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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー16

 まだ生き残りがいるかも知れない。
 ヴァレンティーナ様を中心に左右にエンリエッタさんとサリーさん、後ろにルチアさんとマギーさん。そのさらに後ろに僕が警戒に当たる。
 周囲には黒焦げになった遺体が散乱している。
 あれ? 
 僕は大事なことに気付いた。闇属性の結界って…… 魔法結界じゃなかったんだ。魔法普通に通るじゃないか! しまった、いつの間にか獣人の思考になっていた。物理攻撃のことばかり気にしていた…… 新型弾いらなかったじゃんか! 普通に属性付与すれば行けたかも知れない。あー 失態だぁ。オズローのせいだ。全部あいつのはちゃめちゃな戦闘のおかげだ。どうせ僕の魔法じゃ、たいしたダメージは与えられなかっただろうけど…… ああ、やっちまった。姉さんにばれたら……
 あれ? まだ見えないエリアが存在する。
『魔力探知』に引っかからない場所がすぐ近くにあった。
 おかしい……
 姉さんの攻撃、直撃を受けなかったのか? いや、直撃を受けなくても地を這う電撃を避けられるはずがない…… 即死しなかったとしても麻痺はしているはずだ。
『元々武闘派だからな。気にいらんのだろ。搦め手の野郎は』
 砦攻略の折、僕を案内してくれた兵士が言った台詞が頭に浮かんだ。
『公国内の権力闘争らしい。なんでも魔物を操るスキルを持った人物が台頭してきたせいで、軍内部のパワーバランスが崩れたようだ』
 西部方面の魔物の大量発生に関与したかも知れない男。今回の首謀者だと、僕が当たりを付けていた男。公国の三傑の一角、ラヴァルを追い落とし、将軍の地位に収まった男。
 あり得ない。こんな簡単な幕切れであるはずがないッ!
「『魔弾!』」
 僕は蠢く闇に銃弾を叩き込んだ! 何発も、何発も、何発も!
 あのラヴァルを追い落とした相手が、この程度で終るはずがない! 
 搦め手野郎! あのラヴァルが否定した相手なら正々堂々ということはあり得ない。ここまでの戦闘がそれを既に証明している。影に潜んで、勝つためならどんなことも厭わない相手。
 ここでは終らない。終るはずがない。
 サリーさんが僕の仕掛けた闇に突っ込んだ。
 甲高い悲鳴が上がった。闇蠍がまだ生きていた!
 この闇のなかにまだ潜んでいたのか?
 やつの狙いはなんだ? 誰が本命だ?
 ユニコーンの子供? 自分の魔物軍団にユニコーンを加えるためか? 
 それともこの地の領主ヴァレンティーナ様か? 皇太子殿下とマリアベーラさまの関係を、ひいては二国の関係を決定的に引き裂くためか?
 どれも違う気がする…… 誰だ? 何を狙っている?
 ラヴァルを討った男! 元将軍の敵を討つことで軍部のさらなる信用を得ようというのか?
 動機としてはどれも薄い気がする。
 いや…… そのすべてがやつの動機か! 
 軍で名声を上げ、決定的な地位を確保し、強力な軍団を持って隣国を制圧する!
 将軍にまで上り詰めてなお、息を潜め、獲物を虎視眈々と狙う狡猾な男が考えそうなことだ。
 騎士道に準じるラヴァルとはまさに水と油。
 ならば、そんな男がなぜこの状況を作り上げた?
 何がある!
 何があるんだ。
「討ち漏らしたか」
 サリーさんが周囲を警戒しながら戻ってくる。
 なんだ? 違和感を感じる。
 僕はまた何かを忘れている。単純なこと。どうでもいい様なこと。でも重大な何か。
 気をつけなければいけないこと。戦いを優位に進めるための下地作り…… 地の利を作るには…… 現状はやつにとって…… 不測の事態なのか?
 これがまだやつのシナリオのうちだとしたら……
 やつの狙いは!
 背筋が凍った。
「罠だ!」
 前方を歩く五人を僕は凝視した。
「みんな戻れ!」
 五人が僕の声に驚き振り返った。
 そのとき最初の転移結晶の原石が砕けた。魔素が四散する。
 二つ目、三つ目、次々原石が砕けていく。
 駄目だ、周囲の死体すべてが抱える原石が誘爆する!
 僕の感じた違和感、これだけ原石が転がっているのに姉さんの雷撃でどれ一つ誘爆を起こさなかったことだ。それはつまり、原石が既に何者かによってコントロールされている証拠だ。
 そして今、死体の抱える原石と満タン状態で反応を示さない無数の原石に僕たちは取り囲まれている。
 考えろ! 考えろ! 考えろ! 
 今誘爆が起これば僕たち六人は全滅だ。姿を隠したあいつはまんまとユニコーンの元に辿り着くだろう。橋は既に下り、城門も開いている。やつは悠々とユニコーンの元に辿り着くだろう。
「ユニコーンは守るです! 誰にも渡さないのです!」
 リオナは絶対に立ちはだかるはずだ。だが、やつは新たなユニコーンの軍団を作るためなら子供でも容赦なく殺すだろう。
 殺らせるか……
 殺らせるものか…… 
 リオナは殺らせない! 
「殺らせるものか」
 すべての魔素をこの手に!
「『楽園』ッ!」
 僕は周囲に広がる魔素を急激に魔力に変換し魔法陣を思い浮かべる。僕の血に眠るもう一つのユニークスキル。全身の魔力が一気に吸い取られるのが分かる。だが、周囲の魔素が僕に魔力を補充する。
 現王宮筆頭魔導師アシャン老のユニークスキル『牢獄』に似て非なるもの。偽りの楽園! 姉の最大魔力の三倍もの魔力を必要とする禁断のスキル! 来るがいい、僕の世界に! 僕の望む世界にッ!
「隠者よ。姿を現すがいい!」
 世界は変わった。それまでいた者たちは誰もいなくなった。目の前にいた四人も、城門のそばでこちらの様子をうかがっていた者も。城壁の上にいた者たちも。
 すべてが消えた。
 現れたのは誰もいない海岸だった。見覚えのあるコテージの様な朽ちた建物がそこにあった。前回と違い、そこは灰色のくすんだ世界だった。生き物のいない世界。感じる。ここは『牢獄』により近い世界だ。人の存在しない滅びゆく世界だ。
 僕の背中を今まさに剣で刺し貫こうとしている男がいた。残虐な形相をした名も知らぬ男。
「『楽園』へようこそ」
 僕の笑みとは裏腹に、男の目には恐怖の色が浮かんでいた。
「呼吸はできる様だね。さすが将軍だ」
 男は僕を睨み付ける。
 僕は男の手から難なく剣を取り上げた。
 さて、この男どうしてやろうか?
 やはり生け捕りだろうな。
 だが、このままでは現実に戻った途端、こいつは逃げ失せるだろう。それだけの手練れだ。
 まず魔法を封じなければ。こいつの魔物を操るスキルは危険すぎる。
 ヴィオネッティーの名を聞き、恐れる者の気持ちが今は分かる気がした。
 僕は男のスキルをのぞいた。やはりあった。ユニークスキルが。
『魔物を従えし悪魔の誘惑』
 そして『暗殺者』のスキル。『隠密』の上位スキルだ。
 どうやって魔法を封じるか……
 僕は適した魔法陣を探した。
 すると例の如くどこからともなく足元に本が落ちてきた。
 僕は頁を開いた。
「なるほどこの魔法陣か」
 それは刑罰の一種だった。魔法を使う凶悪犯を終生拘束し続ける術式だった。呪いと言ってもいい。肉体を維持する以外の魔力の放出を認めない魔法陣だ。
 僕は魔法陣を手のひらに複写した。
 そしてそれを男の背中に押しつける。
「そこまでじゃ。エルネスト」
 現れたのはアシャン老だった。
「爺ちゃん?」
 最後に見たときと同じ格好をしていた。姉さんと同じ王宮魔導士のローブを着ている。歳を取った様子もなかった。
「全くお前たち姉弟には驚かされるの。元気じゃったか?」
「はい。見ての通りです」
 お爺ちゃんは笑みを浮かべながら動けない男の姿を見つめた。
「封じるつもりじゃったか?」
 僕は頷いた。
「この男は危険です。連行するにも拘束は必要かと思いました」
「確かにお前には脅威よのぉ」
 爺ちゃんは紐を取り出した。すると男の身体を締め上げ、最後に何か魔法陣を発動した。
「そばに誰がいる?」
「ヴァレンティーナ様が」
「そうか。ならすぐ帰ってやるがいい」
「爺ちゃん。ここは爺ちゃんの世界なの?」
「いいや、ここはお前の世界じゃよ」
「『楽園』って知ってる?」
「『牢獄』のことじゃよ。『牢獄』ではお前を拘束できないと判断したスキルがお前を懐柔しにかかったのじゃ。お前を空間に閉じ込めておく最良の方法は何じゃと思う? そりゃ、お前にとって最高に居心地のいい世界になればいいんじゃよ」
 そんな馬鹿な…… 『楽園』にはそんな裏があったなんて。
「レジーナにも困ったものじゃ。弟を閉じ込めるなど」
「魔法が使える様になりたかったんだ。僕が頼んだんだ」
 お爺ちゃんの大きな手が僕の頭を撫でる。
「エルネスト、自分の都合で人を裁くなよ。恐ろしいから封印すると言うのなら、わしらもまた封印される側の人間じゃ。寛容であれ」
 僕は頷いた。
「こやつはわしが連れて帰ろう。王女にはそう伝えるがよい」
「はい。伝えます」
「それから…… 姉さんにたまには帰って来いとな」
「はい。言っておきます」
 僕は海が嫌いだ。溺れた記憶があるからだ。どんどん沖に流されて陸地が遠のいていく恐怖。どんなに泳いでも陸地は近づいてこない。
 この場所は僕が溺れた海水浴場に似ていた。僕の本能がここに長居するなと言っている気がした。
「では帰ろう」
 爺ちゃんの言葉と共に世界は閉じられた。が、最後に見たあの男はどこか笑っている気がした。
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