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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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ユニコーン・シティー1

 僕たちは、近場の簡単な依頼を受けながら、座学重視の日々を送っていた。遠出した疲れがリオナに残っていたことと、天候が不順だったせいだ。
 座学の傍ら、僕は懐中電灯作りに精を出し、リオナたち女性陣は燻製作りに勤しんでいた。

 懐中電灯の仕掛けは簡単だった。
 凸レンズと反射板の組み合わせだけだったから。
 レンズは雲母ガラス、反射板は銀を薄い板状に伸ばした物を利用する。魔法で成形して磨いて、光の魔石を器に収めて固定すればできあがりだ。
「これって、警備が夜間に使う遠光器に似てるわね」
 アンジェラさんの言葉に驚いて、僕は町の警備に遠光器なる物を見せて貰った。形は違うが原理はまったく同じ物だった。
 僕は肩を落とした。
 そりゃそうだよな。バイブルが書かれたのは遙か昔なんだから。実用化されていても不思議はないんだ。いや、むしろ当然だ。
 完成品は速攻リオナに接収され、エミリーとのふたり部屋に置かれた。夜トイレに行くときに使うらしい。明かりを収束できる方が周りに迷惑をかけないで済むからだそうだ。
 アンジェラさんも鞄に入るサイズが気に入ったらしく、ほしいと言いだして、結局エミリーと自分の分も含めて三つ追加で作ることにした。
 そして僕は作業工程のなかで新たな発見をすることになる。それはレンズとレンズを重ねたときに起こる現象だ。なんとものが大きく見えたのである!
 僕はバイブルのなかに似たような挿絵を見たことを思い出した。
 僕は急いで秘密のメモ帳をめくって、挿絵の写しが残っていないか確認した。切り捨てた情報の方にあったかもと失念していたからだ。挿絵の写しを見つけたとき、僕はほっと胸を撫で下ろした。

 燻製が完成した日の夜、望遠鏡の試作品も完成した。
「逆さま、逆さま~」
 リオナがエミリーと一緒に遊んでいる。景色が逆さまに見えるのが面白いようだ。
 ふたりして首を必死に曲げながら、交互にのぞいている。
 そんなふたりの動きが窓の外をのぞいた途端、ぴたりと止まった。
 リオナが望遠鏡から目を離し窓の外を見上げた。エミリーは望遠鏡をリオナから取り上げると望遠鏡で外をのぞいて固まった。
「なくなったです!」
「消えました!」
 ふたりとも夜の景色のなかに何を見たのか。僕も窓の外をのぞいた。
「そんなッ!」
 高台の上にあるはずの館が跡形もなく消えていたのだ。
 見慣れた門構えも、壁も、屋根の煉瓦も。何もかも跡形なく消えていた。
「そろそろ移築するとは聞いてたけど、随分急だね」
 アンジェラさんが僕の頭越しに見て言った。
「昼間はあったのに……」
「ドラゴンも転送できるんだから、理論的には不可能じゃないよ。魔力さえあればできないことはない」
「まさか一度に運ぶなんて…… 少しずつやるもんだと思ってたのに」
「やることが派手だねぇ」
「笑い事じゃないですよ」
 あんなに楽しそうにしていたリオナがすっかり沈み込んでしまった。きっと置いて行かれた気分になっているに違いなかった。正直僕もだ。
「行くなら行くで一言あってもいいと思うんですけど」
「あんたらの姉さんのことだ、実験したら成功しちまったってだけの話じゃないのかい? それより、この町の転移結晶用意しておかないと、次からこの町に戻って来られなくなるよ。あんたたち中庭行きの結晶しか持ってなかっただろ?」
 次から転移先は町の公共ポータルになるのか。
 ふたりで銀貨四枚か…… 狩りの帰りにおいそれとは使えなくなったな。
 それより、今中庭行きの結晶を使ったら、新しい町に行けるんだろうか?

 ドンドンドン! 扉が叩かれた。
「誰だい、こんな夜更けに」
 アンジェラさんが扉を開ける。
「すまん、アンジェラ。予定が狂った。屋敷が転移しちまったもんだから、今晩泊めてくれ」
 やってきたのは姉さんだった。
 聞けば、首都からきた応援と一緒に屋敷を転移したまではよかったが、夜間は公共ポータルが使えないことを失念していたらしく、屋敷に戻れなくなってしまったのだそうだ。首都からきた連中はこれ幸いにと宿酒場に消え、ひとりどうしようかと悩んでいたら、この家の明かりが目に飛び込んできたらしい。
「でもなんで急に移築なんてしたんだい? 予定だともう少し後だったろ?」
「獣人との会談場所が急遽必要になったんだ」
 聞けば、新しい町の近くには大小五つの獣人の村があり、うち小規模な三村が入植したいと言い出したのだ。個人の入植は予定にあったが村ごととなると予想外で、そのための準備会合を急遽明日開くことになったのだ。
 だが町は現在城壁だけで建物は一軒も建っていない。区画整理をまず終わらせてからという段取りだったので仮の住居もなかった。
 転移ゲートは無料開放中、先方での利用料もこちら負担になっていたので、工夫たちは既存の都市からの通いになっていた。街道整備が済んでいないので、家財一式をまだ運んで来られないのだ。
 そんなわけで、急遽屋敷を現場に送ったらしい。
「新都市とアルガスの距離は馬車で約一週間だったね。解体屋の話じゃ、物質転送ってのは射程が長くて三日の距離、質量に関しては魔力次第だって言ってたけど? 三回ぐらい転移したのかい?」
 それだと姉さんがここに居る理由がわからない。
 都市と都市を結ぶほどの長距離を飛ぼうと思えば大仕掛けの公共ポータルを利用するしかないはずだ。
「それは解体屋の転移結晶の話だ。術式発動に消費される魔力が設定上最大三日分ってだけの話よ。解体屋の組合が互いの縄張りの線引きを三日に設定しただけのことだ」
「そうなの?」
 アンジェラさんも知らない情報らしい。
「おかげで縄張りと縄張りの間の空白地帯で狩りができなくてな。プレミアム契約ができるまでは毎年冒険者ギルドと解体屋の組合が喧喧とやり合ってたものだ」
「ああ、聞いたことあるかも」
 プレミアム契約とは、姉さんのようにレンタルエリアを標準以上契約することで得られる特権付きの契約のことだ。姉さんの場合、エリア無制限の契約になっている。もっとも転移結晶に込められる魔力には限界があるので無限ではないのだが。王国内はとりあえず問題ないらしい。
「で、どうやって運んだの?」
「例の新型を使ったんだ。一回の跳躍距離はお前も知ってるだろ?」
 例の地図にあった赤丸間の距離だ。それならギリギリ、アルガスは射程内だ。
 だからか…… 
「枯れた技術だけだったが、物資と人員の両方を転移可能にして、跳躍距離も大幅に伸ばして、尚且つ、大がかりなポータルの構造を移動式にまで小さくしたのは確かに偉業だ」
「でも大きな物を運ぶには相変わらず魔法使いの力がいるんでしょ?」
「魔力を安定して貯めておける手段が確立すれば可能なんだけだがな」
 僕は一瞬、『草風』が僕の火の魔力に回転を加えて安定させた光景を思い出して、いけるかもと思ってしまった。
「エルネスト!」
 姉さんが夢想中の僕を呼び覚ました。
「何も考えるな。お前がその顔をするときはやばいときだから」
 どんな顔だよ、失礼な。
「ひどい言い方」
「自重しろと言われたろ?」
 僕が何したって言うんだよ。巻き込んだの、全部そっちじゃないか。
「以前、『草風』に魔力の安定方法を教えて貰ったときのことを思い出してただけだよ」
「草風?」
「ユニコーンのお友達なの…… ええ…… と」
 難しい話にようやく突っ込みどころを見つけたリオナが勢いで突っ込んだら地雷だったことに気付いて、しどろもどろになった。
「『草風』はユニコーンの名前だ。確か……」
「『草原を掻き分ける風』」
 リオナは僕の後ろに隠れながら言った。
 隠れるくらいなら発言しなきゃいいのに。
「ふうーん、それは反省が足りないということかしら?」
 姉さんは隠れてるリオナに顔を近づけて笑顔で脅した。
「友達になったです! もうお友達です。譲れないのです!」
 負けるな、リオナ。と言っても無理か。
「確かに無防備に接したことはまずかったと思ってる。反省してるよ、姉さん。でももうあいつとは友達になったんだ。あいつらは獣人と話ができるし、リオナとも仲がいいんだ。人族は嫌いみたいだけど。それでもあいつらは理性的な生き物なんだ。いきなり襲ったりはしないよ。だから、他のユニコーンはともかく、『草風』と接することは認めて貰えないかな」
 僕自身、あいつとまた会いたかった。生まれたあいつの弟だか妹だかにも会ってみたかった。
「分かってて言ってるのよね?」
 僕たちは頷いた。
「ほんとね?」
 僕は黙って姉さんの瞳を見つめ、リオナは大きく頷いた。
「なら、何も言わないわ。そんな顔されちゃ、『せいぜい間違って蹴られないように気をつけなさい』としか言えないものね」
「ありがとう、姉さん」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 リオナが姉さんに抱きついた。
「その『草風』だけだからね!」
 リオナは抱きついたまま大きく頷いた。
「ほんとにお願いよ」
「さあさあ、こんな入り口で長話もなんだ、なかにお入りよ。今熱いお茶を入れるから、ゆっくりしておいきよ」
 アンジェラさんは会話に一区切り付いたと判断して姉さんを招き入れた。
「助かる。それじゃ、リオナ、今夜は一緒に寝るとしよう」
 僕はアンジェラさんと顔を見合せた。
 アンジェラさんはにこりと笑った。
 なるほど、帰れないんじゃなくて、心配して居残ったのか。まあ、お泊まりセット持ってきてる時点で変だなとは思ってたんだけどね。
 ほんと過保護だ。
 僕は思わず笑った。
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