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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー8

 それは旅に出て四日目のことだった。
 中間地点の中継所に着いたのは日暮れ前のまだ早い時間だった。
「人多いなぁ」
 中継所は街道を巡回する兵士たちの駐屯地として機能していた。そこに街道整備の工夫たちや資材が入り乱れて、芋洗い状態になっていた。
「すいません、旅の者なのですが、馬車はどこに」
「ここはまだ建設中だ。悪いがあの辺りに置いておいてくれ。厩舎はあの建物だから、自分たちの馬だとわかるようにな。工夫たちが適当に持って行っちまうからな」
 門番の男は敷地の隅のわずかに整地された場所を指さした。
「建物まだなんですね」
「予定はまだ先だからな。皆さんどこに寝泊まりを?」
 事務所らしき建屋と厩舎以外、建築資材しかないこの場所に、兵士や工夫たちの寝泊まりする場所はないように思えた。
「聞いて驚け、それは」
 兵士は地面をトントンと踏みしめた。
「まさか!」
「そのまさかだ」
 地面の下。姉さんだ。
「どうせなら厩舎も地下に作ればいいのに」
「一時的なもんだからな。砦ができるまでの辛抱だ」
 僕は言われた場所に人並みを掻き分け馬車を移動した。
「あー、素泊まりは無料であります。宿舎を使うならベッド一つ二千ルプリからであります。食事はひとり八百ルプリ、寝台込みだと五百ルプリであります。詳しいことは地下の担当者がご説明いたします。干し草はバケツ一杯で三百ルプリであります。以上であります」
 ピシッと敬礼して言うことだけいって兵士は去って行った。

「申し訳ございません。現在工期中でありまして、人でごった返しております」
 地下のフロントの担当者が手揉みをして出迎えた。
 部屋は二部屋、前回同様の食事の注文をした。赤ん坊がいるので一部屋には消音の結界を張らせて貰うことにした。
 っていうかこの喧噪にも動じないフィデリオって…… 
 母親の胸のなかでもぞもぞしているが泣く気配はない。

 僕は部屋の確認だけすると、外に出た。
 今日も新型銃弾作りである。ここ数日でようやく、三層の型が完成した。いよいよ、鉛を流し込む作業である。
 ちょうど鍛冶屋の炉が近くにあったので、炉を借りることにした。
 るつぼに入れた鉛を溶かし、型に流してできあがった三つのパーツを組上げ、かすかに魔力を流す。術式の断絶がないかを見極め、紋章が作動することを確認する。
「よし!」
 僕はファーストロットを綿にくるんで大事にポケットにしまい、作業を続けた。次に型を作るときは劣化のないファーストロットで型押しするのだ。
 魔法で劣化を極力抑えながら、ひたすらパーツを作っていく。
「そりゃ鉛か?」
 鍛冶屋の親父さんが様子を見に来た。僕は頷くと「鉛は中毒になるから温度を上げすぎるなよ」と教えてくれた。
「魔法が使えるなら毒を吸わないように空気を常に遮断するか、循環させるんだ」と注意してくれた。
 普段は土魔法で精錬した材料を一気に成形していたので気にもしていなかった。
 やはり専門家には敵わない。
 あとは最後の材料が揃ってからだ。僕は二十発分のパーツを作るとこの日の作業を止めた。
 ひたすら釘作りをしている鍛冶屋の親父さんに礼を言って僕は部屋に戻った。
 喧噪が嘘のように消えていた。
 部屋の扉を開けるとオズローが僕の本を読みながら何やらぶつぶつ呟いていた。
「魔法に興味でも?」
 僕は小声で尋ねた。
「いや、紋章を身体に刻んだら強化できないかと思ってな」
『紋章学大全』を読んでそんなこと考えるとは、つくづく変わった人だ。
「入れ墨でも入れるわけ?」
「どう思う?」
「やめた方がいいよ。魔力が常時垂れ流しになるからね。人族がそれやって死んだ話があるよ」
「そうか、いい手だと思ったんだが」
「獣人は戦化粧ってするだろ? あれも原始的な紋章なんだよ。知ってた?」
「そうなのか?」
「形骸化しちゃって、今じゃみんな適当に描いてるけどね。元は意味があったんだよ。それでも魔法装備には遠く及ばないんだけどね。何かほしい紋章があるの?」
「これだ」
 オズローが頁を開いて示した紋章は『疾風の紋章』だった。
「これ以上速くなってどうすんのさ」
「俺は図体ばかり大きくて仲間のなかじゃ遅かったんだ。だから力だけは負けまいとがんばっていたんだが……」
「僕に負けて自信が揺らいだ?」
 オズローが頷いた。
「オズロー、初動の一太刀を縦にばかり振らずに、たまには横に払いなよ。それだけで僕は死ぬよ」
 オズローは目を丸くして僕を見た。
「オズローは強いよ。保証する」
 僕は寝台に寝転がった。
「明日、簡単な紋章刻んでやるよ。その本の紋章、上級レベルの紋章だから普通の装備には刻めないんだ、じゃ、お先に。お休み」


 朝起きるとオズローは剣を振っていた。それも僕の教えた型通り、一つの動作もおろそかにしないで真剣だ。
 僕は井戸で顔を洗いながら恒例の『魔力探知』だ。最近、無意識にできるようになってきたな。僕も少しは成長してるのかな。
 お、おお? この反応は。何やってんだ? あいつ。
 僕は索敵範囲を最大にしたとき、見慣れた反応を見つけた。
 『草風』である。

 朝食は人が多いので部屋で取ることになった。
「値段は一緒でも、砦の食事の方がおいしいわね」
 アンジェラさんが愚痴をこぼした。
「ここは、アルガスから遠いから、補給も日数がかかるんですよ」
 エミリーが珍しく発言した。
「おいしいのです」
「十分うまい。五百ルプリじゃお釣りが来る」
 気にしない獣人がふたり。
「そういえば、『草風』がこの先に来てますよ」
 リオナがきょとんとしている。
「あら、まあ。一度会ってみたいと思ってたのよ」
「リオナにはわからなかったのです」
「地下にいたらわからんだろ」
 リオナは駆け出して外まで行って戻ってきた。
「匂わないのです。どこにいるですか?」
 僕は、『魔力探知』を使って、位置を特定して指さした。
「向こうがその気なら昼には会えるさ」
 僕はスープを啜った。
「誰?」
 オズローがアンジェラさんに聞いている。
「この子たちの友達のユニコーンさ」
 オズローはむせて咳き込んだ。


 僕たちはリオナに急かされて、予定より早く出立した。
 馬車の手綱は僕が握る番だった。
 というわけでオズローの防具に紋章を刻むのは午後からだ。
 街道には工夫たちが溢れていた。ここから先はまだ舗装が済んでいないのだ。石畳ではなく整地された道が続くのみだ。
 変わらぬ景色が延々と続く。
 リオナは風に耳と鼻をかざして、『草風』の気配を探っている。
 にたりと笑った。どうやら見つけたようだ。
 工夫たちがいなくなる地点を探しているのだろう。『草風』も僕たちと平行して移動している。
「あッ!」
 思わず声が出た。
「どうしたですか?」
「どうしたの?」
 リオナとアンジェラさんが聞いてくる。
「『草風』の気配が消えた」
「そんなことないのです。あっちにいるのです」
 リオナが指さした。
「『魔力探知』が阻害されてる?」
 オズローが突然叫んだ。
「闇蠍がいるぞ!」
「そんな! 『魔力探知』には何も」
「足長大蜘蛛のときと一緒かしらね……」
 アンジェラさんが呟いた。
「なんらかの方法で魔力を消してるのかもしれないわね」
「『草風』を狙ってる?」
 ユニコーンの天敵とはよく言ったものだ! 
 リオナの指さす方角からすると接触するまで時間はない。
「オズロー、闇蠍を追いかけてくれ!」
 僕は手綱をアンジェラさんに渡すとオズローの馬の背中に飛び乗った。
「わたしも行くです!」
「リオナは馬車を守れ! 終ったら連れてくるから!」
 僕たちは現場に急いだ。そして暗い闇を見つけた。まさに『草風』に飛びかからんとする瞬間だった。
『草風』はようやく天敵の姿を捕らえ、小さなものを守るべく身構えた。
 あれは…… 
「『魔弾』!」
 僕は手のひらに魔弾を作り出した。かつてぼた餅と評したそれは今では急速に回転するボールだ。威力を増しつつ安定させる。
「オズロー、全力でやつの横をすり抜けてくれ!」
 一撃で葬ってやる!
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