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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第一章 マイバイブルは『異世界召喚物語』

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エルーダの迷宮6

「地下蟹の脚、三十本お預かりします」
 太陽が天頂にさしかかる頃、商業ギルドの裏手にある搬入カウンターに僕はいた。
 戦利品を山ほど載せた荷車が、職員の手で倉庫のなかに運び込まれていく。
 僕は検品作業が終わるのを椅子に座って眺めていた。
 並べられた椅子は丸太を輪切りにしただけの粗末な代物でバランスが悪かった。
 検品の終わった職員が丸太の椅子の間を擦り抜けてやって来た。
「三本ほど大きな傷がついていましたので、二十八万五千ルプリになります。金貨二枚と銀貨八十五枚になります。よろしければこちらにサインを」
 サインを受け取ると職員はカウンターに戻って、手提げ金庫からお金を出してきた。
 僕はお金と伝票を受け取ると巾着袋に放り込んだ。
 泣きそうな気分になった。
 依頼を完遂させた喜びよりも、食い繋げたことが嬉しかった。
 僕は会計を済ませたその足で隣の冒険者ギルドのカウンターを尋ねた。依頼書と水の魔石(中)五つを提出した。
「貸付金は返済なさいますか?」
 カウンターのお姉さんに問われると、僕は「ハイ!」と勢いよく答えた。期限内のため利息は付いていない。
「魔剣の方も返却なさいますか? 返却期日は十三日になっておりますが」
「借りたままでいいんですか?」
「もちろん結構です」
「じゃ、ギリギリまでお借りします」
 僕は窓口をあとにすると掲示板に向かった。手頃な依頼などないことはわかっていたので、同じ蟹の依頼を探した。
 やっと慣れてきたのだ、剣のレンタル期間が終わるまで資金稼ぎをさせてもらおう。
 現在の持ち金、依頼報酬、金貨五枚から借金二枚を引いて、蟹の脚の代金を加えると金貨六枚弱になった。


 昨夜とは裏腹に、爽快な昼下がりを迎えることができた。
 宿屋の食堂は満員で喧噪に包まれていた。僕は定食に一品増やし、カウンター席でささやかな贅沢を楽しんだ。
 金貨五枚あれば、五ヶ月は宿代に困らない。強制逗留期限は一ヶ月だ。当面の障害は回避されたといっていいだろう。
 とはいえ、『嫌がらせの剣』を返却した後のことを考えると正直心許なかった。レベルは着実に上がっているが、冒険者になって数日のド新人である事実に変わりはない。経験不足は努力と装備の底上げで補うしかないのだ。
 そう考えると装備予算が金貨五枚というのもこれまた心許ない。そもそもこのレベル帯での武具の相場というのはいかほどなのか? 装備を調達する、しないに関わらず、知っておいて損はないだろう。
 僕は食事を済ませて店を出ると、武具道具屋を見て回ることにした。


 ギルドからそう遠くないところに煙が立ち上っていた。そこが村で唯一の武具を扱う店だった。金槌の音が絶え間なく響いている。
 入口を潜ると、右手には武器が、左手には防具が所狭しと陳列されていた。外の見かけ以上になかは広かった。天井から吊り下げられた三つの光の魔石が部屋を眩しく照らしていた。
 僕は右手に進んだ。
 そこにあった品々はどれも迷宮のレベルに見合ったものだった。小さな投げナイフから巨大なハンマーまで、実践重視の武器がずらりと並んでいた。肉厚があって、ズシリと重く、装飾は抑え気味だが、威圧感に満ちていた。貴族の子息がお遊びで使う見た目だけの張りぼてとは明らかに違う代物だ。
 どれもこれも金貨五枚は下らない。さすがに予算オーバーだった。武器はまだ自前の剣が二本使えそうなので今回は保留にしておこう。
 ブースを一回りしておおよその値段を確認してから、防具コーナーに移った。
 見本と装飾のサンプルやオプションがシリーズごとに並んでいた。レザー系とチェーン系とプレート系と、小物の四つのブースに分かれていた。ものが多かったのはベルトや、ブーツ、鞄、手袋などの小物系だった。痛みやすく冒険者もお金を出しやすい商品だ。
 僕は見本や現品を見た途端、すぐさま自分の装備の貧弱さに顔を覆った。
 店を間違えてるんじゃないかと思われそうで、恥ずかしくなってしまったのだ。
 僕の装備は自作の革鎧。
 自宅の地下倉庫で埃をかぶっていた爺さんの遺品を自分の手で改修したものだ。朽ちた金属部分を取り替え、錆びたパーツを磨き、腐っていた革を張り替えてサイズを調整したものだ。目立たない程度に装飾を施し、自分好みに仕上げた一品だった。
 あくまで初心者レベルを想定した代物だが、それでも自分なりにいい素材を使ったつもりでいた。長く使えるものだと自負していた。体格のせいもあってあまり重くもできず、貧弱なレザーアーマーになってしまったが、それでもという思いはあった。
 まさかこれほどまでに差があるとは。予想を超えた事態に赤くなるしかなかった。恥ずかしさに堪えながら、僕は必死に商品と値札と説明書きに貼り付いた。店員の目を気にしながら一通り見て回り、それが終えるとそそくさと店を飛び出した。
 結局、何も買えなかった。金貨五枚じゃ、焼け石に水だった。とりあえず目標の鎧セットの値段は掌握した。レザーアーマー全身セットで金貨五十枚だ。
 金貨が五枚もあるのに、宿に引き返す道すがら、宿代に窮していたときのようなみじめな気分になっていた。
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