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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー14

 ユニコーンのために用意した地下のシェルターは滝の裏手にあった。
 新たに作るのではなく、既に緊急避難用に用意されていた広い空間を利用するのである。
 僕の知らないところで相変わらず何やってんだか。ていうかそんなもの作る暇がどこにある?
 滝壺の縁に沿って砂地や岩の隙間を進むと、滝の裏側に出ることができる。そこに洞穴があって、それがシェルターへの入り口になっていた。
「滝の裏といったら秘密基地と決まってるだろ?」
 姉は悪びれもせずに言った。
「実際やるやつはいないよ。せいぜいほこらを建てるぐらいだろ」
「それもおいしいな。いい観光名所になる…… どこぞの大神でも祭るか?」
 却って恨まれそうだ。
 姉は案内だけ済ませると館に帰って行った。
 姉はユニコーンが苦手なのだ。
 姉に半殺しの目にあった日、僕を慰めるためにエンリエッタさんが僕に話したことがある。
 まだ姉が魔法使いとして、まじめに修行していた頃、姉は一頭のユニコーンと出会った。
 名を『雪よりも白き吐息』と言った。姉は『トイキ』と呼んでいたそうだ。最強魔導士の姪としてやっかまれ、いつも孤独だった姉にとって心を許せる唯一の親友だったという。ふたりは共に戦場を駆け巡った。ユニコーンと魔法使いの組み合わせはやがて周囲からも視線を集め、当人たちもまた思い上がっていた。ヴァレンティーナ様と知り合ったのもその頃だった。だが、成功をやっかむ者たちはどこにでもいるものだ。
 ある朝、いつも通り、『トイキ』専用の厩舎に迎えに行くと、そこには冷たくなった『トイキ』が待っていた。威風堂堂と立ったまま姉さんの訪れを待ち続けていたという。毒殺であった。
 姉は烈火の如く怒り、犯人とそれを擁護する一派をひとり残らず捕らえ、罰を与える様、上司に進言した。
「ユニコーンを殺したとてなんの責任ぞ」
 姉はすでに鼻薬を嗅がされていた高官を殴り飛ばした。
「ユニコーンの友人は多い。判断を間違うと、お前たちの後方に控える魔導士の何人かはお前たち前衛で戦う者たちを守ることに躊躇を覚えるだろう。少なくともわたしは敵を倒すためなら、お前たちを巻き込むことなど厭わなくなるだろう」
 動揺した上司はさらに上の上司に進言した。王宮は上へ下への大騒ぎになった。
「わしも歳じゃし、戦場に到着するのが遅くなるやもしれんの」
 王宮筆頭魔導師、ルノアール・アシャン老が国王を前に、姪を擁護する発言をしたことで犯人一派は知性ある者の命を奪ったものとして正しく処罰されることになった。
 だが、姉の心には大きな傷跡が残った。
 だからどういう理由であれ、僕やリオナがユニコーンに関わることを、近づくことを許せなかったのだ。
 エンリエッタさんは僕の枕元でそう語った。
 ヴァレンティーナ様と冒険者となり諸国を旅する切っ掛けにもなった大事件であり、今でこそ自由奔放な姉の若かりし頃の苦い思い出話だった。
 未だ頭は冷えず、王宮のお抱え魔導士でありながらふらついているのはそのせいか…… 

「僕の敷地に迷宮があると言われても、僕はもう驚かないよ」とリオナに冗談を言ったら「聞いてたら造っちゃうのです」と真顔で返してきた。


 世紀の一瞬と言っていいだろう。
 子供とはいえユニコーンと人の共存する風景が目の前に広がっていた。
 触れるほど近くに、べたべた触っているのが若干一名いるが、目の前にいるのだ、伝説の聖獣が。
 歓迎会は盛り上がっていた。
 宵の口とはいえ、相手は子供だ。ストレスも抱えているだろう。
「そろそろユニコーンだけにしてやったらどうだ?」と進言したら、リオナは「不安になるから寝るまでそばにいてあげるです」と真逆な回答を宣った。
 長老のホッケばあちゃんに目配せしたら、任せておけと言われたので引き下がった。
 獣人たちはユニコーンとのつきあいは長い。崇めるほどの距離ではあるが、それでも好みを知っているらしく、半日掛けて採取した木の実や果実を大盤振る舞いしていた。介添えの大人のユニコーンたちも役得とばかりに歓待を楽しんでいるようだった。乳飲み子に乳を与えている母親もいた。
 僕は現場をリオナと長老に預けて警備する側に回ることにした。
「ワイバーンだ!」
 ひとりの獣人が入り口に走り込んできた。
 決して大きな声ではなかったが、地下の訓練施設並みに広い空間に声が反響した。
「ワイバーンだと?」
 どよめきが広がった。
 レベル五十台の大物だ。まさか空にいるのか?
「この森にはワイバーンがいるのか?」
 僕はホッケばあちゃんに尋ねた。
「ワイバーンはもっと熱い場所にいる生き物だぁ。それにこの辺にはあいつらの巣になるような崖はねえだよ。あいつら身体さ重いべ。相当たけえ崖からでないと飛び立てねぇんだ」
 さすが長生きしているだけあって物知りだ。
 敵は三匹らしかった。
「若さんいるか?」
 飛び込んできた別の男が僕を探した。
「こっちだ」
「伝言だ。ワイバーンを村の外に追い落とすまでは誰も外には出るなだとよ」
「分かった」
 僕は『草風』にシェルターから出ないように言った。
 幸い、ここには獣人の子供たちもいたのでちょうどよかった。
 程なくして斥候が戻ってきた。
「三匹とも堀の向こうに落としたぞ。もう大丈夫だ」
 おおっ、全員が唸った。
「落雷で一撃だったぞ。凄かったぞ」
 斥候が村人と興奮しながら外の様子を話していた。
 獣人の子供たちの方が遙かに落ち着いて見えた。ユニコーンの子供を全力で守る気でいる子供たちは、自分たちが守られているという感覚がないようで、おびえることなく素直に大人たちの言うことに従っていた。さすがに朗報には顔が緩んではいたが。
 ユニコーンは子供のなかでも年長者の『草風』が統率していた。リオナが常に隣にいる。その横にべったり沿う様にいるのがたぶん妹ちゃんだ。
「それとまだ誰も気付いていませんが、南側がおかしいと衛兵に志願した仲間が言っております」
 斥候が僕にだけ耳打ちした。
 僕はおばあちゃんに後を頼むと様子を見に行こうと入り口を出た。
「わしも行こう」
 ホワイトレッグさんがオズローを引き連れて付いてきた。獣人、耳よすぎだろ。

 獣人の精鋭たちは森の周囲を警戒していた。当然森の片側は城壁であり、その上を警戒している者たちもいた。特に南門にいる連中が異常を気にしていた。
 思ったより時間が過ぎていたようだ。
 既に日は沈み、曇り空に月が浮かんでいる。
 僕たちは闇のなか、わずかな明かりを頼りに城壁の上に出た。夜目の利く獣人にはこれでよくても僕には暗すぎた。僕は懐中電灯で足元を照らした。
 さすがに森のなかは真っ暗で何も見えなかった。静かすぎると思った。
 ワイバーンの飛ぶ夜だ、獣たちも警戒して当然だろうが……
 頼りになるのは見張りの遠光器の明かりと、北側の戦闘の明かりだけだ。北側では光の魔石の目映い光が城壁の影をより一層暗く染めていた。
「どうだ?」
 ホワイトレッグさんが兵士のひとりに尋ねるとすぐに鼻を塞いだ。
「なんだ、この臭いは」
 ホワイトレッグさんは鼻を塞いだ。オズローもだ。僕だけはなんともなかったが、確かにすれた嫌な臭いが微かにする。
臭木(においぎ)をどこかで焚いているのでしょう。どうやらこちらの鼻を麻痺させる気かと」
 僕は『魔力探知』を行った。
 案の定、堀の向こうに、闇蠍の群れがいた。

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