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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー12

 翌朝早々に来客があった。
 うわさの長老様ご一行だった。
「お爺ちゃんなのです」
「やっぱりリオナじゃったか。ほれ、婆さん、わしが言ったとおりじゃったろ? わしの鼻もまだまだ衰えておらんぞ。がははは」
 リオナ親子が以前世話になっていたサン・ポ村の村長だったトビ爺さんが言った。
「そっけ、リオナちゃんが若様の奥さんだったんかい。婆ちゃん驚いたわ。しっぽが縮んじまったよ」
「ホッケ婆ちゃん、しっぽ長くて邪魔だっていつも言ってたっぺ。ちょうどえがったじゃねーか」
 トビ爺さんの妻のホッケと隣村のサン・サロ村のポンテ婆さん。三人は猫族である。
「隣村の爺ちゃん。まだ生きてたです」
「それがよ、息子に村長譲ったら、病気がけろっと治っちまってよ。今嫁さん探ししてんだわ」
 サン・サロの元村長トレド爺さん。大柄な熊族である。
「みんな、若さんの前ですよ。もっとしっかりしてくださいよ」
「なぁあに、ひとりだけええ子になろうと思って、ユキジさんは昔からそういうとこあんだ」
「オズロ、おめ、こんなとこで何やってんだ? 村さ、帰れ」
 ヤコバ村の現役女村長ユキジ婆さんとその夫のホワイトレッグ爺さんだ。最年少のユキジさんとホワイトレッグさんは犬族である。
 リオナを混ぜた七人は万事がこの調子だ。
 おかげで会合はスムーズに終り、後はリオナに任せて僕とオズローは現場を逃げ出した。

 僕はオズローに紋章を刻んだ装備を忘れないうちに返した。
 オズローは早速着替えると町の外に嬉々として出て行った。
 僕はオズローを見送ると自室にこもり、薬の具合を確認した。
 闇蠍の毒嚢と、それなりの材料で作った解毒薬は既に反応が出ていて、『認識』スキルでも『上級解毒薬』になっている。即納を要求されているので、早速持って行くことにした。
 一方、材料をけちった、完全回復薬を目指して作った回復薬の方はいまだ『なんちゃって回復薬』だ。例の作り方だと材料費は浮くが、寝かせる時間が必要になるのが困りものだ。
 僕はアンジェラさんに後を頼んで、急いで館に解毒薬を納品しに行った。

「早かったわね」
 姉さんが書庫で出迎えた。
 姉さんは瓶を確認するとマギーに手渡し、百本分に希釈して砦と中継所に三十本ずつ届ける様に指示を出した。
「転移結晶の原石に対応する方法だったわね」
 そう言うと姉さんは一つの箱を持ってきた。両手で持ってちょうどいい大きさの箱だ。
「これ?」
 外側はなんの変哲もない箱だったが、内側は意外な素材が使われていた。
「これって…… どこかで見た覚えが……」
「地下練習場の壁材よ」
「嗚呼、魔法を遮断する」
「そのなかに仕舞えば邪魔にはならないわ。一々術式を刻むのも大変でしょ?」
「箱の持ち運びは?」
「…… 背負いなさいよ」
 あ、間があった。
「後は、これ」
 姉さんは一冊の本を本棚から抜き出した。
「持ち出し厳禁だから。見たら棚に戻しておいてちょうだい」
 そう言うと姉さんは仕事に出かけた。
『転移結晶とゲート作成に関する概論』
 僕は本を開き目的の項目を探した。
 結果からいうと、どちらの紋章も存在した。だが、同時に危険性も列記されていて、一般人が利用しないように注意喚起がされていた。わずかなミスが大事故に繋がるからとあった。『魔法陣大全』のなかにもなかったわけだ。
 資格を有する。
 姉さんが言いたかった結論はそれだった。
 一定以上の大きさの結晶を扱うには資格を取らないといけないらしい。
 僕は肩を落とした。『楽園』への重厚な扉が閉じられていく音がした。資格を取るには実務経験が必要だった。
 でも別の目的のために僕は紋章を書き写した。あたらしい銃弾に利用するためである。
 背負子を借りて箱を担ぐと僕は家路に就いた。
 小さめの馬車を用意すべきだな。二頭引きの幌馬車では不便すぎる。

 長老ご一行様はリオナとガラスの棟に向かったとエミリーが教えてくれた。
 建設途中なのに気の早いことだ。
 僕は回収した転移結晶の原石のひとつを持って、池の畔にやって来た。家から一番離れた場所で、石を水に沈めてナイフで表面を慎重に削り出す作業を始める。
『転移結晶とゲート作成に関する概論』で、やってはいけないことのひとつに魔力を含んだまま原石の加工をすることが上げられている。まれに爆発を起こすことがあるらしい。原因は装備品や、建物の付与結界等から放出される魔力に反応してしまうことらしい。これを生業にしている者は魔法付与された装備品は付けてはいけない決まりになっているらしい。
 でも魔力の開放ができない以上、致し方ない。
 安全対策を取って行うしかない。僕は魔法付与された装備を脱ぎ、作業を始めた。
「無免許」
 ナイフで一削り。削ったところから魔素が放出されるのがわかる。水に溶けて流れて消えていく。なるほどこれは危ない。
「無鉄砲」
 ナイフでもう一削り。やはり削ったところから魔素が放出される。
「無策」
 さらに一削り。魔素の放出が収まり、安定したら原石を回収。
 削りかすはポケットに収める。これだけあれば素材には十分だ。
 家に戻って早々原石を箱のなかに戻す。
 さっさと処分するべきだな、こりゃ。
 かくして新型の銃弾は完成する運びとなる。

 昼の準備ができたので僕はリオナを探しに行った。
 踏み入れたガラスの棟は内装以外は大体終ってる様子だった。
 一行は大浴場にいた。空の湯船に寝転がって全員で日向ぼっこをしていた。
 毒ガスでも吸って、全員ぶっ倒れてるのかと思って心配したぞ。
 リオナがひょいと起き上がって、僕を見た。
「お昼?」
 勘のいいやつである。
 さあ、一行を我が家の昼食にご案内だ。
 オズローは帰ってこなかったが、ホワイトレッグさんはリオナの話を真に受けて『銀花の紋章団』にオズローを入れる算段をしていた。
 オズロー、君の退路は塞がれていくぞ。ちなみに毒嚢はすべて、こちらで使う分以外は長老たちが持って行くことになった。毒嚢ひとつ金貨一枚である。ウツボカズランの金貨五枚に比べると安すぎる。命を賭ける意味では闇蠍の方が断然危険なのだが、ウツボカズランの方が麻痺や、沈痛、麻酔効果など用途に多様性があるのだ。
 上級解毒薬の材料として使えると知れればもっと高く売れるだろうが、バイブルの機密情報を漏らす予定は今のところない。
 長老たちはアンジェラさんの料理に舌鼓を打って帰って行った。自家製ベーコンを気に入ってくれてアンジェラさんもうれしそうだった。味付けは微妙に日々進化している。
 リオナは終始ご機嫌だった。
 一日が長老たちのペースでゆっくり進み、一日がダラダラと流れていった。
「これが獣人の生活のリズムなのよ」とアンジェラさんが苦笑いをする。
 リオナがたまにだらけているのはそういうことらしい。
 今回の会合でひとつだけ分かったことがある。
 それは頼るならユキジさんだということだ。少なくともユキジさん経由にすべきだと思った。他の長老たちはアバウトすぎるのだ。
 おっとりしていてくれる方が話しやすくはあるのだが…… 話が正しく通じるかは別問題である。

 翌日から村人の移動が開始された。
 総勢四百二十七名中、百二十名の先発隊である。
 もうすぐ、森にかまどの煙が無数にたなびくことになる。今から待ち遠しいことである。
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