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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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腸詰めの日1

「おっ、それがライフルというやつかい?」
 僕が新調した銃をテーブルで確認していると、アンジェラさんが興味深げにのぞき込んできた。
「わたしも一丁作って貰おうかね」
「屋根を吹き飛ばせる人には必要ありません」
「そういえばそういうこともあったねぇ。で、いくらするんだい?」
「さあ、本体は鍛冶屋任せだし、魔石は姉さんだし、今回は材質を上げたから少し高いだろうけど…… いくらするんでしょうね?」
「自立するんなら、領収書ぐらい貰っておきなさいな。ふっかけられても知らないわよ」
「姉さんたち相手にそんなことできる鍛冶屋もいないと思いますけど」
「そりゃ、そうだけど」
 僕の向かい側の椅子に座った。
「で、何があったんだい? 新しいおもちゃを貰ったにしては浮かない顔してるじゃないか」
 これだけ落ち込んでれば、さすがにばれるか。
「実はこれ、頼んでいたものと違うんです」


 今朝方、「銃が完成したから取りに来い」という伝言を預かった。
 僕は数日ぶりに屋敷にいそいそと出かけた。
 出迎えたのはヴァレンティーナ様ひとりだった。みんなは留守で、相変わらず忙しそうだった。
 まだ引っ越して数日だというのに、景色が妙に懐かしく感じられた。
 執務室に通された僕は例の如く梱包された銃を見せられた。
「これ…… 頼んだものと違いますけど」
 僕が頼んだのは、銃身が二本あり、破壊力重視と、命中率重視の二種類の魔石を装着できるものだった。
「あの魔石のコアね、封印が決まったのよ」
 ヴァレンティーナ様が神妙に言った。
「攻撃力アップの方がね」
「何か問題でも?」
「通常の防御結界を破っちゃったことが問題になってね。あれって、城や町の防壁として現役で使われている汎用結界だからね。まずかったらしいわ」
「今になってそんな……」
「でも上が個人の持つ武器として過剰と判断したんだからしょうがないわ。例のコアは一つ残らず回収、封印。レジーナは誓約書を書かされて、わたしは顛末書執筆中よ」
 彼女は溜め息をついた。
「なんか、すいません」
「改造はこっちが勝手にやったことだから気にしなくていいわ」
「リオナの銃は大丈夫なんですか? 今更取り上げたら……」
「口径が小さいから大丈夫ということにしておいた」
「またいい加減な」
「面倒くさいからいいのよ。それよりこれの話よ」
 僕の銃を叩いた。
「これはあんたの新型の代わり。代わり映えしなくて申し訳ないけど、強度は上げておいたから例のあれでも壊れることはないでしょう。問題はコアなんだけど、ほんとに必中の加護はいらないのね?」
 僕は頷いた。
「石には複製防止の紋章を入れることになったから、後でコアの改造なんてできなくなるわよ」
「姉さんに頼むのは?」
「誓約書通りなら、新しく手を加えることはしないでしょうね。あんたのためならやりそうだけど」
「自分で刻むのは?」
「自分で使う銃ならかまわないわ。できるの?」
「全然」
「魔石に刻まなくても銃本体や、弾自体に刻む方法もあるわけだし。目くじらたてても仕方ないんだけど。まあ、改造はほどほどにってことかな。暴発すると怖いしね」
「…… やっぱり一つ貰っておいてもいいですか?」


「わたしが頼んでも駄目そうね」
 アンジェラさんが言った。
「いつでも貸しますよ」
「そのときが来たらお願いするわ。そうだね。あの子が大きくなったら、みんなで野宿するのもいいかもね。歳を取ってもこれならなんとかなりそうだし」
「そういえば、他のみんなは?」
「部屋にいるんじゃないのかい?」
 僕はフィデリオが寝ている部屋をのぞいた。
 そこは以前からアンジェラさんが使っていた部屋で、今は子供用のベッドとアンジェラさんのベッドが並んでいた。夜泣きがひどいようなら防音の結界を施そうかと思ったが、フィデリオは滅多に泣かないいい子だった。
「三人一緒に寝てましたよ」
 僕たちは笑った。
「しょうがないわね。じゃ、あの子たちには留守番頼んでこっちは買い物にでも行こうかね」
「僕も?」
「デートしましょう」


 僕が連れて来られたのは、近所の市場に並んだ古びた出店だった。軒にはいろんな種類の腸詰めの見本が吊り下げられていた。
「腸詰めの専門店だよ。古い店でね。わたしがこの町に来たときからあるんだよ。店構えは小さいけど味は保証するよ」
「おや、アンジェラ、久しぶりだね。もういいのかい?」
 肌がてかてか脂ぎった、つやのいいマッチョな親父が彼女を見るなり声をかけてきた。
「いつのこと言ってんだい。もうこの通りさ」
 そう言ってお腹をさすった。
「そっちの坊ちゃんはどちらさんだね? 見かけない子だが。また親戚でも引き取ったのかい?」
「リオナの片割れだよ。わたしの雇い主なんだから、粗相はよしとくれよ」
「リオナちゃんの? これはお見それしちまったな。ハハハッ。で、何か買っていくかい?」
「そうだね……」
 アンジェラさんは数種類の腸詰めを人数分選んだ。
「千五百ルプリだ」
 アンジェラさんは財布から銀貨一枚と小銀貨五枚を取り出した。
「毎度あり。そうだ、こいつも持って行きな。今度売り出そうと思ってる試作品だ」
 そう言って豚肉の燻製を一切れ包んでくれた。
 その後何軒かの店を紹介がてら梯子させられ、最後はパン屋に連れてこられた。
「ああ、リオナちゃんの――」
 今夜と明日の分のパンを購入し、荷物が両手一杯になったところで帰宅する許しを得た。
「男の子がいると助かるわねぇ」
「おだてても駄目ですよ。それより半分持ってくださいよ!」
「これも修行よ」
「どこがですかァ!」
 それにしてもすべての店でリオナが顔なじみになっていることには驚いた。
「あの子にとっちゃ、買い物も遊びの一環だからね。だからあんたも楽しみな」
「そう思うなら、半分……」
「まー、この服かわいいわね。リオナちゃんに買っていきましょうか?」
「…… だめだこりゃ」
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