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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第三章 ユニコーン・シティー

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インターバル3

 翌日、僕は地下の訓練所で目隠しをされていた。
「あのー、これから何を?」
「もちろん『魔力探知』を習得して貰うのだ。習得希望者が他にもいるので同時に行おうと思う。やり方は基本練習の通りだ。魔力を放出しながらフィデリオの位置を掴むのだ。だが忘れるな。他の参加者もいることを。どいつもこいつもフィデリオより魔力があるからな。注意することだ。フィデリオに辿り着いたものから抜けていき、最後に残った者が罰ゲームだ。今夜の野営を命ずる。運搬中の転移ゲートの見張りだ」
「あの、他の参加者って?」
「言ってどうする? それを探知しろと言っているのだ。一緒に暮らしているのだから何となくでもわかるはずだぞ。人数だけは教えておいてやろう。お前を入れて四人だ。三回勝負。引き分けなら延長戦だ。声を上げたものは失格。その勝負負けとする」
 なんだかなぁ。これが特訓なのか? 姉さんのことだからもっとスパルタかと思ったんだけど。
「では、私は昨日の続きがあるので行ってくる。リオナ、後は頼んだぞ」
 会場がシーンとなった。扉が開く音がして姉の気配が消え、代わりに他の人の気配が増えるのがわかった。
「では全員その場で三回まわってください」
 審判のリオナが言った。
 言われるまま両手を広げて三回転した。方角を意識しながら回ったが、ちゃんと回れただろうか? 変な方向向いてないだろうな……
「では、試合開始ッ!」
 そこは訓練だろ、リオナ。
 そんな突っ込み入れてる場合じゃなかった。
 まずは魔力を周囲に張り巡らさないと。いきなり全体は無理だから方角を決めて扇形に展開する。波紋が広がるように静かに、静かに、わずかな歪みも見逃さないように。
 この方角にはいないか? 次の方角を。
 僕は右手を向いた。そしてまた右手を、さらにもう一度右手を。
 これで一周したはずだが…… 何も感じられない。
 もう少し強く魔力を放出しよう。
 何も反応しないまま時だけが過ぎた。
 突然ゴンという大きな音がした。誰かが倒れる音がした。
 壁にぶつかったようだ。
 痛そうな音だったな。誰だろ?
 あれ? マギーさん?
 僕は頭を抱えてうずくまっているのがマギーさんだと分かった。
 なんで分かった?
 別の場所で誰かと誰かがぶつかって倒れた。
 あれは、アンジェラさん? 参加してたのか?
 もうひとりは…… 誰だ? 小さい…… リオナ? 違う! あれは〝どん兵衛〟だ。運搬用のそりを引く犬サイズの丸っこい牛だ! なんであんなのが参加している?
 と思ったら、その後ろに……
 たぶんそりだ。そりを引いているんだ!
 ということは…… そりの上に…… いた!
 僕は早足で歩き出した。
 見つけた! フィデリオ!
 だが僕は何かにぶつかった。やばッ、気づかなかった。
 ぶつかった相手はうまく避けられたようだ。
 危なかった。誰だ? 女だというのは分かった。でも誰だ?
 思わず謝りそうになって、とっさに口をつぐんだ。
 くそッ、なんで彼女だけ見えないんだ!
 僕は魔力を強く放出したが、何も捕らえられなかった。
 そのうちフィデリオの位置も分からなくなった。
 邪魔をしている! 誰かが魔力に干渉しているんだ。
 でもどうやって? 
 勝負は果てしなく続いた。いつになっても誰ひとりフィデリオを捕らえることができなかった。
 どこだ。どこなんだ?
 お乳の臭いがした。近くにいる? いや、アンジェラさんかもしれない。
 さっきは探知できたのに。
 ピピーッ。おもちゃの笛が吹かれた。
「ひとり抜けましたー」
 リオナの声だ。
 誰だ、誰が抜けた?
 くそーっ、なんで分からないんだ。
 焦りが募った。
 僕は魔力を遠くまで飛ばした。すると街の喧騒が一瞬見えた気がした。道を行き交う人たちの影だった。
 魔力が強すぎるんだ! 射程を広げすぎたんだ!
 僕は力を抜いた。見えていたときの加減を思い起こしていた。
 あ、見えた!
「……」
 姉さんが僕の目の前でお茶をすすっていた。気配も臭いも消して何やってんだ。
「姉さん。仕事はどうした?」
 姉さんが僕を振り向いた。
「これも仕事よ。今度しゃべったら失格にするから」
 姉さんは立ち上がるとフィデリオの頭を撫でて退場した。
 笛が吹かれ、二人目が抜けたことを知らされた。
 最初に抜けたのはアンジェラさんだったのか。母親の面目躍如といったところか。
 マギーさんはどこだ?
 明後日の方向にいた。
 苦労しているようだ。僕が姉に続いてフィデリオに触れようとしたとき、ギャワンワンワンとどん兵衛ががなり立てた。犬のような鳴き声だった。生まれて初めて吠えるのを聞いた。
 どうやら僕が彼の尻尾を踏んでしまったようだった。
 どん兵衛はそりを引いたまま逃げ出した。そしてたまたま正面を徘徊していたマギーさんに激突。転んだ拍子にマギーさんがフィデリオにタッチした。
「一回戦終了ーッ!」
 笛が吹かれた。
 おい! 今のありか? ってか、ふたりとも大丈夫か?
 案の定フィデリオが泣き出した。どん兵衛が吠えるせいで収拾が付かなくなった。アンジェラさんは目隠しを外して我が子に詰め寄り抱きかかえる。
「黙れ、駄犬ッ!」
 どん兵衛に怒鳴った。
「そいつ牛ですよ」とは突っ込めず、僕は大きな欠伸をした。
 結局、フィデリオの代わりにエミリーをそりに乗せたが、どん兵衛の怒りは収まらず、ゲーム中、僕を威嚇し、避けまくり、噛みつく始末だった。フィデリオを退場させる前にこいつを退場させるべきだったんじゃないのか?
 当然、僕は最下位。夜警をする羽目になった。
「そもそもなんでそりとどん兵衛が必要なんだよ」
 姉に抗議した。
「どん兵衛の飼育係が風邪で寝込んでしまってな。一日だけ預かってくれと言われたんだが、庭に出すと薬草食い荒らすだろ? だからここに閉じ込めたんだが。邪魔だろ? そりに何か乗せておけば動かないと言われたからそうしたんだが…… しつけされてる割に結構動いたな」
 まるで人事である。
 だからって訓練に参加させるか普通? しかもフィデリオ乗っけて。
「まあ、約束は約束だからな。夜警がんばれ」
 いいさ、夜警を兼ねて訓練するから。
 ちなみにこのどん兵衛、『銀花の紋章団』の私有物であるが、やがてフィデリオの騎乗するものとなり、僕たちを困らせる存在となる。
 のちにこの組み合わせは『母泣かせの突貫小僧』と呼ばれることになる。

 地上に戻ると雨が降っていた。
 僕は深い溜め息をついた。
 ついてないときはこんなものである。
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