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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー3

 僕たちは馬車に揺られていた。
『蟹の道』の途中、盗賊たちが例の商人(あれ)を襲撃した地点をちょうど過ぎたところだった。
 四輪二頭立ての幌付きの大きな馬車に家財道具一式を詰め込んで、かつて盗賊に扮したミコーレの先兵が逃走した経路を進んでいる。
 地面は固くはあったが、ここしばらく整備された様子がなかった。風化でえぐられた土や、こんもりと雑草が茂っているせいで馬車が行き交うには凹凸が激しく、悪路になっていた。
 ひどい箇所では何回か馬車を止め、僕が魔法で整地を施してから進む有様だった。
 アルガスの領主の街道整備に対する無頓着ぶりは間違いなく遺伝であると思えた。新しい街道が整備されるほど、この道のずぼらさ加減は比較されることになり、『蟹の道』同様、いずれ批判の的になって、改修せざるを得なくなることは目に見えている。
 思わず僕の手が止まる。
 僕がやり過ぎれば改修が遅れるかも知れない。悪路のままにしておくべきか? でも新しい町にいずれやって来る同胞を思えば整地しておいて上げたい。
 進める間は我慢するかな……
 真新しい新都市行きの看板が分かれ道に立っていた。でも都市の名はまだ刻まれていなかった。
 やがて広々とした見晴らしのよい荒野に出た。
 僕は銃を傍らに置き、周囲を見渡した。
 野犬の類いがいなければいいけど…… 
 馬車の手綱はアンジェラさんが握り、僕は隣に座っていた。
 リオナは御者台の後ろで干し肉をかじりながら、周囲を警戒している。
 この干し肉、リオナ自身が金を出して買い漁ったものだが、その総額銀貨五十枚分、五万ルプリというから笑ってしまう。元々これの倍あったというのだから、なおさらだ。さすがに寛容なアンジェラさんも金貨一枚を散財した娘にげんこつを落としたらしい。
 リオナは渋々、半分を返品してきたらしいが、それでもリオナの鞄は干し肉だけで満杯状態だった。香辛料のいい匂いがするのはそういうわけだ。
 索敵に支障がなければよいのだが、というより匂いに誘われ、魔物や獣が襲ってこないかが心配だった。という訳で僕は問答無用で消臭魔法を鞄にかけた。
 リオナの絶望した顔が僕を見つめた。
「食べる分は解除してやるから安心しな」
「干し肉天国が……」
 両手を床について、がっくりうなだれた。
「魔物にとっても天国だから、今は我慢するのね」
 アンジェラさんにも静かに突っ込まれて、撃沈した。
 匂わない鞄を抱きしめて、新しい干し肉を一枚取り出すと「んー」と僕に突き出した。
 僕は魔法を解除してやる。
 気持ちはわかるけど、赤ちゃんもいるからね。
 言ってるそばから、獣の団体さんが遠くでこちらをうかがっていた。
『野犬、レベル4、オス』
 数で来られると面倒だ。僕は銃を一発撃って奴らを散らした。
 僕の銃には消音の術式が刻んであるのでフィデリオがびっくりすることもない。
「ちょっと、何無駄撃ちしてるのよ。周りをよく見て判断なさい!」
「え? でも」
「見えているだけでは駄目よ。考えなさい。この辺りの獣たちは飢えていると思う?」
 そりゃあ……
「飢えてないのです」
 え?
「食べられる植物がいっぱいあるのです。肉を食べない動物は葉っぱと木の実でお腹いっぱいなのです。肉を食べる獣もお肉を食べてお腹いっぱいなのです。お肉はおいしいのです!」
 結論はともかく、リオナの言ったとおりだ。
「つまりわざわざ危険を冒してまでこっちには来ないってことよ」
「はぁ……」
 エミリーは荷台でフィデリオが収まったベビーベッドならぬ竹籠を抱えていた。振動を緩和するために毛布を何重にも敷き詰めた特等席に座らされていた。
 フィデリオはぐっすり寝ている。相変わらず動じないやつである。
「尻が痛い」
 僕は尻を持ち上げた。
「ハハハッ、そのうち慣れるさ」
「砦から先は整地してあると言ってたです」
 リオナの言うとおり、森の入り口にある砦跡はアルガスとの境界にあり、そこから先は石畳の舗装が行われているはずだった。
 現在砦は関所として完全に改修され、中継所として機能している。
 そして本日の目標地点でもある。
 転移で何度も行った場所に、一日かけて移動する怠さといったらなかった。正直時間の無駄に思えた。
 それでも、リオナは周囲に蠢く諸々を見つけると身をもたげて楽しそうにしている。
『魔力探知』で広範囲を定期的に索敵する。
『穴熊、レベル十五、メス』
「穴熊だ」
 姉さんのことではなく、正真正銘の穴熊がいたのだ。
 森の手前の鬱蒼とした茂みのなかからこちらをうかがっている。
『認識』スキルにかけたらヒットした。
「襲う気はないようね。後で報告だけしておきましょう。地図に印をしておいてちょうだい」
 アンジェラさん曰く、情報の記された地図はそれだけで十分、冒険者の宝になるのだそうだ。迷宮のあの地図のように。
 僕は『穴熊』と記した。
 いざ記入してみると他にもいろいろ記したくなるもので、僕は索敵、観察しては『鹿』だとか、『兎』だとか、『岩場』だとか、『狩猟小屋』だとかを記入していった。
 昼は沢のそばに馬車を止め、馬のために休憩に入った。
 リオナは馬車から降りると、見晴らしのいい木に登って周囲の警戒を始めた。
 エミリーは干し草の入ったバケツを持って甲斐甲斐しく馬の面倒を見ている。
「村では牛を飼っていたので世話は慣れてるんです」
 彼女は赤くなりながらそう言った。
 アンジェラさんは馬車のなかでフィデリオに乳をやっている。
 僕は土魔法で簡単なテーブルと椅子を作った。これも魔法の練習だ。
 馬の世話が終わったエミリーが馬車からバスケットを持ってきてパンとベーコンと水差しを並べ始めた。エミリーはそっと水差しに触れると水差しごと中身の牛乳を魔法で冷やした。
 僕は驚いてエミリーの手を見つめた。
「魔法?」
「はい、私も少しだけ使えます。氷魔法は重宝すると言われて覚えました」
 そりゃ、そうだよね。生活魔法は大概の人が使えるんだから。エミリーが使えてもおかしくないよね。でも氷か…… 四属性と違って希少なんじゃなかったっけ? 他人のこと言えないけど、それだけで一生食っていけるって誰かが言ってた。
 やがて、アンジェラさんがフィデリオと馬車を降りてきた。
 フィデリオはお母さんの腕のなかではしゃいでいる。
 どうやら愚図るという行為を町に忘れてきたらしい。ご機嫌のようだ。
 全員揃ったところで昼食を始めた。
 僕はパンにベーコンを贅沢に挟んで頬張った。
 一方、リオナは胸焼けがするらしく、ベーコンをよけて食べている。
 エミリーもアンジェラさんもそれがおかしくてたまらず笑っている。
 フィデリオは母親の膝の上で不器用に手を叩いている。
 リオナはよけたベーコンを未練がましくいつまでも見ていたが、残飯整理にアンジェラさんが三等分しようとしたところで決心して、胃袋に放り込んだ。
「お肉が別腹じゃないと分かってよかったよ」
 片付けが済むとお茶を一服して、僕たちは旅を再開した。

 旅は順調に続き、襲撃を受けることもなく、その日の夕方、予定よりも早く砦に到着した。
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