐きまくって……。
見てみてぇなぁー。
そんなことを考えながら、町に入った。
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