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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー18

「エルネスト、書類を早く出せ!」
 ヴァレンティーナ様が鬼の形相で僕にペンを投げつける。
「ああああッ、もう、リオナのやつ、勝手な口約束してくれてェ」
 完全に頭を抱えている。
 それもそのはず、獣人たちが投げつけた武器はすべてユニコーンの高電圧の雷攻撃で金属の塊に溶けて消えてしまったからだ。それをリオナが「領主様が新しいのを買ってくれるのです」と安請け合いしたものだからヴァレンティーナ様は堪らない。これで買わなかったら、領主の沽券に関わるが、今は金欠状態。有り金のほとんどを町の建設のために放出しているのだ。
「増援どうしますか? 送り返しますか?」
 エンリエッタさんがすまなそうに執務室の入り口に控えていた。おそらく抱えているのは増援部隊の遠征費を認めた書類だろう。
 有事に備えて要請した騎士団の増援が、あの夜の翌日になって駆けつけたのだ。十分早い対応だったのだが、役に立たなかった連中のために遠征費を持たなければならないことに、ヴァレンティーナ様は少なからず不満を持っていた。当然頭では理解しているが、無駄に減っていく予算の数字を黙って見ているのは苦痛らしかった。
 そしてその鬱憤の矛先は唯一、当たり散らせる知人として僕に向けられる。
 リオナたちは今頃、ユニコーンの子供たちとお祭り騒ぎをしているはずだ。
「ああ、どうすりゃいいのよ! 獣人の武器の査定なんて、できないわよ。軍隊じゃないんだから。エルネスト、ここ数字、間違ってるわよ! しっかりしなさいよ! 余計な仕事増やさないでよ!」
 なんだかやさぐれてきたな。
「騎士団には二、三日逗留させて帰って貰え。そうだな遺体の回収でもやらせておけ。証拠を突きつけてミコーレ公国に猛烈に抗議してやる!」
 賠償金をせしめてやるの意味だよな。
「ああ、それと」
 部屋を出て行こうとするエンリエッタさんを引き留めた。
「それと、マギーを寄越して頂戴」
 丸投げか…… 丸投げですか?
 マギーさんに武器の購入見積もり、その他全部丸投げする気だよ。
 僕の視線を感じた領主様は言った。
「しかたないでしょ! 個別対応なんてできないんだから! 商人に任せるしかないでしょ!」
 僕はまだ何も言ってませんよ。
 マギーさんの実家が儲かるんだからマギーさんも嫌とは言わないだろうけど、彼女は建築資材やら物資の搬入やらで多忙を極めている。
 実家から人でも送って貰って、なんとか穏便に。
 そうだ!
「ヴァレンティーナ様」
 僕は鞄からあるものを取り出した。
「これ、いくらで売れますかね?」
 僕が取り出したのは『なんちゃって完全回復薬』改め、『上級回復薬』二瓶だ。一瓶は自分のものにしようと思ったのだが、今は有事である。
 そこへマギーさんがやってくる。
「お呼びになりまし……」
 僕の手にした瓶をおそらく『認識』したのだろう、彼女は固まった。
「ええと、『上級回復薬』作ったんですけど、資金の足しになりますかね?」
 領主への挨拶もそこそこにマギーさんは僕にがぶり寄る。
「『完全回復薬』じゃないですかぁ!」
 あれ? 『上級回復薬』だったはず……
 あれ?
『完全回復薬』になっていた。寝かせたりなかったのか……
 結果オーライ? かな?
「当商会がすべて引き受けさせて貰います!」
 マギーさんの目が爛々と輝いている。
「くくくっ、これでまだまだ戦えます。今年の補正予算大幅アップです!」
 舞い上がった。よほど資金繰りに苦慮していたのだろう。
「ああ、用があるのは私の方なんだが」
 話が元の軌道に戻った。
「なるほど獣人たちへの補償ですか……」
 薬の瓶をチラ見する。
「お引き受けいたします」
 快く受けて貰えた。
 僕もほっと胸を撫で下ろした。「自重しろ」と言われなかったことに。

 ユニコーンの子供たちはその日のうちに親元に戻っていった。里までの道のり、累々たる魔物たちの屍が転がっていたという。
 まさかユニコーンの里にも仕掛けていたとは…… 
 どうやってこれほど広範囲に魔物を操ることができたのか?
 それは結局、数日経っても知ることはできなかった。
 何故なら当人が独房で自害して、このとき既にこの世を去っていたからだ。
「発表は不慮の事故死だそうだ」
 ヴァレンティーナ様は頬杖を突いて溜め息を漏らした。
「政治的解決…… 大人の事情というやつだ」
 あの男は消されたのだ。強力すぎるユニークスキルを持つが故に。ミコーレ公国も手に負えなくなったのかも知れない。
 男の名はサルヴァトーレ・チッチ。
 平民から将軍に上り詰めた男。羊飼いの家に生まれたこと以外、誰も男の過去を知らない。大きな謎を残したまま、果てしない欲望に溺れてひとりの男がこの世を去った。


 一週間も経たずして、賠償額が決まりヴァレンティーナ様の肌つやも良くなった。
 再び襲撃がないかと恐れて待避していた工夫たちも戻ってきた。前より活気があるようにすら思えた。
 一方、マイペースな獣人たちは……
「すっかり馴染んでしもうたのぉ」
 森にユニコーンの子供たちが遊びに来るようになってしまって困っていた。否、喜んでいた。
 子供たちは堂々と東門から入って来ては荷運びなどをして手伝っている。
 お駄賃は手のひらより大きなポポラの実、勇者の世界でいうところの『りんご』という果実に似たものだ。蜜たっぷりの甘くておいしい木の実だ。
「安い駄賃だな」
 僕がからかうと『草風』が頭突きを食らわしてきた。
「痛ッ、お前頭突き痛い…… あれ?」
 僕は『草風』の額をさすった。
「これ…… 角じゃないのか?」
 驚いたのは『草風』だった。じたばたしながら自分の額を見ようとする。古今東西自分の額を見られる者などいない。寄り目になったり、首を振ったり。
 無理だって!
「リオナ、鏡持ってきてやれ」
 リオナと妹ちゃんは我が家に飛んでいった。
『草風』はついに自分と追いかけっこを始めた。

『草風』は鏡に映った自分を見つめながらずっと見惚れて固まっていた。鏡では飽き足らず、池の水面をのぞきに行く始末だ。
 長老たちは池に小船を浮かべて釣りをしている。どこから持ってきたのやら。武器がないので狩りにも行けず退屈なのだそうだ。どうせ隠居の身だろうに。そこうちの庭だからな。
「お昼の時間よ」
 アンジェラさんとエミリーが手を振り僕たちを呼ぶ。
 なぜか、『草風』兄妹と長老たちが一緒だった。
 そこへ姉さんが土産を持って合流する。おやじさんの腸詰めである。
 リオナは大はしゃぎだった。
 団らんを楽しんでいると姉さんが言った。
「ギルドが来るぞ」
 緊張が走った。リオナが飛び跳ねた。
「楽しくなるな」
 姉さんの一言に僕たちは頷いた。でも今のこの町に需要あるのかな…… みんな僕より強いんだよな。

「エルネスト」
 振り返ると玄関口にオズローが立っていた。
「俺の母さんと、妹だ。いっしょにこの町に住んでくれることになった」
 オズローの後ろからふたりの女性が現れた。
「さあ、そんなところに立ってないで入った、入った」
 オズローがふたりを促す。
「遠いところからようこそ――」
 アンジェラさんが出迎えた。
 オズローは結局『銀花の紋章団』には入らなかった。
 この町の守備隊に入隊することに決めたのだ。
 リオナは残念がったが、弟分の門出を笑顔で見送った。
 この家からも出て行くことになった。森のなかで家族と暮らすという。


「何を狩ろうかね」
「肉です! エミリーが在庫が切れそうだと言っていたのです」
「なんでだよ、三ヶ月分はあったはずだぞ」
「振る舞ったです。凱旋のお祭りやったです」
 手間暇掛かるベーコンをよくもまああっさりと。
「黒毛にするか?」
「コロコロです。牛肉なのです」
 だから豚だって……
「中庭に解体した肉ごと転移して大丈夫かな?」
「ポータル使うついでに聞いておくのです」
 解体屋はいつこの町に来るのかな。需要を考えると正式な入植が始まってからだろうな。
 僕たちは公共ポータルからアルガスに向かう。
 現地で荷車を買って肉を満タンにのせて帰ってくる予定である。持ち帰った荷車は工夫に売り払えばいいだろう。
 うーん。僕は大きく背伸びをする。

 いい狩り日和だ。


 町に名前が付いたのはそれから三日後のことだった。
 一角獣の町、スプレコーン。
 それが僕たちの新しい町の名だ。輝くユニコーンという意味らしい。
 なぜか『草風』と妹ちゃんが誇らしげに胸を張った。

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