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10話


 おれがきょとんとしていると、「ほら」とリーファが指差す。


「ドラゴンが相手に対して『伏せ』をするのって、心服してる証拠なの。魔物の中でも特にドラゴンはプライドが高くて、滅多にしない行動なのよ」


「はあ……。そうなのか……?」


 首をひねりながらドラゴンを見ると、


「がうっ」


 いや、がうっ、じゃねえんだよ。

 なんだよ、おまえ、いつの間におれのこと認めたんだ?


 ……原因があるとすれば、やっぱりこの剣だ。もっと言うなら焔。

 自分以上の炎使いだって仔ドラゴンが認めた、ってことなのか?


 まあ、確かに魔焔剣の黒い焔ってイカついもんなあ……。

 そんじょそこらの炎じゃないってのを、本能的に理解したってことでいいのかな。


 さすが、初代所持者が勇者ってだけはある。


「けど、何でこんなところにドラゴンの子供が?」


「ブレスが火属性だから火竜って呼ばれているだけで、火山の近くとか高温地帯じゃないと生きていけないってわけでもないの。だから森でも生活自体は出来るんだけど……。お母さんとはぐれたのかしら?」


 母親がどこかに行ったのか、それともただの迷子なのかは、この状況じゃわからないな。


「雛ってわけじゃないんだよな……?」

「うん。このくらいの大きさなら未発達な部分はあるけど、きちんとしたドラゴンよ」


「翼があるってことは空を飛べるってことでいいの?」

「スキルに『飛行』があれば飛べるはず」


 さっき見たときにはなかったから、まだ飛べないのか。


「どうするの、この子?」

「どうするって……。せっかくだし、お母さん見つかるまで飼うか」


「がうっ」


 ぱたぱた、と翼を動かすドラゴン。

 なんか、こうして見ると案外かわいいかも。


 近づいて鼻面を撫でてやるとくすぐったそうに目を細めた。

 ザラザラしてるけど、ひんやりしていて気持ちいい。

 おっかなかった顔も、よく見るとキツネみたいな愛嬌が見え隠れしている。


「名前つけてあげましょ?」

「いいけど、どっちなんだろう……」


 するする、と近寄ってリーファがお腹の下あたりを確認する。


「えっと……な、なかったから、女の子……」

「なかったって、何が?」


 もちろん、ナニがなんてわかっている。


「え、え、え、えとその、アレよ、あれ」


 かぁっと顔を赤くしたリーファ。

 フフン。天界でおれを童貞呼ばわりした恨み。ここで晴らしてくれる。


「アレって言われてもなあ……。おれ、ドラゴン見るの、こいつがはじめてだし……」

「もぅ、だからぁ~っ、お、男の子の大事なモノよ」


「……プライド?」

「違うっ」


「じゃあ、野心?」

「それも違う! メンタル的な話じゃなくって、もっと生物として物理的な……」


「あ。身長と学歴」

「そうそう、どうせなら高いほうが良いわよね、って違うわよーっ!」


 女神にノリツッコミされた!


 ますます顔を赤くしながら、知らないフリをするおれにヒントを出すリーファ。


「だ、だからぁ……子供をつくるとき、必要になってくる、アレよ。わ、わかるでしょ?」


 鼻くそほじりながら、おれは挙手した。


「せんせー。子供ってどうやって作るのー?」

「もおー! ジンタのバカぁあああああ! ふわぁああああああん――っ」


 どん、とおれを突き飛ばしてリーファは家の中に入ってしまった。

 軽く泣いてたな。


 まあいい。復讐は果たした。


 がう? とドラゴンは不思議そうな声を出した。


「おまえ女の子だったのか。名前名前……。火竜だし、ひーちゃんで良いよな?」

「がぅうっ」


 適当につけちゃったけど、なんか喜んでそうだからいいや。

 一応おれの言葉はわかるのな。


 しかし、ひーちゃんは何食うんだろ?

 ドラゴンなんだし、肉食っていうのは想像できるけど。


「お母さん、どこ行ったのかわかる? ってしゃべれないもんな。……人化のスキルがあったりすれば良かったのにな?」


 首筋をなでると顔を寄せてきた。

 うむうむ。愛い奴よのお……。


「そういや、ひーちゃんはいいけど、おれたちの食いもんがねえぞ……」


 けど、ここは森。

 果物や食べれそうな植物くらいあるだろう。


「森の中、案内してもらえる? 今日来たばっかで、全然わかんねえんだ」

「がうう」


 返事をして、ひーちゃんはまた『伏せ』のポーズをする。


「……もしかして、背中に乗れってこと?」

「があ」


「じゃあちょっと失礼して。――お、ぉおおおおおお……」


 乗り心地はそりゃ車とかに比べれば良くない。

 でも『ドラゴンに乗る』っていうだけで、男のロマンは満たされた感ある。


 のっしのっし、とひーちゃんは歩き出した。

 歩いているけど、人間が歩くよりは速い。


 いつか空を飛べるようになったら、もう一回乗りたいな。胸アツな展開です。


 森自体そう大きなものじゃなく、1時間くらいで家に帰ってこられた。

 森の中で見つけた食べられそうな果実は、片っぱしからアイボ(アイテムボックス)の中へ放り込んだ。


 たくさん採ったのが、樹になるパインゴっていう果物だ。

 これが結構イケる。梨っぽい甘さにほんの少し酸味があって。


 ひーちゃんにもひとつ食べさせた。


「がぅ~」とご満悦の様子だった。


 ひーちゃんは、家の外で自由にしてもらうことにして、家へ帰った。


「どこ行ってたの?」

「ひーちゃんと森に、食糧調達に」


「ひーちゃん? あ、あのドラゴンのこと。って、それパインゴじゃない!」

「ん? 食うか?」


 ひとつ渡してやると、しゃりしゃりとかじりはじめたリーファ。


「うんっ、おいし」


 それから、日が暮れるまで簡単に家の掃除をして、パインゴを食って寝ることにした。


「「…………」」


 寝室の前で直立したおれとリーファ。


「り、リビングにソファあったし、おれ、そ、そっちで寝るから」


 回れ右をしたおれの手をリーファがつまんだ。


「べ、ベッド、お、大きかったし、端で、寝れば、だ、大丈夫だからっ」


 そ、そういう問題か……?

 寝相の関係で『アンラッキー』起きたりしないですかね。


 おれがどう返事していいのか迷っていると、リーファは中へ入ってベッドに寝転んだ。

 きちんと端っこ。ばっちりこっちに背をむけてる。


「…………」


 なんか、これはこれでショックっていうかなんというか……。

 ま、いいや。


 おれもベッドに入ったはいいけど、やっぱ隣の気配が気になる。

 眠れねえ……。


「くぅ……」とか、「すぅ……」とか、気持ち良さそうな寝息だけ聞こえてくる。


 ドキドキしてんのおれだけかよ。


 なんてことを思っていても、いつの間にか寝ていて、いつの間にか朝になっていた。


 結局『アンラッキー』なんて起きなかったよ!

 心配しつつ期待していたおれがバカだったよ!



次回は20時更新です!

よろしくお願いしますー

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