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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第二章 カレイドスコープ

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鉄壁のラヴァル3

 それからすぐに降伏勧告のための使者が送られた。
増援が来ないこと。公爵家がすでに事態の収拾に乗り出していること。ジョルジュ皇太子の名の下に罪を減じることなど、これ以上の戦闘が無用であることを知らせるものであった。

「ところでマギーさん、聞いていいですか?」
 裏で物資の補充をしていたマギーさんに僕は銃について尋ねた。なぜ必要だったのか、敵が物理攻撃も防いでしまうのならあえて用意する必要があったのか、疑問だったからだ。
「ここにいる魔法使いたちで、通常結界を破壊できる人はあなたのお姉さんしかいなかったからです。鉄壁のラヴァルを疲弊させるにはどうしても通常結界の上を行く必要がありました。彼の力を使わせるために。それは物理攻撃でも同じだったんですけど、うちのスキル持ちはみんな近接でしたから」
 近衛騎士団だからね。遠距離用のスキル持ちなら魔法騎士団にでも配属されるだろうから今頃西の砦にいるはずだ。
「姫様は増援に戦場をかき回されたくないみたいで現行の戦力でなんとかしたかったみたいです。でも安全な場所から攻撃できて、通常結界を上回れるのはあなたの姉さんだけでした。戦況によっては攻城戦兵器の投入も考えられたんですけど、そうなるともう…… とにかく、ラヴァルはお姉さんが休んでいるときを見計らって、同じように休んでいればよかったわけです。でもそれでは戦況は変わらない。こちらはいつ敵の援軍が来るか戦々恐々としていたわけですし。でも、これを投入して事態は変わりました」
 マギーさんは愛用の自分の銃を叩いた。
「あなたの生み出したこれは通常の物理結界を破壊することができる。全弾撃ってやっとですけど。ラヴァルはお姉さんだけを相手にしていればいいという状況ではもうなくなりました。こちらはこれを常時四丁配備して、砦の四方を取り囲んでいます。しかも誰が撃っても性能は変わらない。ラヴァル将軍は眠れなくなった。だからもうすぐ終ります」
 マギーさんは笑った。

 そういうことだったのかと僕が胸を撫で下ろしたとき、外が騒がしくなった。
「籠城の部隊に投降の意思なし!」
 伝令がテントに飛び込んできた。
 僕たちは天幕の外に飛び出して、砦を見つめた。
 砦の大門が開かれようとしていた。
 やはり投降することに決したのか?
 そう思ったとき城門前に陣取っていたこちら側の部隊に対して、一斉に攻撃魔法が放たれた。
 空から無数の光が降って来るのが見えた。
 櫓の魔法使いたちが門から出てくる味方のために援護を行ったのだ。
「魔法防御ッ!」
 敵の攻撃で辺り一帯が吹き飛んだ。そして舞い上がった土埃が視界を完全に塞いだ。
 爆裂音と罵声が砂塵のなかを駆け巡った。
 突然、強風が吹き荒れ、砂塵の覆いが払われた。
 姉さんだった。
 近衛師団側の反撃が開始された。
 無数の魔法と矢がお返しとばかりに一斉に放たれた。
 堅牢だった大門が吹き飛び、完璧な防御を誇っていたはずの防壁もまた消し飛んだ。
 銃声が空に轟き、こだました。僕の銃ではない。
 櫓にいた魔法使いや弓兵たちが次々と倒されていった。
 どこかでエンリエッタさんたちが狙撃しているのだろう。
 完全なる障壁はどこへいった? 砦を見捨てたのか?
 大門が倒壊したせいで舞い上がった砂塵のなかから敵の部隊が唸りを上げて現れた。
 先頭に、身の丈の二倍もある巨大なハルバートを振りかざした大男が立ちはだかった。あれだけの直撃をものともしていない。乱れた髪と伸びきった無精ひげを振りかざしながら、この本陣をにらみ付けている。
「我ら公国の精鋭、余力残して転進なし! 降伏は亡者の甘言なり。志と共にある我ら最後の一兵になるまで、鬼神となりて敵を挫くものなり! 故に我らに敗北なし! 我らに真の敗北はなしッ! 突撃ーッ!」
 大男の怒声が味方を鼓舞し、振り上げたハルバートがこちら側の盾持ちたちを一掃する。
 魔法使いたちがそうはさせじと横手から大男めがけて魔法を放つ。
 が、攻撃は男に届く前にことごとくはじかれ、前衛部隊は再び振り下ろされたハルバートの餌食になる。

 あれが鉄壁のラヴァル…… 猛将ラヴァルか。

 味方の軍勢がラヴァルを中心に割れていく。
 轟音と共に落雷が敵の頭上に落ちた。『完全なる断絶』の障壁のなかにいなかった敵兵が崩れ落ちた。
 姉さんだ!
 いつか言っていた、味方を鼓舞するための一撃を放ったのだ。ラヴァルの気迫に押されて弱気になりかけた味方の心を押しとどめた。
 だが『完全なる断絶』は健在だった。
「我が障壁は無敵なり! ヴァンデルフの魔女、恐るるに足らず!」

 むかついた。
 人の命をなんだと思っていやがる。そう思った。

 遊びのつもりか…… 己のスキルに酔っているだけのジジイか…… 後ろに転がっている同胞の命をなんだと思っていやがる。
 迷宮で死んでいったパーティーの亡骸を思い出した。人の姿をとどめぬほどに食い散らかされた無残な残骸を。
 仲間を殺され、脚を食いちぎられながらも生きることを誓った男の姿を。
 夫を失い途方に暮れる身重の女房の姿を。
 遺影に涙ぐむ者たちの悲しさを。
 拳を握りしめることしかできなかった者たちの無念さを。

「失策だ」
 ヴァレンティーナ様が目を赤くして下唇を噛んだ。
「結果を急いだばかりに…… やつの性格を考えればこうなることは目に見えていたはずなのに……」
 拳が硬く握られた。
「ただ待てばよかったのだ。やつはもう何日も保たなかったはずなのだ。なんのために今日まで時間をかけてきたのだ! なんのために……」
 僕の持ってきた情報が、却って結果を急がせ、敵を必要以上に追い込んでしまったということか?
 ヴァレンティーナ様がうつむいた。
 涙のしずくが足元に落ちた。

 無血開城できたかもしれなかったんだ。
 それを…… 僕が。
 僕は大門前に折り重なるように死んでいる亡骸たちを見つめた。
 死なずに済んだ命が土嚢のように転がっていた。

 ラヴァルの足は止まらなかった。こちら側のスキル持ちも奮戦していたが、攻撃が通らなければ相手にすらならなかった。
 血走った眼で武器を振り回しながらこちらに向かってくる。
 目の下のクマが興奮剤を多用していることを物語っていた。今日までたったひとりで障壁を張り続けてきたのだろう。
 男はもはや獣と化していた。
 指揮官としての理性はもう残っていないのかもしれない。
 それでもラヴァルの障壁は絶対であった。
 直接攻撃が駄目ならと足元を狙う攻撃が大地を抉る。
 地形が変わるほど打ち込まれる無数の魔法攻撃をものともせず彼の足元だけは健在だった。
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