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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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一角獣の夜2

「馬だ…… 子供か?」
 僕は呟いた。それは白い毛並みのきれいな馬だった。
 白い子馬が木の根元で雨宿りしている。
「止まれ、それ以上近づくな!」
 リオナが突然、命令口調で僕に言った。
 僕は立ち止まった。
「そこの獣人こっちへ来い」
 どうやらリオナは馬の通訳をしてくれているらしい。
「なんでリオナには聞こえるんだ?」
「獣人と話せる利口な動物、たまにいるです」
「この馬が?」
「『馬じゃない』って怒ってるです」
「馬じゃなきゃなんだ? こいつが馬じゃなきゃ、何が馬だと言うんだ?」
 たてがみも尻尾もひずめの脚もどう見ても馬だろ? 
「『子供だからまだ角がないけど俺はユニコーンだ』だって」
「このちっこいのが?」
「『こら、人間! 無礼だぞ。森の聖者をなんと心得る』だって。そういえばわたしのいた村でもユニコーンは聖獣って言われてたです。初めて見たです」
「これが?」
「『これが? 言うな』」
「で、なんで泣いてた?」
「『泣いてない』だって」
「何を助けてほしい?」
「『お前に頼むことは何もない』だって」
「わかった。じゃあ、いつまでもそこで泣いてろ」
「『だから泣いてない』だって」
「風邪引くぞ」
「『関係ない』」
「いいからわけを話せ。できることなら協力してやるから」
「『人間は嫌いだ』だって」
 馬はしばらく黙ってそっぽを向いた。
「『獣人になら話す……』」
 僕はリオナに頷いた。
 リオナと馬はこそこそ会話を始めた。
「大変だよ」
「早くしないと駄目なのです」
「話してる場合じゃないのです! 急ぐのです」
 切れ切れに言葉が飛び込んでくるがそれだけでも大体内容がわかった。
 こいつの母親が雨に打たれて容態を悪くしてこの先の森で倒れたのだ。しかも母親のお腹のなかにはこいつの弟だか妹だかがいるらしいのだ。
「お前ら聖獣だったら、雨ぐらいなんとかなんなかったのか?」
「『魔力が大きすぎて人間みたいには使えない。森や田畑の実りを増やしたり、被害考えないで敵を倒したりするときしか使えない』だって」
 思わず、自分の放った『魔弾』で吹き飛ぶかつての自分を思い出した。魔力が大きすぎて小さなことには使えないのか。難儀なものだな。
 おまけに身重なせいで弱っているところを魔物の団体に狙われたらしく、家族で一戦交えた後なのだそうだ。
 道理で森に魔物がいないわけだ。
「案内しろ」
 馬が僕をにらんだ。
「今だけでいいから人間を信じろ」
 動かなかった。
「じゃあ、リオナを信じろ」
「『わかった』だって」
 僕たちは馬に近づいた。
「『乗っていい』て」
 僕たちは子馬の背中にまたがった。馬は悪びれることなく僕たちを乗せると駆けだした。乗馬の嗜みはあるが、裸馬に乗った経験は余りなかった。リオナも一緒だと落馬するわけにもいかない。
「『掴まっていろ』だって」
 リオナの言うとおり僕は馬のたてがみを痛くない程度に握った。
 二、三度足踏みすると、馬はゆっくり加速し始めた。そして恐ろしい走りを見せた。
 滑るようにとはまさにこのこと。馬のように弾むことなく、大地を蹴り、低空を飛んでいるようだった。
「ほんとにユニコーンだったんだな……」
 思わず呟いてしまった。
 気をよくしたのか子馬は速度を上げた。それでも投げ出されることなく僕たちは背中に吸い付いていられた。
 やがて鬱蒼とした森に入った。
「『父さんがやった』って」
 まさか樹木を成長させて庇を作ろうというのか? 非効率すぎるが、やることがでかい。
「『着いた』」
 大木の根元にまさにユニコーン、一角獣がいた。馬の二倍ほどもある大きながたいの一頭と、その足元に倒れている一頭が僕たちを出迎えた。

「『なぜ人間を連れて来た』」
 リオナが通訳した。
 子馬に怒っているようだった。
「嫌いな人間に頭を下げたそいつの気持ちも親なら酌んで上げてくれないかな」
「『人間に言われるまでもない』だって」
 今怒ってたじゃないか。聖獣でも獣脳か?
「リュックを持ってくればよかったな」
 母親が濡れたままになっている。拭いてやらなきゃ体温が下がるばかりだ。でもこっちもずぶ濡れで、拭いてやれる物がない。
「まずこの場所を囲う。それから暖める。異存は?」
 リオナが父親に確認してから頷いた。
 僕は地面に手を当てると、母親を中心に土壁で覆い始めた。床を平らにすると同時に掘り下げ、その掘った土で壁を盛り上げていった。
 水を含んでいて固まりにくい……
 土の表面を乾燥させるイメージをするがうまくいかない。僕は外に水分を押し出すイメージをした。
 内側は固まり始めたが外側は固まらず、雨のせいでいつ崩壊してもおかしくない状態になっていた。崩壊するくらいならと僕は外側を凍らせた。これが功を奏した。氷が雨を弾き、水分を閉じ込めてくれている間に僕は土壁を内側から強固に押し固めることに成功した。
 苦労の末、半地下、半球状の大きな部屋ができあがった。
 僕は部屋を暖めるため、手のひらに火を起こした。
 火の魔法は苦手だった。形がない分制御が難しいからだ。
 炎がゆらゆらと不自然に揺れた。僕が苦心していると子供の一角獣が何やら首をくるくる回し始めた。すると手のひらの炎が回転しだして、火の玉さながらに丸くなって安定しだした。
 小細工できないとか言ってたくせに、器用じゃないか子馬君。
 そうか、回転させれば安定するのか。いい勉強になった。あとでニンジンをあげよう。
 母親の身体も乾いてきて、息づかいも穏やかになってきた。とりあえず一安心。でも身重だ。無理はさせられない。かといって森はずぶ濡れ、寝床の草も集められない。
「僕は一度戻って、干し草を取ってくる。リオナと…… ええと、子馬じゃなくて」
「『草原を掻き分ける風だ』だって」
「それ全部名前?」
 馬とリオナが同時に頷く。
「まず『草風』とリオナにはここにゲートを運んできて貰って、それができたらリオナは迎えに来てくれ」
「『他の人間を呼びに行くのか!』」
 父親が嘶いた。
「干し草を運んでくる。駄目か?」
 僕は父親を見つめた。一撃で人間ぐらい簡単に葬れるだろ強靱な脚が一歩引いた。
「『いいだろう』」
「じゃ、行ってくる。リオナ、ひとりで大丈夫か?」
「後は任せて」
 言葉が通じるなら僕が居残るのだが……

 僕は転移結晶で家に戻った。
 誰に知らせたものかと考えながら中庭の扉を開けると、酒の臭いが充満していた。
「なっ?」
 これが一国を代表する女たちの姿か…… 赤くなってできあがってる者、青くなって死にそうに唸っている者たちが肌もあらわにソファーの上で酔いつぶれていた。
 駄目だ、使えない。
 サリーさんだけがいない。部屋かな?
「寝てもいいと言ったが、戻ってきていいとは言わなかったはずだが」
 風呂の脱衣室から出てきたサリーさんが僕の姿を見るなり言った。
「ちょうどよかった。手を貸してください」
 僕はサリーさんに別れてからのことを話した。必然的にリオナの脱走のことも話さなければならなかったが、緊急事態だ。止むを得まい。
 サリーさんはすぐにマギーさんを揺り起こすと騎士団の厩舎に飛んだ。しばらくするとひとりで戻ってきてリオナは戻って来たかと尋ねた。やがてずぶ濡れのリオナが戻ってきて準備ができたと言った。
 サリーさんは厩舎から直接ゲート先へ物資を送るからお前は戻れと命令してゲートに消えた。リオナは残れと言われたが、通訳がいないと困るからとタオルを持てるだけもって僕と一緒にユニコーンの元に戻った。

 ゲートの周りを急いで空けるとすぐに大量の干し草が届いた。干し草の天辺にサリーさんがいた。
「新転移システムうまくいったみたいね、って、うわっ、何ここ? 弟君が作ったの?」
「こんなに大きいのは初めてですけど、ユニコーンのサイズに合わせたらこうなっちゃいました」
「魔法陣刻まずによくやったわね。雨降ってて固まらなかったでしょ?」
 やっぱり固まり辛いものなんだ。今度固める魔法陣教えて貰わなきゃ。
「リオナ、通訳してくれ」
「はい」
 タオルで母親の身体を拭いていたリオナがサリーさんに駆け寄った。
「このゲートは移動式のゲートで、固定されていないので位置が特定されることはない。このまま回収すればこの位置は誰にもばれることはないだろう。だからここでしばらく安静にするといい」
 サリーさんがかみ砕いて父親ユニコーンに説明をした。
「『感謝する』」
「必要なものがあるなら今のうちに言ってほしい」
 僕は会話を余所に干し草の縛りをほどき、母親の周りに敷き詰め始めた。
「大丈夫、安心して」
 辛いだろうが本人の力で干し草の方に移動して貰わないといけない。
 体温が少し戻ってきたかな?
 それからサリーさんの手によって食料と換えの干し草が次々運び込まれた。転移先ではふらふらのマギーさんが物資の搬入手続きをしているらしい。
 一通りやれることが終わると、マギーさんが心配なのでサリーさんには先に帰って貰い、僕たちはゲートを戻すため、元の塹壕まで『草風』に送って貰った。僕はゲートを設置し直すとリオナを返し、簡易ベッドに身を投げた。
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